㉑話『気まずさ100%』
田波は困っていた。
(どっどうしよう、まさか自分の次に担当する先生がこの人とは思わなかった……しかも昨日のあんなことがあった後なのに目の前で笑っているこの子が怖い)
そんなことを考えながら冷や汗をかいて、今後の説明をしようとした。
すると
「大丈夫ですよ、そんなに緊張しなくても、昨日はビックリしすぎてあんなことをしてしまっただけでいつもあんな状態ではないので」
「そっそうですよね! なんだビックリした! 確かにそうですよね! きっと私も仕事ばかりで結婚できなくて昔気になってた学生時代の人にそんな期待をしてしまっただけだと思うからあなたより軽い気持ちだったのかもしれないし!」
「え、軽い気持ちで優君に違づいたんですか?」
それを聞いた瞬間咲菜は目の色を変えて
鞄から光る何かを取り出した。
「チッ違うの! 私も最初は好きで告白も出来なかったから今度こそって思ってしまった部分もあるから!」
「では本気で優君を狙ってると?」
そして鞄からそのまま手を出そうとすると
「チッ違あがjヵdヵああばえだd違うのおおおおおおおおおおおお!!」
「すみません冗談です、光って見えていたのはただのコンパクト鏡ですよ」
「……びっびっびっびくりした~」
そのまま力が抜けたのかその場で田波はヘバッタ。
「ごめんなさい、ちょっと小説のネタにしたくて」
「はっはい、そうですよね、それでしたらちゃんと付き合いますよ、心臓が止まりそうでしたけど、今もバクバクですよ」
そう言いながら汗をハンカチで拭いた。
「ごめんなさいね、私ちょっとしたことですぐにネタを考えてしまうのが悪い癖なのかもしれませんね、ちなみに昨日の包丁は……」
「もちろんおもちゃですよね! ああ、ビックリした~」
「いえ、本物です」
「!!」
「ごめんなさい」
「……殺さないでね」
「大丈夫です! ……多分」
曖昧な答えに田波は
「ねえ! その曖昧な答えを聞きたくないの! 確定して! お願い! 死にたくない!」
「大丈夫ですよ、田波さんが彼を狙わなかったらそんなことが起こらないんですから!」
「確かにそうだけど! 勘違いされて殺されるのは勘弁だからね!」
「大丈夫ですよ、ハプニングキスやラッキースケベぐらいはまだ大丈夫ですから……多分」
「なんか怖い」
「大丈夫大丈夫」
全く安心できない曖昧な答えに田波の精神は今日だけでかなり削れた。
「さてと……仕事の打ち合わせに入りますか!」
「さすが仕事一筋! 切り替えが早い!」
「まあ、こういうお仕事ですから」
そう言って田波は
「では! 今後の本をどのように進めていくかを考えていきましょう!」
と言った。
「はい!」
元気よく咲菜は微笑みながら返事をした。
そして一時間後
「では今回はミステリーですね!」
「はい!」
「……えっと、実際にしませんよね?」
すると咲菜は笑いながら
「何ですか? 編集さんなのにフィクションと現実の区別がつかないんですか?」
「えっと、その、そう言うことはないんですが、えっと……内容がちょっと酷似しているような~」
気まずそうに田波は顔を逸らした。
「大丈夫ですよ!」
「……本当にフィクションなのよね!」
「はい!」
「分かったわ、ならいいの」
そう言ってほっとしたように田波はメガネの位置を戻した。
「では出来ましたら私の携帯にお電話かメールかラインでお知らせください! もしくはメールでデータを送っていただいても構いませんので!」
「はい!」
そして咲菜はブースから出て行った。
「……はああ、終わった、無事に終わった」
田波は疲れたような子を出して机に顔を埋めた。
「このプロットを見たときはすごくびっくりしたよ、でもそうよね、そんなわけないわよね、でも作者はこうでもしないとなかなか難しいものね」
そう言って田波はプロットを見た。
「仮タイトル『不可解な女性変死事件簿』か……」
そして、内容は
女が山で突然変死
関わりのあった男が疑われてそのまま逮捕された。
それを知った男の彼女である弁護士が彼氏を救うために
証拠を必死に探し、真犯人を突き止めて彼氏を救うことに成功する。
だが、最後に彼女がほくそ笑み自分が犯人であることがばれなくてよかったと言った。
彼女は自分以外の女が彼氏のことを好きだったのが許せなかったと言う。
そして、自分の彼氏を救うことで自分以外を女を見ることがないようにするためだったという救いようのない話である。
それを目を通して田波は
「……本当にしないわよね、あの子?」
と青ざめながらプロットを置いた。
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そして優の部屋
「おう、咲菜ちゃん、どうしたの?」
