今もなお、秘めた熱き思い
〜side 奈緒〜
「ほんっと奈緒ちゃんはすごいわ。お母さん達が出来ないこと、全部できちゃう。あなたは、自慢の息子だわ」
物心つく前から、言われ続けたその言葉はいつしか聞き飽きていた。
奈緒ちゃんはすごい、奈緒ちゃんは天才。
嘘偽りのない言葉なのは間違いないのに、素直に喜べない自分がいたのはどうしてだろう。
外国人の父譲りの金髪のおかげで、学校でも有名だった方の僕は「天才」ということでさらに目立っていた。
「君は天才だ、将来大物になる」
先生達が声を揃えて、僕を見ていた。
友達もすごいすごいと、称賛して。
いつのまにか、新聞にも載っていた。
僕がすごいと言われた理由、おそらくそれはパソコンの技術だ。
小さい頃からお父さんがやっているのを見て、面白そうだと思って見様見真似で始めた。
最初はゲームだったり、遊び感覚だったけどいつの間にか内部や構想、どこをどうすればどうできるのかまで把握できるようになって。
気が付けば、天才と呼ばれる存在だった。
誰もが僕に夢中で。親は親で、すごいの称賛の嵐で。
いくつになっても僕は、その自覚がわかなかった。
パソコンだって趣味で始めたもの。僕なんかより、すごい人はたくさんいる。
僕の兄さんだって、いつも勉強頑張って一位とってるよ?
兄さんはすごくなくて、どうして僕ばかりがすごいの?
「お前はいいよな、どこいってもすごいすごいって……お前にはわからないだろうな……すごい弟を持った兄の気持ちが……」
カノンプロダクションに入って数日。みんながみんな、僕の門出を祝っていた頃。
兄は僕にそう言った。
夜だったというのに出て行って、しばらく待っても帰ってこなくて。
その時、初めて思い知らされたんだ。
天才とうたわれるということは、その分誰かを傷つけてしまうこと。
僕の存在が、彼にとって邪魔だってこと。
家から出て行ってしまった兄さんは、それ以来僕の前からはぽっきり姿を消してしまい、僕一人きりになってしまったー
「ひと時もあなたを離したりしない~だって私はあなたがすきだから~」
「ちっがあああああう! そこはもっと切なそうに言うとこだろ!? もう少し感情をこめんか、バカ奈緒がああああ!」
声の大きさに反応したのか、屋根の先にとまっていた小鳥たちが慌てて飛び立つ。
耳をふさぎ終わった僕は、メロンパンを一つほおばってみせた。
僕、宮下奈緒。十六歳。
こうみえて、テレビ局に所属する編集者です。
好きなことは食べることと食べることと……食べることかな?
今日も今日とて、お仕事頑張ってます。
「だっておかしいよ。ひと時も離さないなんて、ムリだよ」
「お前は全国の男子を敵に回す気か!? これだからお前は!」
怒りが収まらないとでもいうように、彼がワーワー大げさに騒ぎまくる。
彼は高松真尋。まひろという名前で作家活動をしている、女装男子だ。
まだ中学生だというのに偉そうな態度だったり、担当の人を使ってネタを補充したりと彼を知っている人は皆厄介な人だという。
その厄介者払いとして入らされたのが、同じ編集でも全く知識が皆無の僕だ。
まあ噂通りの人だったけど、真尋には真尋の事情があるって分かってるし特にやりたいこととかないし続けてるけど……
「恋愛とは、リア充そのものだぞ! 恋愛をすることで、自分の人生の伴侶を共にする人が決まるかもしれんのだ! 魅力的だとは思わんのか!」
「そういう真尋も未経験だよね? 恋愛」
「私はいいのだ! なぜなら、実績があるからな!」
相変らずだなと思いながら、またパンをほおばる。
真尋が得意とするのは、まぎれもなく恋愛小説。
僕が全く知らない分野だ。
ハーフだからってことで注目されたり、付き合ってほしいと言われたことは多々あるけれど、実際にしてみたことがない。
そんなことしてたら、ご飯とか食べる時間なくなっちゃうかもしれないしね。
「文句ばっかり言うなら、夕とかに頼みなよ。演技うまいんだし」
「奴は私のキャラに肩入れしすぎるのだ。印象に残ってしまうと、なかなか崩しにくくなるであろう?」
