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あの日の約束  作者: テト
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あの日の約束

月曜日の朝8:15


「もう、時間だから!」


月曜日というのは休みあけで、いろいろばたばたしてしまうものである、目覚まし時計を7時にセットしておいて、7時に止めたとこまではいいが結局二度寝、母親に起こされて起きたのは7時50分になってしまい、支度をするので精一杯になってしまった。


「ご飯は~!!」


「そんなの、いらない!!」


バタン!

玄関のドアを勢いよく閉めて学校へと向かう、自分でも感じているのだが、高校に入ってからよく親に反抗するようになってしまった、今朝も母親に起こされなければ確実に遅効していただろうに、


「なんでもっと早く起こしてくんないの!?」


と、怒鳴ってしまった、父親に関しては一週間ほど口すら聞いていない。どうにもならない自分の感情にイライラしつつも、気持ちを切り替えていつもの集合場所まで急いで向かった。


「遅いよ紗英さえ!」


「ごめん、寝坊した」


この子は狐雪こゆき、小学校からの親友で高校まで同じになった。

いつもの集合場所というのは家から数十メートル離れたとこに『桜橋』の手前のところ、べつにこの橋を渡るわけではないが、歩行者専用の小さな橋になっていて車も来ないし待ち合わせにはちょうどいい、私たちの思い出の場所でもある。


「急いでもダルいから、ゆっくり行こう。」


「そうだね」


遅れてきてなんだが、私の提案を狐雪はすんなり受け入れてくれた。ここが狐雪のいいところの一つで、私のわがままをすんなり聞き入れてくれるのだ。そんな狐雪に感謝をしつつ、ゆっくりと学校へ向かったのだった。


結局学校に着いたのは8時40分、登校時間が8時15分だから35分も遅刻してしまった。


……先生に怒られたのは言うまでもない


「まったくなんだよ原田のやろう、遅刻ぐらいでぐちぐちうるさいと思わない?!」


1限の休み時間私は担任である原田の悪口を言う、だって原田と言ういかにもムッツリしている50前後のおっさんは、小さなことでとにかくうるさい、学校の中では小心者として有名だ、


「まぁ、1限の途中から入れたからからいいんじゃない?」


隣のクラスである狐雪は、いつも休み時間になると私のクラスに来ている、っというのも狐雪のクラスの女子はちょっと地味な女子たちで、狐雪には合わないらしい、


「…それ、回答になってないよ。」


「だって原田とか、考えるだけ無駄だもん」


確かに、原田のことは考えるだけ無駄である、考えてもイライラしてくるだけでいいことなど1つもない、

……だけどどうしょう、休み時間はまだあるけど話題が無くなってしまう、狐雪とはいつも一緒にいるから話題という話題も共有してしまっていて、特に無いんだよな…そんなことを考えていると狐雪の方から話しを振ってきた


「ドッペルゲンガーって知ってる?」


「…っえ?どっぺる…なに?」


「ドッペルゲンガーだよ、なんかの雑誌で見たんだけど、自分にそっくりな分身が現れる現象なんだって。」


いきなりオカルトな世界の話しになってしまった、べつに狐雪はオカルト好きでもないのにどうしたのだろう?…


「ふ~ん、で、それが?」


「なんか最近変な夢を見るんだよね、」


「夢?」


話しをまとめると狐雪の夢の内容このようなものでした、

夢の始まりは私たちが小さいころよく遊んだ『桜橋』の端に狐雪が立っていて、橋の中央あたりを眺めるとこから始まったそうです。時刻は夕方、それも昼と夜が入れ替わ薄暗いい感じ、ぼ~っと中央を眺めているとこちらを向いて佇む女の人が現れるそうです。なにぶん薄暗いものですから、顔までは見えないのですが彼女の脳が、目が、心臓が、とにかく体全体があの女の人は私自身だ、と訴えかけるそうです、そのままその女に導かれるように橋を渡って行きます。橋を渡ったところには林があり、そこは私たちが小さいころによく遊んだ場所で、夕方暗くなるまでこの橋や、林で遊びました。

