スプレー
シュー!と音を立てて勢いよく煙が吹き出た。煙を浴びた蚊は不意の反撃に怯み、Uターンした。
「蚊の奴ら逃げてくぞ。カエデ、何したんだ?」
走が2人の元に合流した。
「大したことはないわよ、ただの虫除けスプレーと殺虫剤よ!」
「⁉何でこんなん持って来たんだ。」
「山の中だから、用心して夏に使ったやつの余りを持ってきたのよ。」
「流石、虫嫌いだな。しかし、虫除けスプレーはともかく、殺虫剤まで持ってくるとは。」
「備えあれば憂いなしってやつよ。おかげて助かったでしょ⁉」
「待て、安心するには早いぞ!」
「‼」
一度は引き返した蚊が、再び走達に針を向けていた。
「殺虫剤浴びせた方は振らついてんな。殺虫剤が効いてるみたいだな。」
「だがあっちの虫よけをかけた方は、大したことないみたいだ。虫よけじゃ対して効かないか。殺虫剤が頼みの綱だ。とわ言え、森の中で沢山使ったら、生態系に影響出る可能性があるからあまり使いたくいんだが…」
「そんな事も言ってられないみたいだ。来るぞ!」
蚊が再び襲いかかる。
「走、これ使って。あんたがこの中で一番足が早いし。」
「おう任せろ!」走がカエデから殺虫剤を受け取った。
先程の山道で少しバテていた走。最近は屋内の仕事ばかりで運動不足気味だが、本来3人の中では一番足が早いのだ。走ると書いて「かける」と読む名は伊達ではないのだ。
「くらえ!蚊の化物!」
走が振らついている一匹目掛けて殺虫剤を噴射した。殺虫剤をまともに浴びた蚊は、茂みに墜落した。しかし、まだ激しくジタバタしている。
「トドメだ!」
走が蚊の顔を目掛けて吹付けた。すると蚊は、少し苦しんだ後、そのまま動かなくなった。
「よし!まず一匹目だ。そうだ、よっちゃんとカエデは…」
走が振り返ると、2人は虫よけスプレーで蚊を牽制していた。いつの間にかもう1匹の蚊も加わり、2人を獲物にしているようで、2匹がかりで襲おうとしている様だ。蚊も虫よけスプレーの成分でひるんではいるが、致命的な効き目はない模様だ。
「待ってろ、今行くぜ。」
走が殺虫剤片手に2人の元へ向かおうとしたその時、
「ブーンブーン!」と後ろから聞き覚えのある羽音がしてきた。
「‼まさか…」
走が後ろを向くと、先ほど倒したはずの蚊が再び動き出していたのだった。
「マジかよ、まだ生きてたのか? くそ、今度こそトドメだ。」
走が再度、蚊目掛けて殺虫剤を噴射した。殺虫剤の煙で雲がかかった様になり蚊の姿をに覆い隠した。
「どうだ⁉流石に今度こそ死んだだろ?」
しかし、煙の中からまたもプーンと蚊の羽音がしてきた。
「嘘だろ⁉まだ生きてんのか…」
走の期待を打ち消すように、蚊ば煙の中からその不気味な姿で三度、走の前に現れた。
「くっこれでどうだ⁉。」
尚も殺虫剤を噴射したが、蚊は倒れる気配が無かった。いや、それどころか、苦しむ素振りさえ無かった。
「何でだ?さっきまでは効いてたのに…まさか、殺虫剤の成分に対して免疫か何かが出来て効かなくなった、とでも言うのか…こんな短期間であり得ないぞ…」
等と考えている間に、巨大な蚊は、走の顔をめがけ、突っ込んできた。
「駄目だ、避けきれ…」
グサッ!鈍い音が山に響き渡った。