表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/338

その85

 シアさんにプレゼント。これが結構悩みものだった。


 シアさんの好きなもの? 私とオレンジくらいしか知らない。他の誰かに相談しようにも常に私と一緒にいるからね、それも難しい。

 好きな物でまず私が出てくるのはちょっとおかしい気もするが、シアさんだから仕方ないね……

 プレゼントは私よ! などと冗談を言ってみたらその場で押し倒されてしまいそうなので却下。次の案へ。


 それならオレンジを使った何かはどうかな。ふむ……、手料理か、いいねいいね。

 しかし、料理? 私は、転生前も今も、料理どころか包丁すら握った事が無いんだけど……。学校の実習で数回触った事があるか? 程度の知識しか頭にはない。

 私個人ではどうしようもない、誰かに教えを請おうか。家族内で料理と言えばフランさんだね。

 フランさんは私お付のメイドさんだが、私たち王族の食べる食事の一切を引き受けている。フランさんの作る料理で不味いもの、いや、美味しくないものが出た試しは無い。


 教えてもらうならフランさん一択だろう。でもその場合もシアさんが一緒にいるんだよね。私が教えますとフランさんを押しのける様子がはっきりと想像できてしまうよ。

 それならシアさんを一時的にでも、料理を教わる間だけでも私から離れてもらうか? ……な、泣かれそうだ……。駄目だね、この案も通せない。


 ん? 反対に考えてみよう、離れてもらうんじゃなくて、離れてる間にできる事を考えるんだ。まずは、シアさんが私の側にいない時間を思い出してみる。


 うーん? おやつを作りに行ってる時、一緒に入らない場合のお風呂。トイレは当たり前だね。後は夜、寝る間か。でも交代で部屋の外にはいるんだよね、夜間警備か。

 一度警備なんていらないんじゃないかな? と、さりげなく聞いたことはあるんだけど、警備ではなく、私が夜不安にならない様にする事の方がメインらしい。

 私は小さい頃から一人で暗い部屋で寝てたしね、最高に心配されていたみたいだ。その習慣が今でも続いているのか、やはり過保護だね。


 おっと、考えを戻そう。

 シアさんが私の側にいない間に何ができるか。おやつを作りに行っている間は厨房も使えない筈だ。この時間は料理は無理だろう。

 後は、週に一度くらいお休みを無理矢理取ってもらっているんだけど、何故かお休みの日も一緒にいるね。川の遊び場の整備など、他にも内緒で色々とやっていると思うんだけど……、いつやってるんだろう……


 シアさんの謎が深まってしまった……






「シラユキ? シラユキー? 考え事? 何か悩みがあるならお姉ちゃんに話してね。一人で考え込んじゃ駄目だっていつも言ってるのに、この子はもう……」


 むむむ、そんなに長く考え込んでたかな。姉様に心配されてしまったようだ。


「悩み、と言えば悩みなのかな……。ちょっと考え事」


「聞いてもいい? 悩んでるシラユキも可愛いんだけど、やっぱり笑ってる顔の方がいいからね」


 家族の前で塞ぎこんでちゃ駄目だ、何やってるんだか私はもう。でも……


 チラッと横を見ると。


「? どうかされましたか? 姫様。御用でしたらなんなりとお申し付けくださいね」


 悩みのシアさん本人がいるんだよね……。ふう……


「た、ため息!? はっ!? 姫様のお悩みとはまさか、私の事なのでは! わ、私に何か至らぬ点が……。それとも、ついに私の想いにお答えしていた」


「それは無いからね!? もう! そんなことばっかり言ってるからみんな勘違いしたままなんだよ? 後、シアさんに不満なんてある訳無いからね!」


 このからかいは不満と言えば不満なんだが……


「冗談です、ご安心ください。さて、どうやら私の前ではお話し辛い内容の様ですね、私は少し席を外す事にします。メア、フラン、お二人のお世話はお任せしますよ」


「え? あ、うん、了解」


「任せて。レン抜きの内緒話とか、いいねいいね!」


「シアさんごめんね。仲間はずれにしちゃったみたいで……。でも、うーん……」


 フォローし難いなこれは。後でもう一回、ちゃんと謝りながら説明しよう。


「ふふふ、大丈夫ですよ、ご心配なく。楽しみに待っていますね。それでは一度、失礼します」


 綺麗なお辞儀を一つ、シアさんは上機嫌で部屋から出て行ってしまった。




「あれは、何と言うか……。完全にバレてるよ……」


 どう考えてもさっきの反応は、既に私からの贈り物を全力で楽しみにしているとしか思えない。


「バレてる? シアに何か隠し事してるの? シラユキは考えが顔に出やすいのに、それに加えてあのシアよ? 隠し事なんてできる訳無いじゃないの」


 それもそうだね……

 シアさんは私の表情を読むと言うか……、たまに本気で心を読まれてるんじゃないかと思わされることが多い。多すぎる。

 私は特に顔に出やすいらしいんだけど、自分では全く分からない。そんなに分かりやすいんだろうか?


