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ある娘の書散らし

作者: お※



 生まれた頃から家にいた老狼が死んだとき、私は家を出る決意をした。




 私は、国暦34年に生まれたらしい。戦禍もあらかた除かれ、ちょうど人々が平和になったと感じるそんな時季だったと聞いた。


 外れの森にあった我が家の近くに家はなく、同年代の遊び相手もいなかった私は、おばあちゃんが飼っていたふさふさの狼とよく遊んだ。


 市場のある、小さくて賑やかな町にいる人たちは私とおじいちゃん、おばあちゃんとちょっと違っていたからか、おばあちゃんとのお買い物にはいつも帽子をかぶって行っていた。


 町に行くたびに、街も人もすっかり変わってて、知っている人に二度会うことはなかったから、とくに親しい人もできなかった。


 お買い物に行くとき以外はずっと狼と一緒にいた。おじいちゃんと釣りに行くときも、おばあちゃんと麦わら帽をつくるときも私と競い合った狼は、なぜかだんだん元気がなくなっていった。


 ごはんを食べ終えて、湖に水浴びにいこうかなと考えていたときにおばあちゃんに呼び止められて、そのときに「死」というものがあるんだと聞いた。


 聞いてもよくわからなくて、訊いてもおばあちゃんもよくわからないって言ってたけど、「死」んだら「会えなくなる」んだって。それはとっても嫌だなと思った。


 おばあちゃんに「死」を聞いた夜からいくらかも経ってないうちに狼が動かなくなって、固くなって、重くって、冷たかった。おばあちゃんも、おじいちゃんも悲しい顔をしてた。私はよくわからないけど、しばらく涙が止まらなかった。


 あれから、そうだと知るのが怖くて悩んでて、やっと訊いたんだけど、おじいちゃんもおばあちゃんも死なないってわかってよかった。


 おじいちゃんもおばあちゃんも大好きだけど、狼といた家で、もう狼と一緒に遊べないのは悲しいから、外に出て一緒に遊んでくれるのを探してくるって言ったら、2人とも送り出してくれた。


 こうして私は、私と、私の角に似たかたちになっちゃった狼と、一緒に外で遊んでくることにしたのです。


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