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その96

今回はほぼ会話文のみです。


「それでは、世界一愛らしく、お優しい、それでいて頭脳明晰という、まさにパーフェクトと呼ぶに相応しい姫様の忠実なメイドの私ことバレンシアが、王族の方々に庶民の暮らしというものを、独断と偏見を込めて皆様のご質問にお答えしていく形で説明していこうと思います。私も元冒険者、現在王族の方に仕えるメイドでありますので、必ずしもその答えが絶対の正解である、という事はありません。それだけは留意して頂きますね。ではでは、教えて! シアさん先生!! の始まりでございます」


 綺麗なお辞儀で開幕の挨拶をするシアさん。


「前置きがなげえよ!!」


「シアさん先生って何!? さんは必須なの!?」


「前置きの半分近くが私の褒め言葉なのは恥ずかしいよ!!!」


「開始早々のツッコミの嵐、ありがとうございます」


「何で嬉しそうなのよレン……。助手その1のフラニーハナルスヒアメアロ・ウインドウインドです、よろしく」


「私たちは一応庶民になるのかな? 助手その2のメアリー・ハーハニです。恥ずかしいねこれ……」


「恥ずかしさもその内に気持ちよく感じるようになりますよ」


「ならないから!!」「なりたくないから!!」






 所はいつもの談話室、何やら変わった事が始まったが、別に何という事は無い。私たち王族はどれだけ一般庶民の人たちと、常識や認識がズレているのかとちょっと気になっただけなのだ。

 最近あまり長い説明をしていなかったシアさんの我慢の限界が来たんだろう、あっという間に兄様姉様を連行し、場をセッティング。ご丁寧に黒板まで壁に掛けている。

 服装はいつものメイド服だが、まずは形からとでも言う様に、眼鏡をかけ、手には指示棒の様な細い金属製の棒を持っている。丸い眼鏡なので可愛く見えてしまうのが笑顔を誘う、素晴らしい先生だ。


「ふむ、まずは何からお話していきましょうか……。何か日頃気になっている事などありませんか?」


「はいはーい! シアさん先生、はーい!!」


「はい姫様、可愛らしいです。どうぞ」


「フランさんの名前ってなんでそんなに長いの?」


「早速庶民の暮らしと関係ない質問だよ、さすがシラユキ。ええとね」


「どうでもいいですね。他には……」


「レンひどいよ!! 私が生まれたときにね、名前の候補が四つあったのよ、フラニー、ハナル、スヒア、メアロの四つね。中々決まらなかったから、どうせなら全部付けちゃえばいいんじゃない? って事で全部付けられたの。この名前覚えてるのって家族とウルギス様エネフェア様くらいなんだよね……」


「一、ニ回聞いたくらいじゃ覚えられない……。ごめんねフランさん」


「俺も覚えきってないな。フラニーが名前でフランが愛称でいいだろ? 短く改名しろ」


「私もそうね。もうフランでいいんじゃない? 覚えにくいし」


「そういえばフハスメって呼んでる人もいたね。フハスメは無いよ……」


「改名はちょっと……。家族から贈られた名前だし、さすがに無理無理。ちなみに家族は皆バラバラで呼ぶのよ。知らない人から見たら混乱の極みよね」


「では皆様の記憶に残るようボードに書いておきましょうか。邪魔になるので隅の方に小さく」


「小さ過ぎる! 読めない! 読みにくい!! シアさん覚えさせる気無いよこれ!」


「ああ、うん……、別にいいや。さ、次々いこうか!」




「王族って言ったって、この国ならそんなに庶民と変わらないんじゃないか? 俺たちは仕事してないんだけどさ」


「一般庶民の家では子供は、子供の頃から親の仕事の手伝いをするものなのですよ。両親それぞれの仕事、男の子なら父親に付いて手伝いをしつつ仕事を覚えていったり、女の子は家事の手伝い、弟妹の世話、母親が職を持っている場合は男の子と変わらず、仕事の手伝いをしたりする事もありますね、家庭により様々です。お二人に例えると、エネフェア様に付いて内政の仕事を補佐をしながら国の運営を勉強、という事ですね」


