見失いがちな自分の才能
カノンプロダクションへ入社した夕は
篤志の付き人として仕事を少しずつ覚えていき・・・
生い茂っていた木の葉っぱが一枚、また一枚と落ちてゆく。
まだまだ太陽の光がまぶしく、暑い気候の中僕―大西夕はというと……
「よし夕。そろそろデビューするか」
突然すぎる吉報に、驚かされる日々にそろそろ慣れてきつつあります。
夏ももうすぐ終わりに近づく頃、篤志さんの人気の勢いは落ちることなく順調だった。
期日未定とはいえ付き人をやってきた僕は、今まで様々な景色を見せてもらっている。
どの仕事も勉強になることばかりで、毎日が充実していた。
今日も今日とて仕事をと思って事務所にやってくると、衣鶴さんが僕を呼び出しそう告げたのだ。
「……えっと、僕はいつでも大丈夫です。はい」
「ぱっとしねぇリアクションだな。前みたく声あげて驚かねぇの?」
「僕をなんだと思ってるんです? 篤志さんといると、そういうのに慣れてくるんです」
「まあ、そりゃそうだろうなあ。まあそんなことはどうでもいいとして……もうすぐで半年たつし、十分勉強出来たろ。後は自分でやって、的な?」
「百聞は一見に如かず、って言いたいんですか?」
「そーそー。篤志といるせいか、だいぶ生意気になったよな。お前」
「気のせいだと思いますけど」
衣鶴さんはついてこいと声を上げ、ゆっくり立ち上がる。
きだるそうな彼の背中を後ろで見ながら、僕は彼の後を追う。
相変らずと言っていいほど背が高く、周囲の人と話すからいずらいったら何の……
「まずはお前の実力をはかる。篤志がこれからオフだから、カラオケに行くぞ」
「えっ、篤志さんも来るんですか?」
「まあ一応。呼ばねぇとうるせぇんだよ、あいつ」
た、確かに歌手業やってるってことは歌うことが好きってことだし……
人気者とカラオケ、だなんてすごいことなんだけど気が引けるというか……
「ほらいくぞ。早く乗れ」
「あ、はい!」
衣鶴さんにせかされるが否や、僕は彼の運転する車の助手席に腰かけたのだった……
「うぇぇぇぇぇぇい! 久しぶりのカラオケひゃっほぉぉい! 歌うぞぉ! 歌って歌って歌いまくるぞぉぉ!」
「うるせぇ篤志。静かにしろ」
「んも~いいじゃん別に! つるちゃんだって、ここんとこ付き合い悪かったくせに!」
「分かったから、マイク通してしゃべるのやめろ」
彼の怒気が含まれた静かな声に、はあいと反省したように返事をする篤志さん。
衣鶴さんの運転で来たのは、最寄りのカラオケ店。
人気者という自覚はあるのか、篤志さんも変装してここに来ている。
ただ、眼鏡に帽子をかぶっただけのかる~~いものだけど……
「そいや夕ちゃんはまだ十八なんだっけ? 学校の放課後とか、カラオケ行ってたっしょ?」
「まあたまに……女の子達に強制に連れてこられて」
「え!? 何それ、聞いてない! さすがモテそうオーラバリバリの夕ちゃん」
「そんなオーラないですって」
「強制っつーことは、歌うのあんま得意じゃねぇのか? それにしては文化祭で歌ってた気が……」
「なっ、なんでそのことまで知ってるんですか!!」
本当に彼は文化祭に来ていたのだろう。
僕にとっては恥ずかしくて、今でも映像に残っているのは見たくないほどなのに。
文化祭で劇をやっただけなら、まだいい。
毎年恒例で行われるカラオケ大会、クラスメイトのごり押しでそのステージにも出ることになってしまった。
結局優勝は出来なかったけど、黒歴史としか思えない……
「つるちゃんってば、当時夕ちゃんのことばっかり話してたんだよ? あいつはすごい、絶対お前は越される~って」
「そうなん、ですか?」
「社長のかわりに面倒を見てる影響だ。俺の勘はよく当たるんだよ」
確かにすごい強引だったし、自信に満ち溢れてたけど……
そこまで言われる自覚はないっていうか、そんなにすごいのかな? 僕って。
「つるちゃんが言う人って必ずそうなんだよね~。オレだってその一人♪」
「さりげなく自分売れてますアピールすんなよ」
「いいじゃん、別に! 夕ちゃんだけじゃなく、たっきーもうちに来てくれればいいのにさぁ。ほんっともったいないなあ」
たっきー、という名前が出てきて一発で顔が浮かんでくる。
確かに彼の美貌からして、モデルをやっていてもおかしくはないと思ったけど……
「もしかして衣鶴さん、滝澤さんにも声をかけたんですか?」
「そりゃあんだけ素材が良ければな。あいつがモデルになれば絶対儲かる」
「儲かるって……」
「なのにたっきーってば、あっさり断っちゃったんだよ。僕はそういうの向いていないから、って」
なんか、そんな感じがする。
一回しかあったことないから、根拠はないけど。
「そんなことより!!! 歌おうよ! せっかく来たんだし! 夕ちゃん、何歌えるぅ?」
「えーっと……篤志さんの曲は、全部知ってますけど」
「マジで!? じゃあデュエットしようぜ、デュエット!」
「あほか篤志。これは夕の歌唱力を見るだけで、お前はいらん」
「ひどい、つるちゃん! もう、わかったよ~じゃあ適当に入れるね?」
心底残念そうな声を上げる篤志さんが、機械を操作して曲を一曲入れる。
流れてきたのは篤志さんのシングルの中でもとくに有名で、僕のかあさんが好きな歌でもあった。
え、っと。最初のフレーズ、なんだっけ。
見られてるって思うと、どうも緊張してしまう。
でも、不思議。心は、落ち着いている。
文化祭の時のステージと、同じだ。
そして僕は、一思いにマイクの電源を付け一曲歌ったー
正直、歌唱中二人がどういう顔をしていたのかまでは見ていない。
視線を感じてはいたものの、まったく緊張はしなかった。
篤志さんの性格上、間奏とかでなにかいわれるのかと思っていたけど。
曲が終わり、いつの間に入れていたのか歌の採点結果は……
「ひゃっ、百点!? マジ、ぱねぇ! 夕ちゃん、今のどうやったの!?」
「へ? どうやったって、普通に歌っただけ……」
「普通があれ!? どんだけ自分の実力分かってないの、夕ちゃん!」
「……言ったろ、いつか越されるって。期待以上の実力だ、合格」
心なしか、衣鶴さんの声が弾んでいる気がする。
彼は僕の肩をたたくと、まっすぐ目を見つめて……
「大西夕。お前は歌手業を主に、活動してもらう。お前ならすぐに篤志に追いつく。忙しくなるぞ、これから」
いつにもまして自身に満ち溢れる表情、頑張れと背中を強くたたく篤志さん。
これが運命の始まりか、否か。
この瞬間から、僕のアイドルの道が始まったのですー
(つづく!)
早いように見えて、そんなに時がたっていないような、そうでもないような
よくわかりませんね、はい。
私自身アイドルは好きなので、色々なものを見て勉強しているのですが
やっぱり実際にいるってだけで違いますね。
三次元と二次元の差って恐ろしい・・・
次回、少しずつ進んでいきます