ただがむしゃらに、まっすぐに
難癖ある真尋と分かりあえた夕と、三人。
五人となった彼らの、新しい物語が幕を開ける!
線香の煙が、ゆらゆらとゆれる。
空中に舞う煙を眺めみながら、僕はゆっくり手を合わせてみせた。
「悪いな、夕。誕生日が辛気臭くなっちまって」
周りの砂や石をはわきながら、彼が言う。
そんなことないよと僕は、優しく笑いかけた。
大西夕、アイドルを始めて約四年の月日がたつ今日。
早いもので、二十二歳になりました。
僕が年を取るのと同時に、この日は二年前に亡くなった篤志さんの命日でもある。
自分が生まれた日に、知っている人が亡くなったって思うとすごく申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
まるで昨日のことのように思えるのは、彼の偉大な功績のせい……なんだろうな。
「衣鶴こそ、結構来てるんでしょ? 墓参り。花を変える時に近所に住んでるおばさんから、教えてもらったよ」
「別に。来なきゃ来ないで、うるさそうだろ? あいつ」
「確かにそうかも」
墓参りに一緒に来ているのは僕のマネージャーである、上村衣鶴。二十五歳。
僕なんかより俄然先輩で、憧れの的だ。
頼りになることも多い半面、何でも自分で決めちゃったり、ほとんどが命令だったりして困ることも多いけどね。
「この後は番組収録だよね? バラエティーだっけ」
「そ。誕生日だってのに仕事入れるとか、ほんとお前変わってるよな」
「バラエティーってあんまりないから、新鮮でいいかなあって思ってさ。しかもみんな一緒なんでしょ?」
「まあな……約一名いらない気もするが。早く乗れ、行くぞ」
「うんっ」
右も左もわからなかった、アイドル生活。
それも今では、四年もたつんだなあって思うと感慨深い。
昔と今では、色々なものが変わったし。
悲しいこともあったけど、その分新しいものが増えていって……どれもいい思い出のものばかりだ。
この仕事で出会えた、友とも呼べる存在。それは衣鶴の他に、あと三人いる。
「お疲れ様で~す」
「あっ。夕君、お疲れさま。お誕生日、おめでとう」
滝澤彼方、二十三歳。いつも優しくて、甘えたくなっちゃうお兄さんのようなカメラマン。
「夕~おたおめ~ケーキあるよ~早くしないと、僕が食べちゃうよ?」
宮下奈緒、十六歳。食べることが大好きで、マイペースな編集者さん。
「遅いぞ夕! 貴様のために準備したケーキが、ほとんど奈緒に食われてしまったではないか! まったく、人の気を無駄にしおって!」
そして高松真尋、十三歳。お金持ちのお嬢様……のように見えて実は男の子の、天才作家さん。
みんな職業もバラバラだし、好きなものも性格だってバラバラ。
それでも年関係なく話したり、遊んだりして今ではすっかり学校の友達のような感覚だ。
こうしてお祝いの言葉をかけてくれるのも、僕にとっては嬉しいことの一つなんだ。
「ありがとう、三人とも。ケーキまで準備してくれるなんて、ひろちゃんにしては珍しいね?」
「好きでやったわけではない! これもそれも彼方のせいではないか!」
「え? 僕? うまく作れたほうだと思うんだけど……」
「人って見かけで判断できないよね。彼方のそれがなきゃ、僕絶対お嫁さんになってもらうのに」
おそらく二人は、彼の料理を口にした……のだろうか。
彼方の料理は一度食べたことはあるけど、思い出すだけで味まで広がってきそうなくらいすごかったなあ……
それが無自覚っていうから、こっちからはあまり言えないんだけど。
「やっぱり料理は衣鶴君、だよね。ケーキ作り、手伝ってくれてもよかったのに」
「ま、色々忙しかったしな。あとこいつのために作るってのは少々」
「ちょっ、衣鶴それどういう意味!?」
「ねぇねぇケーキ、まだ食べないの? もしかして、仕事の後までお預けなの?」
奈緒ちゃんも奈緒ちゃんで、食べることしか頭にない様子だ。
時計の針は、もうすぐスタジオ入りの時刻を目指そうとしている。
何とか彼のご機嫌を損ねないように、僕は優しく彼に言う。
「早く食べたいのもわかるけど楽しみにしてるだけ、おいしく感じるかもよ? パン買ってきたけど、それでよければ食べる?」
「食べる~~~~~そういえば夕、今日の仕事何か分かってる?」
奈緒ちゃんの言葉に言われてみればと、記憶を手繰り寄せる。
答えを求めるようにちらりと横目で見ると、衣鶴は唐突に
「問題。夏と言えば、何でしょう」
とつぶやいた。
「夏っていうと……海とかかな?」
「はずれ」
「りんごあめ。かき氷。アイスクリーム」
「はずれ。お前は食いもん以外にないのか」
「夏と言えば夏コミに決まっている!!」
「ちょっと黙っててくれないか真尋」
的確な衣鶴のつっこみに、文句ばかり言うひろちゃんにこれでもかというほど食べ物を言いまくる奈緒ちゃん。
考えている彼方の様子を見ながら、僕も他にないか考える。
夏と言えばやっぱり海だったり、お祭りだったり……特徴的なものが多いからなあ。
いや……でも一つだけ……
「怪談……とか、じゃないよね?」
僕の回答に、みんなが顔をあわせる。
すると急に衣鶴は、ぱちんと指を鳴らして
「あたり」
と言ってのけた。
「スタッフが、出るらしい心霊スポットを見つけたらしくてな。特集で番組くむからって、そこの収録をしにお前と真尋が呼ばれたってわけ」
「ちょっと待て! 夕が呼ばれるのは分かるが、なぜそこで私まで呼ばれる!?」
「ネタの参考になるからテレビのオファーどんどん受けてって言ったの、真尋でしょ?」
「お前が元凶か奈緒おおおおおお!」
「でもすごいね。まさか心霊スポットの中継なんて……夕君?」
みんなの声が話している内容が、すべて小さく聞こえる。
心霊スポット……だって、それは……
「ありがとう、衣鶴!!! さいっこうのプレゼントだよ!!!」
「……夕、君?」
「もしかして衣鶴、夕に料理作らなくていいって言ったのって……」
「……どうやらこいつ、かなりのオカルト好きらしい」
僕の好きなもの、それはオカルトだ。
お化けとか、未確認生物とか……とにかく、そういうものが好き。
普通だと怖いと思うものも、昔から平気な僕はおもちゃで似たようなものを持っていたほど。
僕が知らないだけで、世界には様々な生き物がいるんだなあって思うとわくわくしてしょうがなくて!
「……衝撃事実、発覚だね。はむ」
「すごいなあ、夕君。そういうの、僕苦手だから」
「心霊スポットというのは、怖がってなんぼではないか! 好きな奴が行って何の面白みがある!」
「そこはお前で何とかしろ」
「わ、私がお化けなどというちんけなものにおびえるわけないだろう!」
「そうとわかれば、早くいこうよ! 収録場所! どんなとこなんだろうなあ~楽しみ!」
心霊スポットの中継。
ワクワクする思いをはせながら、四人のため息にも気づかぬまま最高の誕生日が幕を開けたのです!
(つづく!!)
余談ですが、衣鶴と彼方は誕生日が
10月と9月なので実際の年齢は
衣鶴が26歳、彼方が24歳だったりします。
年数計算が非常に難しいので
ややこしいったらないですね
そんな感じでお願いします。
次回の投稿はお休みしまして、
十五日の更新になります。
幽霊登場か!?笑




