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その93

 エディさんに事情聴取。でも、どうやって?

 今エディさんは、ラルフさんナナシさんから今後の修行予定を聞かされているはずだ。呼び出すのはまずいな……。それならこちらから? そうなるとラルフさんナナシさんの目の前で聞いてしまうことになる。それはもう本人に聞くも同じ事だ。あれ? 詰んだか。


 うーん、今日は諦めた方がいいか……。私の好奇心を満たすだけのために、エディさんの今後を決める話し合いの邪魔をする訳にはいかないよね。それは本当にただの我侭になってしまう。

 三人ともお友達だし、絶対に気にしないでくれるのは分かってるんだけどね、私が自分で自分を許せそうにない。






「いい考えだと思ったけど、やっぱりやめよう? 大事なお話の邪魔しちゃ悪いよね。気になるけど、うん、諦めよっと」


「シラユキ様なんてお優しい……。でしたら、今度私がそれとなく聞いておきますよ。何か分かりましたら、ええと、お手紙でいいですか?」


 おお、その手があった! さすがミランさん!


「うん! ありがとうミランさん、お願いね」


「はい! お任せください! ふふふ」


 よし! 後は、果報は寝て待てか、どんな結果が出るか楽しみだね。

 付き合ってなかったらくっ付けるか? 付き合ってたとしたら、ミランさんに例の依頼を受けないようにやんわりと言ってみるか? どっちも余計なお世話かなあ……。二人の結婚式は見てみたいものなんだけど……、結婚?



 冒険者の人は結婚はどうしてるんだろう? 子供が出来ちゃったりしたら……? 引退? 引退した冒険者はその後どうなるの? 年を取ってからもずっと依頼を受け続けるなんて無理だよね……

 今まで考えた事もなかったな……。実家、なんて物は無いよねきっと。ある人はあるとは思うが、無い人の方が圧倒的に多いはずだ。

 子供の問題はまだいいか、育てられない間は作らなければいいだけだと思う。でも、引退後か……。引退する年齢は、五十とか六十か? その時家も無い家族も無い人はどうするんだろう?


 んー……、駄目だ。何一つ浮かばない。

 いや、一つは浮かんでいるんだけどね。できればそうであってほしくない予想なのだ。



「ミランさん、ちょっと、変な事聞いていいかな? 私は知らないほうが良かったり、まだ知るには早い内容だったらそう言って。無理に話さなくてもいいから」


「え? ど、どうしたんですか急に? わ、私に答えられる範囲でなら……。そうだ、バレンシアさん呼びます?」


「お呼びですか?」


「ひゃあ!」「きゃあ!!」


 い、いきなり話に参加してこないでよ! もう!

 説明の匂いを嗅ぎつけたのか、名前を呼ばれたその一瞬で駆けつけたのか、また定位置、私の横にシアさんがいつの間にやら参上していた。


「び、びっくりした……。シアさんいい加減にしてよー……」


「ち、近付く気配が全くしなかったんですけど……。私一応Bランクなんですけどね……」


 しょうがないよ、シアさんは元Sランクだし……


「驚かせてしまったようで、申し訳ありません。まあ、わざとなんですが、驚く姫様は大変可愛らしく……」


「もう……。さっきもミランさんに言ったけど、教えるかどうかはシアさんが決めてね。えとね、冒険者の人は引退後、どうしてるの?」


「それは……、ええと、なんともまた答えにくいご質問ですね……」


 あらら、やっぱりか。

 予想通り、という訳ではなさそうだけど、あんまりいい内容でもなさそうだね。教えてもらえるんだろうか?


「姫様がお知りになりたいのは、年老いた、体力の限界の来た人間種族の冒険者はその後どうするか、という内容であっていますか?」


「うん。人間も、獣人の人もそうだね。五十歳くらいでもう限界なんじゃないかなーって」


 もしかしたらもっと早いかも? 武器を振り回して戦う、まさに体力勝負だよね冒険者って。体に衰えを感じたらもう無理はできないんじゃないのかな? 他の人にも迷惑を掛けてしまうと思うしね。


「討伐系を避けて、採取依頼や集団での護衛をメインに活動していけば、六十以上でも続けていく事は可能でしょうね。冒険者の引退後、ですか……、ふむ……」


「む、難しい質問ですね。その年まで冒険者を続けるという人自体稀なんですよね。シラユキ様、まずは冒険者が引退する理由から聞いてみませんか?」


 むむむ? その年まで続ける人は少ない? と言うか殆どいないのか。その前に引退しちゃうんだね、ちょっと安心しちゃった……


「うん。聞かせて欲しいな」


 気を楽にして聞けそうだね、多分私が変に構えすぎてただけなんだろう。



「では、まずは私が例を挙げていきましょうか。姫様の考える限界を感じて、という理由は確かに多いですよ。ですが、これは今は置いておきます。他の理由は、よくある話で言えば、結婚と就職の二つでしょうか。私がそうですね、メイドへの就職……、ではないですね。しまった……」


 あまりに自然に話しすぎて、自分でも言ってはいけない事だと気づかなかったようだ。シアさんとしては珍しいね。今日は説明する機会が多くて機嫌がいいし、気が抜けちゃってたかな?

