表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ORIGINAL ESPER  作者: 瞬く心
Chapter1. あの日の出来事
5/22

#05 少年の超能力

 茜色の太陽がビルの合間に沈みかける頃。

 水平になった陽の光を後ろから受け止め、俺は目の前の悲惨な光景に目を向ける。


 「え……?」


 血の匂いが広がっていく中、抑えきれない感情が再び体を駆け巡る。

 混乱、怒り、悲しみ。

 それらの莫大な感情を支えきることができず、目から涙として溢れ出す。

 

 「嘘……だろ?」


 ローブを着た何者かが、俺の声に反応して銃を俺に向ける。

 だがそれは俺の意識には入らなかった。


 親友が、勇人が、変わり果てた姿でそこに倒れていることが信じられない。

 でも、その制服、側に転がる鞄を見れば勇人であることは明らかだった。


 「勇人……勇人っ!」


 直ぐに駆け寄ろうとした。

 刹那、空気を切り裂く音とともに銃弾は俺の目の前を通過し、左側の壁を穿つ。

 非日常なその現象に、鋭く息を詰める。 


 「――動かないで。そこから一歩でも動けば、貴方の心臓を狙うわよ?」


 声の方向を見る。

 顔はローブの陰に隠れてよく見えないが、その奥に見える鋭い双眸そうぼうが俺の目を射る。

 その双眸には、俺に向ける強い敵意だけが感じられた。

 この人は、本当に俺を殺す気だ。

 足が震え、歯が細かくカチカチと鳴り始める。


 「予想外ね、この周りには監視しているエージェントが一人いるはずなのに、侵入者が現れるなんて。どうしたのかしら」


 目を細めながら、小声でブツブツとそんなことを呟く。

 未だ衝撃の収まらない俺には、その言葉の意味を理解することは出来なかった。

 勇人は、仰向けに倒れたまま動かない。

 その事実が、俺の恐怖と不安を極限まで増大させた。


 「……こちらSR013。緊急事態よ。……ええ。……消えた?……まさか……」


 右手を耳元に被せ、何者かと会話している。

 会話の断片から聞こえる情報は、何か重要な事を含んでいるように思えた。

 だが脳の思考能力は、既に何処かへと飛んでしまっていて、何とかしなくちゃ、考えなきゃと思い思考を展開しても、フラッシュバックした銃弾の音と同時に四散して消えてしまう。


 どうすることもできない。

 俺には、何も出来ない。

 

 もう……諦めるしかないのか。

 あの得体の知れない人に今、ここで殺されるのか。

 それとも、生かされて無様に逃げる事になるのか。

 勇人を……見捨てることしか……出来ないのか。

 

 勇人は俺に「逃げろ」と言った。

 こうなることを、分かってたのかもしれない。

 無力な俺を、危険から遠ざけるためにそう言ったんだろう。

 俺は……お前の事を分かってたつもりで、何も知らなかった。


 ごめん……勇人。

 

 「お前を救ってやる」なんて思いながらここまで来たけど、結局、このザマだ。体が震えて動くことすら出来やしない。

 

 こんな俺を恨んだっていい。蔑んだっていい。馬鹿にしたっていい。

 それを受け止めるのが俺の……せめてもの責任なんだろう。

 自分勝手な考えだってことは分かってる。でも、俺にはそうする事しか出来ない。


 俺には……もう何も……


 

 

 ――出来るだろう。


 

 

 ……え?


 ――お前は、自分の親友だけじゃなくて、自分の事すら分かっちゃいない。

 

 な……なんだ……これ?


 突然、頭の中に鋭い声が響く。

 誠は外から話しかけられているような、自分自身が話しているような、不思議な感覚に陥っていた。


 ――お前には、がある。ほかの誰とも違う、特別な。


 俺に……力?そんな……ものは……っ!


 ――気づいたか?そう、それがお前の力。それを使え。


 で……でも、相手は、銃を持ってる。近くに寄れないんじゃ、何も……


 ――出来る、と言っただろう?やれよ。近寄らなくても、潰せばいい。


 ……潰す?どうやるんだ?


 それに対する「声」の返答は、無かった。

 

 再び不安が広がっていく。

 「声」は、俺の力、つまり俺の常人離れした腕力を使え、と言ったのだろう。

 だが、どう使えばいいっていうんだ。こんな恐怖に支配された体で。

 未だ震えが止まらない。指一本でも動かせば、やつが銃を撃ち、俺を殺すという確信を抱いてしまうほど、やつから発せられる威圧感は凄まじいものがある。

 そんな中で、どうやって。

 

 恐怖は全身を芯から凍らせるように覆い、油断なく誠を観察するローブ姿の少女からは一切の感情も感じない。

 命のやり取りが行われる場所となった路地裏で、誠は錆び付いたように動かない脳を必死に回転させようと試み――



――面倒だな。俺、借りるぞ。

 「声」が、返答を返す。


 ……え?

