火炎放射
3匹中の1匹の蚊が山中を散策している。1匹だけで、他の個体は見当たらない。別れて獲物を探しているようだ。危険を察したのか、辺りの動物は可能な限り遠くに逃げるか、隠れて息を潜めている。
そんな中、1匹の蚊の前に1人の人間が立ち塞がった。
「来い、化け物!」
走が息を荒げて叫んだ。
蚊は獲物を見つけるやいなや、襲いかかって来た。
「狙い通りだ単細胞め。くらいやがれ!」
走は虫よけスプレーを噴出し、同時にスプレーの前でライターに火をつけた。ライターの火に当たったスプレーの煙は激しい炎へと変わり、蚊の巨大な体を飲み込んだ。そのまま蚊は、火だるまになり、地面へ墜落した。蚊は炎に焼かれのたうち回っている。
「今だ、よっちゃん!」
走が叫ぶと正一が茂みから姿を表し、火だるまになった蚊な近づいた。正一は持っていた木の枝を蚊の頭目掛け突き刺した。枝は近くにあった物をスコップで先を尖らせ簡易的な槍のようにしている。同じ様に作った簡易槍を、そのまま何本も正一は蚊に対して刺した。
「よし、もういいだろ。カエデ!」
「任せて。」
カエデは袋を持っている。尚も燃えている蚊に目掛けカエデは中身をぶちまけた。中には土が入っていて、蚊を覆い隠した。当時に火も消えた。
「今度こそやったな。」
「ああ、流石に体を焼かれて無事な訳はない。」
「まずは1匹目ね。この調子で残りの2匹もやっつけましょう。」
「ああ、しかしよっちゃん。何でライターを持ってたんだ⁉俺等誰もタバコ吸わねーのに。」
カエデもまた、酒・タバコは一切やっていないのだ。
「電気の無い山の中だからな。何か役に立つんじゃないかと思って持ってきたんだが、こんな形で使うことになるとわな。」
「まー何はともあれ、スプレーとライターの即席火炎放射器があれば化け物蚊も恐れるに足りねーな。」
「走、後ろ!」
「‼」
走の後方から、プーンと羽音が聞こえて来た。別の蚊が迫って来ている。
「もうお出ましか。まさに「飛んで火にいる夏の虫」だぜ。」
「読んで字のごとく、そのまんまだな。」
「くらえ!」
蚊が迫り、先程同様走がスプレーを放す。
しかし、
プシュ!シュュュー!
スプレーは少し噴出しだけで止まってしまった。
「!?おい、どうしたスプレー!?」
走が焦りだす。
「走!前だ!」
正一が叫ぶ。
「ヒィ!」
走は何とか避けた。そして、スプレーを振ってもう一度放ってみた。
がっ、スプレーからは、液がほんの1・2滴出ただけだった。
「嘘だろ。中身が無くなりやがった。カエデ、他にないのか?」
「ないわよ。さっきの殺虫剤といい、あれだけよ。」
「何でもっと持ってこなかったんだよ?中途半端に残ってるの持ってきやがって。」
「しょうがないでしょ、夏の残りだって言ったわよね!」
「こんな時まで喧嘩するなよ!…って、おい見ろ!」
正一の指差す方から、もう一体の蚊がやって来た。
「マジかよ。頼みの綱の虫よけスプレーはもう無いってのに…」
「万事休すか…」
「いや待て。確かこの中に…あった。」
「何だ?」
「これだよ。」
走るの手にあるもの、それは花火だった。先程掘り返したタイムカプセルの中に、かつて走が夏にやり残したものを纏めて入れていたものだ。
「これなら火炎放射器とはいかないが、ガスバーナー見たく使えるはずだ。リーチは短いが蚊の顔に突きつければ、焼き殺せるだろう。」
「おい、待て走。」
正一の静止も聞かず、走はライターで花火に火を点けだした。
「本当はこういう点け方は駄目なんだが、そうも言ってられない、おら、くらえ!」
走か火の点いた花火を蚊に向けた。しかし、花火からは大量の煙が上がった。
「ゲホゲホ、何だよこれ!」
「10年も土の中だったから、地中の湿気で完全に湿気てしまっているんだよ!」
「少し考えればわかるでしょが、ホントアンタは、ケホケホ…」
風向きの関係で、花火の煙が2人のいる所まで広がり、2人もむせている。
「わりー2人共。あっ、でも見ろ!」
花火の煙で2匹の蚊もたまらず逃げ出している。
「取り合えず、結果オーライだ。」
「なに調子の良いこと言ってんのよアンタは!」
「まーひとまず助かった事だ、もう一度作戦会議だ。」
走達は急いで再び茂みに身を隠し、ビニール袋を被った。