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このまま、広がる世界に駆けて

~side 真尋~


高松家。

それは知らない人はいないほど名をはせていた、有名な一家。

経済や政治、金融事業などを取り締まっており、メディアに出ることも多々あった。


特に今の当主……私の父は、特に優秀だという意味も兼ねて注目されていた。

大幅な企業改革。それにより、経済や政治はスムーズに進んでゆき事の運びはうまくいく。

そして母と出会い、私が生まれたのだ。


「真尋。あなたもお父さんみたいに立派に、たくましく育つのよ。あなたは、私の宝物だから」


高松家の跡取りとなる、一人息子。

それはそれは後生大事に育てられた。

風邪を引けば大事を取って入院させられたり、どこか外へ出るだけでテレビのカメラなどを向けられる日々。


自分が特別な存在だと自覚するのに、そう時間はかからなかった。

だがそれは同時に特別な存在に追いつかないといけないことをさし、高松家の主としてふさわしくならないといけない。


「高松家の人間は、男女どちらの気持ちも理解する必要がある。お前が成人になるまで、今後一切男子としてのふるまいを禁じ、女性としてふるまってもらう」


男性ではなく、女性として生きる。

それが私に課せられた、最初の課題。

いつしか自分がメディアにさらされることもなくなり、私は家へと閉じ込められることとなった。


外出もできない。学校にも通えない。

ただ英才教育という名の下、教え込まれる大量の知識―

小学校に上がる年の頃には、すでに大学のレベルに達していた。

全員が全員、私の敵ではないと思っていた。

誰とも分かり合えない。誰にも、わかってもらえない。

それはいつしか孤独となり、誰も私に近づく者はいない。


「真尋、こっちにおいで? 絵本、読んであげる」


たとえ一人きりになっても、たとえ周りに誰もいなくても私には、母がいた。

母は優しく、いつも私のことを包んでくれた。

苦しくつらい勉強や習い事でも、母がいればそんなもの吹っ飛んだ。

それなのにー



『本日未明、高松家のご夫妻であった美紀さんが亡くなったとの報道がありました。死因は病気とみなされており、明日に葬儀が行われるとこのことです』


母が死んだ。

それは突然で、まったく予期していなかったこと。

家から出ることさえ許されなかった私が知ったのは、ニュースでの報道だった。


どんなに問いただしても、どんなに抗議しても父はそのことをうやむやにしたままで何も話してくれなかった。

母が病気だったことも、母がもう後が長くないことも知っておきながら。

許せなかった。

私から何もかも奪っておいて、母親まで失わせた神をも恨んだ。


「真尋君、これお母さんが最後までもっていたものなの。真尋君が好きな絵本だって、よく話してくれたわ」


母の妹である伯母上が、葬式で渡してくれた一冊の本。

確かに私が、よく母に読んでもらった絵本だった。

だがそれはあくまで、母がいたからだ。

暖かな家族に包まれて、幸せに暮らす主人公のおはなし。

まるで私とは、逆じゃないか。


こんな本、私が変えてやる。

この主人公を、不幸のどん底に落としてやるにはどうしてやろうか。

そんなことを考えているうちに楽しさが、面白さが私の中に芽生えた。


「伯母上! 私は、いいことを考えたぞ! 話だ! 私の物語を作れば、この主人公は私の思い通りになる! 私が、こいつらを駒にしてやる!!!」


思えば、そこが始まりだったのかもしれない。

私が小説家として、開花していったのもー



「ねぇひろちゃん? どうしてここで主人公は、一人になることを選んじゃうの? バッドエンドには、もったいないなくない?」


巡らせていた記憶が途切れたのは、彼に声をかけられたからだ。

そのことに気に入らず、ふんと鼻で笑ってみせる。


「物語が必ずハッピーエンドで終わるなど、誰が決めたのだ。こういう終わり方をするからこそ、よくなる話もあるのだ!」


「ええ? そういうものなの?」


「文句があるなら、お前で書いてみろ! 毎回毎回お前というやつは……私の作品に文句ばかり付けるな、夕!」


大西夕。アイドルで一世風靡している、人気歌手。

なぜこんなことを思い出していたのか、それは奴に自分の過去をベースに書いた話を読ませたからだ。

夕は歌手だけでなく、俳優業もしていることもあり、もともとは私の作品の主演で知り合った仲だ。


最初は私の脚本通りに動かず、自分がキャラに入り込む役者体質だとかで対立しまくったが。

それでも彼の指摘はあながち間違っていないこともあり、今では少し……ほんのすこーしだけは認めてやっている。

まったく、感謝してほしいものだな。


「うーん……ひろちゃんの物語にいちゃもん付けるわけじゃないけど、寂しそうだなって思って」


「寂しそう、だと?」


「うん。だって一人きりって話す相手もいないし、一緒にご飯食べてくれる人もいないんでしょ? この人自身が気付いてないだけで、きっとすぐ近くにいると思うんだ。そういう、優しい友達みたいな人」


こういうところは、相変わらずだ。

まるで私の心を見透かされたような気分になるのは、自分のことを書いたせいだろうか。

事実こいつらに出会うまでの私は、そうだった。


小説を書くことで、誰かとつながることが出来る。

私の物語を、喜んでくれるものがいる。

それだけで十分だった。

まるで母が、私のために残していってくれたもののように感じた。

孤独を選んだ主人公、それが私高松真尋だ。

だから友達などいらないと、そう思っていたのだが……


「仮にその男に、友人を作るとして友人側になってみろ。お前は、なんと言葉をかける?」


「え? そうだなあ、僕がついてるよ……とか?」


「そんな軽くいっていい言葉か? どーせいつかは離れてしまうであろうに」


「いつかなんて、先の話は考えなくていいんだよ。一緒にいれる、今を大事にしないと」


こいつの脳内は、お花畑にでもなっているのだろうか。

きっと今まで様々な友人に恵まれてきたのだろうな。

事実夕の人柄の良さは、あの衣鶴でさえも認めている。

奈緒も彼方も、こいつにはかなわないと言っていた。

それは多分、私も同じ。


「……仕方ない。お前に免じて、友達とやらを増やしてやろう」


「えっ、いいの? そんな急に変えちゃって」


「この高松真尋にかかれば、そのくらい造作もないことだ! 次にこの作品をお前が目にする頃には、映像化になり世に知れ渡った時だな!」


「さすがひろちゃん、頼もしい♪ じゃあもし僕がやるとしたら? 何の役?」


「お前には通行人Aがいいとこだ。主役なんぞ渡さん!」


「えーひどいよ~」


母上。天国で、見ているか?

私はこの人生を、意味のないものだととらえていた。

誰も私と釣り合える人なんていない、と。

作家として活動していたおかげで、それは間違いだということに気付けた。

それも母上が残してくれた本のおかげだ。

だから私は、母上に読んでもらえるような素晴らしい物語を築いてゆくぞ?

もちろん、こいつらと一緒に。な?


(つづく・・・・)

最後はもちろん、真尋です。

若干タイトルが強引になっちゃいましたが

気にしないでください笑


どこかで言ったような気もしますが

忘れてしまったので一応言っておくと

この五人は天才という

共通点があります

にも関わらず個性や考え方がばらばらで…

そこが仲がいいポイントなのかもしれませんね


というわけでこれにて、

全員分のお話が終わりました!

ついに次回で最終回です。

五人の物語を、最後まで見守ってくださいね♪

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