輝きとともに、試される力
高校卒業後、カノンプロダクションに入社した夕。
そこで言い渡されたのは、大人気アイドルである
篤志の付き人で・・・!?
「では撮影に入りまぁす。篤志君、準備してくれる?」
「ほ~い。今回もイケメンすぎるオレのを、そのカメラで納めちゃってねん♪ あ、夕ちゃんなんか飲み物買ってきてよ。できれば炭酸ね!」
「は、はい! わかりました!」
「それじゃあ篤志君、目線をお願いしまぁす」
次々に、カメラのシャッターが切られてゆく。
まぶしいライトにもかかわらず、彼は角度を変えたりポーズを変えたりして。
僕からしたら、どのポーズも様になっているように見えるけど。
「あっ、ここって自動販売機、どこですか?」
カノンプロダクション所属、大西夕。十八歳。
ただいま絶賛、仕事中です。
かれこれ入社して、もう数ヶ月経ちました。
にもかかわらず僕は、いまだにこの職に慣れていないと言いますか……思ったより大変で困惑しています。
歌手業を中心に、爆発的な人気を誇る皆川篤志さんの付き人。
はたから聞けばいい話にも聞こえなくもない。
なんせ人気者と一緒にいれることが出来るもの。母さんにも、すごくうらやましがられたっけ。
でも、だ。
任されたはいいものの、ほとんどが彼のパシリ同然。
もともとマネージャーだったはずの衣鶴さんは、まったくもって不協力。
事務所で顔を合わせるだけで、頑張れと言う言葉しかかけられない。
篤志さんもだいぶ僕のことが分かってきたのか、使い方が雑になったりしてもう大変。
果たして僕は何をしているんだろうと、常に自問自答ばかり。
でも、いいことだってちゃんとある。
「木村っち~今回の新曲はエレガントさがテーマなんだけどさ、背景もちっと豪華に出来ない? 例えば王様の椅子とか!」
「そういうことなら、少しテイストを変えてみるかい? その間、ゆっくり休みなさい」
「おっ、やったね♪ 夕ちゃぁん、ドリンクプリーズ?」
「はい! ただいま持ってきます!」
新曲を出すと、必ず行われるジャケット写真。
曲だけでなく彼は、こういった活動にも手を込むプロだ。
何度も見てきたが篤志さんの探求心は、やむことを知らない。
出してきた新曲も、売上ランキングにいつも君臨してるし。
本当、尊敬する限りだよ。
「どうぞ、サイダーです」
「夕ちゃんってば、すっかりオレの好みがわかってきたね♪」
「ま、まあ……なんとかってやつですけど……」
「ねね、夕ちゃんはどう思う? ここをこうした方がいいっての、ある?」
彼が指をさしたのは、撮影用に用意されたセットだ。
今は篤志さんのテイストに合わせて、なるべくスタッフが高級感を出そうとセットを練っている。
次々に置かれていくもの、篤志さんの服を見ながら僕は思ったことをポツリ。
「絵を寄りにして、顔とグラスを置いたテーブルだけ撮る、ってのはどうですか?」
「え? 顔と、飲み物だけ?」
「はい。確かに背景もきれいですけど、あえてそこだけ映して高級感を際だてる、というか……全身だと迫力に欠けるような……」
偉そうなことを言ってしまったと思った時には、もう遅かった。
気が付くと篤志さんは、僕を驚いたような目でポカーンと口を開けている。
とっさに自分の過ちに気付き、あわてて訂正した。
「い、いえ違うんです! 決して、篤志さんの衣装が悪いというわけじゃなくて! 何も知らないのに口出してすみません!」
「オレ、まだなぁんにも言ってないんだけどぉ?」
「あわわっ、もっとすみません!」
「ははっ! 夕ちゃんってほんっと面白いよね! 発想力が豊かってーの? 悪くないと思うよ、オレ的に♪」
あ、あれ? 怒られ、ない?
