最年少作家はかなりの曲者
最優秀賞文庫賞を受賞した作品のドラマ化で
見事主役に抜擢された夕。
作者が自ら脚本を手掛けるらしいが・・・?
「私こそ、最優秀賞文庫に最年少で選ばれたまひろ様だ! 存分にたたえ、ひれ伏すがいい!」
ピンク色にあしなわれたフリフリのドレス、きれいに手入れされているかのようなサラサラな長髪。
確かにかわいらしい子だ、お母さんが言うのもわかる。
いくつくらい、なんだろうか。
こんな小さなかわいらしい子が、今回の受賞者……
「なんだ、お前ら。そんなに見つめるほど、私がきれいか? あふれ出る私の美貌に見とれているのだな?」
ただ……なんだろうこの違和感は。
どうみてもかわいらしい女の子……なのに言っていることは妙に偉そうで、すごく威張っているようにも見える。
いつまでも胸を張っている彼女に対し、衣鶴は
「噂通りのめんどくさそうな奴が来やがった」
と、思ったことを容赦なくつぶやいた。
挨拶して来いと短く言うが否や、僕の背中を強引に押す。
まあ初対面なんだから当たり前かと思いつつ、彼女の目線にあうようにかがんで見せた。
「え、えっと、初めまして。僕はYOU☆、今回主演を担当させていただきます。よろし……」
「ああ? ゆう、だと? まさか、あのゆうか!? 貴様! 歌手の分際で、俳優にまで手を伸ばそうという魂胆か!?」
……え?
「ただ歌うことしかできない奴が、この私の作品の主演とはどういうことだ! 聞いていないぞ!」
「そ、そこまでいわなくても」
「それとも私をうならせる演技ができるのかあ? 私の言う通りに演じることが出来なければ、即刻降ろさせてもらうからな!」
……なんか、すごい人……だなあ。
まひろちゃんはセットにもいちゃもんを付けたり、監督の人にも物おじせずに話をしている。
その様子はまるで、年下には思えないほどの威厳っぷりだった。
怒っても当然だというのに、だれ一人文句を言わない。
それどころか、すみませんと頭を下げまくっている。
こんな光景、社長みたいな偉い人が見たらなんていうか……
「あの人、僕嫌い」
今まで黙っていた奈緒ちゃんが、メロンパンを口に頬張りながらつぶやく。
その顔はおいしいものを食べているというのに、すごく不機嫌のように見えた。
「そんなにはっきり言ったらだめだよ、奈緒君。奈緒君にもあるように、人それぞれの考え方があるんだよ?」
「平気なの、彼方。ディレクターさんや皆がヘコヘコ謝ってるの」
「それは……仕方のないこと、だから……」
彼方が困ったように、衣鶴と僕に目配せする。
二人は彼女のことを知っているのだろうか、衣鶴はため息交じりに僕に
「お前、マジで気を付けろよ」
と忠告してきた。
まひろ。
謎の作家さんに不安を覚えながらも、僕はごくりと唾を飲み込んだのだった……
それからの僕は、ひどい目にあったというほかない。
以前、演技をしたときに篤志さんに言われた役者体質。
今まで脇役で何度もやってしまっている、ということも放送されて気付いていた。
特に問題が起きなかったのは、演技が良かったからとかではない。
それを証明するかのようにまひろちゃんは、僕にいちゃもんをつけてばかりだった。
「ええい、違う! そこはこうだといっているのだろう! どうして台本通りに演じない! 私の台本に、文句でもあるのか! このど素人が!!!」
何度も何度も撮らされる、同じ場面。
台本は頭に入っている、なのにどうしてもその人の気持ちに入ることで全く違ったものになってしまう。
時間だけが刻々とすぎていき、気が付いた頃にはもう夕方になっていて……
「今日は、ここまでにしましょう。お疲れさまでした」
「ご迷惑おかけして、すみませんでした……お疲れさまでした……」
ドラマの撮影は、別の日にまで延長。
本当は今日で、一話を撮り終える予定だったのに。
やっぱり僕、俳優には向いてないんじゃないかなぁ。
こんな時、篤志さんがいてくれたら相談にも乗ってもらえるのに。
「だから前にも言ったろ。自分の作ったものを汚すなっていう脚本家もいるって。まあ、あれは少し行きすぎな気もするが」
まるで励ますかのように、衣鶴がジュースを差し出してくる。
ありがとうと言いながら受け取ると、彼方や奈緒ちゃんも心配そうに駆けつけてきてくれた。
「大丈夫だよ、夕君。そんなに自分を責めないで。僕も結構言われちゃったから、気にしない方がいいよ」
「あの人、全然わかってない。僕がいいって思ったやつ、全部却下されたし」
「お前だけじゃなく、新人とかにも容赦なかったな。裏で泣いてるやつもいれば、自分から降りますっていうやつもいたぞ」
「そ、そんなにいたんだ……」
台本通りに演じろ。
彼女の言うことは、確かにもっともなことだ。
でもなんで、あんなに自信たっぷりに命令するんだろう。
他の人の意見を取り入れるのも、時にはいいものが生まれるというのに。
そんなことを考えていた時、奈緒ちゃんの携帯が鳴りだした。
奈緒ちゃんは頭にはてなを浮かべた様子で、よいしょといいながら耳に当てる。
「もしも~し~。あ、局長お疲れ様~。え? 僕に仕事? ん……ん……えっ、嫌。僕そっちの編集はやったこと……もしも~し? もしも~し?」
「どうかしたの、奈緒ちゃん」
「相手、局長だよな? なんで局長にまでため語なんだ、お前」
「……どうしよう夕、彼方、衣鶴。僕、小説家さんの仕事も任されちゃった」
「はい????」
三人の声が、同時に重なる。
物語のページはまだ、めくられたばかりだー
(つづく!!)
というわけで、奈緒ちゃんの次はまひろ節炸裂します。
ぶっちゃけ作者的には書きやすいので
嫌いではないです。
基本的にはばたけメンツは
かきにくいキャラがいないので、
結構思い入れもあったりします
次回、この人に隠された秘密が少し明らかに!




