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奴隷のいる風景  作者: 占林北虫
3/3

第三話 203号室と201号室

 同じアパートの203号室。

 二人の若い男が、テーブルの上でゲームをしていた。

 サイコロを振って、出た目によって得点のタイルを奪い合う、シンプルなゲームだ。

 片方は少年っぽい見た目、片方は大人びた見た目だ。実は同じ年齢だが。

「どおりゃあー!」

 大げさな声をあげて、少年っぽい見た目の方の男が、サイコロを振る。

 カラカラカラ。

 八個のさいころが転がって止まる。

「おお! ナイス! 良い目出た! じゃあこれ確保な!」

「やるじゃん!」

 大人びた方も、口調は子供っぽい。

「じゃあ残りのを振り直し……でやっ!」

 少年っぽい方がサイコロを振る。

 二人は楽しそうに転がるサイコロを見ている。

「出た、5、5、5! やりぃ! これで合計いくつだ?」

「30」

「よーし、これはもう36のタイル狙うしかないな!」

「いや、それは……どうかな?」

「俺は行くぜ! 光れ、俺の右手!」

「光るか」

 コロコロと転がるサイコロ。

 出目を見て、一瞬二人は固まる。

「だぁーっ!」

 少年っぽい方は頭を抱えて床の上にひっくり返る。

「うぷっ! こ、これは……」

 大人っぽい方の男は笑いを抑えられない様子だ。

「何でここで5ゾロがでるんやー!」

「逆にすごいよ、合計40って」

「バーストだけどな! ちっくしょー!」

 少年っぽい方は足を宙にばたばたさせている。

「じゃあ次俺の番……」

「させませーん!」

 少年っぽい方が起き上がり、テーブルをひっくり返そうとする。

 実際にひっくり返したわけではなく、斜めに傾けただけだが、並べてあったタイルとサイコロがばらばらと床に落ちる。

「な、に、を、す、る」

 大人っぽい方は怒りもせず、おどけた口調でそう言う。

「このゲーム終了! 飽きた!」

「そっか」

 大人っぽい方は笑いながら天井を仰いだ。

「ついでにさ、ちょっと話したいことがあるんで、ちょっとお前奴隷に戻って」

「……気分切り替えました、ユウスケ様」

「よっしゃ」


 この二人、少年っぽい方が主人で、大人っぽい方が奴隷であった。

 少し説明すると、少年っぽい方は名を絹埼きぬさきユウスケと言う。

 大人っぽい外見の奴隷がシビと言う名前。

 ユウスケの父親の所有する女奴隷と、ユウスケの母親の所有する男の奴隷の間に生まれた子が、シビだった。

 偶然にも同じ日に生まれた二人は、同じ家で兄弟のように育ったのだった。


「で、話しとはなんでしょうか?」

 シビの口調はすっかり変わっている。

 きりっとした表情、ていねいな言葉遣い。

「俺が彼女を作る作戦の事だ」

「その話ですか」

「そう、俺はやっぱり201号室の女の子にアタックしてみたいと思うんだ」

「二つ隣ですね。表札は確か『太田川』と書いてありましたね」

「モデルさんみたいだよなあの子! 俺、自分の感情が整理できないでいたけど、やっぱりこれは純粋な恋愛感情だわ」

「応援申し上げます」

「で、協力してほしいんだ」

「なんなりと申してください」

「あの子ってさ、女の子の奴隷持ってるみたいじゃん?」

「そうですね」

「まずお前がさ、あの子に告白するんだよ」

「な」

 ここまですらすらと返事をしていたシビが、一瞬言葉に詰まった。

「あの奴隷もかわいい子だったじゃん、ちっこくって。シビ、お前ロリコンだろ?」

「お待ちください、年齢のストライクゾーンが下に幅広いだけです」

「ロリコンだろ」

「普通の年齢もいけるのです」

「下もいけるんだろう」

「ええ、まあ」

「よっしゃ!」

 机の椅子に座っているユウスケはひざを叩いた。


「ようするに、私が太田川嬢の女奴隷と恋人になることで、ユウスケ様と太田川嬢の仲も進展しやすくなると、そう言う狙いですね」

「そういうこと」

「やってみましょうか。普段身分差の違いを忘れて接してくださっている、ユウスケ様のいう事ですし」

「頼むぜ」

「では、頭の中で告白の台詞を考えます」

 シビは天井をにらむ。

「時間かかるか?」

「いえ……できました」

「早いな!」

「では、今から告白に行きましょうか」

