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その98

「失礼します。ひ、姫様、バレンシア、エネフェア様がお呼びですよ、執務室でお待ちです。何かご予定があればそちらを優先してもらっても構わないそうですが、よろしいですか?」


 読書に一段落つけて、おやつを食べながらだらだらと休憩をしていたとき、カイナさんが伝言を届けに来た。

 相変わらず緊張気味な喋り方だが、今までに比べると随分と柔らかくなった気がするね。やっぱり少し前に一緒に本を読んだ事が効いているんだろう。


「あ、カイナさんだ、珍しいね。何の用事か聞いてる?」


「す、すみません、分かりません。あ、用件を伺って参りましょうか?」


「いえ、そこまでしなくても結構ですよ。エネフェア様にはすぐに伺いますとお伝えしておいてください。しかし、私もですか。ふむ……」


 私を呼べばシアさんが付いてくるのは当たり前のようなものだし、態々名指しで呼ぶという事はシアさんにも何か用事があるっていう事だよね。


「ええ、バレンシアも一緒に呼んで来るようにと。何かしたんですか? 神妙な顔をしていらしたんですけど……」


「え!? な、なんだろ? お説教?」


「姫様の悪戯がバレたのでは?」


「姫様、一体何を……。悪戯も程々にしないといけませんよ」


「何の悪戯よ!! うーん……、何かしたっけ私……」






 用件を告げ終わると、カイナさんはすぐに母様の所へ戻って行った。


「姫の悪戯って、つまみ食いくらいだよね。プリン作ると、絶対って言っていいくらいウルギス様のも食べちゃうもんね」


 ぷ、プリンはしょうがないじゃない。あの誘惑に勝てる人間なんていないよ……。エルフにもいないよ。プリンは私の好物の中でも既に別格、順位の付けようがないほどの存在なのだ。

 どうせ父様は私に半分以上くれるし、無くなっても兄様から奪い取るし、兄様は甘い物はあんまり好きじゃないから大丈夫だよね? うん、大丈夫だ、問題ない。


「プリンか、いいね、明日作ってあげようか。バニラはまだ残ってた筈だし、うーん、クリームはどうするか……」


 フランさんが明日のおやつについて悩み始める。


「やった! ありがとうフランさん!!」


「たまにはね。シラユキ自分から食べたいって言わなくなっちゃったもんね」


 フランさんの言うプリンはプリンアラモードの事だ。ア・ラ・モードだっけ? どうでもいいか。

 初めて作ってもらった時、あまりの美味しさに毎日お願いしちゃったんだよね。毎日同じおやつが続いたのでみんなには嫌な顔をされてしまい、お願いするのをやめたのだ。私は毎日でもいいんだけどね!


「では姫様、参りましょうか。エネフェア様をこれ以上お待たせする訳にはいきません」


「うん、二人はここでおやつ食べてていいよ。行ってくるねー」


 そこまで時間は掛からないだろうし、名指しで二人呼ばれたのなら、多分二人で来いっていう事だとも思うからね。


「たっぷり怒られてきなさい。何したか知んないけどね」


「私はお説教じゃないと思うけど。エネフェア様に甘えておいでよ」


 それがいいか。うん、母様に甘えに行くつもりで行こう。






 執務室に入ると、待っていたのは母様とカイナさんクレアさんの三人。父様がいないところを見ると、やっぱりお説教じゃなさそうだね。一先ず安心だ。


「母様、来たよー」


「お待たせして申し訳ありません」


「ううん。ごめんなさいね二人とも、急に呼び出しちゃって。ちょっと気になる報告が上がって来たものだから……」


 気になる報告? 私たちに何か関係してるんだろうか?

 母様の手には一枚の書類、ここからは内容の確認はできないね。


「ええと、ラルフアード・ふろむ? フロフムン、人間男性。言い辛いわねこの人の姓……。もう一人はナナシ・イェル、猫族の女性、どっちもCランクの冒険者ね。活動拠点はリーフサイド、今は弟子が一人、と。この二人、シラユキのお友達よね?」


 ラルフさんとナナシさん? ラルフさんのフルネームは始めて聞いたね。名前は間違えられやすくて姓は言い難いからラルフで通してるんだ、って前に聞いた覚えがある。


「うん、二人ともお友達だよ。……え? 二人に何かあったの!?」


 大きな怪我? 病気? まさか、死!? 一瞬で悪い考えが次々に浮かび上がる。


「ふふ、違うわよ、落ち着きなさい。何かあったと言えばあったわね」


「よ、よかったー……」


 驚かさないでよ! 私が勝手に驚いたんだけどさー……


「それは残念」


「シアさん!?」


「失礼、失言でした」


「失言!?」


「おっと、冗談です」


「どこまで本気か分かりにくいよ!!」


「ふふふ。話、続けていいかしら? 見ていて楽しいから、もっとじゃれ合っててもいいのだけれどね」


 母様にクスクスと笑われてしまった。

 おっと、ついついシアさんとのやり取りに集中してしまった。シアさんもあの二人ともっと仲良くなって欲しいんだけどね。


「あ、ごめんなさい母様。二人に何があったの? 悪い事じゃないんだよね?」


「ええ、悪い事ではないわ。むしろいい事なんじゃないのかしら。この二人、結婚したんですって」


「え?」


「は?」


 け、結婚? え? だ、誰と誰が? あ、ラルフさんとナナシさんがだよね。あはは、私は何を言って……


「えええええ!?」


 あの二人が結婚!? え、ちょ、急すぎる!!!