「うん。あのね、日頃の感謝と言うか、色々してもらってるお礼と言うか……、シアさんに何かプレゼントでもあげようかなって思ってたんだけど……。どう見てもバレてるよねあれ」


「なるほどそういう事。確かにね、やけに嬉しそうにしてたし絶対にバレちゃってるわね……。ふーん……、シアにプレゼントかー……」


「へー……、シアにねー……」


「ほうほうほう、レンに、ね……」


 あ、あれ? 三人の反応がおかしいぞ? お姫様がプレゼントとかしちゃ駄目?

 ああ! 自分で稼いだお金でもないし、やっぱりプレゼントは駄目か!! 贈り物を買うお金だって国のお金だったよ……


「私には、私たちには、何も無いんだ?」


「えっ」


 姉様の一言に世界が静止する。


「そっかー、姫はシアだけにプレゼント用意するんだー」


「しょうがないよねー? レンだしねー? ラブラブだもんねー?」


「ふふふ、シアだし、って言うのに納得しちゃったわ。でもちょっと妬けちゃうわね……、シラユキ!?」



「ご、ごめんなさい……、私、そんなつもりじゃ……。み、みんなも、みんなにも……、う、うう……」


 目の前が真っ暗になったような気分だ。

 シアさんだけにお礼するとか、私は本当に何を考えてるんだ……。自分がどれだけの人に甘やかされて、支えられて生きていると……


「ええ!? な、泣かないで! い、いじめたわけじゃないのよ? ね? シラユキ、ちょっとからかっただけだから……。あああああ、やっちゃったー……」


 姉様は悪くないよ。メアさんフランさんもからかってるだけだって言うのも、ちゃんと分かってるよ。

 みんなに甘やかされているのが、もう当たり前の様に感じてた自分が情けなくて……


「姫? どうしたの? からかってるって分かってるよね? あれー……、やりすぎちゃったかな……」


「ウルギス様に控えろって言われたばっかりなのに……、しかも泣かせちゃったよ……。ど、どうしよう……」


「ごめんね、ユー姉様……。メアさんフランさんも、ごめん、なさい……」


「な、何を謝ってるの? ううう、泣き止んでー……。まさか私がシラユキを泣かせちゃうなんて……、私も泣きそうよ……」




「私は、お二人のお世話をお任せします、と言った筈なんですが……。覚悟はできているでしょうね、二人とも。姫様のみならずユーフェネリア様まで泣かせるとは……」


「シア!?」


 いつの間にか、二人のすぐ後ろにシアさんが立っていた。


「レン!? 違、わないけど、今はまず助けて!! シラユキまた自分を責めちゃってるみたいなのよ」


「ご自分を? とりあえず詳しく説明を。ああ、エネフェア様にご報告は入れますからね? 今回ばかりは本当に覚悟しておきなさい」


「後で全力で土下座しに行こう……」






 なんとか泣き止んだ私が説明をする。みんな呆れ顔だ。……呆れ顔?


「ねえ、姫? 自分の年言ってみなよ」


「う、うん? じゅ、十二歳……」


 何か怒られそうな空気だったので、少し控え目な声で答える。


「か、可愛い! ……じゃなくて! 十二歳の子供が考える事じゃないよそれは……」


「よ、よかった……。またこの子の考えすぎ、と言うか思い違いだったのね。こ、今回はさすがに焦ったわ……」


 姉様が安堵のため息をつく。


「姫様、こう言っては失礼になるかもしれませんけど……、もっと子供らしくしてください。子供を甘やかすのは親として、家族として当然の行為なのですよ? その当然の行為に対して感謝を怠ったなどと考えられては……、その考えが逆に失礼に当たる、と言うものです」


「私たちは、私たちがシラユキを甘やかしたいから全力で甘やかしているのよ? その考えはちょっとね、あんまり怒ったりはしたくないんだけど……、ええと、駄目よ?」


「ユーネ様優しすぎ。まあ、確かにこれは叱りにくいねー」


 ああ、うん、怒られてるんだよね? 今。

 子供らしくない考えだったのかな……? それって……

 私はみんなのことを家族家族と言いながら、どこか他人行儀にしてたって思われちゃったって事?

 う、うわあ! それは怒られて当然だわ! 


 あああああ、早くちゃんといいい言わなきゃ……


「大丈夫ですよ姫様。皆ちゃんと分かっていますから。普段の姫様の甘え方を見て、どう勘違いしたらいいのか逆に聞きたいくらいです」


 また泣き出しそうになった私を見て、シアさんが先にフォローを入れてくれた。

 絶対心読んでるよ、読まれてるよ……


「あ、また変な事考えてたわね? まったく、もう! 子供らしくないんだから……」


「う、ううう……。ごめんね?」


 それと、ありがとう、みんな。






「私へのプレゼントは、そうですね。姫様のファーストキスでも頂きましょうか」


「いきなり何言ってるの!?」


「あ、シラユキの初めてのキスはお父様よ?」


「なん……ですって……? あ、いえ、九歳まではノーカウントです」


「母様ともユー姉様とも、る、ルー兄様ともした事あるよ? あ、あとフランさんとも」


「え!? ああ、そういえばお兄様ってシラユキを抱き上げてはキスしてたっけ……。浮気だわー、ふふふ」


「内緒にしててねって言ったのに……。ま、いいけどね。」


「フランってばいつの間に……。姫、私ともしよ?」


「ひ、姫様! まずは私に!!」


「お、襲われる!? 助けてユー姉様ー!!」




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