エピローグ
「すみませ~ん、私はこれで失礼します。」
荷物をまとめた孤雪はバタバタとしながら部屋を後にした、
扉を閉めたその先は人一人が通るぐらいの通路になっていて、すれ違う社員たちに「おつかれさまでした~」と、あいさつをしながら通路の端によけるのだ。
孤雪はこの会社に入社してからまだ四ヶ月なのでばりばりの新人である、本来ならば覚えなければならないことがたくさんあるため徹夜してでも会社に残って少しでも頭に叩き込んだ方がいいんだろうが、今日だけは早く帰らなければならなかったのだ、駐車場についた孤雪は自分の車に乗り込み車を発進させた。
自宅への帰り道は駐車場を出た後に右折するのだが、今日は左へとハンドルを回した、というのも自宅に帰る前に寄るところがあるからだ。
「すいませ~ん!」
店の入り口で声を上げると中から景気のよさそたうなおばあちゃんが出てきた。
「予約の方かい?」
「はい、そうです。」
それを確認すると、おばあちゃんはまた店の奥に引っ込んで、すぐに小さな花束を2つ持って現れた。
「あんた、凄く美人だかんね、この花もおまけしちゃう。」
そう言うと近くにあった花の束から凄くきれいな淡いピンク色の花も付けてくれた。
「ありがとう。」
そう言ってお金を渡し、店を出た。
今年で10回目となる花束は、毎年ここの花屋で買っている。
そして車を10分ほど走らせて向かった先は多くの人が眠る場所、聖地の丘である、ここには真里と紗英が眠っているのだ。
車を駐車場にとめて、2人の墓へと向かった。
「久しぶり。」
私は2人に一声かけてから添えてある花を取り替えたり、墓の掃除をした、とても心地よい風が線香の煙りを漂わせた。
ここは文字通り丘の上にある公園なのでとても見晴らしがいい、特に2人が眠っている眼下には私たちの小さな町が一望できる素晴らしい場所なのだ。もうあれから10年も経ってしまった、まったく月日が経つのは早いもので、この10年で私は結婚して生まれた子供はもう小学生になってしまった。
……いったい真里が駆け出した理由はなんだったのだろうか?
何故、真里は私が叫ぶまで崖の存在に気づかなかったのだろうか?
何故、紗英も真里と同じ谷の底から見つかったのだろうか?
そしてなにより、2人が生きていたならどんな人生になっていたのだろうか?
10年間ずっと考えていたことだが何一つ解決していないのだ、警察はこの事件を不慮の事故として処理していたが、2人とも同じ谷底に転落してしまったなどという偶然があっていいのだろうか?どれだけ考えたところで真実はこの2人以外誰も知らないのだ。
「……さてと。」
孤雪は立ち上がって腕の時計を見た、時刻はすでに5時半になっていてあたりも暗くなってきた、孤雪はもう一度2人の墓の前で手を合わせると満足げな顔で自分の車へと向かっていったのである。
「ただいま~」
「おかえり~」
リビングの方から小1になったばかりの隆史の返事が聞こえてきた、いつもなら5時ぐらいに帰ってこれるため留守番を任せているが、今日は墓参りに加えて、帰りにスーパーに寄ったため少し遅くなってしまった。
「一人で大丈夫だった?」
ここらへんは比較的治安が良いため、そんなに心配することもないが、母親というものはやはり我が子が愛おしくてしょうがない。
「5分ぐらいなんともないよ。」
5分なわけあるか!
まったくこの子は……
親が心配しているのに今さっきまで遊んでいたのか、小学校一年生がこんな時間まで遊んでていいはずがない、
なんと言うか、バカ正直というか……
「門限は5時って言ったでしょ。」
今までテレビを見ていた隆史がふてくされた顔をしてこちらを振り返った。
「見たいテレビがあったからちゃんと5時には帰ってきたよ~。」
「ふ〜ん、それならよし。」
私は買ってきたスーパーの袋を持ってキッチンに向かいながら気づいた、
……あれ?
