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「情報屋…」
小鳥のような鈴の音をさせながら店の扉が開く。
外は雨が降っていたのだろうかびしょ濡れの男が俺の事を呟きながら来店した。
俺はその姿にカウンターに座り魔導書を読んでいた手を止めた。そして男を見つめ警戒する。
今の時間は深夜2時半、最も客が少ない時間だ。この場合はそれほど急いでいたか人目を避けていたのか…どちらにしても警戒は怠る事なかれだ。それじゃなくてもこんなところに来る人は警戒しなけばいけないが…。
「いらっしゃいませ。何か情報が入りようですか?」
俺は立ちカウンターから笑顔で尋ねると男は下を向いていた顔を上げた。ランプに照らされ眩しそうに目を細めていた。その風貌はすらっと細く痩せ型でくすんだ赤髪は濡れていて頭に貼り付けられるようになっていた。
その男は俺をじっと見つめ品定めしているようだ。大体の客ははじめに来た時この行動をする。ここはスラムの真ん中ら辺にある一軒の知る人ぞ知る情報屋。
一流の腕を持つと噂されているらしい。俺なのだがそんな噂最近まで知らなかった。子兼弟子のレイから教えてもらった。一流の情報屋は依頼者を気に入ればどんな情報だろうと手に入れてくるという。
その通りだ。だがきちんと依頼料も貰う。
俺はフード付きのローブをかぶっており口元位しか見せてなく怪しく見えるのだと思う。だから依頼者も最初は見定めをしてくる。情報屋を始めた当初は少しびっくりしたが今ではもうまたかくらいにしか考えていない。
依頼者は見定めが終わったらしい。口を開いた。
「あぁ、情報を1つ頼む」
その言葉を聞き俺は口角を不気味に上げた。
そんな俺を見ても男は無表情のままだった。大体の客はこれで顔が強張る。これは一種の度胸試しでもあり試験でもある。気にいるか気に入らないかの。俺の気にいるの段階はこうだ。
第1試験、ここに依頼者本人がくる。病気やどうしても来れないと判断した時は別だ。
第2試験、さっきの笑いにどう反応するか。大げさだがもし怯えきって腰が抜けたりと立っていられなくなったらその時点で俺は追い出す。だが怯えているものの頑張っている姿を見れたら追い出さない。
この2つで俺は大体受ける。簡単な試験だ。だが客の4割は第1試験か第2試験で落ちる。
だから男が無表情で乗り切ったことに心の中で拍手をおくり感心した。
あとは一応の依頼者の検査だ。
【魔力感知】これで魔法を使っていた場合はすぐにわかる。隠していたとしても俺の魔力感知のレベルは最高だからわかる。
探っていると変身魔法をかけているということが分かった。俺は依頼者の方へきちんと向きお辞儀を1つして言った。
「はい。ですがその前に失礼致します。当店ではこのような事をやられると少々困る事がありますので。秘密は絶対守ります。では失礼いたします。【魔法解除】【乾燥】」
ついでに濡れていた服や髪も乾かしてあげた。どこにでもいるくすんだ赤髪は色鮮やかな緑となった。髪色は大体が使える属性によって変化する。もちろんのことだが髪色がより色鮮やかになるほど属性が強いという事だ。
変身の魔法が解けた男に見覚えがあった。体型は変わらなかったが顔は怖いくらい整った顔で髪色は色鮮やかな緑。植物魔法の使い手。
そのヒントだけでも人物がわかる。それだけ有名な人。
「これはこれは宰相様当店にご来店頂きありがとうございます。秘密は必ず守りますのでご安心下さい。では、どのような情報がよろしいでしょうか?」
それはこの国の宰相。文官の最高職。巷での呼び名は冷血だ。無表情で何も顔に変化がなく国王にも堂々と反対意見などを言ってのける様がそうなのだとか。
宰相は変身の魔法が解けても動揺をしなかった。その様子に改めて感心をした。
俺は宰相が立ったままである事に気がつきカウンターから出て椅子をひきお座りくださいと言う。
宰相は座ってすぐに鞄から紐で縛られた茶色の袋を出し俺の前に置いた。
袋は分厚く宰相が持って重そうだというのに破れないという事はかなりのランクの材質だと思われる。見た感じでは材質ランクはざっとA位か。
材質ランクというのは下からF、E、D、C、B、A、AA、Sがあり一般的な家庭で使われている材質ランクはD、C当たりだ。
「さすがだ情報屋、では言おう。お前に依頼は出せるのか?」
宰相は袋に手を置き俺の方へと突き出しながら言った。
それを知っているとは。俺は金さえ貰えれば情報を提供する。だからさっき宰相がやったようにこういう事もできる。
情報屋に依頼を出すのは一般的に非常識だと思うがここはそこらとは違う。情報料と依頼料さえ貰えれば普通にやる。
常識を大幅にずれた考えの為それを知っているのはほんの僅かなのだがなんたってこの国の宰相だ。調べるくらい簡単にできるだろう。
俺は軽く考え動揺もしなかった。この質問をされるのは半年に一回程度。常連の常連位がたまにするだけだ。
「えぇ、情報料と別に依頼料も出して貰えばお受けする事はできます。依頼内容はどの様なものでしょうか?」
俺は目の前に置いてある袋を開きちゃんとあるのかを一枚ずつ金貨を数えている。ここでは依頼者の前で金貨を数えるのがルールだ。これなら依頼者にとっても俺にとっても信頼できるというわけだ。
宰相もそれを知っているようでこちらの数えている様子をじっと無表情で見ていた。
俺が数え終わり宰相の方を見たのと同時に指を2本立てながら言った。
「依頼内容は病弱な王子の話し相手兼護衛だ。長期になる為定期で報酬を渡す。依頼料は情報料の2倍だ」
袋には金貨が10枚入っていた。つまり依頼料は20枚。それを定期的に出すという。王子の話し相手兼護衛…実質俺に言わせてみれば子守り。それにこんな大金の報酬。何か裏があるのではと疑う。
そんな目を宰相に向けると宰相は懐から手紙をとりだし俺に無言で渡した。
「拝見いたします」
俺は一言言ってから手紙を開いた。上質なAランクだろう封筒を開けると中には4つに折りたたまれた手紙が入っていた。
「面白い事に興味はない?」