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絆で目指せ、新境地!

篤志の意思を引き継いで、

衣鶴、彼方とともに

夕は新たなスタートを切ることに・・・


木々の紅葉が、赤く色づいてゆく。

篤志さん、そっちの様子はどうですか?

あなたが亡くなってしまってまだ、一カ月ちょっとしかたっていません。

衣鶴さんが復帰するとわかった翌日、あんなに押し寄せていたメディアに対し社長は


「これはれっきとした犯罪でゴザイマス。こんなくだらないことをしていないで今後のために、警戒すべきではアリマセンカ?」


という嫌味ったらしい一言で、あっけなく終わりを告げてしまった。

まあ、なんというか……そんなんでいいのかって感じで……

あれ以来、本当に社長は来なくなったし、相変わらずのこもりっぷりである。

篤志さんの死を挽回するかのように、僕の他に所属する芸能人さん達が奮闘している中―僕はというと……


「きょ……曲が……浮かんでこない……」


ただいま、絶不調中でございます。


「ゆーうー新曲リリースは来月だぞー? もうすぐそこだぞー」


「うるさいなあ……そんないうなら昔みたいにベース作ってよぉ、衣鶴ぅ~」


「嫌なこった。自分でやれ」


「……ケチ」


「なんか言ったかー? 天才人気歌手の夕さん」


相変らずの仏頂面が、いつも以上に険しく見える。

以前お世話係だった衣鶴も、今は僕のマネージャーだ。

あの後ため語練習をものすごくさせられ、挙句の果てに彼方に対しても行われて……大変だった。

今ではすっかり慣れてしまい、さん付けからもようやく抜け出せた。

彼方からは、なんだか新鮮だねと言われたものの、衣鶴にはますます生意気になったと馬鹿にされたけど。


しかし、だ。

問題はそんなことじゃない。

篤志さんが死んだということがあったせいなのかどうなのか、曲が全く浮かばなくなってしまった。

今まではテーマさえあれば、色々浮かんできたのに。

これっていわゆる、スランプってものだろうか……ああ、何も出てこない……


「で。テーマは、決まってるのか?」


「新しい自分へのエール……」


「……なんかださくね?」


「じゃあ衣鶴が考えてよ!」


「あーわかったわかった。エール、な。ちょっと待ってろ」


すると衣鶴はスタジオに置いてある、グランドピアノのふたを開ける。

何を思ったのか、彼は一息つくとピアノを奏で始めた。

キレイだ、と思った。

彼とは二年弱一緒にいるけれど、こうして直でピアノを弾く姿を見るのは初めてだ。

いつもベースは、何かに収録した後の奴ばっかりだったし……


「どうだ? 浮かんできそうか?」


「いいえ、まったく」


「……夕……そろそろ殴っていいか?」


「ピアノ弾いてるとこ、初めて見たから……改めて思うけど、衣鶴がピアノ弾くなんて意外だね?」


「こういうのは、血筋と家庭がものを言うからな。あと意外は余計だ」


ごめんという風に笑う僕に、何かを考えだす衣鶴はとっさにぽんと手をたたく。

行動に移すが否や、彼は携帯で高速で何かを打ち出す。


「あのー、衣鶴? 何してるの?」


「この辺に公園あるよな?」


「まあ……あるけど……」


「よし、じゃあ飯にしよう。そこで」


……はい?


