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まだ見ぬ未来に思いをはせて

ついにYOU☆として、デビューした夕。

新人歌手として、徐々に彼の物語は動き出すー


キレイな桜の花びらが一つ、また一つと散ってゆく。

風に揺られ窓から入ってきた一つの花びらが、僕の頬をかすめる。


「夕~! 起きて起きて! 篤志君が出てるわよ!! 早く早く!」


ドアの向こうから、母の声が聞こえる。

重い体を起こしながら、大きなあくびをした僕はため息交じりにベッドから歩き出した。

大西夕、十九歳。

カノンプロダクションに所属してから、はや1年が経ちました。

YOU☆の名で芸能界入りして、半年ちょっと経つのかな。

大きく環境が変わったと言っても、あまり変わらない生活を送る日々が続いていた。


「も~お母さん……ゆっくり寝かせてよぉ……」


「何よぉ、夕だってみたがってじゃなぁい」


「そうだけど、てっきり録画してくれるかと……」


「あ、そっか! その手もあったわね! まあいいじゃないの、生で見た方が絶対にいいわ!」


そう言いながら、母はテレビにくぎ付けになる。

うちの母はいつもこうだ。

デビューしてからというものも、僕が出てる番組はいつもこうして見せられるし今のかっこよかったなど感想も言ってくる。

僕にとっては恥ずかしくてしょうがないんだけど、視聴者の意見は参考になるって衣鶴さんも言ってたし……仕方なく目をつむっているけど。


「でもほんと、すごいわねえ篤志君! 色々な歌手がデビューしてるのに、勢いが止まらないなんて!」


「うん。わが社の誇れるスター、だからね」


「夕もこれくらいしないとぉ、篤志君には勝てないわよぉ?」


「いやいや、僕なんかがかないっこないよ」


同じ会社の先輩でもある皆川篤志さんは、自他ともに認める人気者だ。

歌手活動を拠点に活躍する彼の売り上げは、いつもランキング入りする。

夢は武道館でライブ、だったらしくそれも今年見事にかなう予定で。

まさに、スーパースターだ。


「そうだ、母さん。僕今日出かけるから、ご飯用意しなくていいからね」


「あら? 今日お休みよね? 誰かと待ち合わせ?」


「うん。上司の人が、ちょっとね」


「そうなのね。あ、そうそう! 夕に似合いそうと思って、変装用に色々買ってきたのよ~せっかくだし、着ていってくれない?」


「いいけど……変なもの以外でね?」


とってくるとタンスの方に走る母を見ながら、僕は自分の準備をしようと動き始めたのだったー



「……夕。俺は、目立たない格好で来いって言ったよな?」


「………はい、言いました」


「だったら……なんだそのづらは。俺にケンカ売るとは、いい度胸だな」


いつにもまして仏頂面が、どんどん険しくなっていくのが分かる。

何を言われようと、僕は苦笑いすることしかできなかった。

僕に似合いそうと言って母に差し出されたのはまさかの、金髪のかつらだった。

しかも黒いサングラスまでついており、はたから見たらどう見ても不審者だ。

行く寸前まで嫌だと言ったんだけど、


「クオリティーが高いからこそ、成り立つのが変装なのよ!」


という意味不明な理屈で、断ることが出来なかった。

仕方なくその格好で行っては見たが、案の定このさまだ。


「そ、そんな怒らないでくださいよ~。僕だって嫌だったんですからぁ」


「つーことは、あの母親の趣味か。相変わらず変わったお母さまだことで」


「……本当、困ったものです」


「まあでもニュアンスは間違ってねぇかもな。そんな見た目じゃ、怪しくて声かけらんねぇだろ」


「フォローしてるんですか、それ」


マネージャー兼お世話係でもある彼―上村衣鶴さん。

今でも僕の仕事のサポートもしてくれており、なんだかんだで一緒にいることが多くなっている。

曲を出すにあたって力を貸してくれるのは、いつも彼だ。

最近はやり方を教えてもらったりして、自分で作ることが出来るようになってきたけど。

ただでさえ忙しいのにこうもスマートにこなしてしまうものだから、篤志さんと同じくらい尊敬しているんだ。


「それで、今日はどうしたんですか? もしかして、新曲リリースとか?」


「その前に知らせしたいことがあってな。もうすぐ来るぞ」


「お知らせが、来る?」


訳も分からず、首をかしげていると同時に店のドアが開いて入ってきたのは!


「お待たせ、衣鶴君。思ったより、電車が混んじゃって……あれ? 君、もしかして……夕君?」


「か、彼方さん!」


爽やかな春着を着てやってきたのは、滝澤彼方さん。

1年前スタジオであった、カメラマンのアルバイトさんだ。

なんで彼が、ここにいるんだろう。その疑問が分かっているかのように、衣鶴さんが説明してくれた。


「こいつ、大学卒業して晴れて正社員デビューしたからさ。そのお祝い兼ねて呼んだ」


「えっ、そうだったんですか!? お、おめでとうございます!」


「わざわざありがとう。僕の方が後輩なんだから、ため語じゃなくていいのに」


相変らずのきれいな笑顔に、思わず何も言えなくなる。

衣鶴さんの話だと、彼方さんは芸術大学に通っていて、アルバイトからそのまま社員へと上がったという。

職業はもちろん、カメラマンだ。

彼が持っているカバンにも、自前なのかカメラが見えるし……


「それにしても、どうしたの? そのかつら。すごいね?」


「あ、あはは……い、色々ありまして……」


「彼方、例の奴の話はまとまったか?」


「ああそれなら、ちゃんと持ってきたよ。どうぞ」


そう言って彼方さんが、一つの冊子のようなものを僕に渡す。

そこには「今宵、舞踏会で会いましょう」というタイトルが書いてあるだけで、僕は首をかしげるしかなかった。


「それ、今度撮影が始まる、新ドラマの台本なんだ」


「へぇ~……でもこれ、主演に篤志さんの名前が入ってますよ?」


「そ。だが少し、役者が足りなくてな。そのドラマのオーディションがあるわけなんだが……」


なんだか、この後の展開が読めた気がする。

彼方さんは満面の笑みを、衣鶴さんはまっすぐに僕を見つめている。

まるで、僕から言い出すのを待っているかのように。

もう一度台本の方に目を落とし、ため息交じりで一つ。


「もしかして、それをしろと言うんですか?」


「もしかしなくても、やれ」


「丁重にお断りさせていただきます」


「お前に拒否権はない。やれ」


こういう時まで命令形なのは、相変わらずだ。

断っても断っても自分の意志を貫くのは、いい加減やめてほしい。

そのせいでどれだけひどい目にあっているか……


「お前、歌だけでやっていけると思ってるのか? 人生、何事も経験第一だろ。オーディション受けてみろ。絶対受かるから」


「そうかもしれませんけど、いきなり俳優なんて……」


「夕の実力ならできる。撮影には彼方もいるし、充分だろ」


「そ、そんなこと……」


「とにかくやれ。お前は歌だけにとどまるには、もったいない」


相変らずの押しの強さに、僕は何も言えなくなる。

かくして僕の芸能活動1年目は、波乱から幕を開けることとなったー


(つづく・・・)

ここから、第二部。

デビューした後のお話となっていきます。

主に三人プラス篤志の構成ですが、

それものちのち・・・おっと、危ない。

ネタバレをするところでした。

彼らのお話はまだ始まったばかりですからね!

ぜひ、応援してあげてくださいませ


次回、ドラマ初挑戦!

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