#02 神様、これってお友だち……ですか?
3月22日、改稿しました。
ストーリに大まかな変更はありません。
スルーして頂いても問題ありません。
……パタン。
子供部屋に二人っきりです。沈黙が痛いです。
どうしましょう。
お母さまからは、仲良くするよう言われてしまいましたが、彼は見るからに私なんかと仲良くしてくれるつもりは無さげです。
話しかけて彼に不快な思いをさせるわけにはいきません。
かと言って、最初から何もしないのもお客さんに失礼です。
どうしましょう。
「おい、お前」
っ!
ぱっと笑顔で振り返る。話しかけてもらえて助かりました。これで彼がどうしたいのかわかります。
「母さまはあぁ言ったけど、俺は女と仲良くするつもりはない。それにお前、母さまが言うほど可愛いくないからな。調子に乗るなよっ! 」
なるほど、放っておけばいいんですね、わかりました。お任せください。
にこっ。クレヨンが遠いので笑顔で了解の意を示します。
何故かわかりませんが、私笑うの得意なんですよね。写真映りはわりといいんです。
そうだ。可愛いくないとか女の子に言っちゃいけないんですよ。美琴さまのお言葉がお世辞だとわかってるので、私は気になりませんが。普通、女の子には禁句だとテレビでやってました。
4歳児というのは、よくも悪くも素直なんでしょうか。とりあえず今後の参考にさせてもらいます。
真琴さま? くん? は一瞬不思議そうな顔をして、クッションの海にどっかりと背を預けました。我が物顔でクッションたちを独り占めです。私はそっとはじっこの桃色のクッションを引き抜きました。ひとつぐらい、いいですよね。
真琴……さまにしておきましょう。真琴さまが本の世界に入ったことを確認して私は漢字練習をします。
元々は、両親が私とのコミュニケーションのためにひらがなの読みを施した(最初から読めます)のがはじまりです。そのお陰で3歳ぐらいまでは『あいうえお表』から、一字づつ指さしてコミュニケーションをとることが出来ました。
両親はダメ元だったらしいのですが、一般の赤ちゃんが言語修得にどれくらい時間をかけるのか知らなかった私は、すんなりとひらがなを解放しました。
明らかに可笑しい学習速度だったみたいですが。両親は、生きるために言語学習能力が他の子より高いのか。と勝手に納得してくれたみたいです。楽天的なようで助かりました。
しかし、なるべく早く筆談したかった私は3歳半からひらがなの練習を始めました。最初に書いた文字が『ぱぱ』と『まま』だったのがよかったみたいです。よろんで『ひらがなお手本張』を買ってくれました。読むのと書くのとでは違うみたいで少し苦戦しましたが4歳になる頃にはひらがな、カタカナをマスターしました(線はぐにゃぐにゃですが。もっと言えばスケッチブック1ページに2行で10文字しか書けないぐらいの大きさですが)。
現在では漢字にまで手を出しました。読めるけど書けない。というものが多くて苦戦してます。手が思うように動かなくて、密度の高いやつはむずかしいです。今は『青』が難関です。どうしても縦長な格好悪いフォルムになっちゃうんです。……ほらね。
こうして30分以上ページをめぐる音と、クレヨンを擦る音が子供部屋に響いていた。
「おい……おいっ! 」
「っ!!? 」
ビクゥッ。と思わず肩を震わせて慌てて振り返る。
びっ、びっくりしたぁ……なんですか。
お陰で「青」の「月」のピョンって跳ねるのが思いっきりビッってなっちゃったじゃないですかぁ。せっかく上手に書けてたのに……ちょっとムカッとしたけど我慢します。
「……お前、水色好きなの? 一番クレヨンが減ってる」
なんか、唐突に会話を仕掛けてきました。どういうつもり……なるほど、読み終わって退屈になったのか。
ざっざっ……スケッチブックにみかん色のクレヨンを擦る。文字数削減のために、敬語は省略します。
『ちがう みかんいろ』
水色が一番減っているのは、青系が記憶に残りやすいって直感が言ってるから、なんとなく使っていただけです。
「っ! 」
ざざっ……
『どうしたの ?』
「……お前もう、ひらがなかけるのか? 俺と同じ4歳なのに? 」
見ての通りです。と頷いて肯定する。
「……すごいなお前」
褒められた。なんだか胸の奥がくすぐったい、むずがゆいです。大人の人以外で初めて読み書きができることを褒められた。
ちょっと、嬉しいかも。
「でも。お前にできて、俺ができないのはムカつく」
え、えー。そんなこと言われても……。
ここでカタカナもマスターしましたって言ったら意地悪ですかね。ちなみに漢字も読むだけなら大抵読めます。
ざざっ、ざっざ、……
『わたし はなせない』
「母さまから聞いた」
ざざっ
『なので』
ざざっ、ざーっざ……
『かけるよう にならなきゃ』
ざざっ
『ダメ なんです』
「……カタカナも書けるのか」
あ、ごめんなさい。つい書いちゃいました。
でも、続けます。口をはさむ真琴さまをスルーして言いたいことを書いていく。
ざっざっ
『だから わたし』
ざーっざ、ざざざっ
『かけるの あたりまえ』
『まことさま きにしない』
ね! と笑いかけると「そうじゃないっ」と怒られました。
どうやら、慰め作戦は失敗しちゃったみたいです。
何がダメだったんでしょう? はっ!
『……男には女には到底理解できないプライドがあるんだ。譲れないもんがなぁっ、ぐすっ』
お酒に負けたパパさんが、そう泣きながら私にのしかかってきたことをふと思い出しました。
もしかしたら、真琴さまのプライドを知らずに傷付けてしまったのかも。それなら、ちゃんと『ごめんなさい』しなくては。
ざざっ
『ごめんなさい』
「……? なんでお前が謝るんだ?」
『まことさま おこらせた』
「別に怒ってないけど。お前は悪くないだろ。だから『ごめんなさい』はいらない」
『ほんと?』
「ウソ言ってどうするの? 俺がひらがなもカタカナも書けて、あと漢字も書けるようになればいいだけのことだろ。そうすれば俺の方が凄くなる」
なるほど。真琴さま大人。パパさんとは大違いです。
……漢字もちょこっと書けるとか、絶対にバレないようにしよう。
「それに、お前は邪魔しないからな。キライじゃない」
?
「だから……」
だから?
「お前はとなら、ともだちになってやるよ」
あ、ありがとうございます?
ハッ!……と、ともだちっ! お友だちと仲良くできたら、お母さまは褒めてくれるかもしれません。
ざざッ、ざざざっ
『うれしい です』
『なかよし なりたい』
にこにことほっぺたがだらしなく緩んでいる気がします。
「なかよくはしない」
?
え。ともだちって仲良くなるのが良いことだと思ってたんですが。違うんですか?
うーん? でもまぁ、真琴さまが言うならそれでもいっか。
『わかり ました』
仲良くしない友達……ってなんだろう?