第十七幕:片割れの行方
1
時刻はとうに日付が変わるのを目前に控えている。
夜も深まれば、さすがに大声で騒ぎ立てることは近所迷惑以外の何ものにもなりはしない。
しかし、今も彼らの意見の交わしあい……もとい、口論は続いている。
「人間だろうと死神だろうと、簡単に殺すとか決め付けてんじゃねーよ!」
対馬の怒声は室内に響き渡る。
もうあとほんの少しでも心が乱れれば、容赦なく目の前のカルマに拳を振り上げるだろう。
かろうじてそれを抑制しているのは、対馬自身にもなんなのかは分からない。
「それとも何か、死神だったら誰をどう殺してもいいってのか? いいご身分だな、おい。そうだよな。そっちにとっちゃ殺すことも仕事の一つなんだろうからな!」
そのあまりにも身勝手すぎる一言に、カルマも確かな怒りを覚えた。
だが、その言葉の全てを否定できるわけではない。
確かに対馬の言うとおり、カルマが少し力を振るえばこの場で対馬をただの血肉の塊に変えることなど造作もないことだ。
まばたきをする前に終わらせることができる。
だが、そうしたところでなんになるというのだ。
そうしようものなら、それでこそ対馬の言うとおりに好き勝手に殺戮を繰り返すだけの存在と、自分を認めざるをならなくなる。
自分という存在をどういわれようと、どう思われようとそんなことは知ったことじゃない。
だが、存在意義を否定されることだけは我慢ならない。
もとより、あらゆる生物から忌み嫌われる象徴として生まれた存在なのだ。
否定され、阻害されることにはもう慣れていた。
聞き流してしまえばいいのだ。
少なくとも、カルマはそれでよかった。
だけど。
隣に座る神楽だけは、その言葉を聞き流すことなんてできなかった。
「…………にして」
細く低い声が、荒げた対馬の言葉をせき止める。
その言葉に、佐野も巽も伏せていた顔を上げて神楽を見つめ返す。
「……いい加減にして……」
神楽の声は震えながら、それでも確かな怒りを込めて発せられている。
だがそんな低い声では、対馬の行き場を失った怒りは止まらない。
「……なんだと?」
食って掛かるように、対馬は標的をカルマから神楽に変更する。
元を正せば、冬夜をこんな状態に追い詰めたのは神楽だ。
今更になって新しく怒りを覚えたのか、対馬は嘲笑うように神楽を見下す。
「誰のせいでこんなことになったと思ってんだ? どこの誰だよ? 冬夜を刺したやつは? あ?」
ギリ、と。
神楽の奥歯が軋んだ。
そして次の瞬間、膝元に置いてあった刀に手をつける。
「神楽、やめろ!」
誰よりも早く次の事態を把握したカルマが、身を乗り出して制すとする。
しかし、わずかに遅い。
神楽はすでに抜刀を半分以上済ませ、抜き身になった血染めの刃は対馬に向けて襲い掛かる。
巽も同じように神楽の手を押さえようと。
佐野は対馬の体を引き戻そうと。
互いに動くが、すでに刃の切っ先が鞘から放たれている。
かつて白銀だった刃も、今は血塗れて赤黒い。
その切っ先は誰の目から見ても対馬を切り裂くためのものだった。
だが。
「……っ」
対馬の体に、痛みは走らない。
それ以前に、刃の切っ先は目の前を通り過ぎるどころか、逆に視界の奥へと離れていった。
対馬の目の前に差し出されるようにあるのは、切っ先ではなく。
全くの逆で。
刃の握り部分の柄が、差し出されていた。
その意味が理解できない対馬が立ち尽くしたままでいると、ふいに神楽は柄を無理矢理対馬の手に握らせた。
その寒気がするほどに冷たい感触に全身の筋肉が収縮してしまうようで、対馬は無意識のうちに柄の部分を握り締めていた。
そこからしなやかに伸び、わずがにしなりを見せる刃。
そこにこびりついた赤く黒い血は、紛れもなく冬夜のもの。
この、刃が。
冬夜の肉を突き破り、筋肉や神経を貫き、溢れんばかりの血を流させた。
