ぶつかり合う思いと思い
天才作家・まひろこと高松真尋の苦悩を
少しだけわかった夕。
彼に思いを伝えるため、ついに問題の本番を迎えるー!
カーテンを開けると、真っ白な白銀の世界が広がっている。
まだ十二月になったばかりだというのに、気温はすごく寒くて仕方ない。
それなのに小さな子供たちが、元気そうに雪だあと言いながら学校へ向かっているのが見える。
「よぉし、いよいよ出陣だ!」
YOU☆として活動してきて数年。今日が一番、気合が入っています。
なんといったって、今日はドラマの一話再収録日。まひろ君と、直接対決すると言っても過言ではない日だ。
あの後仕事があると早々に抜けたため、彼が僕の言葉をどう受け取ったのかはわからない。
仕事で合流した衣鶴も、まひろ君に会ったことを知っているのに何も聞かなかった。
「じゃあお母さん、行ってくるね!」
「はぁい~あ、ちょっと待って夕~これ、よかったら持っていきな!」
そういわれ、お母さんから渡されたのは手作りの弁当だった。
戸惑う僕に対し、お母さんはにっと笑ってみせる。
「今日が本番なんでしょ? 夕がちゃんとできるように、お母さんからのエールよ! 受け取んなさい!」
「あ、ありがとう! お弁当作ってくれるの、学生時代以来だから懐かしいよ」
「そうでしょそうでしょ~? 今日も一日頑張ってね、夕!」
お母さんに背中を押され、温かい弁当を手にしながら外で待っている衣鶴の車に乗り込む。
席に座ったのを確認すると、彼は
「期待してるからな、夕」
短くその一言を僕に投げかけた。
車が現場に向かう中、僕は覚悟を決めるようにこぶしをぐっと握った。
ドラマ現場には、すでにみんな来ていた。
もちろんまひろ君もすでにいて、セットの設置を指示している。
指示を受けている場に、彼方や奈緒ちゃんの姿も見えて彼の被害にあっているように見えた。
「おはようございます! YOU☆です、よろしくお願いします!」
スタッフの皆さんに聞こえるように、大声で叫ぶ。
すると一目散にまひろ君は、僕の方に近づき
「きいたぞ、お前の本名も同じゆうというそうだな。昨日のこと、私は忘れていないぞ。お前の演技を、思う存分見せてもらおうか」
そう言う彼の声はいつもより低くて、少し男らしさが垣間見えた。
あれだけ気に障ることを言ってしまったんだ。当然のこと。
それでも気にするなとばかりに、背中をたたいてくれる仲間がいる。
応援してくれるみんなのため、僕は僕のやり方でやろうって決めたんだ。
たくさんの人の心に届くように。
「では時間もないので、本番行きまーす」
薔薇のように、美しく散れ。
主人公の少年が恋をした少女に思いをぶつけるも、その恋ははかなくちってしまうというまだ一話なのに切ない始まり方だ。
この後の続きでは何とか奮闘するものの、主人公の恋はあえなく終わりを告げてしまう。
好きなのに、その思いが思うように言葉にできない。
この主人公は、僕と似ている。
だからこそその気持ちが、痛いほどわかる。
伝えたい思いを口にすることが、どれだけ難しいことか。
でも、それだけじゃだめ。
自分の思いは、伝えないと一生伝わらないんだ。
この気持ち、まひろ君にも届いてほしいー!
「あおいちゃん、聞いて。僕は君のことが好きだ。どうしようもなく、すきなんだよ……」
ああ、不思議。
役を演じていると世界が、変わって見える。
自分がここではない、どこか違う世界に飛んでいるような感覚。
目の前に、彼女がー思いを寄せる人がいるようにー
「君に好きになってほしい、なんて言わない。ただ、伝えたかっただけなんだ。僕の気持ちを……君を否定するような人なんて、どこにもいないって。たとえいたとしても、僕だけは味方だよ。たとえ世界中が敵になったとしても、僕は君を守るよ」
時間が、長く感じられた。
というのもカットと監督が言うのを忘れたからだろう。
後ろを振り向くと、みんながみんな呆然としていて……
「あ、あのみなさん? 大丈夫、ですか?」
思わず僕はそう告げる。
相手役の女優さんも顔を真っ赤にしているし、他の人達はかける言葉一つもないのか口をぽかんとしている。
しかもそれは彼方も同じで、いつもなら何かしらいう奈緒ちゃんや衣鶴でさえも黙っていた。
気まずい沈黙が僕を襲う中、それを破ってくれたのは……
「……それがお前の答えか……YOU☆」
まひろ君、だった。
彼はすっくと立ちあがると、僕に向かって一言。
「脚本と違いすぎる。そんなに私の脚本が気に食わんか」
「あ……やっぱりそうなんだ? じゃあとりなお……」
「今の演技を見て悪いというほど、私は馬鹿ではない。痛いほど、お前の気持ちは伝わった」
え……? ということは?
「今まで通り、主演はYOU☆ を起用する! こいつのアドリブに、他の連中もついていけるレベルであるように! が、支柱となるのはこの私の脚本だ! そこは理解するように!!!」
それは初めて、彼が僕を認めてくれた瞬間であり、みんなが彼を受け入れた瞬間だった。
みんながみんな、これはいけると称賛の嵐をたたえる。
すごくよかったと涙ながらに伝えてくる人もいて……
「やるじゃないか、ゆ……なんでお前まで泣いてんだよ」
「……え? あ、ほんとだ……」
「夕君、大丈夫? ハンカチ使う?」
「悲しくもないときに涙が出るのは、お腹がすいてる時なんだって。夕、僕のメロンパン食べる?」
三人の優しげな声のせいなのか、頬に伝う涙が冷たい。
これはやり遂げたといううれし涙なのか、また別の涙なのか……よくわからない。
いや、違う。
「男のくせに泣くとは、だらしのない奴だな」
きっと彼に届いたからだ。
僕の思いだけでなく、キャラクター達の思いも。
だから僕は、きっと涙を流してー
「主演、頑張ります……ありがとう、まひろ君」
「確かに私は男だが、この格好にその呼び方は似合わん。そこで! 今回を機に、私を真尋様と……」
「おー分かった、真尋」
「これからよろしくね、真尋君」
「はむはむ。そんなことはいいから真尋~原稿ちょうだ~い」
「ええい、貴様らはそろいもそろって!!!」
「んで? お前はどうすんだ、夕」
みんなの顔が、すがすがしいようにも見える。
たわいもないやり取りがおかしくて、思わず笑ってしまって……
「じゃあ~ひろちゃんで!!!」
僕達五人の物語は、まだ始まったばっかりだー!
(つづく!)
ついに! 今日から令和ですね!
なろう登録に始まった羽ばたけが、
平成と令和をかけることになるとは
夢にも思わなかったです……
まだまだ続く、彼らの物語を
今後ともよろしくお願いいたします!
次回はツイッターや活動報告でお知らせしたとおり、
GW連続投稿企画にのっとり
3日に更新します!
ついに5人の物語始動です!