「う……、俺たち遊び人だな……。全部母さんに任せっきりだもんな」


「え、ええ……。ぎりぎり妹の世話の範囲には入ってるのかな……。料理くらい覚えようかしら?」


「わ、私は?」


「姫様はまだまだ子供ですから、そんな事は気になさらなくてもいいんですよ。国庫を空にする勢いで浪費生活をしてくださっても問題はありません」


「大問題だよそれ!!! あ、国庫で思い出したけど、国の収入ってどうなってるの? 税金とかあるのかな?」


「姫、それこそ子供の気にする事じゃないよ」


「まあ、いいでしょう。説明が増えるのは歓迎します。リーフエンドの主な収入は、各ギルドからの、ふむ……、契約金のような物でしょうか。採取場、人員の提供に対する報酬に近いですね。リーフサイドにある冒険者ギルド、錬金ギルド、調薬ギルド以外にも、リーフエンドの管理圏内にある他の町のギルドからも、人員や素材の提供依頼は多々ありますからね。何故かギルドは管理圏内全ての採取場を国の物と認識していますから。これは黙っておきましょう、実際管理しているのもこの森出身のエルフですから問題はありませんね」


「今聞いちゃいけない事を聞いた気がします!!」


「忘れてください」


「はーい! あはは……」


「税金は、各町の規模によって増減します。こちらは主に採取場の維持費、管理人の給料、各町の自警団の活動費に充てられます。他にも外壁、街道の補強、町間の休憩所の設置、その維持と様々ですね。税金は住民の安全や生活のために回されるのが当然ですからね」


「シア凄いわ……。もしかして結構常識だったりするの?」


「うーん、どうなのでしょうね? 子供は勿論知っている筈はありませんし、大人でも冒険者は知らない方は多数いると思いますよ。町で働いている者なら常識ではないのかと」


「なんか、楽して生きてるよな俺たちって。王族の責務とか考えた事も無いしな……」


「いえいえ、この国に限っての事ですが、それで構わないと思いますよ。管理圏内の町はほぼ独立していますからね。エネフェア様の内政のお仕事というのも、管理圏内にあるギルドとの書類のやりとりでしょうし……。他所の国の王族も何か特別重大な用件でもない限りは、直接各町の代表に話を持って行っていますから。この国の王族と関わりたくないと言うのが本音ですかね」


「え? 私たちって嫌われてるの……?」


「いいえ? 姫様を嫌う存在がこの世界に在るとでも? ただの苦手意識ですね。長寿種族でも無い限り子供の頃からの付き合いになってしまいますから、小さな頃の失敗談をネタに話に花を咲かせられては、いくら王族とは言え人、恥ずかしいものなのですよ」


「シラユキを嫌う国があったら滅ぼすだけだ。確かに他所の国の王族との交流は殆ど無いよな。シラユキが生まれたときに祝いが届いたくらいか?」


「一番近いところだとそれかしら? お父様ったら世界中に向けて嬉しさと感動を撒き散らしていたからね。シラユキは結構有名なのよ?」


「ええ!? 何それ恥ずかしい……」


「俺もユーネもだ……、気にするな。気にしたら負けだ……」


「姫様がお生まれになられた、という事くらいですのでご安心を。しかし、愛らしい姫様を狙い、よからぬ事を企む国も出て来てしまうのではないでしょうか」


「あるわけないよ!!」




「よからぬ事と言えば、戦争になったりしたらどうなるの? この森は絶対大丈夫なのは分かるけど、他の管理圏内の町はどう守るのかな」


「ひ、姫……、庶民の暮らしから全力で離れて行ってるよ……」


「そうでもないわよ? 庶民が安全に暮らしていけるのはどうして? っていう事よね」


「ああ、なるほど。すみませんユーネ様」


「戦争に関しては姫様の前ですので一切お話できません。庶民の安全な暮らしについてですが、自警団と冒険者が深く関わっていますね。自警団は各町の治安の維持、町周辺に迷い込んだ魔物の討伐。冒険者も同じように魔物の討伐の遠征に参加することもありますよ。報酬も出ますし、何より限られた人員を遠征に向かわせて減らしてしまうのは、町の安全の維持に支障をきたしてしまいますから。他所の国では自警団は小さな村にしか無く、各町には兵士が駐留しているのですが……、大差はありませんね」