その後、女の人はその林道に吸い込まれるように闇に消えていって、狐雪はそれを追いかけようと林道に足を踏み入れた瞬間に夢から覚めるというものでした。


「こ、怖いね、でもそれってドッペルゲンガーなの?」


これは私の正直な感想、孤雪の話しを聞いた私だったが、とても馴染み深い場所なのでべつに怖いわけではなく、ただ、

ちょっと不思議だねっと思った程度。


「私にもよくわかんないんだよね」


そんな時、ふっと私は思い出しました


(…そういえば、林の奥に小さなお稲荷さんがあったはず―…)


私たちが小さなころはよくお参りに行ったが、最近は行っておらず、存在自体忘れていた、あのお稲荷さんは今ごろどうなってしまっているだろう?もしかしたらもう無くなってしまっているかもしれないと考えていたら、背中に強い衝撃が走った。

ドカッ!!


「いたっ!!」


「何の話ししてるの?」


誰だよ!っと思って振り返って見る真里まりだった、

ちなみに言い忘れていたが、真里も小さいころからの付き合いで3人でよく『桜橋』周辺で遊んだものだ、だからさっきまでの『私たち』というフレーズの中には真里も含まれている。


「私の夢の話ししてたんだよ」


「へ~そうなんだ!、ってか聞いてよ!!私、陸上でインターハイ出ることになったんだよ!!それでね――……」


こいつはそもそも私達の話しに興味がないようで、すぐに真里はインターハイ出場の話しを持ち出した。しかも話がまだ終わっていないのにもかかわらず「あ、次移動教室だ!」と言って慌ただしく教室を出ていってしまった。私はふぅ~とため息をついてつぶやいた


「…なんか、真里変わったよね」


「そう?凄いじゃん、部活頑張ってるしインターハイ出場なんて」


「うん、それはいいんだけどさ、なんかさ、付き合い悪くなったっていうか―……」


キーンコンカーンコーン

ここまで言って私の言葉はチャイムによって邪魔されてしまった


「あ、授業始まっちゃう、じゃあね紗英!」


そう言うと狐雪も慌ただしく教室を出ていってしまった。


(付き合い悪くなったっていうか――……感じ悪くなったよね。)


小さく心の中で呟いた、そしてため息、

最近真里がウザくてしょうがない、今までどうやって付き合ってたんだっけ?

まぁ、いいや

あ、次の授業数学だ……そして小さく呟いた


「めんどくさ…」










その日、私と狐雪と2人で帰った、狐雪は久しぶりに真里も誘おうと言ったが私が断ってしまった、そもそもインターハイが近いから一緒に帰ることは無理であろう…


「じゃあまた明日、」


「うん、じゃあね」


私と狐雪はそれぞれ家にか帰った


「ただいまー」


家には誰もいない、父親は仕事で夜遅くまで帰ってこないし、母親は今日同窓会があるとかでこれまた遅くなるらしい、つまり今日は1人で家事をしなければならない

冷蔵庫を覗いてみると一通りの食材は揃っていた、


「…料理出来ないんだよな」


まったく、自分が出掛けるのだから娘の夕飯ぐらい作ってから出掛けてほしいものだ!

食材だけ揃っていても何も出来やしない


結局

夕飯の時間になり、さえが作ったものはありきたりの野菜炒めだった

簡単に作れるし、何より片付けが簡単だ


「あ、以外と美味しい」


適当に作った野菜炒めだったが思ったより上手くいったようだ、ついでに味噌汁も作ってみたがこちらは失敗、しょっぱくて食べられたものではなくった。その後お風呂に入り、やることもないのでテレビをつけた、すると不思議現象の特番をやっていて、ちょうど分身が現れる現象、つまりドッペルゲンガーのことについてマニアと専門家の間で議論がなされていたところだった。


〔…―では、ドッペルゲンガーの共通点をあげると

1、本人に関係のある場所に現れる

2、その現れたものを見て、

自己自身の像であると直感で感じる

などのことがあげられます〕


〔それは科学的に何の根拠もない!!それに―…〕


〔……―共通点ではないが、その分身を見たら近いうちに死ぬともいわれていて―………〕


…テレビの中では結構激論のようだ。

どちらも相当詳しい人が呼ばれているようで、話しを聞いているとどちらも筋が通っていて面白い。ドッペルゲンガー以外にもいくつかの現象や、妖怪などが上がっているようだ。

しかし、さっきの話しを聞いていると狐雪の話しはだいぶ当てはまっている、橋も林道も関係のある場所だし、顔が見えていないのに直感で自己自身だと言っていた。ただ、これらのことが夢の中というだけ、

夢の中でもこれらの共通点は適用されているのだろうか?