「えっとね! 私これから本を執筆するからしばらく一緒にいられないけど浮気しないでね!」
「おう、別にしないけど、そうか、新しい本を出すのか! 発売されたら俺も買うよ! 前の小説まあリア充になったから読めたんだけど、多分リア充になってなくても多分引き込まれてたよ、咲菜の才能はかなりのものだと思うから次も頑張ってね!」
それを言われて咲菜は照れながら
「ありがとう、優君も料理の勉強頑張ってね……」
「おう、ありがとう」
優は本格的に専業主夫になるための修行に励んでいた。
洗って干して畳むことや部屋の掃除、草むしりと風呂掃除などは昔からやらされていたが料理だけは卵焼きと目玉焼きを作ったことがあるだけであった。
そのため、他の料理が出来ない為料理を覚える必要があった。
取り敢えず仕事終わりに夕食をお母さんに教わりながら作っている。
取り敢えずは包丁をビクビクしながら使うと危ないとお母さんに怒られている。
「俺も頑張ってんだけどなあ、なかなかできねえわ」
「その時は料理だけは私がしますよ、小説だって執筆中でも出来ることはありますから!」
「そう? でも俺も頑張るよ、君と一緒に協力し合って暮らしたいから、男のプライドではなくてなんか君だけに負担をかけて苦しめたくないっていうか」
「優君、ありがとう、私も頑張るから優君も頑張って!」
「うん! 頑張る!」
そして、咲菜はキスを求めた。
優はそれに応じた。
「だいぶキスにも……まだ緊張するな」
「そうですね……」
2人とも顔を赤くしながら2人とも顔を逸らした。
「でもこれからいっぱいしょうな……」
「……うん、そうだね」
そして、2人で笑い合った。
そして咲菜が帰った後、
「ああ、なんか上手くいくか分からないのに見えない道を進んでいるようだな、まあ咲菜の方が一番そうなんだろうけど」
とつぶやいた。
そして優は
「俺は物語とか自分で考えるとかあまりできないし、人に言われるがままってことが多いからな、正直まっすぐに頑張れる咲菜が羨ましい……でも咲菜と付き合ってから俺は変わったことが分かるのが嬉しいよ、今まで見ようとしてこなかった世界が広がってるなあ、あいつもいつもそんな思い出頑張って来たんだろうなあ」
優は今までのことを思い出した。
「俺は今まで学生時代の文化祭にもほぼ不参加って言われてもおかしくないほど興味がなくて店とかしなかったし、手伝いも邪魔って言われてやった事さえなかったな」
優は天井を見ながらぼーっと言った。
「俺も頑張らないと! 取り敢えずは、包丁を怖がらずに切ることだな」
と基本からすでに躓いていた。
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そして、一か月後
小説が出来てバッドエンドにも関わらず咲菜の溢れるような才能のおかげで人を引き込み本は滅茶苦茶売れた。
『おめでとう! 100万部突破よ!』
「ありがとうございます! これからも頑張ります!」
『うん! 期待しているわね! 次の作品もまた出したいからまた考えていてね!』
「はい!」
そう言って咲菜は電話を切った。
そしてそのことを優に伝えるために電話を掛けた。
「優君! 私の本が100万部突破したの!」
『おお! おめでとう! また一緒に祝おうぜ!』
「うん! ありがとう! これからも頑張るね! それで優君は料理の方はどう!」
『……ぼちぼちかな……』
「そう、躓いているなら私が教えようか?」
『え、でも疲れてるんじゃ?』
「大丈夫ですよ、今は執筆していないので余裕があります」
『?? そうなの? ありがとう、そういや咲菜のお弁当いつもおいしいもんな……あれ? 俺が専業主夫するって言ったのにもかかわらずすでに俺が咲菜に胃袋掴まれてる!』
と優は焦った。
「大丈夫です! 優君にもできますよ!」
『お……おう、ありがとう! そうだな! これで挫けたらもっと挫けそうなことで精神が壊れてしまうモンな!』
「そうですよ、でもたとえ優君が廃人になっても私が一生面倒見ますので!」
『マジか! スゲエなお前! 俺もお前が廃人になったら面倒見るからな!』
「ありがとう、優君!」
とイチャイチャな会話を続けた。
そして優は
『まあこれでもうまくなった方だと思うからパーティーは俺の手料理振る舞うよ!』
「本当に! ありがとう! 優君!」
『じゃあ楽しみにしていてね!』
「うん! 楽しみにしているね!」
そして咲菜は携帯を置いて
「ありがとう優君、そして田波さん……」
そして
「本の内容通りにならないように優君のことは諦めてくださいね、物語はフィクションだからこそ面白いんですよ、私は、弁護資格も大学で取れましたので……」
とほくそ笑みながらつぶやいた。




