下山
ようやく、第一章が終わります。
一気に疲労が押し寄せたのか、走達はしばらくその場に座り込み続けた。
「これで家に帰れるな…」
「ああ…」
「でも、結局あの蚊達は一体何だったの…」
「さあな、突然変異でいきなりあんな化け物みたいな蚊が生まれて来たとも思えないしな…」
「まさか、自然を壊し続ける人間に神が怒って、人間を裁くために作り出したとか…」
「そんな訳ないでしょが…」
カエデが力無くツッコんだ。
それからしばらく休憩した後、走達は下山し始めた。蚊の死骸は穴を掘ってそこに入れ、念の為、火を付けて焼いてから埋めてきた。スマホで死骸の写真も撮ったので、この出来事を誰かに話すような時があれば、一応証拠にある。
無論、そんな機会があればの話だが…
「クタクタだな。とんだ休みになっちまったな…」
「えぇ、でもあの小屋壊しちゃったけど、よかったのかな?ものすごい今更だけど…」
「事情が事情だし、仕方ないさ。長い間放置されてたんだ。どのみち遅かれ早かれ、自然にああなっていただろう。」
3人は疲れか、その後はあまり言葉を交わさずに、下山し続けた。
そして、山の入り口の地蔵まで戻ってこれた。
「あっ、地蔵の所まで戻ってこれたな。」
「妙に懐かしく感じるわね。」
「あぁ、あんな事あったのに生きて帰れたんだ、手を合わせたご利益があったのかもな。」
3人は再び地蔵に手を合わせた。
「そうだ。今まで圏外だったが、電波届くようになってるはずだ。」
走がスマホのスイッチを押した。すると最後に見ていた、某ゲームサイトのニュース欄が開いたので、何気なしに新着ニュースを見てみた。
すると、
「何だ、また新たに、変死体が見つかったらしいぞ。これで何件目だ…あっ、LINEやメール沢山来てるな、えーと…って、何だこれ?おかしな事になってんぞ!」
「こっちもだ。」
正一もうろたえながら言った。
「どうかしたの?」
数時間前の件以来、スマホの電源を切ったままのカエデが2人のスマホを覗いた。そして、その内容に面食らった。
スマホのLINEの画面には、
「助けてくれ!」
「誰か来て下さい!」
等という言葉で埋め尽くされていた。
メールも同様に、助けを求める内容ばかりだ。
「何だよこれ⁉何が起きてんだ?」
「分からないが、ただ事じゃないのだけは確かみたいだ…」
「兎に角、ここじゃあれだから、早く町の方に行きましょう。」
3人は町の方に急いだ。
が、直ぐに足を止めた。町の様子がおかしかったからだ。
「おい、町の様子が変じゃないか!?」
「あぁ、もう夕方なのに電気を付けてない家があるし、嫌な気配がするぞ…」
「それよりも、変な声が聞こえない…」
カエデの言うとおり、耳を立てると、あちらこちらから叫び声がしてきた。
すると前方から、1人の男が血相変えて走ってきた。
「はーはー!」
息絶え絶えに呼吸が荒くなっている。
男は走達を見つけると、
「たっ助けてくれ!頼むー!」
と、助けを求めてきた。
しかし、走達がどうしたのか聞く前に、後方から飛来した物体が男を射止めた。
「がっ‼あっ、い・や・だ…」
男はみるみるうちに干からびていく。そして、ミイラのようになってしまった。
走達が呆然とその光景を見ていると、干からびた男はそのまま力無く倒れ、男を襲った物体が空に舞った。それは、先程まで走達が戦っていた巨大な蚊だった。
「嘘だろ…他にもいたのか?」
「亀山だけじゃなかったんだな。」
「ちょっと、あちこちから羽音がしてこない。」
カエデの言うとおり、蚊の羽音が至る所から聞こえてくる。そして、その音と共に蚊の大群が走達の前に出現した。
その光景は、巨大な蚊の大群が空を陣取っているかの様に見えた。
「なっ…何なんだよこれは⁉」
走が叫び声をあげたが、その声は蚊達の羽音にかき消され、正一とカエデ以外の人間の元に届く事は無かった…
―――ブラッディモスキート 第一章 終―――
次回はキャラデータ的な物をアップする予定です。(11月22日アップしました。)