作戦会議
「‼走ー!」正一が叫んだ。
「そんな…」
2人が顔を青ざめた。しかし、その直後、「ブシュー!」と大きな音を立て走と蚊が深い煙に包まれた。
「なっ何だ?」と言い切らない前に、煙は正一達の方にも広がって来た。2人を襲っていた蚊も、たまらず逃げ出した。
その直後、「ゲホゲホ!」と聞き慣れた声がして、煙から走が姿を表した。
「走!無事だったか。」
「ああ、咄嗟に殺虫剤の缶を使って針を防いだんだ。」
そう言って見せた殺虫剤の缶は底の所に大きな穴が開いていた。
「あー、殺虫剤の煙思いっきり浴びちまった。喉と目が痛いぜ。」
「走、これで洗いなさい。」
カエデがミネラルウォーターのペットボトルを差し出した。
「サンキュー、カエデ。」
走がミネラルウォーターの水でうがいをした後、顔面にかけて洗い始めた。洗い終えると、
「助かったが、これで殺虫剤はもう使えないな。中身が全部吹き出ちまった。まあ、捨てる時、穴開ける手間は省けたがな…」
「あんたね、何呑気な事言ってんのよ…大体最近のスプレー缶は穴開けなくてもいい物が支流よ。その殺虫剤もそうよ。」
「そうなのか?」
「カエデも人のこと言えないだろう…兎に角、今の内に身を隠そう。煙も薄れてきたから早く。」
3人は、音を立てないよう注意しながら茂みに身を隠した。
プーンプーン3匹の蚊は逃した獲物を探しているのか、別の獲物を探しているのかは不明だが、散り散りに辺りを飛びまわっている。
「くそっ、奴等なかなか居なくならねーな。」
「あまり頭を上げるな気づかれるぞ。」
3人は大きめのゴミ袋を広げて膨らまし、それぞれ中に入っていた。もちろん空気穴は確保している。
「しかし、こんなんで蚊をやり過ごせるの、よっちゃん?」
カエデは不安げな顔で聞いた。
「ああ、恐らく大丈夫だ。蚊は、人間の吐く二酸化炭素を感知して獲物を見つけるらしい。二酸化炭素を感知させなければ、透明のクリアケースの中に入っていて、目で見えていても気づかれないらしい。だから、こうやって袋で二酸化炭素を遮断して、なんとかやり過ごすんだ。」
「とはいえ、何時までもこうして隠れてるわけにはいかないぞ。暗くなる前に下山しないと。」
「待て走。直ぐに下山はマズイ。」
「なんでだよ?」
「あんな得体のしれない生物を放って行くのか。万が一俺等を追って町の方にでも来てみる。犠牲者が出るぞ。」
「確かに…町には中高年が多いからな。俺ら見たく早くは逃げられないかもな…」
「いや、下山してすぐ警察なり何なりに助けを求めたらいいんじゃないの?警察なら、銃火器でなんとか…」
「こんな話信用されると思うか?」
「無理だな。多分、イタズラはやめろと言われるか、夢でも見てたんだろと言われて終いだ。」
「それじゃあどうるの?よっちゃん。」
「幸い蚊は3匹だ。3匹位ならなんとかなるかもしれない。」
「まさか…」
「ああ、俺等で退治するんだ。」
「本気かよっちゃん。」
走とカエデは最初は拒んだか、最終的に覚悟を決めた。蚊の退治に使えるものはないか所持品を集めた。
あるのは、ジュース・お茶の残り、昼食のゴミ、3人のスマホ、財布、正一の車及びそれぞれの家等の鍵、タイムカプセルの容器と中身、スコップ、ライター、虫よけスプレー(残量僅か)、殺虫剤の残骸、飴玉と小さな菓子数個。
「ろくな物がねーな…」
「武器になりそうなのは、スコップくらいか。虫よけじゃ怯ませるくらいしか使えないしな。」
「まー、元々は、タイムカプセル掘りに来ただけだし、武器になりそうな物なんて普通、持ち歩かないわよ。」
「なんかないのかよ、映画とかじゃ一見普通のものだけど、それを組み合わせて強力な武器を作ったりするぞ。」
「ああいうのは都合よく持ってたり、近くにあったりするんだ。現実じゃそう都合良くは…いやまてよ。」
「どうしたのよっちゃん?」
「これとこれでいけるかもしれないぞ!」
「本当かよ!」
「まず、これをだな…」
3人は正一の立案のもと、蚊退治作戦を立てた。そして、作戦を実行に移した。
蚊は夏本番の8月より9月の方が、活発に活動するそうです。「だから何?」と言われたら困りますが…