「自警団かー。町でそれらしき人は見たことないなー」


「そう見えないだけで、実際町で何度もすれ違っていますよ。一度見つかると付かず離れず護衛されていたりもしますね」


「知らなかった!! 言ってよー!」


「それくらい自分で気づけるようになれ」


「私でも分かるわよ?」


「ユー姉様まで!? あ、今のは深い意味は……」


「それくらいで怒らないから大丈夫。それだけ私が普通のお姉ちゃんに見えてるって事よね」


「え? あ……、うん!」


「シラユキー?」


「きゃー!!」


「自警団と言えば、リーフサイドの自警団は凄いですよ、エルフにしか入団は認められていませんから。世界一平和な町と言われているリーフサイドですが、やはりこのエルフの自警団の存在が大きいのでしょう」


「シアが嫉妬のあまり自分から話を始めちゃったよ。姫もユーネ様もそれくらいにしようか」


「あはは」


「シラユキはとりあえず私の膝の上にいなさい。ふふふ」


「姫様、今日の湯浴みを覚悟しておいてくださいね」


「何の覚悟!?」




「物騒な話はやめて庶民の暮らしの話に戻ろうよ。食生活とかどうかな? シア、分かる?」


「家々によりますね。やはりどこへ行っても貧富の差は出て来てしまうもの。ですが、主食が芋と小麦類なのはどこも変わらないですね。別段気にするような話題ではないかと」


「そ、そうよね、シラユキ暗くなっちゃいそうだし、やめよっか……」


「に、肉類、魚類、野菜類、長期間の運搬のために凍らせて運ぶんですよ。それでも鮮度はどうしても落ちてしまうのですが、そこはフランの腕の見せ所、という訳ですね」


「今度一緒に料理教えてもらおうか。二人で兄様に何か作ってあげましょう? 勿論シアにもね」


「うん! 料理は出来るようになりたい!」


「ほう、俺は実験台か。バレンシア、お互い生き残れるといいな……」


「姫様の手料理で逝けるのなら本望と言うものですが、刃物を必要とする料理はいけませんよ? 姫様は怪我らしい怪我はした事がありませんから。刃物傷は痛いのですよ?」


「ちゃんと普通に食べれるようになってからしか出さないよ! でも、怪我は怖いね。私が血が出るくらいの怪我したのって言うと……」


「広場で走り回って転んで擦り剥いた事あるだろ、それくらいじゃないか? あー、あれはいつだ?」


「六歳の頃ですね。あの頃の姫様は本当に何にでも興味を持って駆け寄って行っていましたから……。ん? 今でもそうですね、可愛らしいです」


「そうそう! 泣き出すかと思ったら照れ笑いだもんね、あれはビックリしたわ……」


「痛みも一応知識としてはあったからね。六歳の頃だと前世の記憶もまだ強かった気がするし。うーん、思い出せないなー」


「それだけ毎日充実してるんじゃない? でもさ、あんまり怪我なんてしないでよ? 姫が怪我なんてしたら私たちショックで死んじゃうよ」


「包丁使い始めたら怪我なんて日常的にする事になるよ。いくら慣れてもちょっとした油断でスパッといっちゃうからね」


「フランさんたまに指怪我してるもんね。痛かったら言ってね、治すから」


「軽く凄い事言うわよねこの子……。怪我治せるようになったの?」


「ううん、まだ試した事も無いよ? でも多分できると思う」


「人で実験はやめとけよ。ああ、あれだ、ラルフで試そう。バレンシアのナイフで手のひらに風穴でも開けてやればいいだろ」


「ラルフさんも人扱いしてあげて!!」




「後何か聞きたいことある? なんかさ、シアがいると話が物騒な方向に流れて行ってる気がするんだけど……」


「んー、後は……、娯楽?」


