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始まりの分岐点

将来の夢って、何だろう。

それはあまりにもあいまいで、漠然としすぎてて。

語るには少し、もったいないように感じるような……


いつも僕は、夢中になれるものを探していた。

ただがむしゃらに、夢に向かって走っている人がうらやましくて。まぶしくて。

僕にぴったりな夢って、将来って何だろう。

そう思って、毎日をなんとなく過ごしていた。

いつか見つかるといい。そんなあいまいな考え方のまま。


気が付いたら、高三になってた。

就職か、進学か。

自分の将来によって左右される、運命の分岐点。

それでも僕は普通に、ただ平穏に過ごしていたー


「ええ? 東大? それ本当? たかちゃん」


信じがたい言葉が聞こえて、思わずそう聞き返してしまう。

高校三年生になった夏。周囲はすでに、進路に向けての話でもちきりになっていた。

もちろん僕―大西夕おおにし ゆうだって、受験生の部類に入っている。

いまだにやりたいことがなくて、先生には迷惑かけちゃってるんだけどね。


「まあ、実力試しにってやつかな? 母さんも先生も、オレなら大丈夫って聞かないんだ」


「それで東大って、すごいね……教授にでもなるの?」


「具体的にはまだ決めてないけど、多分そんな感じかもね」


友人でもあるたかちゃんことたかしは、僕なんかとは違う。

小学の頃から頭がよく、学力はこの学校一ともいってもいい。

皆、なんも考えていないようでちゃんと考えてるんだなあ。


「それで、夕ちゃんはどう? 進学か就職か、決まったの?」


「え? うーん……まだ分かんない」


「またそういって、もう夏だよ? そろそろ決めないと、怒られるよ」


「それは分かってるつもりなんだけど……」


みんないう。早く決めた方がいい、と。

小さい頃から夢、とかなりたいもの、とかそんなものなくて。

ただ好きなことを、自由にやっていた。

だからかな。夢を持っている皆が、キラキラして見えるの。


「きょうちゃんはさ、僕になにが似合うと思う?」


「えっ、オレに聞くのか? うーん、そうだな……夕ちゃん顔だけはいいし、芸能人とかあいそうに見えるけど」


「ちょっと? だけはってどういう意味?」


「だってほら、去年の文化祭。あれ、大活躍だったよね。演劇部の人からスカウトの嵐だったでしょ?」


そう言えばと思いつつ、記憶を手繰り寄せる。

昔から何かと、かっこいいと言われることが多かった。

僕は別に、そんなことないと思ってるけど、クラスメイトの男子には嫌味扱いされることがほとんど。

そんなつけが回りに回って、去年では文化祭の劇で主役になってしまった。

大変そうに見えた台本覚えも、舞台で演技をするのも案外、やってみると楽しくて。

演じるのって楽しいんだなって、思えた。

だからって芸能界デビューは、さすがにうぬぼれすぎというか……


「あ、あとカラオケとかいつも高得点だよね。デビューしたら、意外といい線行くんじゃない?」


「たかちゃんってば、そんなうまく行くわけないでしょ?」


「あはは、それもそうだね。でも、悪くないと思うけどな」


言いたい放題言ったたかちゃんは、分かれ道になると逃げるように帰っていった。

決まったら教えてね、という言葉を残して。


芸能界、か。

そりゃ歌うことも演じることも、楽しかったけど。

それを仕事にする、というのは勇気がいる。

テレビに出ている俳優や芸人さん達は、ほんの一握りの可能性を勝ち上がってきたからこそだ。

それだけ実力がないと、登れない舞台。

まるで手を伸ばしても届きそうのない、星のような……


「おい、ちょっといいか?」


ふと声が聞こえたのに、気付いたのは数秒たってからだった。

その人が誰に声をかけたのか、最初は分からなかったから。

後ろを振り返ると、そこには一人の男性がいた。

上を向かないと目線が合わないほど背が高く、不良のような威圧感があって。

何だか悪い人にでも目をつけられたような気がして、少し委縮してしまう。


「えーっと、僕に何か用……ですか?」


「用があるから話しかけたんだろ。それくらいわかれよ」


「す、すみません……えっと、何のご用件でしょう?」


「ああ、忘れてた。これ、俺の名刺」


そういってポケットの中から、すっと差し出してくる。

普段はそんな使っていないのか、紙はぐしゃぐしゃでずっとポケットに入れていたように思えた。


「カノンプロダクション……かみむら、いづる? なんか、かわいい名前ですね」


「よく言われる。見かけとあってないだろ」


「そこまでは言ってませんけど……でも僕も女の子っぽい名前なので、気持ちはすごくわかります」


「まあこの際、名前はどうでもいい。時間がもったいないねえからはっきり言うぞ」


すると上村さんは、ぶっきらぼうに一言。


「お前、アイドルになれ」


と言い放った。

まずびっくりしたのは、僕にそう言ってきたこと。

それ以前に、断る権利はないとでもいうように命令形だったことだ。

それでも僕は、素直にはいと言えるわけがなく……


「と、突然何言ってるんです? 初めましてでそれはさすがに……」


「お前にとっちゃ初対面だろうが、俺は前から目をつけてたんだよ。去年の文化祭も見てたし」


うぇぇぇ?! あの劇、見られてたの!? 恥ずかしっ!

いやそれ以前に、なんで前から目をつけられてたんだろう。

鋭い眼光と背のせいか、まるで僕が悪いことをしたように思えるな……


「お前には、人を引き付ける魅力がある。文化祭の舞台を見て、勘から確信に変わった。もしその気になったら、その番号に連絡してほしい。俺がお前を、もっときれいで輝いたステージへ連れてってやる」


強引な勧誘を終えた彼は、用件だけすまして先に行ってしまった。

僕の意見なんて、聞く気がないように。

それでもちゃんと返事を待ってくれるんだなと思いながら、名刺を仰ぎ見る。


カノンプロダクション、上村衣鶴。

彼との出会いが、僕の運命を変えることになるなんて、その時は考えもしなかったー


(つづく・・・)

いよいよ本格的にスタートしました!

羽ばたけのアナザーストーリーです!!!


短編で連載させてもらっていた五人の子。

彼らがあの時代にいきつくまで、

つまりは出会う前から始まる

始まりの物語です!!

若干題名も変えてはいますが

ちゃんと繋がっているのでご安心を!


どうぞ、お付き合いよろしくお願いします!


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