 そういえばシアさんは、冒険者を辞めて放浪した末に、この国に流れ着いたんだっけ……。聞きたい、聞きたいけど……!


「き、聞かないから大丈夫だよ! シアさんは私のメイドさんになるために冒険者を辞めたんだよね! うん!」


 ここは強引に話を進めよう。話せるときになったら、話す必要が出来てしまったらきっとお話してくれるだろう。


 結婚と就職か……。どっちも今ひとつ分かんないね、何となくは理解できるんだけど。


「あ、ありがとうございます姫様……。では、気を取り直しまして。結婚は簡単に言えば、嫁入り、婿入りですね。家族の一員として、家に迎え入れてもらう、という事です。その後は一般の町の人と変わらない生活を送る事になると思いますよ。元冒険者の夫という物に憧れる女性はそれなりに多いんですよ。男性の場合は自分より強い女性は引いてしまう様ですが」


「なるほど、ミランさんはそれを狙ってるわけだね? ふふふ、難しそうだねー」


 そうだよね……、冒険者より、受付より……、お嫁さんだよね!!

 ミランさんは強いけど凄く可愛い人だし、モテると思うんだけどなー


「は、はい……、愛人生活もちょっと憧れ……、こほん」


 あ、愛人生活ってどんな……? き、聞いてはいけない様な生活なのか!?


「やはりミランさんはいやらしい。次に就職、これはミランさんが分かりやすいですね。各ギルドのギルド員としての就職が多いでしょうか? 雑務依頼の仕事先で依頼人に腕を見込まれたりすると、冒険者なんて辞めてウチで働け、などと勧誘される事もあります。どちらも住む家は必要になるでしょうが、大抵は住み込みで働く事になりますね。こちらも最終的には一般の町人になるのでしょうか。他にも、自警団に組み込まれる、国の兵士として徴用される、Aランクともなれば国からの勧誘もあるでしょうね」


 そ、そうだ、冒険者は何でも屋だったね。色々な仕事をこなしていけば、手に職がつく、って言うのかな? 冒険者を続けていく理由も無くなっていくのか。なるほどなー、面白いね。


「でも、みんながみんな、そんな都合よく結婚とか就職先が見つかる訳じゃないんだよね?」


「はい、特に結婚なんて……」


「ミランさんは放置で。姫様の仰る通りですね、半数にも満たないでしょう。ここで先ほどの、避けておいたお話が出てきます。体力の限界、冒険者としての限界を感じた者はどうするのか、姫様はどうお考えになりました?」


 何も思いつかなかった、って言いたいけど、一つだけ思いついちゃったんだよね。


「多分一部の人だけだと思うけど、ええと、引退できないまま、その……、うう……」


「無理に仰って頂かなくても結構ですよ。ええ、確かに一部にはそういった方も出て来てしまいますね。無理を通せば待っているのは辛い現実、という物です」


 うん、無理をして死んじゃうんだろうね。

 でもそれは一部だけのはず、他の人は一体どうするんだろう?


「今の姫様には絶対に思いつかないだろう答えなので、まずは正解を。旅に出ます」


「た、旅!?」


 え? 確かにその発想は無かったわ。でも、どういう事?


 シアさんは楽しそうに、身振り手振りを加え、答えの説明を続けていく。


「ふふふ、すみません、比喩表現でした。安住の地を探す旅、とも言えるでしょうか? この町、リーフサイドの町もそうやってできた町なのですよ、どの町も最初はそのようなものです。旅人が集まり、寄り添い、集落に、村に、町に、都市に、そして、国へとなっていく。まさに冒険者のその後に相応しいと思われません……、か?」


「な、なんとなく……?」


「ひ、姫様にならお分かり頂けると思ったのですが……」


 私の複雑な表情を見てか、ちょっと芝居がかった表現で説明していたシアさんは、気恥ずかしさで元に戻ってしまったみたいだ。


「あはは。シラユキ様にはちょっと難しい表現でしたね。分かり易く言うと、開拓民の集落へ住み着くんですよ。勿論それが全て、という訳ではありませんけど……。見ず知らずの冒険者がその後どうなったか、なんて誰も興味はありませんから」


 あ、ああ! ああ?

 な、何となくは分かるのよ、何となくは。冒険者としての色々なスキルを、長く生きた経験を開拓に活かす、っていう事? 聞こえはいいけど、うーん……、すっきりしないなあ……


「ぶっちゃけてしまいますと、そんなモン知ったことか、という事でございますね。姫様もあまりお気になさらぬように……」


 ぶっちゃけちゃったよ……

 それもそっか、他人事だよ。ラルフさんナナシさんはお友達だし気にはなるけど、もし何かあったのなら、お姫様権限でも使ってえこひいきしてしまえばいい。

 顔も名前も知らない、あった事も無い世界中の冒険者の事なんて考えるだけ無駄か。


「そうだね。でも、勉強になったかな。ありがとうシアさん、ミランさん」



 またちょっと甘やかされちゃったみたいだね。

 多分こんなに軽く話せるような明るい話ではないと思う。開拓民、自給自足の生活をするんだろうか。国が開拓地へと人を送るのとは訳が違うよね……、うん? そこに住み着くのか? 引退したって言っても冒険者だし、実は頼りにされて歓迎されるかもしれない? 色々な知識を持ってて、しかもある程度まだ戦える人だよね。絶対頼りにされるよ!


