その95
「父様教えてー?」
「ははは、秘密だ」
「ふーん……。みんなに内緒でミランさんを愛人さんにするつもりなんだ?」
「愛人!? 何をどうしたらそんな結論になるんだ!? 誰だ! シラユキにこんな事を教えたのは!!」
「……ウル?」
「エネフェア!? 違うぞ! ありえん!!」
ミランさんにリーフエンドの森に住む許可を与えたのは父様の一存らしい。母様もこの反応だと知らないみたいだね。
「シアさんが言ってたけど、この森って大切な土地なんでしょ? 私のお友達だからって、そんな勝手な事しちゃっていいの?」
この国の女王様は母様だが、最高権力者はお爺様とお婆様のどちらかの筈だ。世間的にはあまり知られてはいないが、二人とも父様よりも強いのは確かだろう。うん、怖いね。
でも、一回くらい会ってみたいな。私が生まれてすぐに顔を見に来てくれたみたいなんだけど、またすぐに旅に出てしまったらしい。かなり自由奔放な性格をしているという話だ。ますます会ってみたくなる話だね。
「勝手も何も家の土地だからな。誰にも文句を言われる筋合いなどないぞ? まあ、妬みややっかみは多少受けるかもしれんがな」
やっぱりそういうのはあるんだ。
シアさんの話を聞いた後でも、ここはただの森にしか見えない。他のエルフの人も一度見てみれば分かると思うんだけど……
「もう! 父様は人の迷惑になるようなことしちゃ駄目だよ! 私としては嬉しいから、あんまり強くは言えないんだけどね」
「はははは、すまんすまん。怒るなシラユキ」
笑いながら私の頭をグリグリと撫でる父様。
くう、駄目だ、誤魔化されるんじゃないぞ私! ……でも嬉しい! 誤魔化されてしまおう! 落ちるの早いな私は……
「丁度いいし、私からも一つ言っちゃいましょうか」
「う? 何? 母様」
「キャロルにも同じ様に、この森に住む権利をあげちゃってるのよ? あ、そっちは私がね」
「母様大好きーー!!」
母様に勢いよく抱き付く。
キャロルさんも、ずっと先の話だとは思うけど、この森に、もしかしたらこの家で一緒に住めるかも? 母様最高だ!!
「ふふふ、可愛い……」
「ぬう……。何故こうも俺と反応が違うのか……」
おっと、父様がいじけてしまっている。
ミランさんもキャロルさんの事も、理由は分からないが新しい家族になる、いや、もうなったと言ってもいいだろう。こんなに嬉しい事は無い。
「ふふ、ごめんね父様。父様も、ありがとう、大好きだよー!!」
「なっ!? 何という愛らしさだ……!! よ、よし! こうなったら」
「お祭りは駄目」
「何故だ!!!」
だって父様広場で延々と、私が何をしてそれがどう可愛かったっていう演説したいだけじゃない。ただの娘自慢したいがためにお祭り開催しまくっちゃ駄目に決まってるよ。
後、自慢される方の身にもなってほしいものだ。あの恥ずかしさは凄まじいものがある。いや、自慢に思ってくれてること自体は嬉しいんだけどね……
「それじゃ、手配お願いね」
「はい、それでは早速……。失礼します」
しまった! お祭り好きの家族のフットワークのよさを忘れていた!!
止めようにも、母様の指示を受けたカイナさんはすでに部屋にはいない。明日はお祭りかー……
まあ、私もお祭り好きの一人だからいいや。
母様の執務室から場所は変わり、いつもの談話室。今日のおやつはシアさん作のクッキーの、山。凄い量だねこれは……
「い、いっぱいあるね……」
「ふふ、すみません。この国ではあまり見かけない香辛料が手に入りましたので、ちょっと張り切りすぎてしまいました。無理に食べ切ろうとなさらなくても大丈夫ですよ」
こ、香辛料? シアさんが好きな香辛料が見つかって嬉しかったのかな、言ってくれれば用意したのに……。ん? どうやって? メイドさんズに? 結局変わらないじゃん!!
ま、まあ、気にしないでおこう。
「それじゃ早速頂いちゃおうかな。いただきまー、す?」
クッキーを一つ摘み、口元へ運ぶ。
ん? この匂いって、……え?
「姫?」
「シラユキ? あれ? 固まっちゃったよ」
「ひ、姫様? どうされました?」
クッキーを食べる直前の動作のままで固まってしまった私を心配して、三人が話しかけてくる。
いけないいけない、つ、ついね……。まさかコレがこっちの世界でも使われてるとは……、油断した……!!
