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団結 〜兄たちは奔走する〜

 翌朝目が覚めると、下腹部に鈍い痛みがあった。

「はぁ・・・またか・・」

 リュエマは覚えのある痛みにため息をつく。「月の穢れ」が訪れる前触れだった。

 侍女に命じて痛み止めの薬湯を用意させてから、だるい身体をなんとか起こして騎士装束に着替える。

 今日は午後からエルン皇家のティアーヌ様のお供をして、ハンクルイエ公爵家の屋敷にある薔薇園を見に行くのだ。


 こんな日は、ずっと横になっていたいのが本音だったが、仕事なのだから仕方がない。

 苦い薬湯を飲み干し、憂い顔のまま朝食の支度が調った食卓に向かえば、珍しく兄たちが勢揃いしていた。


「おはよう!リュエマ」

 そう一番に声を掛けてくるのは次兄のトリステラだった。いつもの黒い騎士装束姿だ。

「おはよう」

 優しく微笑みながら椅子を引いて座らせてくれたのは四男のファルアルド。黒い騎士装束だが、オシャレな彼らしく瞳の色に合わせたのか、胸元の金糸の刺繍が入った深い緑色のタイがよく似合っている。

「ん・・・顔色があまり良くないね。眠れなかった?」

 隣に座って覗き込むようにささやくのは三男のジルビリアン。こちらも近衛騎士の黒い騎士服姿だ。昨日の話を気にしてくれているのだろう。 

「久しぶり・・・」

 手にしていた本からチラリと目線を上げただけの短い挨拶は五男のラスティアル。こちらは白いシャツに黒いベストといういつもの格好だ。ラスティアルは騎士団に所属しているが、その優秀な頭脳を認められて、将来の官僚候補として東の街にある大学に通っている。そのために下宿していて、家に帰っているとは聞いていなかったリュエマはちょっと驚いていた。