しばらく見ていたが残念ながら夢の中のことまでは議論されていなかった。


結局10時までやっていたその番組だがその他に面白い議題は無く、ちょっと早いが今日は大人しく寝ることにした。

酔っ払って帰ってくるであろう母親に絡まれるのもめんどくさいので…。










次の日の紗英は憂鬱だった、理由は昨日と変わらず寝坊してしまったからである、しかもベロンベロンに酔っ払って帰ってきた母親は熟睡して起こす人がいなくなってしまい、紗英が起きたのは昨日よりおそい8:15。

ここまでくると、ゆっくり2限目から登校しようという気持になり、結局昨日に引き続き原田に大目玉を食らってしまった


そして迎えた5限目の授業、教科は数学、


「…ダルい―…」


この大塚という先生の授業は本当にダルい、


「……―したがって、ここがX2乗になって、ここを微分すると2Xになり―……」


こんな感じで1人で授業を進めていってしまうため、みんなノートに書き写すだけで精一杯。だから私はノートに書き写すことも止めた、さらにこの大塚という先生は少しでもお喋りをするとすぐに注意をしだすからたちが悪い。

こういったタイプの人はそもそも教員に向いていないと思う。

ってな訳で暇な私は窓際の席という利を生かし、外の風景を眺めていた。

空を流れる雲、自由に遊ぶ鳥たち、今日もいい天気である。


「あれ!?」


上の方ばかり見ていたので気がつかなかったが、ふっと下の方を見てみると誰かが校門の方に歩いている、それが知らない誰かであれば誰か早退したんだな程度で、「あれ!?」なんて思ったりしない、私が疑問に感じだのはその人物が狐雪だったからである、向こうに歩いているので顔は分からないが、髪の長さや歩き方、ちょっとした癖からあれは狐雪である。…どうしたのだろう?具合が悪いのだろうか?でもさっきの休み時間の時はそんな風に見えなかったけど…


授業が終わり私は急いで隣の教室へと走った。


「狐雪!!」


「わっ!!びっくりした~」


勢いよくドアを開けたら狐雪もこちらの教室に向かう途中だったのだろう、目の前に現れた。


「あれ?狐雪?」


「な、なに?」


私は狐雪にさっきのことを説明した、そして2人で考え出した結論はただ単に狐雪に似た人がいたということになってしまった。


「でも、この学校人数少ないからえりなに似た人がいたらわかると思うんだけどなぁ?」


「そう?今まで髪が長かった子が髪を切ったら私に似ただけかもしれないし、それに顔も似てる訳じゃないかもしれないじゃん。」


…確かに、似ているのは後ろ姿と仕草だけかもしれない、これだけでドッペルゲンガーとの関連をかんがえるのはのは気が早いというものだ。


そして、この日はもう1人の狐雪の謎が解けないまま家路についた


この時紗英はもうちょっと深く考えるべきであった、もう1人の狐雪が誰なのか?ではなく、もし、これが誰でもなかったらを考えるべきだった、そこまで考えていたなら


(…―その分身を見たら近いうちに死ぬともいわれていて―…)


という、あの胡散臭いテレビの出演者の話しを少しは警戒できただろうに……










「行ってきまーす」


次の日の紗英は上機嫌だった、理由は寝坊をしなかったからである、家を出た時間も8時ちょうどで十分学校には間に合う、だが、残念なことに今日は狐雪と待ち合わせをしていない、昨日の帰り道に今日も寝坊しそうだから先に行ってていいよと言ってしまったのだ、なのに予想は外れていつもより 早いくらいだ。