「寄りかぁ……だったらっ。木村っち、今日ってたっきー来る~?」
「ああ、来てるとも。違う現場で補助をしているかな」
「よし! じゃあ夕ちゃん! 偉そうなこと言ったって自覚があるんなら、たっきー連れてきて!」
「えっ、あの、僕そのたっきーって人知らないんですけど?」
「隣のBに行けば、すぐわかるよ~眼鏡してるし、ちゃんと名前プレートあるから。ほらほら、行った行った!」
うう、やっぱり言うんじゃなかった……
ここのところ、いつもそうだ。
何かと僕に意見を求める割に、言ったら言ったで仕事を増やされる。
そんなに気に障るなら、最初から僕に言わなければいいのに……本当、変な人。
しかし、困ったな。
彼とともに仕事はしているけど、テレビ局の人全員を知っているというわけではない。
ましてや篤志さんは衣鶴さんをつるちゃん、とニックネームで呼ぶ癖があるから余計にわかりづらい。
たっきー、という人が誰なのかまったくわからないのにぃ。
とにかく探そう! 時間がないから、早急に!
そんなことを考えていた矢先、だった。
勢いよくドアを開け、その近くを歩いていた人にぶつかったのは。
「いてっ。す、すみませ……」
「あ、すみません? 僕、よそ見していて……怪我はありませんか?」
心臓が、止まるかと思った。
キレイな黒い髪に、モデル並みに整った顔立ち。かすかに匂う、香水の香り。
男性、というのにもかかわらず、あまりの美しさに思わず言葉を失ってしまう。
「見ない顔だけど、新人さんかな? 驚かせて、本当にごめんね」
眼鏡の先で微笑む笑顔が、動作の一つ一つが本当にきれいで美しくて。
こんなモデル顔負けの男の人、初めてだ。
誰だろうと思い、胸にかけられた名刺を見ると……
「……アルバイト……たきざわ、かなた?」
「ああ、新入社員なら知らないよね。僕は滝澤彼方、大学三年生。カメラマンのバイトをしているんだ。偉そうにタメ語なんて使っちゃって、ごめんね?」
「いえいえ、僕の方が年下なので!」
「ってことは高卒で? すごいね、篤志君と同じなんだ」
篤志という名前が出てきて、はっと思い出す。
彼が言っていた、たっきーという人物って彼のことなんじゃないか?
眼鏡だってしてるし、名前が滝澤だし……
「夕ちゃぁ~ん? まぁだ見つからないのぉ~? ってなんだ、会えたんじゃん。たっきー、おっひさ~」
「篤志君。お疲れ様です」
待ちきれなくなったのか、ドアから篤志さんが顔を出した。
予想通り、というところだろうか。
しかしながら、こんなにキレイな人なのにモデルさんじゃなくてアルバイトの人とは……色々な人がいるもんだなあ。
「今オレのジャケ写撮ってんだけど、お願いしちゃっていい? たっきーの技術、めっちゃ好きなんだよね~」
「そういってくれるの、篤志君くらいだよ。僕でよければ、喜んで」
「ほらほら、夕ちゃんも早く。この後も立て込んでるんでしょ!」
「あ、はい!」
そのあと、撮影は瞬く間に終了した。
滝澤さんの、見事なカメラワークであっという間に完成。
僕が思っていた通りのイメージが、撮影された。
その通りにできる篤志さんもすごいが、プロのカメラマンにも負けじと劣らない滝澤さんの技術もすごい。
そしてジャケット写真の効果はもちろん、そこに曲の素晴らしさも加わって。
彼がリリースした新曲は瞬く間にお茶の間にわたり、またも爆発的ヒットを記録する。
彼の人気を止める者はいない。そうとまで言われていた。
あの運命の日を迎える日まではー
(つづく!)
ここにきて、彼方も登場しました。
先にばらしてしまうと、はばたけのレギュラーは全員で五人です。
お気づきの方も、すでにいると思うんですけど。
しかしですね、彼方を境にまあでてきません。
ここからが異様に長いんです。
残りの二人が出てくるまで時間はありますが
最後までお付き合いをよろしくお願いします・・・
次回、物語は一気に進んでいきます。