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遥か彼方、行ける場所まで


〜side 彼方〜


人はいつか、僕から離れて行ってしまう。

そう思うようになったのは、もう何年前のことだろう。

どんなに信じていても、どんなに仲良くなってもいつかその人はいなくなって、その時だけの関係になる。

幾度となく出会いと別れを繰り返していくうちに、そう思うようになった僕はいつしか人と関わることに壁を作っていた。

どうせいなくなるなら、あまり感情移入しない方がいい。

傷つくのは、自分なのだから。


「彼方、お母さん達旅行に行ってくるから。その間、おばさんの言うことをちゃんと聞くのよ?」


僕がまだ中学に上がったばかりの頃。

幼い妹と弟を残したまま、両親はそれっきり二度と戻らなかったー


「お兄ちゃんっ、ちょうちょがお花とまってるよ! 撮って、撮って!」


「あ、本当だ。教えてくれてありがとう」


「にーちゃん! あっちにつばめ! つばめもいんぞ!」


「もう二人とも。そんなにせかしたら撮れるものも撮れないよ」


親がいなくなって、もう何年の月日が過ぎただろう。

あんなに小さかった弟や妹も、今では小学6年生だ。

僕も少しずつ大人になっているのか、来年に控えた大学受験に向かって頑張っている。

どこを受けようか、少し迷っている部分はあるけど。


「うふふ、お兄ちゃんは人気者ね。彼方君」


「こずえさん。もう出てきて、平気なんですか?」


「ええ。心配かけて、ごめんね」


両親のかわりに僕達の世話を買って出たのは、母の妹でもあったこずえさんだった。

彼女は子供を授かることなく、旦那さんと二人で暮らしていたらしい。

それでなのか、うちの親の押しつけがましいお願いにもかかわらず快く受け入れてくれた。

どんなに疲れていても僕達のお世話をしてくれる、とても優しい人だ。


「彼方君の撮る写真は、いつみてもきれいね。何かコツでもあるの?」


「コツなんて……昔から好きだったから、なんとなくですかね」


「この風景なんて、とても神秘的だわ。まるで物語に出てくる世界みたい」


カメラ。

それは自分が見た景色や、時間を刻める道具。

昔のことで忘れてしまった時でも、写真を見返せばそこに行ったことを思い出せる。


僕は昔から、カメラでその時を刻むのが好きだった。

少しでも覚えていたい、そう思うから。

撮るのはほとんど景色で、人の写真は弟たちの成長をたまに撮る程度。

いい景色を見るとカメラを構えずにはいられないっていうか……こういうのもいいなって、思うようになったんだよね。


「あっ、衣鶴お兄ちゃんだぁ!」


「でたな、怪獣いづるめ! オレが退治してやる!」


「いつから俺は怪獣になったんだよ。よ、彼方」


「衣鶴君。お仕事、お疲れさま」


僕よりも二年年上である上村衣鶴君は、今住んでいる家のご近所さんだ。

彼は僕なんかより、家の事情が複雑で辛い思いをしていると聞く。

それでも妹や弟の世話もしてくれるし、こんな僕のお兄さんのような存在だ。

昔は喧嘩ばかりしていて心配だったけど、その裏では何でもできて優しくて……憧れの人でもあるんだよね。


「今日はスーツなんだ? なんか、衣鶴君って感じがしなくて新鮮だね」


「それはどういう意味だ、彼方」


「ごめん。それで、今日はどうしたの?」


「こいつらに聞かれると面倒だな……少し面貸せ」


彼がたいてい二人きりにするのは、家族のことや仕事でなかなかいいにくいことをいうときだけだ。

それを分かっている僕は、こずえさんに事情を簡単に説明し、弟たちを家に戻るよう伝えてくれる。

三人が帰っていくのを見送りながら、衣鶴君は


「お前、モデルになる気はねえか?」


と信じられないことを口にしてみせた。


「モデルって……何を言い出すかと思えば、またその話?」


「何度も言ってるだろ。お前の外見の良さでモデルやったら、確実に売れる。俺が保証するし、考えてくれてもいいだろ?」


衣鶴君が勤めるのは、意外にも芸能会社。

なんでも同じ高校の友達が、芸能方面に進むのに無理やり誘われたのがきっかけらしい。

だからかは知らないけど、ことあるごとに僕にモデルの誘いをしてきて……