 うん、それでいいや。すっきり!






「では、姫様が何故かすっきりした顔をされているところで、当初の話題へと戻りましょうか。ラルフさんとナナシさん、付き合ってはいませんよ。それは確実です」


 わ、私を混乱させるつもりだねシアさん……!

 あの二人は付き合ってない。うん、ミランさんと話して出た結論通りだね。シアさんが確実と言うのなら、それはもう100%間違いない情報だと思っていい。


「シアさんはどこまで知ってるのかな? あの二人、どうなの?」


「私も少し気になりますね。どうなんですか?」


 ミランさんと私がずんずんと詰め寄る。勿論声は落として、小さめでね。


「付き合ってはいません。ですが、だからと言って、お互い想い合っていない訳ではありませんよね? つまりはそういう事です」


「うんうん! やっぱりそうだよね! そうなんだよね!!」


「シラユキ様可愛い……」


「姫様可愛すぎます。押し倒しますよ?」


「やめて!!」


「冗談です。私のメイドセンサーの反応からすると、ナナシさんは間違いなくラルフさんの事を好き、いえ、愛していますよ。これは間違いありませんね。」


「ええ? ラルフさんが、じゃなくて?」


「ラルフさんもナナシさんの事を好ましく思ってはいる筈ですが、愛には至っていないでしょう。メイドセンサーにそこまで強い反応は感じませんでした」


「な、なるほどねー……。さすがシアさん、凄いや」


「今の説明で納得できてしまうシラユキ様も凄いですよ……」


 ふむふむ。メイドセンサーはまずは気にしないでおこう。シアさんだし、メイドさんだし、その程度の物搭載していたところで何等おかしくは無い。



 ナナシさんはラルフさんの事が好きなんだ。でも、あんな依頼を受けてるのに? もしかして、ラルフさんだけじゃ満足できないとか? あ、ありえる、ありえてしまう……。普通に納得できてしまう理由だ!


「私がここまで他人の、いえ、姫様のご友人の方の内面まで話してしまった理由は、お分かりになりますよね?」


「うん。多分私はあの二人の恋愛に関してだけは、関わっちゃ駄目なんだね」


「え? え? ど、どうしてそうなるんですか?」


 ミランさんにはちょっと説明し難いな……


「シアさんなりの優しさ、かな? ありがとねシアさん、止めてくれたんだよね」


「はい、申し訳ありません。姫様にはどうしても……、すみません、これ以上は……」


「私はお礼を言ってるのに、どうして謝るの? ふふふ」



 人には人それぞれ事情がある。シアさんはその事情を調べてくれたのかな? 調べた結果、私には絶対に話せない内容だったんだろうね。

 ラルフさんかナナシさんか、或いはその両方か。好き合って、想い合っていても付き合えない大きな理由があるんだろう。

 子供の私には聞いても理解できない事なのかもしれないが、シアさんの言う事ならしょうがない。今回は完全に諦めようじゃないか。



「ば、バレンシアさん羨ましいです。私もシラユキ様とそんな風に通じ合ってみたいです!」


「ふふ。そのためにはまず、私のメイドさんにならないとね!」


「おおお王族の方のメイド!? むむむ無理ですよう!!」


「冗談だよ、もう。でも、ミランさんもメイドさんになって欲しいなー」


 ミランさん強くて可愛いとってもいい人だし、メイドさんになれば兄様の愛人の座を狙えるかもね?

 半分以上冗談だが、そうなってくれたらいいなーとは会う度に思わされている。




「なれますよ?」


「えっ」


「えっ」


 なにそれこわい。


「私が姫様の友人と言えども、ただのギルドの受付程度にあのような重大な話をすると思いますか?」


「え? シアさん?」


「え? バレンシアさん?」


「ウルギス様の命です。まさか拒否する、などとは言い出しませんよね?」


「父様の!? ど、どういう事!?」


「うううウルギス様の!? ど、どういう事なんですか?」


「さあ? さすがにそこまでは、私程度のただのメイドには分かりかねますね」


「この前会ったときに一目惚れされたとか? ミランさん、兄様じゃなくて、父様の愛人になるの?」


「し、シラユキ様!?」


「姫様、混乱されるお気持ちは分かりますが、ミランさんが付け上がってしまいますのでその辺りで。はい、ミランさん、こちら、ウルギス様からの書状です」


「は、はい!!!」




 な、何だろう? どういう事?

 とりあえず分かる事は、ミランさんが家のメイドさんになってくれるかもしれないって事。本当だったら嬉しいなそれは……



 ミランさんはゆっくりと手紙? 書状を読み始めた。







今回少し長めでしたね。それでもまた続いてしまいました……

本当はもっと短くなる予定が、シラユキがつい興味を向けてしまいまして。

キャラが勝手に動くのは予定を狂わされて面白いですね。


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