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今より上へ、先に行くため

大好きなミステリースポットを

仕事仲間四人で特集することが出来た夕。


舞台は次なるステージへ!!

みんみんと、セミが鳴いている。

部屋の中にいても、その音だけは聞こえてくるせいでさらに熱くなっていく気がする。


「あちぃ……」


舌打ち交じりにつぶやいた衣鶴は、扇風機を何の断りもなく固定する。

相変らず暑そうな長袖を身にまとっている彼は、一緒にいる僕のことなんてお構いなしかのように、彼は風を強くした。


「衣鶴~? 扇風機を直接当てるのは体に悪いんじゃなかったっけ~?」


「いーんだよ、俺は。風邪ひいたことねえし」


「だからって一人占めはずるいよ~僕にも扇風機を……」


「歌手がのどを痛める行為はおやめくださーい」


自分の都合がいいときに限って、歌手という職業を盾にされる。

確かに風邪なんてひいたら、ファンのみんなに申し訳ないなとは思うけど。

昔に比べて、だいぶ扱い雑になってるよなあ。衣鶴って……


「仕事手伝ってあげてるのに、それはひどいと思うけどなあ。これくらい自分で出来ないの?」


「お前の仕事の付き添いのせいで全然暇がないんだよ。お前にも責任はあるんだから、付き合え」


「すごい言われようだね?」


「どーせ新曲作りも付き合わされるんだろ? おあいこっつーことで」


彼にそう言われ、仕方なくまた書類をまとめ始める。

今日は僕の仕事が休みの日、でもあるのに衣鶴の雑務を手伝っている。

マネージャーで忙しいというのを理由にこうして手伝わされるのは、もはや毎月恒例になりつつある。

忙しいなら社長とか、他の人に頼むとかすればいいのに。

まあ一番は、全然顔を出さない社長が原因なんだろうけど……


「そいやお前宛てのファンレター、家に送っておいたが見たか?」


「そりゃあ、もう。見ろとばかりにたくさん届いてたからね」


「で、ご感想は?」


「なん、ていうか……こういう曲を歌ってほしい、って意見が多くありまして……」


家に送られた一通のファンレターを、彼に見せる。

僕のファンのみんなはどれもいい子達ばかりで、大好きですと言ってくれる子ばかりだ。

新曲の感想や、雑誌を購入したなど意見は人それぞれ。

その中で、極めて多いのが……


「今度の新曲に……恋愛ソング歌ってほしいという意見がこれの他に多数寄せられていまして……」


恋愛ソング。

それはアイドルにとって、王道ともいえるものだ。

ほとんどの女性の胸をつかむだけあり、ほとんどのアイドルの代表曲になるほど。


でも僕には、それがない。

いつも感謝や、応援ソングぐらいで珍しかったのは美波音さんが作ってくれたロック曲くらい。

そのファンレターを読み終えたのか、衣鶴は一言、


「いいな、恋愛ソング。新曲それで行くか」


と気軽に言って見せた。


「……簡単に言ってるけど衣鶴、恋愛ソングなんて作ったことあるの?」


「んなの勘で書けばいいだろ。てきとーに」


相変らず肝心なところで適当だ。

彼のひょうひょうとした態度に、はあとため息が漏れる。

学生時代、女の子から告白されたことは何度かある。

でもそれで付き合ったこともないし、自分がそういう感情を抱いたことさえない。

恋愛ソングなんて、経験してない分僕にとってはハードルが高すぎるっていうか……


「つうかお前、ドラマでそういう役やったことあるだろ。あの時はどーしてんだ」


「あ、あれは自然にっていうか……自覚ないっていうか……」


「恋愛ねぇ……まあ、街頭調査ん時によく耳にはしてたが……だったら、詳しそうな奴にでも聞いてくればいいだろ」


「詳しそうなやつ? って、誰」


「恋愛したことねぇくせに、いっちょまえに乙女心をつかむのがうまい奴」


そう言うが否や、衣鶴は出かける準備をしろという。