隆史は留守番をしていたのは5分と言っていた、矛盾してないか?
私は袋を持ったまま隆史の方に向きを変えてちょっと強めに言った
「本当はさっき帰ってきたんでしょ!!最初に5分って言っちゃったからあからさまな嘘ついて!!」
「嘘じゃないもん!!さっきまでお母さんもいたじゃん!」
でた!!
子供特有の自己防衛!!言っていることがあってようが、あってなかろうが、とにかく自分の証言を突き通すあれだ!!
「僕が5時に帰ってきてからすぐにお母さんも帰ってきて――……」
まずい、
半べそになりつつある、泣かれるとやっかいだから、強く責めるのは止めよう
「それで、お母さん何も言わないから―…怒ってるのかと思って―…そのまま外に行っちゃって……」
「本当のことを言いなさい、怒らないから」
「お、おこってるじゃ~ん!!」
その後すぐに
うわぁぁぁああああん!と泣き出してしまった、
どうも叱るというのは苦手だ、そんなに責め立てたつもりではなかったんだけど…
今度は優しく語りかけるように言ってみた
「本当に怒らないから言ってごらん」
すると顔を覆っていた手の隙間から本当?、と訴えかける目をしてきたので優しくうなずいた。
「そ、その後すぐにお母さん帰ってきて…怒ってなかったから安心して―……」
あれ?
私は本当のことを話して欲しかったのに、さっきの話しの続きではないか!
だが妙である、ここまで優しく言って(本当に怒る気は無い)いるのに子供は嘘をつくだろうか?
その間にも、隆史は5時前後の私の話しをするのだ、どう考えてもそんな時間に家には着いていない。
「何かおかしい、」
孤雪が感じたのは話しの矛盾点だけではなかった、隆史の話しに何か別の違和感を感じ取ったのだ
それは次第に大きな不安、いや、恐怖に近いものへと変わっていった。
そして思い出したのだ、こんなように話しがかみ合わず、大きな不安にかられたことがあったことを、
…確か10年前に真里との会話が同じような感覚だったのだ…、そう、あの時の感覚にとても近いのだ、そしてこの後真里がどうなったのかを思いだしてしまった。
孤雪は頭の思考回路をフル回転させた、
この2つの共通点はなんだろう?
(…いったい真里が駆け出した理由は何だったんだろうか?)
何かあるはずである、過去と現在とで共通するものが!!
…この時孤雪は一つの原因が頭に浮かんだ、それは常識で考えれば有り得ないものだが、今の孤雪にはこれしか浮かばなかった、
10年前、紗英と真里に何があったのかは分からないが、物理的なものではない『何か』があったに違いないのだ、
方程式が2つあれば解を導き出せるように、過去と現在の『違和感』を照らし合わせることで孤雪は一つの解にたどり着いた。
「…ドッペル……ゲンガー……」
……が、すぐにその解は無意味だと知ることになる。
隆史が見ていたテレビでは、ちょうどある超常現象の特番をやっていて、ゲストが都市伝説的はことをベラベラ語っていた、
[自分の分身を見てしまったら死ぬとも言われていてー………]
この時の孤雪の顔は絶望の色に染まっていただろう
…なぜなら、見てしまったのである、
時間にしてコンマ数秒、
呼吸は止まり、
時計すら止まったかのようなほんの刹那な時間だった、
テレビの横の窓ガラスから、
自分自身と認めざるをえない『何か』を見てしまったからである―…
……―もし、あなたが誰かの分身や何かの同位体に出会ってしまったら、
すぐにその場から逃げることをおすすめします。
…―まあ、分身とオリジナルを同時に見比べて区別をつけたとしても
分身をみる=死なんですがね。
どうでしたか?
小説は初心者なので
感想をお待ちしております。m(_ _)m