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次のステージへのステップアップ

新曲作りの帰り道、奈緒が突然泊めてと言い出す。

彼の口から語られたのは、

天才ながらの苦悩と

家族のことだった。


奈緒と夕。二人の絆は、

より一層深くなる一方

会社で新たな動きが・・・


「ホッホッホッホ。お久しぶりですネェ、夕サンに衣鶴サン。ご機嫌いかがですかァ?」


くつくつと不気味な笑みに、思わず身構える。

いい加減、この不気味な笑みをやめてほしいと思ってしまう。

奈緒ちゃんお泊り騒動から翌日。ちゃんと僕は彼の両親に一緒に謝りに行った。


昨日の夜のうちに、奈緒ちゃんのお母さんが心配しないよう僕が母に頼み、こっそり連絡をしてもらっていた。

それでも二人とも、奈緒ちゃんが出て行ったことを後悔していたのか泣いてわめいていて……それをみたら、昔僕も母を泣かせてしまったことを思い出した。

あまり覚えてはないけど、母が泣いたことはあの時が最初で最後だった気がする。

そんなことより、だ。


それから3日たった今日。アルバムに収録されている曲の、PV撮影。

……と聞いて会社にやってきたのに、そこにいたのはまさかの社長だった。

どうして社長がいるのか、疑問に思っているのは僕だけじゃないようで……


「おい社長、なんでいるんすか」


「そんなに怒らないでください、衣鶴サン。このかっこよくてダンディーなワタクシの顔に、何かついてますかァ?」


「いいえ、相変わらず不細工なお顔だなと思ったまでです」


「ホッホッホ。またご冗談がお上手で」


……いい加減、この二人のいがみ合いに付き合わされるのもやめてほしい。

衣鶴が喧嘩っ早いせいなのか、社長がこんな人だからなのか二人はいつもこうだ。

おかげで、話が全く進まないし……


「時に夕サン? 本日はPVを撮るんですよね?」


「はい? ええ、まあ……」


「実はかの事務所の某アイドルから挑戦状が届きましてネェ。ほかでもないYOUさんにということで、預かってきマシタ」


挑戦状? 

何を言っているのかさっぱりだとばかりに、衣鶴と顔を見合わせる。

社長はドウゾとだけ言うと、衣鶴に一枚の手紙を差しだす。

紙を広げると、彼の顔が余計に強張った。


「拝啓、アジサイが大輪の花を咲かせる頃になりましたが……前置き長いな、飛ばす」


「ちょっ、本当に飛ばして大丈夫な内容なの?! 衣鶴!」


「お前のアルバムと発売日が同じとかで? アルバムの売り上げ枚数で勝負をしてぇんだと。負けた人が勝った方の言うことを聞くって、ラブゲの奴から」


「ラ、ラブゲって、木葉ちゃん穂高君とから!?」


ラブゲ、というのはあくまでも略称でしかない。

LOVEGATE。半年前にデビューしたばかりの、天王寺事務所所属のアイドルだ。

女の子なのに男顔負けのかっこよさを持つ木葉ちゃんと、歌ってるときと素のギャップが激しい穂高君の二人とは、何度か現場で同じになることがある。

といっても、会社が違うせいなのか直接共演したことは少なく、入り違いってことがほとんどだったけど。

そんな二人から手紙が来たと思えば、内容はまさかの勝負だ。

一体どうしたらこんなことに……


「おい社長、どーいうことだこれ」


「たまたま事務所の方に渡されましてネェ、面白そうなのでお引き受けいたしマシタ」


「勝手なことしてんじゃねぇ。なんで新人相手にこいつが」


「オオット、あまり見くびってはいけませんヨォ衣鶴サン。なんといっても、相手は天王寺事務所。あちらが徐々に力をつけていることは、あなたもご存知な事でしょう?」


会社のことや、今どういう状況なのか僕にはわからない。

でも篤志さんがいなくなったことによって、カノンプロダクションの頼りの綱が僕になっているのはひしひしと伝わっている。

次から次に色々なアイドルも生まれてくるし……僕ももっと頑張らないといけないけど……


「心配せずとも、夕サンは大丈夫デスヨ。なんといってもあなたと、篤志サンが認めた人デスカラ」


「そ、そういわれましても……」


「それに……あなた方には、頼りになる味方がたくさんいるはずデスヨ? ねぇ、衣鶴サン」


社長の笑みは相変わらず不気味で、何かたくらんでいるようで。

それでも衣鶴は何かピンと来たように、はっとする。

そして僕の手をつかみ、


「あいにく負けるのは嫌いなんだ。勝ちに行くぞ、夕」


と強気な顔で言う。

いつにもまして強引な彼の手に連れられる中、社長の笑顔だけが脳裏をよぎっていた……



「へぇ~~~PVで勝負かぁ~~いいんじゃない? 面白そうで。あ、おかわりもらっていい?」


「……自分で払ってくれるならな」


「僕お金ない」


「なんか言ったかあ奈緒君よお」


「ま、まあまあ衣鶴。そのへんに……」


二人のやり取りを見ながら、はあっとため息をつく。

強引に連れられた場所にいたのは、彼方と奈緒ちゃんだった。

なんとなくいそうだなという勘はあったはものの、衣鶴が彼―特に奈緒ちゃんを呼んだのには驚いた。


以前番組収録で来たことがある喫茶店で、四人一緒のテーブルを囲みながら彼方が紅茶を飲みながら聞いてきた。


「それにしても、また随分急だね? いきなりPV勝負なんて」


「そうなんだよ~僕もよくわからないままで……」


「そんなにすごいの? そのラブゲーム? だっけ」


「LOVEGATE。僕の同級生で好きって子、結構いるよ」


「ふうん。お前もその一人か?」


「僕はそういうの、興味ないから。おかわり」


お母さん達とは仲直り出来たのか、すっかりいつもの奈緒ちゃん節をかます彼に衣鶴はため息をつく。

すると衣鶴はコーヒーを一気に飲み干すと、彼方と奈緒ちゃんに


「彼方、奈緒。夕のPVつくりに、お前らの力を貸してほしい」


と言って……


「ちょっ、衣鶴! 二人まで巻き込むつもり!?」


「分からないのか、夕。彼方のカメラワークに、奈緒の編集技術。二人の腕が本物なのはお前もわかってるだろ? これは勝負なんだ、戦えないとかそういう甘さは捨てろ」


まるでどこぞの鬼教官のようだ、そう思ってしまう。

確かに、二人の技術はすごい。

でも、このことに巻き込むのは……


「やっぱり、衣鶴君らしいね。そういうことなら、喜んで協力するよ」


「まあ、夕のためだしね。メロンパン十個で手を打ってあげる」


「えっ! いいの、二人とも!」


「夕君には、いつもお世話になってるから。僕も夕君の力になりたいんだ、いつでも頼っていいんだよ?」


彼方の微笑みに、奈緒ちゃんの力強さに、少し感動してしまう自分がいる。

ああ、こんなにも頼れる仲間がいるんだ。

嬉しくて、でもやっぱり照れくさくて……これじゃ、どっちが力になってるかわからないよ……


「やろう! 四人で! みんなで一緒に!!」


僕の鼓舞と、みんなの声が喫茶店中に響く。

かくして僕達は、負けないPVを作るために動き出したのです!


(つづく!)

というわけで、対決突入です!


篤志の次のライバルであるラブゲは

脇役の中では意外と書きやすくて

気に入ってます


まあそれより

書きやすいのは社長なんですが笑


次回、みんなで戦闘準備!

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