答えが出ない僕は、彼に言われるがまま仕事を片付け足早に変装をすますのだったー



「ふふ……ふふふふふふ……待っていたぞ、我がしもべたちよ!」


「いらっしゃ~い夕~」


「お疲れ、夕君。衣鶴君」


連れてこられた場所と、そこにいた三人の姿を確認して呆然とする。

衣鶴の運転で来たのはまさかの、ひろちゃんの家だった。

当然住んでいるひろちゃんはもちろん、なぜか奈緒ちゃんもいて自分ちのようにくつろぎながら食べている。

極めつけは彼方の姿もあって、遠慮がちに微笑んでいた。


「えーっと……これはどういうこと?」


「こいつ、小説と言ったら恋愛とばかりに書きまくってるだろ? だからたのんだ。ものすごーーーく嫌だったんだが。二人もいたんだな」


「ちょうど僕も真尋の原稿もらいに来てたところでね。彼方はついで」


おそらく彼方は、奈緒ちゃんに無理やり呼ばれでもしたのだろう。

あからさまに、困ったように笑ってるし。

逆にひろちゃんは、胸を大きく張った。

「話は衣鶴から聞いておるぞ! ラブソングを書きたいのだな! この真尋様にかかれば、たやすいこと! 存分に頼るがいいぞ!」


確かにひろちゃんが書く小説は、すべて恋愛ものが主題だ。

全部を読むことはさすがに出来ないけど、いつも話題になって耳に入ってくる。

僕が彼の原作の作品に出たのも、恋愛ものだったし……


「えーっと、じゃあ質問なんだけど……ひろちゃんって、どうやって恋愛を書いてるの?」


「恋愛を書いている、というより自分が好きなものを書いているぞ!」


「自分が好きな、もの?」


「そう! どろどろぐろぐろな修羅場こそ、私の目指す恋愛の理想郷だ!」


僕は、普通の恋愛を知りたいんだけどな……

他人のことなんてお構いなし、というように彼はなおも熱弁している。

すごいなあ、好きだからってあんなにかけるなんて。


「真尋君って中学生だったよね。友達に好きな人でもいるの?」


「ふん、この私が庶民に興味を持つわけないだろう。私がするのは庶民を使ってのネタ集め、実際に経験したことしか書かん!」


ということは誰か、ひろちゃんの小説のモデルになった人がいるのだろうか。

確かに実際恋愛したことのある人の意見を聞くのは、いいかもしれない。

かといって、知り合いに結婚したなんていないし……よく女の子にもてるのは……


「彼方と衣鶴って、なんで彼女作らないの?」


「……はあ?」


「え?」


素直に疑問に思ったこと、なのに衣鶴からはものすごくにらまれる。

しばらくすると、彼方は優し気な笑みを浮かべて


「告白はされたりするけど、僕にはもったいない言葉だよ」


と困ったように笑って見せた。


「何を言うか、彼方! お前はそこの衣鶴と違ってイケメンではないか!」


「イケメンかどうかは分からないけど……恋愛がどんなものなのか分かってなくて……」


「そもそも俺は、異性に興味がないんでな。年頃の奈緒の方が彼女できるんじゃね?」


「僕の恋人は食べ物って決まってるから」


「つまらないことばかり言いおって! とことんネタの参考にならんな! こうなったら夕! お前の作詞とやらに私も付き合ってやる! こんな使えない奴ら放っておいて、二人で理想郷を作り上げようではないか!」


そう言いながら、彼は早くしろとばかりに紙とペンを持ってくる。

それ以来彼の恋愛講座は終わることを知らず、僕達四人は夜が更けるまでひろちゃんの家にいることになってしまったのだったー


(つづく!!)

というわけで、新曲のターンです。

今回は恋愛というわけで

話が進んでいくわけですが

年が年なのに、彼女すらいない衣鶴と彼方が

心配です。

作ってほしいような、

でも作ったら作ったで悲しいような・・・

なんだか複雑ですね


次回、夕の迷走は続く!

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