「頼めるか」

「はい」

「よっしゃあ! おれ、近くから見守っててやるわ」


 ユウスケはいそいそと部屋を出て、アパートの前の飲み物の自販機の前に向かった。

 シビは小さく苦笑して、それから201号室を目指して歩き出そうとした。

 その時、202号室の扉が開いた。


-----


 俺、伊藤ヤマトは、スーパーでの買い物を終えて部屋に戻り、一息ついたところだった。

 俺の奴隷少女、イヨは買ってきた食材を広げて、今から料理を作るところ。

「じゃあ俺、菓子折りを両隣に持っていこうかな」

「あ、一緒に行きましょうか?」

 イヨが料理の準備の手を止めて言う。

「いや、いいよ、挨拶して、菓子折り渡すだけだから」

「そうですか、いってらっしゃいませ」

「うん」

 いやー、自分の部屋に女の子がいるっていいもんだな。

 幸福感に浸りながら、俺は玄関のドアを開けた。


 ドアを開けると、近くに男が立っていた。

 背が高い目の若い男。

 首輪をつけているから奴隷の人かな。

「あ、どうも」

 軽く会釈をする。

「おはようございます」

 彼は丁寧に返事を返してきた。

 まあいいか。

 俺は、201号室に向かう。

 背後で、さっきの男が何か戸惑っているようにも思えた。


 チャイムを鳴らす。

 反応を待つ間、表札を見る

 太田川、と書いてある。

 基本ここは学生寮のはずだから、俺と同じ学生だろうな。

 男かな女かな。

 そんな事を考えていると、ドアが開いた。


「はい」

 女の子が出てきた。

 髪は長く、ウェーブしている茶髪。

 やや大人びた顔立ち。

 女の子にしては背が高い子かな?

「隣の202号室の伊藤です、初めまして。これ、お近づきのしるしです」

 俺は菓子折りを渡した。

「まあ、どうもどうも……太田川です」

 その人は、なぜか自分の部屋の奥の方を見た。

 その部屋にはもう一人、背が低い女の子がいた。

 この人の奴隷だろうか?

「ありがとう、ちょっとそこでお待ちいただけますか?」

「え? はい、いいですよ」

「待っててもらえます? ちょっとドア閉めますけど」

「え、ええ」

 何だろう?

 ドアが閉められた。

 ふと、横の方を見ると、さっき見かけた男の奴隷はさっきの位置に立っていた。

 もしかすると、この201号室に用があるのかもしれない。

 まあそれはそうと、太田川さんはドアを閉めて何をしているのだろう。

 なにやら部屋の中で喋っているようでもあるが……。

 やがてドアが開いた。

「あの、ひとつ、お願いいいですか?」

「え、何ですか?」

 いきなりお願い……何だろう、本当に。

 ちょっと興味をそそられた。

「一晩でいいので、うちの子を預かってもらえないでしょうか?」

 太田川さんはそう言った。

 うちの子……?

 犬か猫だろうか。

 旅行に行く間、預かってほしいとか?

 よくある話かもしれないけど、このアパート、ペットOKだっけ?

「その『うちの子』と言うのは?」

「あ、はい、ナミ、こっちに来て」

 呼ばれてこっちに来たのは、先ほどちらっと見えた、背が低い奴隷少女だった。

 ナミと呼ばれた奴隷少女は、ぺこりと小さく頭を下げた。

「え、あの、どういうわけで?」

「いえ、ちょっと喧嘩をしまして、今、一緒に居たくないんです」

「は、はあ」

 言われてみると、奴隷少女は、少し不機嫌そうな顔だ。

「明日には引き取りますので、一晩だけ、駄目ですか?」

「え、ええと……」

 どうしよう。

 予想外の展開。

「できましたら、お願いします。」

 にこやかな太田川さんの表情のなかに、なぜか微妙な圧力のようなものを感じるのはどうしてだろう。

 何か裏の意味があるのか?

「……お願いします」

 奴隷少女も小さくそう言った。

 その子の顔を見ると、なにかこちらに期待しているような表情に見えた。

 いまいち事情が理解できない。

 けど、


「まあ、一晩預かるぐらい……いいですよ」

 何となく、そう言ってしまった。

「本当ですか! ありがとう!」

 太田川さんはそう言って、奴隷少女の方に目配せを送る。

 奴隷少女は嬉しそうに小さくぴょんと跳ねた。

 なんか変だな。

 この二人、本当に喧嘩をして同じ部屋に居づらくなってるのか?