そしてそれを成したのが、目の前の神楽。
それはもう、否定のできない事実。
ドクン。
柄を握る対馬の手が小刻みに震える。
どれだけ強く柄を握り返そうとしても、湧き上がる汗と収縮した筋肉がそれをさせてくれない。
目を見開くようにして、じっと刀身を見つめる。
これは、紛れもなく。
いとも簡単に、生き物の命を奪うことができる道具だ。
例えば。
握ったその手をゆっくりと振りかざし、目の前の神楽の脳天をめがけ、少しだけ力を込めて振り下ろすだけで。
そこに、真っ赤な花が咲くだろう。
ドクン。
心臓が高鳴る。
指先が震える。
ヒューヒューという隙間風のような呼吸が、さっきから止まらない。
そんな対馬を目の前に、神楽は言った。
「――どうしたの? 私を殺さないの?」
その、冷たすぎる言葉に。
対馬の背筋に、恐ろしいほどの寒気が走った。
しかしそれ以上に。
正面の神楽は、その冷たすぎる言葉とは裏腹に。
目の端から、今にも零れ落ちそうなほどの大粒の涙を抱えていた。
今にも泣き出しそうなのに、その言葉には何の迷いも躊躇いもなくて。
本当に、心の底から。
今、この場で殺されても構わないと言わんばかりに。
悲しい目で、対馬を見ていた。
「……ぐ……っ」
対馬は言い返すことができなかった。
本当に心の底から、恨めしくて仕方がないのに。
だって、目の前の神楽は冬夜を殺したんだ。
目の前で。
許せない。
許せるはずがない。
だけど。
するりと、対馬の手の中から刃が抜け落ちる。
ストンと音を立てて、畳の上に転がる刃。
今もまだ、震えが止まらない。
「……もういい、神楽。納めろ」
「…………」
神楽は目の端に溜まった涙を袖口で拭いながら、小さく頷いた。
畳の上の刃を拾い上げ、静かに鞘の中へと戻していく。
カチンと、刃の納まる音がして。
対馬はようやく、力なくその場にへたり込んだ。
全身から嫌な汗が流れ出しているような気がする。
指先は震え、膝は哂っている。
できなかった。
刃を振り上げることが。
できなかった。
刃を振り下ろすことが。
目の前に、殺したいほどに憎い存在がいるのに。
何も、できなかった。
「圭一……」
うなだれた横顔を覗き込もうとした佐野だったが、かける言葉が見つからない。
室内に、何度目かになる沈黙が降りる。
誰もが皆、冬夜を救いたいと思っている。
ただ、リスクが重過ぎる。
万が一とは表現したが、単純な確率で考えれば二分の一で、本当の冬夜は戻ってこない。
もしも、そうなれば。
カルマと神楽は、もう一度彼らの見ているこの場所で。
亜城冬夜の姿をした何者かを殺さなくてはならない。
そしてそれは、神楽にはもうできない。
対馬と佐野に関しては論外、殺すどころか傷つけることさえできはしない。
巽は立ち向かうことはできるだろうが、親心が隙を生む可能性は十二分にある。
そうなると、唯一対等に渡り合えるのはカルマだけ。
しかし、カルマには生物は殺せない。
それが死神の掟。
つまり。
この場にいる誰も、冬夜を殺せず、そして救えない。
最初から負けると分かっているシナリオを進めるほど、無意味なことはない。
正確に言えば、負けると決まったわけではない。
二分の一の確率で言わせれば、本当の冬夜が戻る可能性も捨てきることはできない。
むしろこの追い詰められた状況だからこそ、その確率に賭けてみるべきなのかもしれない。
だがそれは、あくまでも本当に確率が等しく二分の一ならの話であって。
カルマには分かっていた。
今の冬夜の精神を大きく凌駕しているのは、対馬や佐野や巽が望んでいる冬夜ではなく。
その中にいる、もう一人の存在だということに。
恐らく、単純に考えても本当の冬夜が戻る確率はゼロに等しい。
それでもゼロじゃあないと、試す価値があるのだろうか?