「シアさんシアさん。これって、シナモン?」
そう、この香りは間違いなくシナモンの香り。ど、どうしよう……
「え、ええ。さすが姫様ですね、よくご存知で。香りの感想を頂きたかったのですが、残念です」
「う、うん。いい匂いだと思うよ」
一つ口に入れて租借、味は最高だ。しかしシナモンの何とも言えない香りが……
紅茶で流し込む。お行儀は悪いが、そんな悠長な事は言っていられないのだ。
「ね、ねえ、シア? なんかさ、姫、半泣きなんだけど……」
「ま、まさか……。姫様? もしかしてこの香り、苦手でした?」
無言で頷いて答える。
「も、申し訳ありません!! すぐにお下げします! わ、私としたことが……!!」
「私はいい匂いだと思うけどな……。あ、シア、下げなくてもいいよ、これは私たちで食べちゃおう。姫には他に何か持ってきてあげて」
「ええ……、そうしましょうか……。ついでにこの世界からシナモンの採れる植物を滅ぼしてきます……」
「おやつ取りに行くついでで!?」
シアさんは元気無く、トボトボと他のおやつを取りに行ってしまった。
そのまま本気でシナモンが採れる植物を滅ぼしに行かないか、心配になってしまうのは何故だろう……
「シラユキにも苦手な食べ物があったんだね……。あ、香辛料かこれは。んー……、アップルパイにも入れようと思ってたんだけど、やめた方がいいかなこれは」
シアさんが持って来てくれたのはアップルパイ。何故か焼きたてに見え、実際焼きたて並のおいしさだ。アップルパイって数分で作れる物じゃないよね? ……考えないようにしよう。
「ええ。まあ、もう作れませんが。諸悪の根源は全て処分しておきましたから安心してくださいね。この際国内の流通も止めましょうか……」
「全部捨てちゃったの? レンはやることが極端すぎるよ……」
「ただの香辛料を劇薬扱いしないでよ、もったいない! うう……、ごめんねシアさん……、まさかシナモンがあるなんて思いもしなかったから……。作ってもらってる立場でこんな我侭言うなんて……」
我慢すれば食べられない事も無いが、どうにもあの匂いは苦手なのよね……。アップルパイに入ってる事も多いので、油断をして一口食べて大当たり、なんて事は前世でもよくあったものだ。
「え? 我侭なのそれ? なんか姫ってズレてるなあ……。苦手な物が食べられないのはしょうがないよ、落ち込まないでいいってば」
「姫様は、私が作った物を食べられなかった事に対して落ち込んでいるんです。そこを勘違いしないようにお願いしますね」
「なるほどね、半々くらいの理由なのかな」
そんな感じかな……
メアさんも、シアさんの言動を話半分に流すっていう事をだんだん覚えてきたみたいだね。
「ねえねえシラユキ。もしかして、今まで無理して食べてたのってあったりする? 料理担当の私としてはかなり気になるんだけど……」
「今まで? う、うーん……? 多少苦手なだけのは普通に食べれちゃうし……、うーん……?」
「苦手な物はあったんだ!? 言ってよ! この子はもう! 教えて? 教えなさーい!」
そうは言われてもねえ……、シナモンみたいに完全アウトって言うのは中々無いんだよねー
ピーマンの苦さは確かに苦手だけど、味付け、料理の仕方によっては美味しく食べられるし……
「うーん……。分かんない」
「ええー? 自分が嫌いな食べ物でしょ? あ、シナモンは匂いが駄目なだけか。フラン、嫌いな食べ物っていうのは確かにパッと出てこないよ」
「それもそうか……。シラユキにはいつも笑顔で食べてもらいたいから、ちょっと熱が入りすぎちゃったみたいね。反省反省」
「ああ! 辛いのは苦手だよ? トウガラシ入ってるのとか。少しくらいなら大丈夫なんだけどねー」
フランさんの作る料理なら、辛くても美味しいからいいんだけど、辛すぎるのはちょっとね……
「それは分かってるからいいのよ。子供に辛い物食べさせるほど私は馬鹿じゃないって」
なぬ? 今まで結構辛めのはあったんだけど……、黙っていよう。
「好きなのは苺とアップルパイ、それにオレンジジュースか……。か、可愛いわ……」
「子供だねー」
子供舌でごめんなさいね!!
シアさんとフランさんの作るアップルパイは、いつも行くケーキとパイのお店のより美味しいのよ。オレンジジュースもシアさんの手作りだ。
「私もオレンジが好きですね。明日はオレンジのスポンジケーキにしましょうか」
「やった! シアさん大好き!!」
「レンばっかりずるい! 私にも甘えてよシラユキー」
「あ、姫、私にも私にも」
「ふふふ、みんな大好きだよ!!」
メイドさんズ三人に揉みくちゃにされる。幸せだね。
「姫ってアレだよね、メイドさん大好きだよね。ちょっとオヤジ臭い趣味なお姫様だね……」
「う、うん……。やっぱ私たちのせいかなこれは……」
「私たちがメイドである限り問題はありませんね。私は一生姫様のメイドを続けるでしょうし、本当に何の問題もありませんよ」
私のメイドさん好きはこの三人の甘やかしが原因だったのか!?
リアルが忙しくなりそうです……
毎日更新ができなくなるかもしれません。