いつもとは違う優越感に浸りながら学校への道を歩いていると前のほうに狐雪らしき人物が歩いているのが見えた。


「孤雪~!」


声をあげながら孤雪の近くまで小走りしてみたが私はすぐに足を止めた。


「あれ!?」


よく見ると反対車線にも狐雪と同じような人物がいる、いや、ほとんど狐雪である。


「…と、いうことは、どっちかが昨日見た偽物の狐雪というわけか」


っというか、どちらを見比べても瓜二つである。もしも偽狐雪に声を掛けてしまっても偽狐雪は誰なのかという疑問が解消されるから良し、本物の狐雪に声を掛けてしまってもそれはそれで良し、


「…よし!」


私は左側の狐雪に声を掛けることにした、


「狐雪!」


「……」


返事は無く、ただ前を向いて歩いている。

小走りをしているためだんだん狐雪との距離が近くなった。


「狐雪!」


「……」


返事がない、もしかしたら本当に違う人物かもしれない


「狐雪!」


私は思い切って狐雪の肩に手をかけた、


「わっ!!びっくりした!!急に叩かないでよ!」


どうやら本物の狐雪のようだった、イヤホンをしていて私の声が聞こえなかったらしい


「あれ!?今日も寝坊するんじゃなかったの?」


私は狐雪の言葉を無視してすぐに反対車線に目をやった


……―いない。


さっきまで真っ直ぐ歩いていた偽狐雪の姿はすでにそこには無かった。歩道にはわき道へと続く道もあるが、どう考えてもこの刹那の間に姿を消すことは無理である。


「紗英?」


「あ、いや、さっきね――……」


私はこのことを狐雪に話した、私には狐雪と偽狐雪はほとんど平行に歩いているように見たし、狐雪自身もイヤホンをしていたので偽狐雪には気がつかなかったという。

本当にあれは誰なのか?


制服を着ているからうちの生徒であるのは確かなのだが…










その日の放課後

私と狐雪は校門のところで偽狐雪の下校を待つことにした。この学校の生徒であることは確実なのだから、ここで待っていれば必ず現れるはずである。

そして正体を暴いてやるのだ。

もちろん昨日のような早退が無いように私が授業中もしっかり外を見ていたから、すで学校にいないということはない。

っと言ってもいつ現れるか分からないのでだいぶ暇である、

私も狐雪も部活をやっていないので別に問題はないが、


しばらく2人でぼ~っとしていると学校の周りを誰かが走ってくる。

目を凝らして見てみると真里だった


はぁ、はぁ

と息を切らしながら真里はこちらに近づいてきた、こちらに気づくとスピード緩めて話しかけてきた、


「もうす―…終わるから待っててくっ―…ない?」


息を切らしながら喋っているので途切れ途切れではあるが十分聞き取れる、


「わかった、待ってる」


狐雪が答えると、真理はニコッと笑い、またスピードを上げて走り去ってしまった


「頑張れよ~!」


狐雪は過ぎ去っていくまりに手を振って声援を贈る、

しかし、そんな中私は、走ってくるのが真里とわかった瞬間に目を逸らしてしまったのである。


「真里、頑張ってるじゃん」


「…―うん、そうだね」


私は曖昧な返事しかできなかった

私の心情を悟ったのか、狐雪は少しトーンを落として喋りだした。


「…真里のこと避けてる?」


私はすぐにその問いに答えることができなかった、正確にはなんて答えてよいのかわからなかったのだ。

自分でも真里を避けている理由がはっきりとわからない、

いや、わかってはいるのだが上手く言葉で現せないのだ、そしてこの感情はだんだん怒りに変わりつつある、


「…私たちにとって真里は親友じゃん?」


狐雪が私と真里のことを想ってくれていることはわかる、それでも私は素直な気持ちになれないのだ、自分がこの問いに答えられないのを棚に上げて、自分のことをわかってくれない狐雪にも苛立ちを覚える。


「なんで、私まで真里の親友なの?」


予想外の言葉に狐雪も一瞬言葉を失う、言葉に迷っているようだった


「いいよね才能ある人って、私たちのことなんか全く気にしないで部活に打ち込めるんだから、…………正直部活優先してる人とか嫌いなんだよねよね。」


狐雪の表情が硬くなったのがわかった。


「……でも、真里は―インターハイにー…」


狐雪がしゃべり出したところに間髪いれずに言い返した。


「ってか、嫌いなんだよね、昔から!」


…言ってしまった、

もう訂正の仕様がない、


狐雪の心配するような顔を見て恥ずかしくなった、あまりの恥ずかしさにこの場にいることができず、

荷物を持って飛び出してしまった。


「…―紗英!!」


後ろで狐雪が戸惑っているのはめにみているが、そのまま小走りのように歩き続けた、とにかくこの場から離れたかったのだ。

わかっている、真里は自分に正直なだけなんだ、本当は私も陸上を続けたかったが、限界を感じて抜け出してしまった、自ら諦めてしまったのだ。


なんとも言えない感情に、そして何よりこんな自分自身に腹を立ててるだけなんだ……


なんでだろ?