「えっと、なんでそこ? 近くのレストランじゃダメなの? 僕、弁当ないよ?」


「いいから、今から行くぞ」


「……どういうつもり?」


「行けば分かる。お前は意地でも、曲を書いてもらわないといけないからな」


そう言う衣鶴の笑みはすごく不気味で、何かをたくらんでいるようで。

断ることもできぬまま、僕は彼のいうことをきくしかなかった……



衣鶴の運転で、向かったのは家の近所でもある公園。

ベンチのところに、彼方が座っているのが分かった。

涼しげな秋着を身にまとっているその姿は、相変わらずの美少年っぷりだった。


「お疲れさま、衣鶴君。夕君も」


「お、お疲れ……彼方、今日お休み?」


「ううん、昼休憩なだけだよ。撮影、ここの近くなんだ。あ、これ夕君のお弁当」


「えっ、彼方が作ってきてくれたの?」


「今日みんなでランチするから作ってきてほしいって、衣鶴君に言われて」


なんだか、すごく嫌な予感がしてならない。

特に衣鶴にいわれて、が妙に引っかかってしょうがない。

とはいうものの、彼方がせっかく作ってくれた料理。

弁当もないし、食べるという選択肢しかないんだけどね……


「わざわざありがとう、彼方。じゃあ、いただきます」


恐る恐る弁当のふたを開け、出てきたものに心底ほっとする。

ウインナーや卵焼きなど、オーソドックスな弁当のおかずが普通に入っていた。

彼方の料理、一体どんな味だろう。

そう思いながら、卵焼きを口に頬張ると……


「んっ……!?」


「どうしたの? 夕君」


口に広がってきたのは、卵焼きとは思えない味。

何とも表現しにくいような苦さが、口の中に広がった。

ま、まずい! ものすごくまずい!

今の卵焼き、だよね? どうしたらこの味が出るんだ!?

で、でも作ってくれたわけで、とてもそんな感想は……


「な、なんでもない! おいしいよ、彼方!」


「よかった。たくさん食べてね」


ああ……どうしてだろう。

いつもはきれいにしか見えない笑顔が、まるで悪魔のようにも思えるのは……


「お前、すげーな。あれに耐えきれるとは」


のんきそうに言う衣鶴の声に、むっとして彼の方を見る。

衣鶴は自前の弁当を広げ、卵焼きを箸に取ったかと思うと自分ではなく僕の口に入れた。

それはなんとももう、すごくふわふわしてて……おいしくて……


「って衣鶴! これ何?!」


「口直しの卵焼き」


「そうじゃなくて!」


「よくできてるように見えるだろ? 彼方、料理が壊滅的に下手なんだ。しかも自覚がない。だから、下手に感想も言えないんだよ」


な、なるほど……

確かに見た目は、普通のように見えるけど……


「それを知ってて僕に食べさせるなんて、ひどいね? 衣鶴」


「だからこうして、口直しにおかず多めに作ってきてやったんだろ? それだけいいと思え」


ということは、衣鶴は料理ができるってこと?

ピアノを弾くことが出来たり、結構衣鶴って器用なのかな。

それと逆で彼方は、料理が出来なくて……


「あ、いいの見つけた。ごめん、ふたりとも。少し行ってくるね」


そんなことを考えていると、彼方はそそくさ木が生えているところへ行ってしまう。

彼方はしゃがんで、何かを見つけたようにカメラを構えている。


「衣鶴、彼方どうしたの?」


「どーせ恒例の撮影会だ。気にするな」


「撮影……そういえば彼方って、どこに行ってもカメラ持ってるよね?」


「景色撮るのとかが好きならしい。それでこの業界にも入ってる。あんなにみたくれはいいのに、宝の持ち腐れだと思わね?」


「それ、何度も聞いたよ?」


「で、どーだ? 何か、つかめたか?」


思った通りとでもいうように、衣鶴がにやりと笑う。

もしかしてこれは、最初から僕に曲を作るためのアイデア出しにと思いついたことなのかな。

妙に準備がいいところは、衣鶴らしいなとも思った。

確かにこの公園のランチがなければ、二人の意外な一面のことも知らないままだったわけで……


「うん。なんとなくだけど、つかめた気がする」


「お、さすがだな。思いつかないって言ったら、お前どうなってもおかしくなかったぞ?」


「暴力はやめてくださーい」


彼に笑いかけながら、また二人の弁当を口に運ぶ。

おいしいとはいいがたい味だったけど、それもなんだか新鮮に思えて。

何もかもが新しく見えたような、そんな気がしたー


(つづく・・・)

新年、あけましておめでとうございます!!


衣鶴や彼方の意外な一面は、どうでしたか?

作品集の方でちらりと公開はしていましたが

本編を通して公表することが出来てよかったです。


今年もはばたけ! の応援、よろしくお願いします!


次回! なんと新キャラ登場です!

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