01 呪いはかくして広がりを見せる
「災難だったね。」
目の前の、無精ひげを生やした叔父さんが声をかけてくる。
ここは葬儀場だ。正面を見ると家族の遺影がそれぞれ飾られている。
「火事の原因は、なんだったんですか?」
そう聞くと叔父は喉を詰まらせた。
「ど、どうやらコンセントが原因らいしいよ」
うそだ。この質問をしたのは叔父が最初じゃない。
他の親戚たちのも聞いてみたらそれぞれ別の答えが返ってきたのだから。
叔父の反応を押して図ってみれば、精確なところは分からなくともおのずと一つの解が導き出される。
犯人は私だ。そうでなければこんなにバラバラぼ答えが返ってくるわけがない。
原因不明ならまだわからない、といえば済む話だ。
それなのにバラバラの答えが出てくるということはその原因が私に言うのがはばかれる、ということだ。
消防士は放火の線はないと言っていた。
おそらく私の部屋にあった何かが最初の火を上げたんだ。
家族の遺影を見上げながらつぶやく。
「あんたたちの、妄想。ほんとになっちゃたよ」、と。
いまは叔父の家にお世話になっているがここもいずれ出なくてはならないだろう。
両親はどうやら親戚連中全員に私の生まれに関することをいってまわっていたらいしい。
そんな私が火事の原因になったのだ。
家においていたら今度はうちが火事になるんじゃ…
そう思っている人ばかりだ。叔父も必要以上に火の元に気を配っている。
今日私のこれからが決まる会議が別の親戚の家で行われるらしい。
議題であるはずの私が呼ばれてもいないというのはおかしな話だが、さもあらん。
どうせ施設かどこかに預けようの言う話なのだう。
又は金だけ出して一人暮らしさせるつもりなのか。
いっそのことそっちの方がまだ気楽だった。私の方を時々おびえるように見るあのまなざしにはそろそろ辟易して来たところだ。
そう考えているとチャイムが鳴った。どうも前の家の音と違うから違和感が強い。
腰を上げて玄関を開ける。
集合住宅にあるような扉式でない扉がガラガラと音を立てる。
そこには一人の女の子が立っていた。童女と言ってもいい体格だ。
雨が降っている中緑色の合羽を着て透明な傘をさしている。
首をかしげる。叔父の家にはこの年の子供はいなかったはずだが。
「おねぇちゃん、こんにちは」
あいさつをしてきた。とりあえず返す。
「こんにちは」
童女はにっこりと笑うと回れ右をして外に駆け出していく。
そのまま一度も振り返らずにどこかに走り去って行ってしまった。
「…なんだったんだろ」
つぶやきにこたえる声は当たり前のようになく、ただ雨の地面をたたく音だけがする。
とりあえず扉を閉めて今に上がろうとすると足音が聞こえてきた。
一瞬またあの童女だろうかと思ったがすぐにその考えを打ち消す。あまりにも音が違いすぎる。
さっきの童女場ぺちゃぺちゃといった感じだったが今度の足音はもっと重たいものがたてる音だ。
なんてことはなかった。見えてきたのは叔父の姿だった。
「…お帰りなさい」
一応居候の身として迎える。
叔父は驚いたようにしてこちらを見る。まさか玄関いるとは思わなかったのだろう。
まぁ、ふつういないだろうし。
「さっき小さい女の子が来たんですけど、知り合いですか?」
叔父が玄関で傘をたたんでいる時に、何気ない風をよそおって尋ねる。
「女の子?い、いや知らないけど…」
少し怪訝に首をかしげながら否定をする。
叔父の知り合いの子供ということもないだろう。
では誰だったのか。不思議に思ったがとりあえず捨て置くことにする。
居間に戻って別段興味もわかないテレビに目を向ける。
先ほどの叔父との対話を思い返す。
どうやら私は全寮制の学校に行くことになったらしい。
編入試験は受けねばならないだろうが、今までの成績からして余裕だろうということですでに向こうも受け入れ態勢を整えて待っているから明日からもうそこに住まなければならないらしい。
荷物は、まあ修学旅行の時に持っていた着替え数着と新しく買った何着だけなので別にあわてることもない。
家は綺麗に燃え崩れたので燃え残った物は全くなかった。
だから、別に今すぐに、と言われても何も困らなかったのだが。
とりあえず今日はゆっくりと寝て明日から、ということだ。
不満も全くない。むしろありがたいとすら思った。
こちらの友達の離れ離れになるのは少々心が痛むような気もするが携帯が普及する時代だ。会おうと思えばいつでも会える。
何よりも親戚のあのおびえた目から逃げられると思えばかえってせいせいする。
よし、と気合を入れて立ち上がる。いくら荷物が少ないと言ってもカバンに詰めるなどして多少は準備をしなければならない。夜になってから初めても何ら支障はないのだがこれは気持ちの持ちようだ。とりあえずいつでも出れるようにしておこうと一時的にあてがわれた部屋に向かう。