昔の自分だったらもう少し素直になれるのに……










「…ただいま」


今日は母親が家にいるようだ、だが、リビングに行く気にはなれず、そのまま親の顔も見ないで階段を上がって部屋に入った。時刻は夕方、部屋の中は外から入ってくる光で紅に染まりつつあった、どこか懐かしい色である、小さなころはこんな時間になるまで真里や、狐雪と遊んでたんだ。


…あのころとは随分変わってしまった


月日も経った、

背も伸びた、

外で遊ばなくなった、


でも、変わらないものもあるのではないか?


紗英は部屋の窓を覗き込んだ、

例えばこの夕日だって変わらない、景色だってそのまま、桜橋あたりなんて本当に当時のままだ。


(大きくなってもここにこようね)


変わらないといことは、本当はとても難しいことである、

大きくなるにつれて変わってしまったものもあるけれど、


今ここに変わらずあるものは本当に大切なものだから、手放してはいけないと思う。ましてこれを自分から手放そうとしているなんて馬鹿にもほどがある。


一時の感情で

無くしてならないものなんだ。


紗英の体は勝手に走り出していた、

部屋を飛び出し、何も持たずに外へ走りだした。久々に走ったが体は走る喜びをおぼえてくれて、なんとも言えない快感が足を通して体にしみわたった。さっきまでこんなに素晴らしいものを否定し、侮辱していた、今からでも間に合うだろうか?今からでも私は走ることが許されるだろうか?


「…真里に誤らなきゃ」


真里に直接言ったわけではないが、ちゃんと真里に誤り、自分にけじめをつけたかった

もう中途半端なことはしない、今からでも陸上はできるじゃないか!


どんどん日が落ちてきて最終段階の紅色に染まってきたころ、

桜橋で狐雪を見つけた、真里はどうしたのだろうか?まだ部活が終わらないのだろうか?


「狐雪~~!」


私は手を振りながら狐雪のもとへ走っていった、


「……」


返事はない、

私は気にせず狐雪の肩を叩いた


「わっ!!びっくりした!!急に叩かないでよ!」


良かった、いつもの狐雪だった、今の私にも普通に接してくれる、これが狐雪のいいところ。

よく見ると手に何かを持っているようだ


「なにそれ?」


「油揚げ!しばらくお稲荷さんに行ってなかったからお参りに行こうと思って。」


…お参りか、とても懐かしい、今まで私が忘れていた間にも、狐雪はこうして油揚げを供えていたのだろうか?