 そんなわけで、俺はその奴隷少女、ナミと一緒に自分の部屋のドアを開けた。

 すぐ近くで、さっきの男の奴隷が、少し困った顔をしていたような気がした。


「ただいま、イヨ、ちょっと変なことになっちゃったよ」

「お帰りなさいませ。どうしました?」

 フライパンに油をひきながら、イヨはこちらを見て言った。

「この子」

 俺はナミを指差した。

「あら、可愛らしい子ですね。借りたんですか?」

「借り……?」

 俺はその言葉に違和感を感じて、聞き返す。

「ちがうのですか」

「借りたというか、一晩預かってくれって言われた」

「まあ」

 ちょっとイヨの眉毛が困ったように下がった、ように見えた。

「……素敵なプレゼントですね」

「ん? 何が? 一晩預かってくれって言われて……」

 イヨは何を言ってるんだ?

 俺は少し混乱した。

「……ご主人様」

 イヨは豚肉をフライパンに投入しながら、言った。

 肉が焼ける音が鳴る。

「それは、その子を、一晩好きにしていいという贈り物ですよ」

「え?」

 俺は動転しつつナミの方を見た。

 ナミは、なぜかうるんだ目で、こちらを見ていた。

「え? まって、あの人はそう言うつもりじゃなかったかもしれないし、そう、喧嘩したから一緒に居づらいって言ってた」

「口実じゃないですか?」

 イヨが豚肉を炒めながらそう言った。

「実は口実なのです」

 ナミが恥ずかしそうにそう言った。

 何かもじもじしている。

「待って、俺、そう言うつもりで借りた訳じゃ……」

「では、何もせずに返してもいいじゃないですか」

 イヨがそう言った。

「その場合はがっかりだけど、仕方ないです」

 ナミがそう言った。

「がっかりなの? っていう事は俺、その、期待されてるの?」

「期待しているのです」

 ナミがこちらを見て言う。

 ナミのこの目は、あれだ。

 実家で小型犬を室内飼いしてたけど、俺がテーブルで食事してると、犬が俺の椅子のそばで『食べ物くれませんか?』と言う感じで控えてる時の、要するに期待に満ちたあの目だ。

「お、おれには、イヨと言う奴隷がいるんだ」

「今日はわたしもいるのです」

 ナミが主張した。

「い、いや、イヨはさ、俺がほかの奴隷とえっちしたら嫌だろう?」

「そのようなことはございませんが」

「なんで?」

 驚いて聞いた。

「わたし、イヨは、これからもたくさんご主人様に抱いていただきたいと思っているのでございます」

「あ、うん、それは、そのつもりだけど」

「ただ抱いていただけるだけでもとても嬉しいのですが、ご主人様がえっちの技術が向上しますと、わたしは一層幸せになれるかもしれません」

「お、おう」

「そのためには、いろいろな人とえっちをするのが一番です」

「それでか」

「はい」

 俺は顔に血が上ってるのを感じた。

 鼻血出てないだろうな。

 手で確認。

 よし、出てなかった。

「こちらのご主人様は純情な方なのですね」

 ナミが、イヨに聞いた。

「とても純情なお方です。なんでも、奴隷のいない家で育ったとか」

「へー」

 ナミが興味深そうにこちらを見た。

「名前を聞いてもいいですか?」

 イヨがナミに言う。

「ナミって言います」

「イヨです。ナミはどこの奴隷? わたしは、オビディエンス」

 イヨが不意に俺に意味の分からない事を言った。

 それを聞くと、ナミは不意に、着ている服のジッパーを下げ始めた。

「な、なんで服を脱いで……」

 あわてる俺。

 ナミは、服の前をはだけると、左胸のブラジャーの上の皮膚を指差した。

 そこに、濃い茶色の文字があった。

 ラディカル、と言う英単語が書いてある。

「ラディカルですか、いいですね」

「な、何の話?」

「ブランドです。奴隷をトレーニングした会社の系列のようなものです。わたしはオビディエンス社、この子はラディカル社ですね」

「お、おう」

「ラディカル社の奴隷トレーニングは、割とえっちの技術を重視するそうですよ。試してみてはいかがですか?」

 イヨが言った。

「ちょ、ちょっと顔洗ってくる」

 俺はそう言って洗面所に向かった。

 グッドタイミングだった。

 ちょうど鼻血が出たところだった。


 その日の夜、俺は風呂場で、ラディカル社がトレーニングした奴隷の、えっちな奉仕の技術を体験することができた。

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