本番までの予行練習
奈緒に命じられた作家の担当役。
なんとその作家は、あのまひろだった!
家を訪ねると、まひろは女ではなく男だということが分かり・・・?
「『君のことが、好きなんだ。ずっと一緒にいたい、この手を取ってほしい』」
「ハイ残念。ずっと一緒にいたい、君とずっと、が正しいセリフでしたー」
「えっ、嘘!?」
バッと台本をめくりながら、そこのページを開く。
そこには、彼の言った通りのセリフが書かれていて、思わず僕は
「うう……まただぁ……」
ため息交じりでそうつぶやいた。
ドラマ撮影まで、あと数日。僕は相変わらず、苦戦しています。
台本は頭に入っているはず、なのにいざやってみるとその役になり切りすぎて自分でセリフを変えてしまう。
しかも無自覚だから、自分はちゃんと言ったつもりっていうのが一番痛い。
これで何回目だろう……間違えるの。
「お前さあ、わざとやってねぇか? さすがにここまでやられると、疑うぞ」
「すみません……」
「まあ俺はお前の演技の方がいいと思うけどな。相手が相手だし」
衣鶴が言う相手、とはこの脚本を描いたまひろ君だ。
彼女……もとい彼は原稿を変更する気がない。
自分の作ったものが最高だと思っているのか、監督にも容赦なく突っかかりに行く。
その性格だけでも厄介だったのに、まさか男の子だったとは……
「……噂をすればって奴か……おい夕、外見てみろ」
「え?」
衣鶴に言われ、後部座席の窓を開ける。
するとそこには、まひろ君が歩いているのが見えた。
彼はひとり前をまっすぐ見ながら、重い足取りで前に進む。
今まで偉そうな態度しか見ていなかった僕は、なんだかそれが妙に引っかかって……
「衣鶴、今日の仕事……夕方からだったよね?」
「そうだが……何するつもりだ、お前」
「ごめん、車止めてくれない? 仕事には間に合うようにするから!」
「……ったく……遅れたら罰金だからな」
舌打ち交じりに車を近くにとめてくれた衣鶴は、僕を下すとすぐに走って行ってしまう。
思い立ったが吉日、僕は彼の後ろ姿をとらえ……
「待って、まひろ君!!!」
一目散に走り、彼の手をつかむ。
怪訝そうな表情が、こちらを向いたその時だった。
「ねぇ、あれYOU☆じゃない?」
「まじっ! ホント!?」
なぜかたくさんの女の子たちが、僕を見てざわめき始める。
まさかと思いながら、頭の方に手をやると案の定、金髪のかつらが取れかかっていて……
「走れ!!!!!」
気が付いた時には、まひろ君につられるがまま走り出していた……
(つづく・・・)
本当はここで全部明かしたかったのですが
ちょっとじらしてみたいと思います。
やっぱり続きが気になる終わり方っていいですよね。
あ、べつに作戦とかじゃないですよ? 多分
次回で彼の素顔すべてが分かります。