カルマはないと言い切るだろう。
だから、もう。
――せめてこのまま、亜城冬夜が亜城冬夜であるうちに、終わりを迎えるべきなんだ。
カルマは目を閉じる。
難しいことはない。
幾度となく繰り返してきたことだ。
間違いは犯さない。
カルマは立ち上がる。
その緩慢な動作を、誰も止めることができない。
間違いだと分かっていながら、傍観しなくてはならない。
カルマは虚空に手をかざす。
そしてそこから、闇よりも深い漆黒の大鎌を引き抜く。
あとはただ、目の前で横たわる抜け殻の体を、そっと撫でるだけ。
たったそれだけで、亜城冬夜は……消える。
欠けた三日月のような刃が、静かに振り上がる。
時計の振り子のようだ。
そしてカルマは目を開き。
ゆっくりと、その切っ先を振り下ろして。
直後、ぴたりとその動きを止めた。
誰もが目を閉じかけたその瞬間のことだった。
一人立ち尽くすカルマは、自分の目に映る光景に目を見開いていた。
その、眼下には。
「……とう、や……」
佐野の声が、全員の目を開かせる。
そこに。
「…………」
亜城冬夜は、薄く目を開いて目覚めた。
2
その場の混乱とどよめきがようやく落ち着くのに、思ったほど時間はかからなかった。
冬夜の肉体に関しての外傷は、カルマの手によってすっかり塞がれていたので、目覚めたところで命の危険そのものには影響ない。
ただ、傷はどれだけぴたりと塞がり痛みも感じなくなっていても、失われた血液と体力の回復にはもうしばらく時間がかかるらしい。
それもそのはずだ。
いくらカルマの力を用いたところで、失われたものまで元通りに復元することはできない。
その肝心の冬夜は、今さっき対馬と佐野、それに巽の三人に付き添われて自室である二階へと戻っていった。
しばらくは安静にして体を回復させなくてはいけないし、それだったらごたついたここよりも自室の方が落ち着けるだろうと、佐野が配慮したことだった。
そんなわけで、今一階の和室にはカルマと神楽だけが取り残されたように座っている。
まぁ、こうして残ったのは恐らく正解だろう。
神楽としては冬夜のみを案じて付き添いたい気持ちもあっただろうが、今はそれを抑えるべきだ。
目覚めたばかりで意識もしっかりしていない冬夜の目の前に、自分を刺し殺した張本人が姿を見せれば記憶が混同してパニック状態になってしまうかもしれない。
自責の念はそう簡単に取り払えるものではない。
たとえ冬夜の体が落ち着きを取り戻し、ちゃんと正面から向き合って話をできるようになり、その上で謝罪をして、仮に冬夜がそれを許したとしても。
それでも、神楽の中の後ろめたさは何一つ変わりはしないだろう。
その手で人を殺したという、その事実からは。
絶対に逃げることはできない。
神楽はそっと手を開く。
肌色よりも白に近い自分の肌の色が、今でも真っ赤な血に濡れて見える。
そして記憶の中に確かに残る、不気味で、不可解で、耳障りな感触。
だけどそれは悪夢では済まされず。
震える指先だけが、現実だと告げる。
それでも唯一、救われたのは。
目覚めた冬夜が、彼らの望む冬夜だったということだ。
カルマ曰く、人格の変動は常に引き起こされているものであり、決して安心はできないという。
変動はその人間の精神状態によって大きく左右される。
だから目覚めたばかりの今は、極端な話睡眠薬を飲ませてでも再び眠らせるのが得策だそうだ。
まぁ、あの様子ではそれも心配は要らないだろう。
目覚めたとはいえ、それは文字通りにただ目が覚めただけだ。
脳も筋肉も何一つ活性化していない現状では、そう間もないうちに深い眠りに落ちるのは目に見えている。
それでもとりあえずは、不安の一つが解消されたことには変わりない。
しかもそれが、最重要事項の心配ならこの上ない。
だから、少しは胸を撫で下ろしてもいいはずだ。
……はずなのだ。
なのにカルマは今も、何を考えているか分からないけど険しい表情をしたままだ。
神楽にはそれが、理解できなかった。
「……彼、助かってよかった」
「……ああ、そうだな」
その返事には、やはり抑揚がない。
「こんな言葉、使いたくはないけど……奇跡的、だよね?」
「……ああ」
死神であるカルマにとって、奇跡とかそういう類の言葉は信憑性の欠片もないものかもしれない。
以前にも神楽がその言葉を口にしたら、ひどく否定的で暫定的な意見を述べられたことがある。
「奇跡、だな。確かに……」
神楽は驚いた。
絶対に否定されると思っていた言葉に頷くどころか、カルマは自らの口でそれを認めてしまった。
心境の変化というやつだろうか?