 

 突然、スッ、と眠りにつく時のような感覚が誠を襲う。

 

 ちょ…ちょ待っ


 次の瞬間、誠の意識は深海に飲み込まれるように消えていった。






 

 ◆

 (……何だ……?)


 少女は、少年の雰囲気がガラリと変わったことに気づき、警戒心を強める。

 恐怖に捕らわれているように見えた先刻とは違う。

 彼の周囲からピリピリとした空気が広がっている。

 

 殺気。

 

 うつむいた姿からは、何を考えているのかを読み取ることは出来ない。だが、彼から発せられる圧力は、本物だ。

 一体、彼に何があった?

 

 先刻、あまり芳しくない情報を聞いた。

 それが、この現象を引き起こしているのだろうか。

 だとしたら、「奴ら」は本当にここへ来ているという事か。

 撤退。

 その判断が頭に浮かび始めた時。

 彼が動きを見せた。


 瞬間、少女は驚愕した。

 さっきとは明らかに雰囲気が違う。

 バランス悪く、仰け反るように立つ姿からは、一切の隙を感じさせない。

 その変化だけでも「異常」だが、それよりも「異常」なのは。

 彼の黒目が、真っ赤に染まっていた事だ。


 それは、二つの可能性を持つ。

 一つ目は、彼が「アルビノ」と呼ばれる天性的遺伝子疾患を持つ人である、という可能性。

 だが、彼は先刻までしっかりと確認したわけではないが、黒目だった。

 それに、赤目となるのはアルビノの中でも稀な為、可能性は低いと考えられる。

 そして、二つ目。

 ――超能力者である、という可能性。

 超能力者は、得てして力の発動時に赤い目を持つ。

 何故かは、未だに分かっていない。

 だが、何か身体的に意味を持つ現象であろうという事は研究者の誰もが思っていることだ。

 

 (まさか……こいつも)

 

 いや、まだ確定ではない。なら、確認するしかない。

 

 ――――奴が、超能力チカラを持っているかどうか。

 右手の拳銃を、素早く腕を伸ばして少年へと構える。

 狙いは、心臓の存在する、左胸。

 少年はこちらの様子を見ているのか、動く気配は無い。

 彼が私を見くびっているとしたら、思い知らせてやる。

 大きく息を吸い、ふっ、と吐くと同時にトリガーを引き絞る。

 勢いよく放たれた銃弾は、音の残響が消えるよりも早く標的へと到達し、真っ赤な血が少年の制服を染め、仰向けに倒れ、息を止める――――はずだった。


 不可解な現象が発生した。


 銃弾が少年の心臓を射抜くまであと数コンマといったところで、少年の目が銃弾を捉え、右手が尋常で無いスピードで伸び、それを掴み、握り潰したのだ。


 右手の拳の間から流れ出る、細かい金属片となった銃弾・・を見て、少女がそう理解するのに、数十秒という時間を要した。

 そして、確信した。


 こいつも、「超能力者」か、と。 


 (状況が、危険すぎる)


 監視エージェントの消失。

 新たな超能力者。

 2つの問題は、少女だけで処理するには大きすぎるものだった。


 今すぐこの少年を処分し上へと報告出来ればいいが、その間に監視エージェントを消失させた「奴ら」が来てしまったら、圧倒的不利に陥ってしまう。


 (撤退するしか……ない)


 そう考え、体を屈め、跳躍しようとした次の瞬間。

 少年が、勢いよく地面に拳を叩きつけた。

 その衝撃は凄まじく、大きな亀裂を縦横無尽に走らせ、衝撃波で壁の表面が削れ、破壊されたパイプからは水が溢れ出す。


 少女は、辛うじて飛び退き地面の亀裂は避けたものの、衝撃波をもろにくらいよろめく。

 意識が朦朧もうろうとする。


 だが、少年の暴走はそれで終わらなかった。


 しばらく地面に拳を打ち付けたままの体勢だったが、ゆらりと体を持ち上げ、真っ赤な目で少女を確認した途端、獰猛な笑みを浮かべた。


 近くに倒れていた巨大なパイプを、腕の力だけで引き剥がし、バーベルを担ぐように頭の上へと持ち上げる。


 ようやく意識がはっきりとし始めた少女が彼を見た時には、既にそれが放り投げられていた。


 少年と少女の間は約十五メートル。


 少年の異常な膂力で投げられたそれを避けるには、余りにも短すぎて――――


 巨大パイプは轟音と共に少女の立っている場所を直撃し、その背後の建物を半壊させ、その瓦礫はことごとく真下へと降り注いだ。


 

 


 数分後、ごうごうと水が流れていく音の中で、瓦礫の山から少女が出てくることは、無かった。





next#06 死

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