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丙午の女  作者: 佐賀とおる
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04 彼と彼女はそして落胆する

「さ、最後のお店はここだー!」

そういって依織はドアを豪快にあける。

「あ、あなた、どんなしんけいしてるのよ!?」

思わず大声を上げてしまう。

「やっほー翔汰ー!いるー?」

「ちょっと、ききなさいよ!?」

どうやら知り合いのお店らしいけれど、少しは自嘲しなさいよ!そう思って肩を引っ張るけれど依織には全く効果がない。

「うーい。その声は依織か?どうした?」

店の奥から一人の少年がでてきた。

…どこかで見た覚えがなくもないような気がする。

中肉中背、どこにでもいそうなルックスに髪型。

はて、どこで…?

「やーやーしょうたん、おひさーだね!」

「おひさー、おひさー。で、なんだよ?

 …って、あれ、中山さん?」

「こ、こんにちは…」

どうやら向こうは私をしっているらしい。…が、思い出せない。

「二人そろって買い物か?」

「そそ。うんでもってここが最後!」

「おーそりゃありがとよ。せいぜいたくさんかっていってくれよ」

思い出そうと苦心している間に二人の会話は進んでいく。

「ん、どうしたの中山さん?」

怪訝そうに少年がこちらを覗き込んでくる。

「…大変失礼な質問をするけれどもいいかしら?」

「なんだ?俺にこたえれるものなら何でもいいが…」

「あなた、だれだったかしら…?」

「…え、まじ?」

「それひどいよよったん…」

見れば依織も愕然としている。

「い、いえ!?どこかであったかな〜て気はするんだれども…ね?」

あわてて情報を補足する。焼け石に水だろうが…

「あっちゃ〜こりゃ駄目だよ…あきらめな翔汰」

「く…、まだアピールが足りなかったか!?」

今二人は肩を寄せ合って、ひそひそ話をしているから二人の会話は聞こえない。

「…依織?」

「あっれ〜おかしいな、しっかりあんたのことおしといたはずなんだけどな〜」

「中山さん、俺の名前すら知らねえじゃねえか!」

「ちょっ、ちょっとまって!いま確認するから!」

なにやら二人の討論は白熱しているらしい。

それを遠くから傍観していると依織がこちらに歩いてきた。

「え〜っと、よったん。こちらの少年は柊翔汰君っていって、隣のクラスの人なんだけど…」

「ちょっとまって。…いま何か記憶をよぎるものがあったわ」

「お、まじで!?」

「…あ、っあ〜!おもいだしたわ!」

見ればその柊何某が期待のまなざしでこちらを見つめている。

私はそれに侮蔑のまなざしを返してはっきりと思い出したことを告げる。

「あなた、私のカバンまさぐってたやつね!?」

「あっちゃ〜、いちばんいかんとこだけ思い出しっちゃってるよ…」

「おわった、かんっぺきに終わった…」

二人が肩を落として、いや、少年の方は膝をついている。

「え、な、なに?何か私間違えた!?」

そんな反応が返ってくると私としても少し不安になる。

「翔汰、あんたの青春もうおわったね…」

「いうな依織。むなしくなってくる…」

二人が元の状態になるまで私は呆然と立ち尽くしかなかった。

………

……

「…で、何しに来たんだよ」

「だから買い物!」

何とか気持ちを取り直したらしい少年と比べて依織の方はすごく元気だ。

「ふ〜ん。でも、わざわざ俺んちで買う必要あんの?」

「…私としてはあんたにチャンスあげようと思っただけだったんだけど…ね」

「気持ちだけもらっとくよ…」

あ、また落ち込んだ。

「さ、よったん。買い物しよーよ。どんなのが好きなの?」

そういって依織は少年を置いてこちらに歩いてくる。

「彼、あのままでいいの?」

「うん。しばらくあのままにしておこう!」

「…そう。ならいいけれど。そうね、あっちのなんてどうかしら」

少年を置いて私たちは買い物を始める。

「これなんてかわいくていいんじゃない?」

「う〜ん、少し色がきつくないかしら。一応毎日使うものを買うのよ?」

「そっか。じゃあこっちのなんてどう?」

「あ、それいいわね…」

「でしょ?それがいいんなら、これもきにいるんじゃないかな」

買い物は順調に進んでいく。

いつの間にかかごの中には買う予定だった物以上のものが入っている。

「…少し選びすぎたわね。もどしてくるわ」

そういって戻そうとすると依織は私の手をとめる。

「いいよ。私からのプレゼントっていうことにしておいて」

「でも…」

「おねがい」

見ればいつもおちゃらけた顔をしている彼女の顔はいつになく真剣、と見える。

「離れ離れになっちゃうんだからこれぐらいさせてよ」

「依織…」

普段に比べて今日の彼女は輪をかけて騒がしかったように思えたが、どうやら寂しさをかくすためだったらしい。

目がうるんでくる。

「ありがとう、依織」

「うん、どういたしまして、だよ。よったん」

依織の目にもうっすらと涙が浮かび上がっている。

「ほ、ほら。早く会計もっていこ!?」

急に依織は回れ右をしてレジに向かって私の背を押そうとする。

私は忘れない。

この時の彼女の顔を。

今までの人生の中でこれほどココロが振動したことはない。

確信を持って言える。

別の学校になってからも私と依織の縁が切れることはないだろう、と。

レジの持っていくと少年が立ち番をしていた。

「お〜結構持ってきたな。ん?どうした、二人とも少し目が赤いぞ?」

「な、なんでもないよ!ほら、早く会計さんは働け!」

「…ま、いいか。ちょっと待ってろよ?」

そういって少年はバーコードを読み取り始めた。

「こんなに買ってどうしたんだ?タナでも壊れて全部割れたのか?」

「ん?あ〜じつはちょっとね…」

依織としても勝手に私の事情を口にするのははばかれたのだろう。

「これから一人暮らしするのよ。その準備」

「ふ〜ん、一人暮らしね…一人暮らし。…えっ、一人暮らし!?」

口調では驚いているのに手の動きにはよどみない。

「よったん、言っていいの?」

「別に。隠すほどのものでもないし、どうせ来週ぐらいから先生から説明あるわよ」

「あ〜それもそうか」

会話についていけない少年はあわてて質問してくる。

「ちょっとまって、一人暮らしってどういうこと!?」

「揺ちゃん転校して一人暮らしするんだよ」

そ、そんな〜というような表情で少年が崩れ去る。

かごを見ればいつの間にかすべて計算が終わっていた。いつの間に終わらせたのだろう…

「まじか〜、本当に転校しちゃうの?中山さん」

「ええ、本当よ。さっそく今日から行くから、その前準備ね」

「今日!?きゅ、急な話だな」

「そうかもしれないわね」

「翔汰、会計終わったの?」

「あ、あぁ終わってるよ」

依織が話を途切れさせる

「ん、これでちょうどね」

「毎度あり。でもこれはこぶのちょっと大変じゃないか?なんなら郵送頼もうか?」

「あ、よろしく。ここに郵送しておいて」

そういって彼女は一枚の紙をだして急いで店を後にしようとする。

「お、おいちょっと待てよ!?」

しかし依織はまたない。私も仕方なく彼女についていく。

「ねえ、依織、どうしたの?」

「…時間、危なかったから」

時計はまだ三時を示している。

確かに少し急いだ方がいいかもしれないが話をあそこで切らなければならないほどではない。

少し釈然としないままも彼女についていくしかなかった。


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