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理想を追い求めて

ファンの子から、新曲を作ってほしいと言われる夕。

何と今度は、ラブソング!

恋愛作家である真尋に協力を仰ぐも、

なかなかペンが進まないようで・・・

「好き……ライク……ラブ……愛してる……ううーん……好きって表現にも、色々あるんだなあ~……」


頭をくしゃくしゃさせながら、深いため息をつく。

恋愛ソングを作るという話になって、もう三日。

僕はいまだ、案というものが出ずに悩みに悩んでいる。


あの後ひろちゃんから色々話は聞いたものの、そのせいで余計ややこしくなってしまった。

僕が詰まっていることをお見通しかのように、衣鶴は仕事を少なくしたりして作詞の時間を僕に与えてくれる。

現場では奈緒ちゃんに彼方、二人にも背中を押されたけど……


「こんなに難しいとは思ってなかったよぉ」


自分が経験したことのない、未知な領域。

恋愛なんて今まで興味を持ったことさえなかったし、こんな僕と誰かが付き合うなんて想像もしていなかった。

やっぱり自分が恋なんてしてないから、書くことにためらいがあるのかなあ。


「夕~? 部屋にこもりっきりだと、浮かぶものも浮かんでこないわよ? お母さんでよければ、相談に乗ってあげる♪」


部屋にお茶とお菓子を持ってきてくれた母は、机に置きながらほらほらと優しく声をかけてくれる。

こういう優しさに、いつも助けられてきたのは事実だ。

でも恋愛のこと、なんて母に向かって言えるわけないしなあ……


「え、えっとぉ作詞がちょっと煮詰まってるっていうか……」


「作詞……そういえば夕が気にしてた、LAVEGATEって二人組! また新曲を出してたわよ! すっごくかっこいい曲だったわあ」


「へ、へえ……」


「なんでも作詞と作曲と、分けてやってるみたいだけど……その子達に話聞いたりはダメなの?」


LOVEGATE。天王寺事務所に所属する、僕のライバル。

直接的な対決はPV対決以来ないし、会社同士が対立しているせいなのか同じ番組で共演することもまずない。


すれ違ったりするたびに、木葉ちゃんが色々言っては来るけど。

作詞作曲で分けてる、か。ということは二人のどっちかが、作詞を毎回してるってことだよね。

ほとんど恋愛を題材としてるようだし、参考にはなるだろうけど……

天王寺事務所の場所か……ここからそう遠くはないんだな……


「僕、ちょっとでかけてくるよ」


「気分転換? 暗くなる前には帰って来なさいよ」


「うん、いってきます」


携帯で文字を打ちながら、足を靴に入れる。

送信されたことを確認しつつ、家を出たのだった……



「……で? なんでそれに、俺が呼ばれなきゃなんねぇんだ?」


不機嫌きわまり声が、嫌という程聞こえてくる。

変装用に被ってきた帽子の位置を正しながら、僕も彼に負けずと言い返した。


「僕一人だと、入れるかどうかわかんないでしょ? 上の身分の衣鶴なら、通してくれるんじゃないかなぁって」


「いい迷惑だと思わないのか、お前は」


「内部を知れるいいチャンスかもよ。ここは僕の作詞のためだと思って、ね?」


いやいやながら、彼はため息をつく。

思い立ったが吉日、僕はLOVEGATEに会うために天王寺事務所にやってきてみた。

さすがに突然訪ねて迷惑じゃないか、と思ったので顔がききそうな衣鶴に頼んできてもらったのだ。

電話した時から薄々気づいてはいたけど、彼は心底めんどくさそうで眠そうにあくびさえしていた。


「早速入りたいんだけど……僕がYOU☆だってことを言わずに、通してもらえるかなぁ……」


「その心配はいらねぇよ。すでに許可は取ってある」


「え?」


「お前が言ってきた時点で、あっちの知り合いに話はつけといた」


あまりのことにびっくりして声を失う。

さすが衣鶴だ、仕事が早い。

やっぱり彼に頼んでよかった、いつもみている背中が今日は余計頼もしく見える。

いくぞとつかつか先を歩いていく衣鶴に、僕はゆっくりと後をついていく。

彼のいう通り、受付に着いたらすぐどうぞと通してくれた。

衣鶴につれられるがまま、部屋に入った先にいたのは……


「穂高、このフレーズはどうだろう? 二つの音が重なることで、かっこよさが増さないかな?」


「………いまいちぴんとこない……それに、今回の詞には、あってない……」


「文句が多いなぁ、相変わらず。だったら穂高が曲も……あっ、YOU☆さんじゃありませんか」


ピアノやギターなどの楽器が、ところどころにおいてある。

僕達が作曲している部屋と、さほど変わりばえがしない一室。


そこには真っ赤なギターを抱えた木葉ちゃんと、紙とペンを持って迷惑そうに顔をしかめた穂高君がいた。

僕の姿を確認するが否や、木葉ちゃんは手を取って……


「こうして会社にまできてくれるなんて、凄く嬉しいです。私に会いたかったんですか?」


「そ、そんなことないよ。僕はただ、作詞のことで……」


「それで私たちを選んだってことですよね? 嬉しいです、YOU☆さんのお役にたてる日が来るなんて」


言ってて、恥ずかしくないのだろうか。

彼女と会うといつも変な歓迎をされたあげく、掌にキスをされるというのが定番になりつつある。

この子、一体何がしたいんだろう……


「ねーさん……いい加減にしろ」


すると穂高君が、紙を丸くまとめたもので木葉ちゃんを叩く。

相変わらず無愛想な表情は、僕では読み取れなかった。


「いったいなぁ、もう。いいじゃないか、相手はYOU☆さんだよ?」


「相手関係ねぇし……それに姉さんじゃ、そいつの役には立てない」


「言ってくれるなぁ」


な、なんだろう。穂高君にすっごく睨まれたような気がしたんだけど……気のせい……かな?

二人の喧嘩のような言い合いはしばらく続いてしまい、衣鶴の機嫌がますます悪くなっていくのを肌で感じていた。

なんでわかるのかって? そりゃあもう、見るからに顔が怖いし……


「日頃の作詞は全部弟の方がやってんだろ? 夫婦漫才やってねぇで、さっさとこいつに教えろ」


「夫婦漫才なんて、私たちただの姉弟ですよ?」


「……じゃあねーさんとそこの不良っぽいの二人、でてけ。邪魔だから」


また衣鶴を怒らすような事を軽々いうなぁとハラハラしながら、彼らをみる。

穂高君は何にも気にしていないように、早くとばかりに二人をにらんでいる。

ふかあいため息をついた衣鶴は、不機嫌そうに口を開いた。


「言われなくても、こんなとこにずっといるわけねぇだろ」


「まったく、穂高は仕方ないなぁ。YOU☆さんに何かしたら、私が許さないからね?」


彼とは逆に名残惜しそうに去る木葉ちゃんの背中を眺めみながら、ふと自分の置かれた状況を振り返ってみる。

あれ? 僕、今誰といるんだっけ?

えーっと衣鶴と木葉ちゃんがいなくなったってことは……


「さて……じゃあ始めてやるか。オレのペースについてきてよ、先輩」


ほ、穂高君とマンツーマンってこと!?


(つづく!)

なんだかんだでお久しぶりのラブゲの二人登場です。

同じアイドルなのに全然違うのは、

二人の性格のせい・・・なのでしょうか。


それにしても衣鶴が有能すぎて

私でも頭が上がりません笑


次回、穂高と夕、二人で交わす会話とは!?

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