「娯楽ですか、さすがユーフェネリア様、では娯楽について。子供たちの遊びはどの種族も変わりません、体を使った遊びですね、特に説明は要らないでしょう。後は、本や音楽、観劇にスポーツと様々ですね。姫様の場合はおやつと読書でしょうか。読書は勉強も兼ねて……、あ」


「勉強? 学校とかあるのかな?」


「え、ええ、ありますよ。姫様には私たちが直接お教えしますので必要ありません。文字や計算などは既に修めていらっしゃいますから、特に急いで教わるようなものも無いとは思いますが……」


「魔法の学校とかもあるのかな? 冒険者の育成とか……」


「くっ! 姫様の興味が!! しゅ、周辺の町には通常の学問、文字と簡単な計算を教えている学校の様なものしかありませんね。各国々には最低でも一つは冒険者や騎士、魔法使いを育成する学校はあります。大抵は王都と呼ばれる大きな都市に建設されるのですが、リーフエンドの場合は反対にこの森から離れた町にあるんです。姫様には一生縁のない施設ですね」


「えー、行ってみたいなー」


「だだだだ駄目よ!!! 寮に住み込みで通うことになるのよ!?」


「ああ! 絶対に駄目だ!!」


「お二人の仰るとおりです! ……? 使用人は確か同行が許されますよね。ふう、問題ありませんでした。今のはさすがに焦りましたよ……」


「シアずるい!!」


「その時は私たちもついて行こうよ、メア」


「一回見に行ってみたいだけだってば!!」



「どちらにしてもかなりの距離がありますから、まだ幼い姫様に長旅をさせるわけには参りません。今回は諦めてくださいね」


「長距離の旅行はまだちょっと怖いなー。シアさんが一緒なら安全って言うのは理解してるんだけどね」


「旅行も娯楽の一つよね、シア」


「はい、比較的裕福な家庭のみのことですが。往復分の護衛、滞在する生活費、その他観光に掛かる費用、全て合わせるとかなりの額になると思います。庶民の娯楽にはちょっと当て嵌まりませんね。一つ二つ隣の町へ買出しに行く程度でも早々できないのではないかと。その分冒険者に雑務依頼として買出しを頼んだり、定期的にやってくる行商の方を楽しみにしていたりですね」


「シアさんはホントに色々知ってるんだねー」


「ああ、うん……。一般庶民にとっては常識なのよ、シラユキ」


「シアは冒険者だったからね、知ってるのも当たり前みたいな事だから……」






「俺は少しは分かってるからいいんだけどな、シラユキもユーネも一般庶民の常識からはかけ離れてると思うぞ?」


「う……、いいのよ、私たちはお姫様だもんねー。ね、シラユキ?」


「うー……、うーん? わ、私は子供だからいいと思う!」


「それじゃ、ユーネ様はアウトだね」


「ううう……、もうちょっと勉強しなきゃ駄目ね……。シラユキに色々教えてあげたいし、お姉ちゃんだし!」


「あはは、一緒に勉強しようよ、ユー姉様!」


「私はシラユキの良き姉でありたいの。一人内緒でお勉強しちゃうわ! いえ、お兄様と二人っきりでね……」


「ああ、そうしようか。しかし二人きりか、勉強になるといいけどな……」


「夜のお勉強ですね、分かります」


「シアさん!?」


「失礼しました。男女の夜の営みの」


「言い直さなくてもいいよ!!!」





いつ頃の話かは決めていません。

十二歳のいつか、です。


実はこれを書いたのは『裏話』の投稿前だったりします。

教シアのその0という感じでしょうか。


予約投稿の日時を間違えてしまっていたみたいです。

今回は19日分でした。

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