挑め! 自分の限界に!
新人である奈緒と少しずつ距離を縮めていく連中
だが、夕に新たな試練が・・・
「今夏リリース、YOU☆の最新アルバム……そう、宣伝したよな?」
「……はい、おっしゃる通りです」
「今年のシングルは三曲、これにあと四曲新曲を作らないといけない……にもかかわらず、一曲もできてないとは何事かなあ夕君」
だんだん怒気が含まれてくるその言葉に、縮こまってゆく。
何も言い返すこともできぬまま、僕はすみませんとだけ謝った。
以前モデル撮影した雑誌も発売され、夏一色となってきた世の中。
僕はとてつもなく、スランプに陥っていた。
なぜかは、わからない。
でも曲を作ろうと思ってもいいのが出てこないし、何をテーマにしたいかも見えてこない。
そのうえアルバムのタイトルも見つかっていないという、前代未聞の事態。
そりゃ、怒られても当然なわけで……
「だ、だってさ衣鶴。そんなごろごろ曲が生まれるわけないじゃん? そもそも僕、作曲未経験だったわけだし……」
「この期に及んで言い訳か? いい度胸だな」
「……すみませんでしたもう言いません」
「まあ、たくさん作れって言われても難しいよな。俺も気分乗らねぇと、全然浮かんでこないし」
すると衣鶴は、ふうむと何かを考えるように黙り込む。
この姿は何度か見ているが、一瞬にして打開策を考えてしまうのが彼のすごいところだ。
一体どんな思考回路をしているのか、一度見てみたいな……
「よし、あいつに頼んでみるか」
「あいつって??」
「元同級生だ。篤志がいた頃にも世話になったことがある」
「……衣鶴の同級生って、何気すごい人多いよね?」
「篤志つてだからな。ちょっとだけ待っててくれ」
「あ、うん」
迎えに行ってくるとだけ言い残し、衣鶴は姿を消す。
一人取り残された僕は、時計を仰ぎ見ながらどんな人だろうと考えてしまう。
篤志さんって、やっぱり顔広かったんだなあ。
その友達と衣鶴がつながってるなんて、ちょっと意外だけど。
友達と言えば、たかちゃんや同級生たちは何してるんだろう。
忙しいのが続いたせいか、ぽっきり連絡もたっちゃってるけど……
「夕、来たぞ」
「あれ? 意外と早……」
「ほほう、こやつが大人気アイドルYOU☆ですねえ~。ちわっす! うち、美しい波の音とかいて、美波音っていいやす! 姓は新納、名は美波音! よろしくなのだ!」
茶色に染められた髪に合ったポニーテールに、服は涼しそうなキャミソール。
ちょっとでもかがんだら、胸が見えそうな……露出が高いような派手なコスチューム。
正直に言って、篤志さんが仲良くなりそうなタイプだなと思った。
同時に、衣鶴が苦手そう……にも見えるけど、それだったら最初から呼んでないよね……
「あ、えっと、初めまして……大西夕です」
「なるほど~本名も夕なんだね~つるりんの言う通り、どことなくあっつーに似てるね!」
「……つるりん?」
「いちいちそこに首を突っ込むな、夕。こいつが勝手に呼んでるだけだ」
「勝手になんてひどいこというなあ~同じ酒を酌み交わした仲じゃん!」
「変な言い方すんな」
彼女のやり取りが、まるで篤志さんとのやり取りのように見えて、なんだか笑えてしまう。
すると彼女は、思い出したかのように僕に
「あ、そうそう曲だったよね! 間に合わないんだっけ?」
「はい……恥ずかしながら……」
「うーん、じゃあうちがテキトーにぺっぺーってやるからさ。ちょっち聞いててよ」
「へ?」
僕が聞き返すのもつかの間、彼女は背中に背負っていたものを広げて見せる。
それは、ギターだった。
ひょいっとそれを構えるとバッグに入っていたアンプを取り出し、すぐにメロディーを奏でてみせた。
ギターだからこそなる、大音量の迫力が部屋中に響く。
それは僕が今まで聞こうとも思わなかったロック調になっていて、すごくかっこよかった。
何より弾いてる新納さんが、楽しそうで……
「どう!? 今のうちの心を歌ってみたんだけど!」
「お前の心とか心底どうでもいいと思うのは、俺だけか?」
「つるりんには聞いてナッシング! うちは彼に聞いてるの!」
「え、いや、あの……ロックとは予想してなかったというか……聞いたことないから、わからなくて……」
「ミュージシャンにあるまじき発言っすね~ロックを聞いたことないなんて、人生の半分損してるも同然! けしからんにもほどがある!」
なんか、逆に怒られちゃったな。僕……
主にお母さんが聞いているのを釣られて聞いていた程度だったし、まったくジャンルが違うロックには触れたことがない。
まあでもかっこいいし、それもありかなとはちょっと思っちゃったけど……
「どっちにしろ、こいつはロック歌うようなたちじゃねぇから。違うの作れ」
「も~人使い荒いなあ、旦那あ」
「で、でもすごくかっこよかったですよ、新納さん! 作ってくれたのに、なんかすみません……」
「美波音でいいよ、夕ちゃん! どうせうち暇だし、とことん付き合ってやろうじゃないの!」
気さくで優しくて、その上ノリが良くて。
頼れる仲間と呼べる人がまた増えたことに、僕はひそかにうれしく思っていた。
その後、彼女とは色々な話が出来た。
もともと篤志さんとは小さなバンドを組んでいたという話。彼女が作曲家だって話。
そのバンドに衣鶴もいたのかは、怖くて聞けなかったけど。
曲を作りながら話していると、楽しくて時間があっという間で。
気が付くと、アルバム曲を全部作っていた自分がいた。
テーマは、新しい刺激。挑戦。
最初躊躇していたロックナンバーも、結局やることになって渋っていた衣鶴をやる気にさせて。
そんな充実してた一日が終わり、ゆっくりと家に帰ろうと思って駅にいくと……
「夕」
誰かに呼ばれた、気がした。
前や後ろを向いても、だれもいない。
気のせいかなと思って、また進むと……
「夕ってば」
服の裾が引っ張られ、また足を止める。
目線をふと落としてみると、そこには奈緒ちゃんがいた。
「な、奈緒ちゃん? どうしてここに」
「泊めて」
「へ?」
「何も聞かなくていいから。夕の家、泊めて」
驚いて、声も出なくなる。
けれど奈緒ちゃんの目は真剣で、嘘を言っていないように見えて。
そんな彼に僕は手を差し伸べる。
「分かった。じゃあ一緒に行こうか」
彼の手が、僕の手をゆっくりつなぐ。
奈緒ちゃんの手は小さくて、少し冷たかった……
(つづく・・・)
ここでまた新キャラ登場ですが、
かなりの脇役です。夕の友達と同じくらいに
でも個人的に、美波音って名前が
すごく気に入っているんです。
脇役にしてはもったいない気もしますが…
そういえば明日はバレンタインですね。
この面子のことを考えると、もらえないなんて悩みを
もってなさそうで・・・色々な意味で最強ですね笑
次回、隠された奈緒ちゃんの秘密がついに!?




