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姫騎士の悩み 〜姫君の秘めたる悩み〜

この物語は「正妃の偽り」の番外編として書かれた物ですが、「正妃の偽り」をお読みでない方にも、単独でも楽しんで頂ける内容となっております。

 私は、生まれそこないなのではないか?

 やはり男に生まれるはずが、間違って女に生まれてしまったのでは?


 カッ・・・タン!

 放たれた矢が、的に突き立つ。

 次の矢に手を伸ばしたが、矢筒の中はすでに空だった。

「ふうっ・・・」

 リュエマはため息をついて、的に向かって歩いていく。

 普通の騎士の装いよりも、若干裾が長めに作られている紺色の騎士服の裾を翻して、颯爽と歩く姿はなかなかに凛々しい。


 リュエマの悩みは深刻だった。

 母は「個人差があることですから、そんなに考え込む必要はありませんよ」と、慰めてくれるが・・・。

 リュエマは重いため息を付きながら、的に刺さっていた自分の矢を集めていくのだった。

  

 リュエマはシャルア男爵家の姫だった。爵位はそれほどでも無かったが、この家からは歴史に名を残すような優秀な騎士を多く輩出しており、武門の誉れとして一目置かれる存在だった。

 実はシャルア男爵家は男系で、姫が生まれたという記録がほとんど無い。

 リュエマは実に三代前に生まれたファリマシア姫以来、久しぶりにシャルア家に生まれた姫だった。

 美しい真っ直ぐな癖のない黒髪と、キリリとした印象の柳眉に深い青の瞳、すっきりとした鼻梁。日にさらされても一時赤くなるだけで日焼けしない白い肌に、紅を差さなくても赤い唇。リュエマは黙ってドレスを着せて座らせておけば、求婚者が溢れそうな美姫であった。男系の家系ではあったが、兄たちもみな美男で見目麗しかったのだ。

 5人の兄達は、リュエマを可愛がってくれたし、騎士として必要な乗馬や弓術、剣術に槍術、体術などを皆で競って教えてくれた。

 だからリュエマは姫であったが、少しばかり腕に自信があるというような騎士になら負けないくらいの立派な女騎士になってしまい、姫らしく育てたかった母を嘆かせていた。

 だが、一応、母の機嫌を損ねないように、ちゃんと姫としての教養も学んでいたので、社交の場では姫としての振る舞いは完璧であった。

 だって・・・家の中で誰よりも機嫌を損ねると怖いのは、母だったからだ。

 リュエマは社交の場にドレス姿で出かけるよりも、騎士服で弓や剣の稽古をしたり、乗馬に興じている方が自分らしいと感じていたが、母の期待を裏切らないように、社交界デビューした去年の春からは、ちゃんと姫として夜会や茶会に出席していた。

 家を継ぐ長兄のリダルート以外の4人の兄たちは、皆、王宮に使える騎士団に入っていき、年頃になったにもかかわらず、「女騎士」のリュエマには縁談の話しが来ない。

 リュエマはこのまま、女騎士として生きていくのもいいかもなと思っていたが、両親は娘の花嫁姿を楽しみにしているというし・・・。


 そして、リュエマを悩ませるもう一つの元凶・・・それは・・・。

「リュエマ〜!おはよう!」

「まっ、また供も連れずにあなたという方は!!」

 ひょっこりと生け垣の上から顔を出して、無邪気に微笑む黒髪の青年。よく見れば陽の光に透けると藍色に見えるその髪は、このリアルシャルンの王家男子にのみ受け継がれる色で、その瞳も同じ深い藍色だ。

「ノール様〜!ノルディアス様〜!」

 遠くで呼ぶ声は、リュエマの兄で王家の護衛騎士をしている三男のジルビリアンだ。

「ジール兄上!こちらです!」

 そう呼ぶと、息を切らしたジルビリアンが現れた。

「ノ、ノルディアス様っ・・・わ、私を置いて勝手に居なくならないで下さいと・・・あれほどっ!・・申し上げたでしょう?」

「ジール兄様、とりあえずお水をどうぞ・・・」

「ああ、リュエマ、ありがとう」

 ジルビリアンは母譲りの美しい金の髪を邪魔くさそうにかき上げて、水を飲み干した。 相変わらず、二人ともキラキラしくて無駄に美しいなと、リュエマは心の中で呟く。

 リュエマの傍らでジルビリアンに説教されながらもケロっとしている濃紺の髪に瞳のノルディアスこそ、この国の世継ぎの王子なのだった。

「最近は宮廷内でこの二人を主人公にした「戯れ本」が出回っているんだよ」

 と、情報通の次兄トリステラが笑いながら教えてくれた。

「そんな物を我が家に持ち込むなよ!ましてやリュエマに見せるな!」

 と、長兄のリダルートに釘を刺されていたが・・・。もちろんそんな物に興味は全くないリュエマだった。


「そんなことより!」

 ノルディアスに突然手を取られて、リュエマは現実に引き戻される。

「今日の茶会にはリュエマも来るんだろう?」

「はぁ、まぁ、呼ばれておりますので・・・」

「ドレスで来るんだろう?」

「まぁ、一応・・・」

「楽しみで、待ちきれなくて来てしまったのだ!」

「はぁ・・・」

 リュエマはため息をつく。

「ノルディアス様・・・この時間は朝議のお時間では?」

「そうなんだよ!お部屋にお迎えに上がったら、いらっしゃらないから、もしやと思って来てみたら、やっぱり我が家にいらっしゃったとは」

 ジルビリアンは頭が痛いという風に、額を抑えている。

 リュエマも大きなため息をついて、空を仰いだのだった。


 初めましての方も、お待たせしてしまっていた方も、改めましてこんにちは。

 

 「正妃の偽り」の番外編となります、「あなたにつづく物語」〜「正妃の偽り」外伝〜の第1話をようやくUPできました。

 短編にするつもりが・・・あれよあれよと言う間に広がって、ちょこっと連載になりそうです。しばらくおつきあい頂ければと思います。


 あくまでもこちらの話しは番外編でして、「正妃の偽り」をサイドストーリーとする「本編」は、お届けするのはもう少し先になります。

 ひとまず、この番外編をお楽しみ下さいませ!


 雨生あもう

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