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嘆きの姫騎士 〜姫騎士は涙する〜

「はぁ・・・」

 夕暮れの執務室で、幾度目になるかもう数えるのもうっとおしいくらい繰り返されるため息。

「いい加減に諦めたらどうなんです?」

 背に流した美しい金の髪をかき上げながら、そう声を掛けるのは、シャルア男爵家の三男ジルビリアンだ。彼の仕事は王子の護衛騎士だった。

 何度も繰り返されるため息の主は、ノルディアス王子その人だった。

「ほら、手が止まってます。ちゃんと書状に目を通して下さいよ。終わりませんよ!!」

 頼むから、仕事をしてくれよと、ため息を付きたくなるのはジルビリアンの方だった。

「ジルビリアン・・・何でダメなのだろうな・・・」

 書状から目を上げたノルディアス王子は、まるで捨てられた子犬のようで、耳としっぽがあれば両方ともシュンと垂れているに違いないと、ジルビリアンは思った。

 

 ノルディアス王子が午後の弓の練習から戻って来たと思ったら、酷く落胆した様子でため息ばかり。放っておくと執務に差し障りが出そうな感じだったので、話しを聞くと、

「リュエマに、改めて気持ちを伝えたら、ダメなんです!と逃げられてしまった・・・」

 という事だった。

 あまりの落胆ぶりに、ジルビリアンも仕方なく話しにつきあう覚悟を決めた。

「う〜ん・・・我が妹のことながら、あの子が何を考えているのかまでは私にもわかりません」

「他に思う男や、約束した男がいるのだろうか?」

「いや・・・そんな話しは聞いたことありませんし・・・」

「私は、彼女の好みのタイプでは無いということか・・・」

「ん・・・それも違うとは思うんですが」

 どちらかというと、美形の兄たちに囲まれて育ったせいか、審美眼は確かであり、ノルディアス王子はリュエマ好みだとジルビリアンは思っていた。

「諦めきれん・・・」

 もう一度、盛大にため息をついて、ノルディアス王子は執務机に突っ伏した。

「何でちゃんと駄目な理由を聞かなかったんです?」

 崩れそうになった、執務机の上に積まれた書状をそっと用心深く押さえながら、ジルビリアンは聞く。ここで理由をあれこれ想像してウダウダ悩むくらいなら、さっさと玉砕してすっきりしてくれた方がマシだと思う。もちろん、人ごとだからだが・・・。

「いや・・・あまりにも見事な逃げっぷりに見とれて見送ってしまったのだ・・・」

「はぁ・・・分かりました。なんとかしますよ。その代わり、玉砕したら潔く諦めて下さいよ!」



「最悪だ・・・」

 リュエマは自室のベッドに倒れ込み、自己嫌悪に陥って項垂れた。

 こうなることは分かっていたはずなのに、どうして王子の誘いを断れなかった?いや・・断らなかった?二人っきりになどなったら、口説かれるに違いないと分かっていたはずなのに・・・。

「私は・・・王子の妻になる資格が無いというのに・・・」


 嫌じゃなかった。

 むしろ、嬉しかった。

 だから、逃げ出した。 


 ノルディアス王子が自分に向けて言ってくれた「好きだ」という言葉と、彼の真摯な眼差しが頭の中を離れていかない。

「理由を言えずに逃げ出すなんて・・・最低だ・・・」

 気が付けば、リュエマの頬には涙が流れていた。

「ああ・・・私は・・・」

 いつの間にか、ノルディアス王子にとても惹かれていたのだと改めて自覚する。



 しばらくウトウトしていたのだろうか。気が付けば部屋の中に夕闇が入り込んで来ていた。部屋の中に人の気配がして、そっとベッドサイドのランプに明かりが入る。天蓋の紗幕にある草花の模様が優しい灯りの中に浮かび上がり、その向こうにある背の高い人の影を映し出す。

「リュエマ?眠っているのか?」

 寝台の天蓋の向こうに立っていたのはジルビリアン兄上だった。

「ジール兄様・・・」

「ちょっと話してもいいか?」

 ためらいがちに声をかけてくる。ジルビリアンは兄たちの中でもとても紳士的な人なのだ。無遠慮に天蓋を開けて覗き込んできたりはしない。

「ええ。少し待って下さい」

 寝乱れてしまった服と髪をさっと整えると、リュエマはそっと天蓋を開けた。


 ジルビリアンはランプをサイドテーブルの上に置いて、椅子に腰掛けて待っていた。

 リュエマが向かいの椅子に座ると、ジルビリアンはそっと切り出した。

「今日の午後の事なんだけど・・・ノルディアス様は酷く落ち込んでおられたよ」

「・・・そう・・ですか・・・」

 リュエマは胸の奥がギュッと痛くなるような気がした。

「確かに、うちは爵位もそんなに高くない。けれど王子の相手に相応しくないというほどの家柄ではないよ」

「はい」

 それはリュエマも分かっている。

「他に、好きな男でも居るのかと、王子は気にしておられたよ」

「いえ・・・」   

 ジルビリアンは小さくため息を付いた後、そっとリュエマの頬に手を伸ばしてきた。

「リュエマ、何を悩んでいるんだい?」

 そう言いながらジルビリアンはリュエマの頬についたままだった、涙の跡を拭った。

「ノルディアス様のこと嫌いな訳ではないよね?」

 気丈な妹が涙を流すほど悩んでいるのに、何かしてやれることはないのか?そんな気遣いがジルビリアンの瞳に見えて、リュエマは何も言えずに俯いて、嘘をつけなくてそっと頷いた。

「じゃあ、何がダメなのか教えてくれないか?このままでは・・・王子も、それにリュエマも辛いままだろう?」

「ジール兄様・・・」

「いや、俺にじゃなくて、直接、駄目な理由をノルディアス様に伝えないか?」

「それは・・・」

「彼は真剣にリュエマを好きで、その思いを告げたんだ。だから、リュエマも断るにしてもちゃんと向き合わなければだめだと思うよ」

「少し・・・考えさせて下さい・・・」

 

 きちんと本当の理由を言わなければ、ノルディアス王子は納得しないだろうとジルビリアンは言っているのだとリュエマには分かったが、その勇気が無い自分は意気地無しだとリュエマは思った。

 そして、そんな自分がとても嫌いだった。


 随分とお待たせしました・・・。

 待って下さっていた方々、本当に申し訳ありません。


 あんなに予防していたのに、かかってしまいました、インフルエンザ!!

 家の外での予防はバッチリでも、身内がかかってしまえば意味もなく・・・しっかり、がっつりもらいまして・・・。

 

 まだまだ流行っております。

 皆様もお気を付け下さいませ。


 リュエマ、何をグズグズ悩んでいるのか、そろそろハッキリさせなきゃと思います。


 次はそれほどお待たせしないと思います。


 もうしばらくお付き合い下さいませ。


 雨生あもう

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