いや、カルマに限ってそんなことはないとは思うけれど……。
神楽は頭の中が少し混乱する。
ようやく落ち着きを取り戻しかけていたというのに。
カルマの言い含め方が、普段と比べてどこかぎこちない。
まだ何か、言いたいことをうまく言葉にできていないような、そんな感じだ。
しばらく黙っていたけれど、カルマはそれ以降自分から口を開くことはなかった。
相変わらず険しい表情のまま、ずっと目の前の空間を睨みつけている。
神楽はその沈黙に耐え切れなくなって、意を決して声をかけようとした。
だがちょうどそのとき、背後のふすまが静かに音を立てて開かれた。
神楽は反射的に身構えて背後を振り返る。
だが、すぐに胸の内の警戒を解く。
そこに立っていたのは巽だった。
急に振り返った神楽の様子に、巽もいくばくか驚いていたようだ。
だがすぐに両者の間の見えない緊張はなくなり、巽はふすまを静かに閉めるとさきほどの位置に腰を下ろした。
カルマに向けて何か尋ねようとしていた神楽だったが、巽の登場によって言葉の向かう先は百八十度変わってしまった。
「あ、あの……」
恐る恐る投げかけた言葉に、巽はしかし穏やかな口調で答えた。
「冬夜は大丈夫だ。もう眠ったよ」
「……そう、ですか……」
安心したような、いたたまれないような、そんな曖昧な表情で神楽は顔を伏せた。
「……あまり自分を追い詰めるのはよしないさい」
「……え?」
「……確かに君は、何かの間違いで人を手にかけたかもしれない。それは決して許されることではない。だが、結果論とはいえ、冬夜はああして死なずに済んだ。君は、冬夜を殺してはいない。自分がそう信じないと、君は自分で自分を殺してしまうことになる」
「それは……そうかもしれないですけど……」
違う。
そんなんじゃない。
本当は分かっていたんだ。
本当は見えていたんだ。
あのときの自分は、明らかな殺意だけを以って冬夜に斬りかかっていた。
まるでそれが、本能のように。
止めることができなかった。
どれだけブレーキを踏んでも、まるでそれがアクセルだったかのように加速して。
動き始めた衝動は、止まらなかった。
あれが、自分の中の本当の自分なのだろうか?
今こうしている自分は、自分ではないのだろうか?