「はあ、結婚ですか、なるほど。ラルフさんはそんな素振りは一切見せていなかったのですが、ナナシさんが押し切ったのでしょうか。吹っ切れたのですかね、ふむ……、どうでもいい事でした」


 うわ! シアさん興味無さげだ!!


「ああ、バレンシアはこの子の事情を調べてあるのね。シラユキには話してないわよね?」


「はい、勿論です」


 え? あ、何?

 驚きすぎてもう何が何だか……。この子? ナナシさんかな? 事情?


「そう、安心したわ。うーん、困ったわね。この子に事情を話さずに置くと……、うーん……。それで貴女も呼んだのよ、バレンシア」


 あ、ああ! 私には絶対話せない事情が二人にはあったんだっけ、もう忘れてたよ。


「姫様も知識としては知っていらっしゃるでしょうから、説明自体は理解して頂けると思います。ですが、あまりお聞かせしたくない話なのは確かですよね……。まったく、あの二人は余計な事ばかり……。面倒ですね、消しますか」


「何で結婚する二人を消すの!? そこは祝福してあげようよ!!」


「私もそれは考えたんだけど、やっぱり駄目よね?」


「母様まで!?」


「冗談よ。カイナ、お茶の用意してあげて。シラユキ、叫びすぎよ? はしたないわ」


「はい、すぐにご用意」


「あ、ごめんなさ、って二人のせいだからね!?」


「私もですか!?」


「カイナさんじゃないから!!」




 カイナさんが淹れてくれた紅茶を飲んで、とりあえず落ち着く。


「姫様には以前少しだけお話しましたよね。ナナシさんはラルフさんのことを愛している、ラルフさんもナナシさんのことを憎からず想っていると」


 シアさんはゆっくりと語りだした。


「ああ……、話しちゃうのね……、シラユキ大丈夫かしら。出来るだけ遠まわしに話してあげてね」


 母様がハラハラしてる……

 私が聞いていい内容の話なんだろうか? プライバシーの侵害にあたるんじゃないのかなこれ。


「ねえ、母様、シアさん。私はそんな人の隠してること、かどうかは知らないけど、個人の秘密の情報までは聞きたいと思わないよ」


「分かりました、この話はここまでにしましょう。ですが」


 あら、意外とあっさり……、ですが?


「そこから先は私が言うわ。次の収穫祭までに本人から聞くこと。聞けなかった場合はお祭りの日はお留守番よ」



 収穫祭とは、ただの秋に開催されるお祭りの事。秋という恵みの季節を女神様に感謝するお祭りなんだけど、結婚式も兼ねてるのよね。

 一般の人たちは一組一組結婚式なんて挙げない。挙げられないと言った方がいいか。秋祭りを過ぎてから結婚した全ての組を、その日にまとめて祝福するのだ。年に一回の特別なお祭りだね。


 私たち王族もゲストの様な感じで毎年参加している。参加とは言っても開始の挨拶を母様がするくらいなんだけど、これが結構評判がいいみたいで、隣に立たされる私は中々恥ずかしいものなんだよねー。王族を近くで見れるのがそんなにいい事なんだろうか?

 特に母様は子宝の神様扱いされている事もあって、恵み、実りのお祭りには欠かせない重要な役割を担わされているらしい。


 うん、これはあまり深く考えないようにしよう……



「秋祭りまでに? う、うん、聞いてもいいんだよね?」


「ええ、本人の口から直接なら問題ないでしょ? シラユキにはちょっと重い話だけど、大丈夫だと思うわ、多分。やっぱり心配だわ……」


「何も知らないまま素直に祝福するのも問題ないと私は思いますよ? 後で知ってしまっても知らない顔をしたまま、というのは姫様には難しいかと思われますが」


「もしかして、素直には祝福できなくなる内容? こ、怖いんだけど……」


 素直に祝福も出来なくなるような重い話?

 全く想像もできないんだけど……、二人がここまで言い淀むとなると、かなり重い複雑な事情でもあるのかもね。


 ううう、なんだか急に二人が心配で会いたくなってきてしまった……






「わ、私は大丈夫だと思います。姫様でしたらお話を聞いた後も変わらず接する事ができると思いますよ、いえ、できます。お二人とも大切なお友達なんですよね? でしたら、大丈夫です!」


「なるほど、さすが姫様に近い性格のカイナだけはありますね、そこまで言い切ることが出来るとは。なんという自信、もしもの時は責任を全て背負うつもりなのですね」


「えっ? 責任? あの、バレンシア?」


「シアさんの言う事は気にしないで……。ありがとうカイナさん、大丈夫だって思えてきたよ!」


「私が姫様のお役に……!! 痛い!? クレア、肘はやめて!!」


「また抜け駆けを……。もし大丈夫でなかった場合は……、ふう」


「どうなるの私!?」


「カイナさんどうなっちゃうの!?」




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