これも昔から変わらないものの一つかもしれないな―……


「一緒に行こう」


私は狐雪の手をとって一緒に歩きだした


「うん、一緒に行こう…。私のこと嫌いになっちゃっだめだよ。」


そして紗英と狐雪はあの頃を思い出すように、薄暗い林の中に消えて行った―…。





…………


……



辺りは日が暮れてきれいな紅色に染まっていく中、真里は紗英を心配していた、

私が「待ってて!」と紗英と、狐雪言ってから30分も経ってしまったのだ、本当は3人で帰りたかったが、紗英が先に帰ってしまったということを狐雪から聞いた。

っと、いうわけでこんな時間に狐雪と帰っているのだが、狐雪が突然


「あれ!?」


とか言って後ろを振り返って辺りをキョロキョロと見回している


「どうしたの?」


狐雪は困惑したような顔をしていた


「なんか、誰かが呼んだ気がしたんだけど…………気のせい?」


「そう?私は聞こえなかったけど……」


私も周りを見渡したが、特に人は見当たらないし、車も一台もいない、


「気のせいじゃない?」


「うん、そうかも…………あ~あ、なんで紗英帰っちゃったんだろ、これからファミレス行こうと思ってたのに!」


「明日部活ないから、明日にしようよ!」


真理にとってこんなたわいもない放課後は久々だった、明日は紗英をつれてファミレスに行こうと約束しあって、それぞれ家路についたのだった










次の日

朝のホームルームを終えた真里は先生に職員室に来るように呼び出された、おそらくインターハイのことだろう、軽い気持ちで職員室に入った真里は原田の前の席に狐雪が座っているのを発見した、何か悪さでもしでかしたのだろうか?すると原田がこちらに気づき、とても厳しい顔をしながらこっちに来いと、首で指示を出している。


「私たち何かしましたか?」


席に着いた真里は身に覚えはないが、一様悪事を働いたことを尋ねてみた、


「違うんだよ真里。」


原田よりも早く隣の狐雪が答え、それに続くように原田が話しの本題を話した。


「紗英の母親から連絡があって、紗英が家に帰っていないようなんだ。いや、一端家に帰ってはいるがその後どこかに行ったきりだそうだ。何か知らないか?」


考えてみたが思い当たる節がない。


「家出なんかする子じゃないのに……」


隣を見るかぎり狐雪も心あたりがないよで、険しい顔で沈黙してしまっている、


「…今日の放課後心当たりがあるところは行ってみます。」


「そうか、暗くなるまえには引き上げるんだぞ。」


ここで一限目のチャイムがなってしまい、私たちは慌ただしく職員室を後にしたのだった。










「本当にどこ行っちゃったんだろうね」


狐雪が聞き込み用のメモ用紙を見ながら言った。すでに紗英が行きそうな場所には行ったし、いろんな人に聞き込みもした、しかし有力な情報を得ることはできず私たちは途方に暮れていた。


何も手がかりが無くて時間だけが過ぎていき、夕方になってしまった。

原田は暗くなるまえには引き上げろと言ったが私も狐雪もそんな気はさらさらない、


「もう一度あの店に行ってみようよ」


「うん」


そう言って真理と狐雪が走り出したとき狐雪胸のポケットからなにかが落ちた、

狐雪は気づいていないようなので私が拾って狐雪に手渡した。


「落ちたよ」


「あ!、ありがと」


狐雪が落としたものは生徒手帳だった、とても小さいため弾みで飛び出してしまったのだろう。ゆっくりと狐雪に生徒手帳を返した、しかし私はその生徒手帳を狐雪に渡すのを瞬間的にためらってしまった。


「あれ!?」


一度手渡した手帳だったが、なにか違和感を感じて、無意識に狐雪の手から生徒手帳を引っ張あげてしまった。これはあくまで直感であって確実なものではない、違和感の正体もあえて理由をつけるならばなんと無くである。でもなにかがこの狐雪という人物と生徒手帳が一致しないような気がしたのだ。


「どうしたの?」


「あっ!!」


狐雪が生徒手帳を覗き込むと同時に私は違和感の正体を見つけ出した。


……違和感の原因は狐雪という漢字にあった。私の知っている狐雪の『狐』は獣編になっているはずだが、生徒手帳に書かれている名前は子供編で『孤雪』と書かれていたのだ。


「いつから孤になったの?」


確か、名前の漢字は市役所で変えることが出来たはずである。いつから子供編の『孤』になったんだろうか?

孤雪は少し困ったような顔をしてから答えた。


「漢字は昔から変わってないよ」


「嘘だ~、小学校の時は狐雪だったじゃん!」


そうに言ったら孤雪はまた困ったような顔をした、と言うかさっきよりも深刻な顔をしだした。


「…私たちが出会ったのは中学からだよ…」


「はい?」


おかしい、どうも話しが噛み合わない、確かに私と紗英と孤雪は小さい頃からの付き合いでよく3人で遊んでいて―………


ここまできて真里はおかしな点に気がついた、何故私は『孤雪』を『狐雪』と勘違いしていたんだろう?