「おはようございます、兄上達、今朝はおそろいなんですね」

 そうリュエマが微笑むと、コホンと咳払いをして長兄のリダルートが注意を惹く。騎士団に所属していない彼は、深い青色の上品な色合いのエファーを品良く着こなしている。

「リュエマ、おはよう。あまり顔色が良くないが、大丈夫か?」

「はい。あの・・・いつものアレなので、お気になさらないで下さい・・・」

 さすがに「月の穢れです」とは言えず、かといって気遣ってくれている兄たちに何も告げないのもどうかと思ったので、羞恥に頬を赤く染めながらも、リュエマは「報告」した。

「ああ・・・」

 その報告を聞いた兄たちも察しがついたようで、食卓には微妙な空気が流れた。 

「その・・・、薬湯は飲んだのか?」

「ええ。お気遣いいただきまして、ありがとうございます」


 今朝の朝食は、テファという豆のスープとハムとチーズを挟んで焼いたパン。デザートは酸味のあるカエテの実を発酵乳で和えた甘いものだった。

 兄たちは雑談のように、それぞれの仕事の報告などを話しながら食べている。

「そういえば、今日もエルンの姫君のお供をするんだって?」

 トリステラがリュエマにも話を振ってくる。

「はい。ハンクルイエ公爵家で、薔薇園を見せていただく予定になっております」

「ん〜〜、それ、俺も一緒にいこうかな〜」

 笑顔でトリステラが告げるが、目が笑っていないのをリュエマは気が付いていた。

「トリス兄上・・・かまいませんが・・・」

 何かあるのだなと、リュエマは直感的に悟る。

「そろそろ出かける支度をしてきます。トリス兄上一緒に行かれるのでしたら、お急ぎ下さいね」

 そうリュエマが告げて食堂を出る。


 リュエマが去った食堂では、五人の兄たちが声をひそめて話し始めていた。

「確かに体調は悪そうだったが・・・」

 と、五男のラスティアルが眉をひそめる。

「それは「月の穢れ」だからか?女性はその少し前から精神的にも不安定になるよ」

 と、四男のファルアルド。

「いや、明らかに寝不足だろう・・・」

 と、気にしているのは昨日リュエマの涙を見ている三男のジルビリアン。

「まぁ、今日は俺が付いてるからさ。エルンの姫君達のことでちょっと気になることもあってね・・・」   

 と、軽い口調で話すのは次兄のトリステラ。

 すると、ダン!といきなり大きな音が食堂に響き渡る。それは長兄のリダルートが拳を食卓に叩き付けた音だった。

「リュエマを泣かせるなどと言語道断!!王子だからといって許すことは出来ない!!」

 リダルートの地を這うような怒りの言葉に食堂は一瞬、シーンと静まりかえる。

「ま、まぁ・・・リダー兄上、今日はトリス兄上が付いていてくれるし」

 慌ててジルビリアンが取りなす。

「トリステラ!またあの王子がリュエマを泣かせるようなことがあったら、切って捨てろ!」

「いや・・・リダー兄上それは無理でしょ。一応俺たち王子の近衛で・・・」

「例え王家の人間だろうが、可愛いリュエマを傷つけるなどお前達は許せるのか?」 

「「「「いや・・・」」」」


 この五人の兄たちは、リュエマに関しては実はとんでもない「兄馬鹿」なのだ。

 昨日リュエマが泣いたのをジルビリアンから報告されたリダルートが、今朝、兄弟達に非常招集をかけていたのだった。

 五人の中でも特に、普段は冷静な鉄面皮の長兄リダルートは「兄馬鹿」の上に超が幾つ付くか分からないくらいリュエマを大事にしている。普段は全く表に出さない分、その根は深いのだ。


「しかし、あの王子はきっとリュエマを大事にしてくれると思うんだけど・・・」

 と、優雅にお茶を飲みながら、ファルアルドが呟く。

「ああ、何故、リュエマが頑なに拒むのかわからないね」

 と、首を傾げるのはジルビリアン。

「確かにうちの家柄はそこそこだけど、釣り合わないとは思えないし・・・」

 と、本から目を上げずにラスティアルが呟く。

「リュエマは騎士としても一流だし、母上のおかげで姫としての所作も完璧だ。将来王妃になっても全く問題ない!」

 そうリダルートが言うと、他の四人も大きく頷いた。

「どこの馬の骨ともわからないヤツに嫁がせるくらいなら、多少軟弱でも未来の王に嫁がせるのは最高の縁談だとは思うんだけど・・・」

 出かけるために急いで略式礼装のマントを羽織りながらトリステラが言う。

「ああ、それはそれでリュエマがしあわせになれるというのが第一条件だがな」

 リダルートが言い切ると、

「もちろんそうだ!」

 と、四人はうなずき合った。


「とりあえず、私は離宮にいらっしゃる父上に今回の騒動をどう思われているのか、手紙でお伺いをしてみるよ」

 そう、リダルートが言う。

「私は王子が暴走しないようにしっかり見張ります」

 これは王子付きのジルビリアン。

「俺は情報収集しつつ、リュエマの側にいるようにするよ」

 次兄のトリステラが請け合う。

「私は母上にご意見を伺ってこよう。リダー兄上、ついでに父上へのお手紙も私が届けますよ」

 そう四男のファルアルドが微笑む。

「私は・・・気になることがあるので、ちょっと調べてみます。そのために、侍女に聞き込みをしてもかまいませんか?」

 そうリダルートに許可を求めるのは五男のラスティアルだ。

「ああ、いいだろう」

 そうリダルートが答えた。

 「リュエマのために!」

 リダルートが右手の拳を突き出すと、他の四人も右手で拳を作って、リダルートに向けて唱和する。

「「「「リュエマのために」」」」 

 その時、ノックの音が響いて、扉を開けてリュエマが顔を出した。

「トリス兄上、行きますよ!」

「ああ、今行くよ」


 知らぬは本人ばかりなり・・・。

 リュエマは妙に気合いの入った兄たちに見送られ、首を傾げながら城へ向かうのだった。

 お待たせしました。


 サクサク進めるつもりが・・・兄たちが暴走してます(笑)

 

 次回から、もう少し話は進むと思います。


 もう少し、お付き合い下さいませ。


 雨生あもう

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