ティッシュ
互いに信念が通じ合い、一致団結した。
そんな最中、
「なんだこりゃ!?」
「あっ!!」
気づくと子供の1人が、彼等が置いた荷物を触っていた。
「こら、不用意に障るなって!」
見かねた一人が注意した。
彼らの荷物の中には、食料以外に弾薬の他に、ナイフ等の刃物といった物も入っているので、子供が下手に触るのは危険だ。
「あぁ、ダメだよ、お兄さん達の邪魔しちゃ!」
「お姉ちゃん!」
双子の姉、有希子が来た。
どうやら、遊んでいた子供の1人が、勝手に離れてしまったようだ。
「すみません、少し目を離した隙に…お邪魔してしまい…」
「いや、別にかまわねーよ!」
「ほら、取ったもの、箱の中に戻して!」
「は~い!」
有希子に言われ、手に取った物を箱に戻していく子供。
すると、その中から何かが音もなく、床に転がり落ちた。
「何だこりゃ!?」
それを近くにいた者が拾い上げだ。辰馬の仲間の1人、六村だった。
六村が拾い上げた物それは、丸まったティッシュだった。しかも、靴で踏まれたのか、靴跡が付いている。
「なんだゴミか…」
「あっ、それってもしかして…」
ティッシュを見て、声を漏らした有希子。
「何だアンタ、何か知ってんのか?」
六村が訪ねる。
「えぇ、それが…」
有希子はそれに答えた。
そのティッシュは、警察署を出発する前、2号車に乗り込んだ直後、彼女の妹 登紀子が踏んだやつだった。
その時の事を、簡潔に説明した有希子。
それは、宇島が2号車の点検をしている最中、潰した蚊(今大阪の町を支配している巨大なものでない、普通の大きさの)を包めたティッシュで、そのまま放置され、乗車した際、登紀子が踏んだのだ。
なので当然、靴跡は登紀子の靴のものだ。
それが何かの拍子に、彼らの荷物の中に知らず知らずの内に紛れ込んだようだ。
「出発の直前で、その後も色々あったんで、今の今まですっかり忘れてました…」
「何だそうか…」
それを聞いて、六村達は早くも関心を失いつつあった。
「あっ、でも…」
有希子は追加で話た。
そしてその際、宇島が変な音を聞いたことも…
「宇島さんも登紀子も気のせいと言ってましたし、それも、ただのゴミってことでしたが…」
「が?…」
「私、妙にそれが気になってたんです!」
「気になる?」
「えぇ、何と言いましょうか、口では上手く説明できませんが、ただのゴミとは思えなくて…」
しばし沈黙が続いたが、
「…気にし過ぎだって!」
今度は、柳川が切り出した。
「あん時は、いよいよ脱出だって、皆が皆、緊張してたし、何でもないことまで気になる状況下だったんだ。」
「そうそう。宇島の聞いた音も、空耳か何かだって。ほら、幽霊の正体見たり枯れ欅ってことわざもあるだろ!?」
「それを言うなら、枯れ尾花だろが…」
「そうそう。そうとも言うな!」
「そうとしか言わねーよ…」
「…」
「まぁ、きっとそうだって!」
彼等は完全に気のせいという方向に持って行くようだ。
「こんなゴミもう忘れようぜ!」
「あっ!?」
そう言って六村はそのティッシュを、近くにあった、ビニール袋を入れてゴミ箱とし使われている、ボロいバケツに投げ捨ててしまった。
そう言って解散する辰馬の仲間達。
が、当の有希子の方はというと、やはり踏ん切れなかった。
「やっぱり気になる…」
ゴミ箱から例のティッシュを拾う有希子。
それを持って、ある人物の元に向う。
「成る程ね…」
「どうでしょうか紫苑さん!?」
向った先、それは紫苑の元だった。
有希子の話を聞き紫苑は、
「見せて貰うわよ!」
「どうぞ!」
ティッシュを開いた。中には、確かに潰れた蚊の亡骸らしきモノが、まだあった。
「…」
片目をつぶり、間近で睨見つける様に見る紫苑。しばし見ていたが、大きめとはいえ、蚊は蚊だ。肉眼ではよく見えなかったらしく、紫苑はスカートのポケットからある物を取り出した。
それは単眼鏡に似ていた。
「それは?」
「ハンディ顕微鏡よ!」
「ハンディ顕微鏡!?」
「そう。普通の顕微鏡と同等の機能を持ちながら、ポケットに入れて、手軽に持ち運ぶことが出来る小型のね!」
「そんな物まで持ってるんですか…」
本当に、色々なものを持ってる人だと有希子は思った。が、当の紫苑は真剣な面持ちで、ハンディ顕微鏡を覗き込んでいる。
そして、
「これは…」
と、呟いたや否や、
「コレ、預かるわよ!」
「えっ!?あっ…」
そう言って紫苑は、有希子の返事を聞く前に、行ってしまったのだった。