幼い頃の私たちは、お互いの名前の漢字など気にするわけがないのだ、そもそも自分の漢字が書けるようになったのも2年生あたりだった、だが、狐雪のことはそれ以前から狐雪と認識していたような気がする。


考えているとますますおかしな点がでてくる、

狐雪が何組だったのか思い出せず、一緒に勉強した記憶も無いのだ、しかしこれはそんなに不思議な事でもない、人間は嫌な記憶は忘れられて、楽しい、嬉しいなどの記憶はいつまでも残るものである、だが、ここで言っている『記憶が無い』のレベルはそんなものではないのだ、それどころか遠足、運動会、など楽しい行事を狐雪と過ごした記憶さえないのだ。こんなにも記憶が無いものだろうか?

考えてみれば当時の狐雪の風貌もなんと無くあやふやである。


狐雪の好きな色は?

分からない。

狐雪の好きな食べ物は?

分からない。

狐雪の好きな遊びは?

分からない。

狐雪の風貌は?声は?顔は?形は?

…分からない。


ただ漠然に仲がよかった、3人で遊んだ、楽しかったという記憶を認知しているだけ―……。


「……真里?」


私があまりに深刻そうな顔をしているので狐雪は話しかけてきた、「大丈夫。」と答えようとしたが私の口から出てきた言葉は違っていて、今の私の考えていることそのままだった。


「あなたは誰?」


「えっ!?」


言ってから気づいた、現にここにいる孤雪という人物が存在しているのだから偽物であるはずがないのだ、もし記憶の『狐雪』と、ここにいる『孤雪』が同一人物でないと過程するなば、間違っているのは私の記憶の中の『狐雪』である。


私は困惑している狐雪の手を取って走り出した、


「どこ行くの!?」


「ついて来て!!」





はぁ、はぁ、はぁ


走ること15分、日は落ちて暗くなってしまい、街灯も点きはじめてる、陸上部である真里が孤雪を引きずるように連れてきたのは桜橋だった。


「はぁ、はぁ、…ここがどうかしたの?」


真里に無理やり走らされた孤雪が息を整えながら質問した、


「ここは私たちにとってどういう所?」


私はわざと意味深な問いをしてみた、


「…いつもの集合場所でしょ?」


迷い無く答えた孤雪はどうやらそれ以外の答えを持っていないようだ、そんな孤雪の顔を見て確信した私は橋を渡り、その先にある林へと走りだした。

そしてようやくあの時の約束を思い出すことができたのだ、


(大きくなってもここにこようね)


今までこの記憶は私と紗英と『孤雪』の約束だと思っていた、しかし違った、この約束は私と紗英と『狐雪』の約束だったのだ、そしておそらく狐雪とはあのお稲荷さんのきつねの化身なのだ。

私たちはとんでもないことをしてしまった、もし本当に狐雪が狐の化身だったとすると私たちは神様と約束していたのだ、いや、これは約束ではなく神との契約で、おそらく呪術的なものだったのだ、けれど忘れさえしなければ悪いものではなかったはず。

しかし不運なことに、私たちが中学に上がって偶然出会ってしまった『孤雪』という最も『狐雪』に近い人間が近くにいたことで、私たちに錯覚を起こしてしまったのだ、人間との干渉が難しい神にとって見ればこの小さな錯覚が邪魔をしてしまい、やがて記憶を改ざんされ、『狐雪』は『孤雪』に存在を奪われ、しまいには神との契約すらも飲み込んでしまったのだ。


…なんたる不運、


狐に出会わなければ


孤雪に出会わなければ


早くに気づいていれば


そして何より約束を忘れなければ、こんなことにはならなかったのに、


私たちは何一つ悪くないのに……


私は夢中で林の中に飛び込んだ、すでに暗くて前なんか見えない、木の枝が頬をかすめようが私はスピードを緩めなかった。

この先なのだ、この先にお稲荷さんがあったはずだ、見つけて謝ればきっと紗英も返してくれる。


……きっと―……


「真里!!!」


突然後ろの方で声がした、明らかに孤雪の声である。


私は後ろを振り返った



………が、



そこには私が走っていた地面と呼べるものは無かった、

どうやって飛んだのであろうか?

私と崖との距離は5~6メートル、手なんか届くはずもなく、

魂が抜けたような顔をした孤雪を見つめながら、谷の底へと沈んでいった………狐は私たちを許す気はないようだ……










地面は作り物、最後の最後まで狐に化かされてしまったのだ―……









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