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新人編集者は育ち盛り

新たな刺激を求めていた三人の前に現れたのは

天才児ハーフ・宮下奈緒。


彼も彼で、少し変わっているようで・・・?


桜の花が、すっかり緑に色づいている。

落ちてくる葉を一枚とりながら、太陽にかざしてみる。

日差しの光が、桜の葉をよりきれいに見せてくれる。


「夕君~そろそろスタンバイの時間だよ~」


彼方の声が、聞こえる。

はあいと返事しながら、僕は駆け足で彼の方に向かった。


「ごめん、お待たせ」


「仕事が立て込んでるっつうのに、お前はのんきだな。相変わらず」


呆れながら、衣鶴がため息をつく。

その隣にはにっこりと微笑んでいる、彼方がいた。


今日はYOU☆としての、モデル撮影の日。

近々アルバムを発売することを控えている僕のことを、特集記事にするそうだ。

その際の写真を撮る、ということでカメラマンの彼方とも同じ現場である。

そしていつもと違うことが、もう一つ。


「ねー彼方、この写真はなぁに?」


「ああ、それは公園で見つけた花だよ。綺麗だったから」


「ふうん、じゃあこっちは? あと、これとこれも」


「そんな一気に言われたら、わかんないよ。気に入ったのがあるなら、あとでプリントしてあげる」


「はぁい」


彼の自前のカメラの写真を眺めながら、手にしているメロンパンを口にする。

ご存知、今年はいった新入社員・宮下奈緒ちゃんだ。

彼は編集の仕事を担当しているものの、新人だからということで現場に慣れさすために仕事を色々見学させてもらっているのだそう。

とはいってもほとんど彼方の周りについていて、まるで弟のような感じがするんだよなあ。


「じゃあ夕君、今日はよろしくね」


「こちらこそ! いい写真を、お願いしまぁす!」


彼方と、現場のスタッフにお辞儀をする。

ゆっくりと、僕の撮影が幕を開けたのだった。



モデルの写真撮影は、今回が初めてではない。

最初はこんな自分が撮られるなんて、と思っていたのも自然と消えてしまっていた。

おそらくその理由は、母にあるだろう。


幼い頃の僕は目に入れても痛くないほどかわいかったらしく、家のアルバムには当時の写真でいっぱいになっている。

多分、その時から写され慣れているせいもあるんだろう。

案外現場にはすぐなじんだし、彼方にもカメラ慣れしてるんだねってほめられたほど。

昔の経験がモノを言うって、本当なんだなあ……


「はい、オッケーでえ~~す。お疲れさまでしたぁ」


「ありがとうございます、お疲れさまでした!」


「それじゃあアルバム楽しみにしてるからね~いいの頼むよ!」


「はぁい♪」


現場のスタッフさん達が、片付けに入ってゆく。

彼方も奈緒ちゃんも、手分けしてカメラを車の中に運んでいる。

そんな光景を見ていると、衣鶴が声をかけてくる。


「思ったより時間が空くんだが……どうする? 飯でも食うか?」


「そうしようかなあ。せっかくだし、彼方たちも誘おうよ」


「彼方はいいが……あのガキまで呼ぶのかあ? すんげぇ気が重いんだが」


衣鶴はとことん彼が苦手なのか、嫌そうに顔をしかめる。

確かに奈緒ちゃんのゆるゆる加減は、堅苦しい衣鶴とは正反対だ。

まあ、僕にとっては癒されるからいいんだけど。


「あれ、二人ともまだ帰ってなかったの?」


「彼方を待ってたんだよ。ねえ、これから四人でお茶しない?」


「……お菓子」


その時奈緒ちゃんの背筋が、シャキッとたった気がした。

くわえていたメロンパンを手に戻すと、僕の服の裾をもって、


「お茶、行きたい。連れてって、夕」


と言ってきた。

よほど行きたいのか、心なしか目をキラキラさせている。

僕の目をじいっと見つめながら、答えを待っているようにも見える。

その様子が、とてもかわいくて……


「やだなあ~奈緒ちゃんも一緒だよ~最初から四人で行こうって思ってたし」


「わ~ありがとう夕~」


「全然心こもってないように聞こえるんだが」


「まあまあ衣鶴君、そんなこと言わずに」


かくして僕と奈緒ちゃん、そして衣鶴と彼方で喫茶店に行くことになったのです!



「彼方のパンケーキ、一口ちょうだい? あと夕のも、衣鶴のも。あと僕、パフェ食べたいな。追加で頼んでもいい?」


はむはむとショートケーキをほおばりながら、次々に物をいう。

その勢いにのまれるように、思わず食べるスピードが落ちてしまう自分がいる。


「えーっと……とりあえず僕のあげようか?」


僕と違う種類のパンケーキを頼んだ彼方が、苦笑いしながらフォークを差し出している。

ありがとうといってその一口を食べると、奈緒ちゃんは僕の方も見る。

なんだか急に食べづらくなって、仕方なく一口差し出してみる。

ほおばる奈緒ちゃんは、さながらハムスターのようで……


「おい奈緒、一ついいか」


「なあに衣鶴。ホットドック一口くれるの?」


「まず自分のを食べきれよ。人のばっかたかったうえに、まだ食うのか。自分が払うような口しやがって」


「ちょ、ちょっと衣鶴。落ち着いて……」


「お前らもお前らだ。二人そろって甘やかしやがって」


さすがに衣鶴も、彼の調子にはついていけないらしい。

相変らず機嫌が悪そうだし、頼んだホットドックには手を付けずに奈緒ちゃんを睨むように見ている。


「そんなに怒らないであげて、衣鶴君。仕事した後だから奈緒君、おなかすいてるんだよ」


「すいてる? 仕事中もここ来る前もメロンパン食ってたのにか?」


「そ、それは……」


「ともかくだ。食いすぎは体にもよくねえし、何よりこいつらに悪いと思うのが先だろ。何か言うことはないのか、奈緒君よお」


ここで謝って反省してくれれば、どんなにいいだろう。

衣鶴が怒っているのは、自分だけじゃなく僕達のことも思ってのことなのは分かっている。

だから僕も言い返せないし、彼方も困ったように奈緒ちゃんを見つめている。

が。


「だっておなかすいたんだもん。しょうがないよね」


ある意味すごい子だな、と思った。

あれだけ食べても膨れない胃袋もそうだが、年下なのに物おじせず衣鶴に歯向かおうとするところがだ。

これが今どきの中学生なのか、それとも奈緒ちゃんがそういう人なのか……


「……お前、絶対友達少ないだろ」


「そうかな? 周りに食べ物をくれる人なら、たくさんいたよ?」


「もういい……はぁ……これが天才じゃなかったら即クビにしてぇ」


「衣鶴、そんなこと言っちゃ……」


「やっぱり僕が天才だから、なんだね。何も知らないくせに」


気のせいか、奈緒ちゃんの顔がふっと曇ったような気がする。

彼はぴょんっと座席から降りると、財布を取り出し、


「今日持ち前これしかないんだ。いつか働いて返すよ。ごちそうさま」


と言って店を出てしまった。

テーブルに置かれた千円札を眺めみながら、衣鶴はため息をつく。

心配そうに背中を追う彼方と一緒に、僕も彼が見えなくなるまでずっと見ていた……


(つづく・・・)

基本、この作品のキャラは皆自由だなあと思います。

常識人である衣鶴はもちろん、彼方も彼方だし

年下である奈緒ちゃんはかなり自由です。


夕ちゃんがもしかしたら一番まともなのかもですね。


次回、再び夕にピンチが?

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