「いくら衣鶴君の頼みでも、それはできないよ。僕なんかより、かっこいい人はたくさんいるんだから」


「そうかもしれねぇが、いい加減自覚してくれねぇか? 俺以外にもスカウトされたことあるだろ」


「そう言われても……僕は撮られる、より撮る方が好きだから」


自分の容姿が、他人にどう見えているかはわからない。

きまって声をかけられるのは、モデルのスカウトだ。

僕よりかっこいい人なんてたくさんいるだろうに、どうして声をかけられるのかよくわからない。

芸能界なんて、僕にとっては手の届かないような場所でー


「じゃああれだ。カメラマンなればいいじゃねぇか、テレビ局の」


突拍子のないことをういうのは、相変わらずだ。

衣鶴君は、ポンポンことを進めてしまう。

それがなんだか僕とは逆で、すごくうらやましくて……


「いきなりどうしたの、衣鶴君。今日はずいぶん強引だね」


「まあ……うちの社長とだちにかまかけられたのもあるがな」


「社長さんと、お友達に?」


「彼方、こいつのこと知ってるか?」


衣鶴君はそういうと、携帯で写真を表示してみせる。

そこにあったのは、芸能界に疎い僕でも見たことがある人物だった。


「この人……皆川篤志、だよね? 今注目の新人さんだって、テレビに何度も言ってた」


「ああ。俺のだち」


「だち……え? この人が、衣鶴君のお友達なの?」


「こいつにお前の撮った写真見せたら、偉く気に入ってな。友達になりたいだの話してみたいだのうるさいわうるさいわ」


「そ、それで僕をスカウトしてるんだ……」


「お前カメラ好きだし、そういうのも悪くないだろ?」


その後、衣鶴君は考えておいてくれとだけ言って何事もなかったかのように去る。

言いたいことだけ言って相手のことは聞かないところは、相変わらずだ。

彼の言葉が気になってない、と言えばうそになる。

それ以来も進路の話が出るたびに、彼の言葉がかすむ。


確かにカメラは好きだ。

でも趣味としてやってるだけで、本格的な世界に飛び込む勇気が出ない。

なにより、こずえさんに悪いと思って……


「彼方君、うちのことは気にしないで。自分がしたい道に、進みなさい」


三者面談で彼女が言ってくれた言葉。

こずえさんの後押しもあったおかげで、僕はカメラマンの道につくために芸術大学に通うことにした。

なるべく負担をかけないように、特待生制度などでお金がかからないようにして。

人手が足りないという衣鶴君の声もあって、テレビ局にアルバイトで入らせてもらって……



そこからかれこれ、もう6年の月日がたつ。

結婚や退職で抜けていく人もいれば、新しい人がたくさん入ったり。

下っ端だった僕にも、いつの間にか後輩が出来ていて。

今では、仲のいい友達もできた。


「年と経歴は違うけどさ、こうして出会えたんだしたまにはみんなで遊んだりしない? 僕、同級生とほとんど会えなくなっちゃったから、友達少なくて」


明るくおおらかで、みんなを包み込んでくれるように暖かい光を持つ夕君。


「まあ、お前らには気を使わなくて済むしな。仕方なく」


今も昔も変わらず憧れで、僕をここまで引っ張ってくれた衣鶴君。


「はむはむ。僕は食べ物食べれたら、なんでもいいよ」


マイペースでみんなから可愛がられるマスコット的な存在の、奈緒君。


「ふん! そこまで言うなら仕方ないな! この私がお前らの友達とやらになってやろう! まあ私にとってお前らは下僕同然だがな!」


芯も意志も強くて、幼さを全然感じさせないすごさを持つ真尋君。

彼らと出会えて、こうしていられるだけでなんて幸せなんだろうと思う。


今まで、全然そんなこと感じなかった。

別れることが怖くて、臆病だった自分も今はちゃんと笑えるようになったかな?

だから、僕も精いっぱいのことを返すんだ。

みんなに。いつもありがとうって気持ちを、レンズに込めてー


(つづく・・・)

衣鶴に続いて、彼方編です!

優しい彼方ですが、過去が過去だったので

結構黒い面もあってそのギャップもいいですよね!

何言ってんだこいつって思ってる方もいるでしょうが。


次回も各キャラのお話ですので、お楽しみに!

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