「ごめん。よくわからない」
「まあよい、はなからお前に恋愛要素は求めておらぬ。では次はこれだ! 王子と付き合うにあたって家族に反対されるシーンだ!」
家族、と言われて思わず反応してしまう。
それでも何事もなかったかのように、僕はメロンパンをまた一つかじった。
だが彼には、何か感じるものがあったのだろう。ため息交じりに真尋は、
「なんだ奈緒。お前、家族となにかあったのか?」
と思っていたことをすぱりと当ててしまった。
「……真尋って、余計なことはすぐ気付くよね」
「一言余計だ! それで? あるのか、ないのか?」
「僕、色んな人にすごいすごいってほめられたことしかないんだ。そのせいで、兄さんがいなくなっちゃった」
今でも思い出す。あの日、兄さんが出て行ってしまったこと。
僕自身、自分が天才なのかどうなのかなんてどうでもいい。
食べることにしか興味がわかなかった僕にとって、ほめられることがさほど嬉しくなかった。
小さい頃から一緒だった兄さんは、僕と比べられることが嫌だったからいなくなってしまった。
今もずっと探してるのに、全然見つからなくて……
「そんなことなら、高松家にかかればすぐに見つけてやるぞ?」
「え、本当?」
「この私を誰だと思っている! だが、見つかったところで問題が解決するわけではないだろうが」
真尋の言う通りだ。
万が一兄さんが見つかったとして、彼は僕のところに戻ってきてくれるだろうか。
親は親で、一人でも暮らせる年だから大丈夫と言ってきかないし、今も昔も僕中心だ。
そんな家が嫌でしょうがなくって、思いきって家出して夕のとこにかまってもらったことだってある。
僕はただ、普通に兄さんと過ごしたいだけなのに……
「奈緒。お前の実力は十分にすごい、それは私でも認める。人が離れていくことは、天才と呼ばれる代償のようなものだ。現に、私がそうだった」
「真尋……?」
「だが、私は天才であることに誇りを持つ! 高松家の人間として、恥じない人間になるためには必要なのだ! お前も少しは自信を持て! 仕方ないから、この私だけは離れたりなんかしてやらんぞ!!」
真尋らしい、偉そう極まりいない言葉。
それでも少しだけ、ほんの少しだけ優しさが垣間見えた気がした。
みんなに厄介者払いされて、それでも彼らしさが変わらないのは真尋の強い一面だろう。
ただの担当者と作者っていう関係性だけど、一緒にいればそんなに悪い人じゃないなんてすぐわかる。
真尋は、すごく優しい子なんだって。
「なんだ、私をみてにやにやして」
「別に。相変わらず真尋は偉そうだなって思って」
「当然だ、なんせ高松家の人間だからな!」
「僕、いいのかな? ここにいて。真尋は傷ついたりしないの?」
不安で、誰かにそばにいてほしいなんて思ったのは兄さんがいなくなったせいなのだろうか。
それとも夕達という、ちゃんとした友達が出来てしまったからなのかな。
僕は自分が満腹になれれば、食べることさえできればそれでよかったのにー
「私を凡人どもと一緒にするな! 少なくとも、夕や衣鶴……彼方だって同じことを言うと思うぞ? お前を離さん、とな」
「……うん、そうだね」
こんなにやさしい仲間達を、僕はもう離したくない。
天才でも天才じゃなくても、それは変わらない。
いつか兄さんと会って、ちゃんと直接話したいな。
兄さんの方が僕にとっては憧れなんだよって。
みんなにも、ちゃんと言えるようになりたいな。
すごいのは僕なんかじゃない、僕の周りにいる人達なんだってことー
いつか、きっとー
(つづく・・・)
さて、今回は奈緒ちゃんです!
自由奔放でおなじみの奈緒ちゃんですが、
天才ゆえの苦労・・・といいますか
そこは書いていて悲しくなってきます。
逆に天才なのにそれを誇りとする真尋。
二人は似ているようで、正反対なんです。
そして次回で各キャラ視点も終わるわけなのですが・・・
もうだれか、わかりますよね?
残り二話です。最終回までどうか、
よろしくお願いします。