恐ろしいほどに、似ている。
冬夜も神楽も、自分の中にもう一人の自分を飼っている。
どっちかが本物で、どっちかが偽者。
完成品か、出来損ないか。
出来損ないはいつも、弾かれて暗闇の中。
生まれた意味を知らない片割れ。
行方さえ、見えない。
「……今夜はもう遅い。日付もとっくに変わってしまった」
巽は俯く神楽をよそに、静かに語る。
「君達に、頼みがある」
その言葉に神楽は顔を上げ、カルマも視線だけを巽に向けた。
「今夜一晩、ここで過ごしていってはくれないだろうか? 寝床くらいは用意できるし、もし何かあってからでは私だけではあまりに抵抗できない」
神楽は振り返り、カルマの反応を見る。
カルマはしばらく考える素振りを見せていたが、やがて口を開いた。
「……分かった。俺もまだ、少し気になることがある。できればまずは、神楽を休ませてやってくれ。精神的に相当参ってるからな」
「すまない、感謝する。すぐに布団を用意しよう」
巽は立ち上がると、奥の部屋へと立ち去っていった。
「あ……」
それくらいは自分でやりますと、神楽は追って立ち上がろうとした。
しかし、膝はあっさりと笑って折れてしまう。
「無理をするな」
カルマが言う。
「あの冬夜ってやつ以上に、お前はボロボロだろうが」
「…………」
神楽は何も言い返せなかった。
「少し休め。少なくとも今は、これ以上は悪い方向には流れない」
「…………うん」
ほどなくして、巽が来客用の布団一式を抱えて戻ってきた。
カルマはそのまま壁に背を預けて仮眠するということで、部屋には最終的に神楽カルマだけが残った。
巽が気を利かせて、神楽に替えの着替えを一緒に持ってきた。
今更だが、神楽の衣服はあちこちが血にまみれて赤く染まっている。
さすがにそのままで過ごさせるのは酷というものだろう。
結果、神楽は洗面所を借りて手早く着替えを済ませる。
そして部屋に戻ると、すぐに休むようにカルマに促された。
無理して起きているわけにもいかないので、神楽はカルマの言葉に素直に従った。
布団に入ってものの一分も経たないうちに、神楽は静かな寝息を立てていた。
その寝顔にどこか安心しながらも、カルマの表情は未だに険しさを保っている。
まだ、何一つ終わったわけではない。
これは、数多の始まりの一つにしか過ぎないことを、カルマは知っていた。
部屋の中には、冬夜が眠るベッドの他に二つの布団が用意されていた。
三人で寝るとなるとやや狭く感じるが、そんなことはこの際どうでもいいことだった。
ベッドの上の冬夜は、聞き取れないほどに小さな寝息を繰り返して眠っている。
ちゃんと、息をしている。
生きている。
それは対馬と佐野にとって、何よりも嬉しいことだった。
「よかったね。冬夜、生き延びて」
佐野のその言葉には、わずかだが笑みが含まれていた。
まだ完全に安心できたわけではないけど、今はそれだけでも胸を撫で下ろすには十分なことだった。
「……そうだな」
対して答える対馬は、言葉にも気力や覇気がまるで感じられない。
「……圭一が責任を感じることじゃないと思う。だって、状況そのものが現実離れしすぎてるんだもの」
「……」
「実際、私達だけじゃ戸惑うだけで何もできなかったと思う。多分、叔父さんだって同じはずだよ」
「……ああ、分かってる……」
まるで死人のような声。
ここまで崩れ落ちた対馬を、佐野は過去に見たことがない。
「……もう休もう。圭一も、色々あって疲れてるんだよ」
そう声をかけて、佐野は一足早く布団の中に体を潜り込ませた。
「…………かった……」
「……え?」
対馬の呟きに、佐野は横にしかけた体を起こす。
「……せなかった」
「……圭一?」
「――殺せなかった……」
「……」
佐野は答えられなかった。
いや、かける言葉を持っていなかった。
「殺してやるって、何度も思ったのに……。体が動かなかった。手が震えて、止まらなかった……」
「……」
佐野は起こしかけた体を再び潜り込ませる。
そして横になり、背中にいる対馬に一言だけ告げる。
「そのおかげで、私は救われたけどね。多分、冬夜も……」
そして佐野は目を閉じた。
長すぎた夜が、ようやく静かに更けていく。
その閉じた目の端に、わずかに濡れた跡があることを。
今は、誰も知らない……。
拝読ありがとうございます。
作者のやくもです、こんにちは。
この17話を書く少し前に、協賛サイトの秘密基地のほうで企画された三題噺というものに参加させていただき、短編を一つ掲載させてもらいました。
お題は次の三つ。
「たんぽぽ、携帯電話、屋根の上」でした。
これら三つの単語を作中に登場させ、短編を書き上げるというものです。
ジャンルも文字数も自由ということで、意外と早く書き上げることができました。
参加者はまだあまり多くないですが、出来上がった作者の人もそこそこいるようです。
ちなみに私の作品は「カラスの鳴く空に」というタイトルで、現在掲載させていただいてます。
短編の経験はゼロ同然で、恥ずかしい作品ではありますが、もしよかったら目を通してみてください。
評価なども簡単にいただければ、今後の励みになります。
それでは今回はこの辺で失礼します。
ではまた次回で。