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天才役者の開花

篤志主演のドラマに、オーディションだけでも受けろと

衣鶴に言われた夕。

難なくオーディションに受かった夕は、

いよいよドラマのクランクインへ!


「十分後に本番入りまーす。各自、休憩等とってくださーい」


「エキストラのみなさん、スタンバイお願いしまーす」


スタジオ内が、様々な人で行き交う。

そんな様子を見ながら、僕ははあっとため息をついた。

ドラマの撮影日、初日。

あんなに躊躇していたはずなのに、現場にいる自分がいまだに信じられない。


オーディションに合格。

その言葉だけでも現実味がないのに、いまいち実感がわかない。

ドラマの現場は見たことがある俳優さんや女優さんがいっぱいいて、カメラの人や編集の人、監督さんなど結構な人であふれている。

こういう現場だと人の名前を覚えるのが大変だと、よく篤志さんが言っていた。

彼の付き人をやっていた時から、どんなものか知っていたけど……


「ゆ~~う~~~ちゃんっ!」


首筋に冷たい感触がして、思わず声が裏返ってしまう。

びっくりして後ろを振り向くと、そこには意地悪そうに笑っている篤志さんがいた。


「へっへ~ん、びっくりした? ほいっ、カルピスの差し入れ♪」


「あ、ありがとうございます……。最近忙しそうですね、篤志さん」


「そうなのよ~つるちゃんがここぞとばかりに仕事持ってくるからさぁ。夕ちゃんも大変っしょ? あの人、すぅぐせかすから」


「まあ、そう……ですね」


「そんなつるちゃんも、よくやったって言ってたよ? なんていっても、夕ちゃんが役を勝ち取ったんだから!」


そんなことない、と言っても彼は僕をおだてまくる。

僕なんて、初心者の一歩手前だ。

衣鶴さんの押しがあってこそのオーディションだったから、この場に自分がいることが何より不安で仕方ない。

第一僕から見たら、篤志さんの方がすごいと思う。

歌手だけでなく、主演もはれるほどの役者っぷりなんだから。


「本番行きまーす。スタンバイ、お願いしまーす」


「ほ~い! じゃあ夕ちゃん、本番の時はライバルとしてよろしくね♪」


篤志さんがウインクを浮かべながら言うのを、僕は勢い良くうなずいて見せた。



『オレ……姫のこと、本気で好きみたいなんだよ』


一気に俳優モードに切り替わる篤志さんが、先ほどとは別人に見える。

このシーンは篤志さん演じる王子が、僕が演じる仲がいい隣国の王子に話す場面。

王子が初めて、姫に対する思いを打ち明けるところだ。

篤志さんの演じる姿は王子そのもので、見ているこっちが魅了されてしまいそうになる。


『じゃあ今度の舞踏会に、姫を誘うつもりなのですか?』


『ああ、もちろんだとも。もちろんお前も来てくれるだろう? カイン』


僕の次のセリフは、王子がそうおっしゃるのでしたら。と、賛成するもの。

でも、この台本を読んだとき僕の中で疑問が生まれた。

本当に、彼……カイン王子そういうのだろうかと。

僕が演じる役カインは、主役の王子と仲がいい。それだけでなく、姫との認識もある。

だからかな、こんなに正直に承諾するような気がしなくて……


「……いくら王子の頼みでも、承諾できません」


「……え?」


「恥ずかしながら私も、姫に好意を抱いてしまったのです。いくら王子でも、これは譲れない……私の思いなのです」


不思議だ。

ここにいると、王子が本当に目の前にいる気になる。

カイン王子の声が、本当に聞こえる気がして。

好きな気持ちに、彼は嘘なんかつかないーそう思えてー


「カット!!!」


はっと気が付いた時には、もう遅かった。

目の前にはぽかんと口を開けた篤志さんと、周りの人がざわざわ声を立てている。

あれ? 今、僕何をしてたっ……け?


「あの、僕……もしかして、間違えました?」


「間違えたも何も……夕ちゃん、自分が何言ったかわかってないの?」


「す、すみません。考え事してたっていうか……」


「夕ちゃんって、ひょっとして役に入り込んじゃうタイプ?」


篤志さんがそういうのを聞いても、まったく僕はぴんと来ない。

ただカイン王子の気持ちを考えれば考えるほど、ポンポン次のセリフが出てきて……


「監督の言ってた通りですよ! この子、本物じゃん! オレ、こっちの方が好きかも!! ライバルは親友の王子とか、めっちゃ燃えない!?」


興奮するように篤志さんは、監督に話しかけている。

心なしか監督の顔も興奮しているようで、脚本の人も満足そうにうなずいている。


役に入り込む、役者体質。

それが僕のスタイルらしい、自覚はなかったけど篤志さんがそう言っていた。

その後もどんどん進んでいって、時間もあっという間に過ぎて行って。

自分が王子になり切っている、というのは放送されてはじめて気が付いた。

台本と全く違うテイストになっていて。それでも周りの反響だけが、僕には伝わっていって。


大人気歌手、皆川篤志に次ぐ天才、YOU☆。

僕の名は、僕の知らぬ間にどんどん広まっていくこととなったー


(つづく!)

篤志が自信たっぷりな天才なら、

夕は無自覚天然だと思ってます


性格も考え方も違うけど、

天才同士、気が合うのかもしれませんね


次回、そんな篤志とついに…

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