その82
その後しばらく、私とキャロルさんをからかいながらの会話は続き、おやつも食べ終わったところでキャロルさんは町に戻って行ってしまった。
もう何日か泊まって行ってほしかったのだが、いくらシアさんのお弟子さんとは言え一介の冒険者が王族の住まう家に長々といる訳にもいかない、という事らしい。
私たちは誰も気にして無いんだけどね、キャロルさんが緊張しすぎで倒れちゃいそうだし、しょうがないのかなと思う。
リズさんとライナーさんにも、調査の依頼をした形だから、お礼など色々することもあるらしい。こっちに呼んじゃえばと言ってみたものの、やはりエルフ以外は森に入れてはいけないようだ。残念。リズさんメイド化は無理か、本当に残念だ。だがしかし、キャロルさんメイド化計画は諦めない。
後日冒険者ギルドでまた会う約束はしたのだけれど、ちょっと寂しいね、家族が一人増えると思ったのに。しかも私の最大の理解者になってくれそうだったのに……!!
「まあ、よかったんじゃないのかな? だってね、姫、シアを取られちゃうかもしれないんだよ? それは嫌でしょ」
うじうじしてた私に気を使うように、メアさんが言ってきた。
「シアさんを取られる? どういう事?」
「ありえませんね。いくら可愛い弟子と言っても、姫様以上の存在足りえるなどあろう筈が無いでしょう?」
メアさんが意味を答える前にシアさんが完全否定してしまった。
なるほど、そういう事ね。
「多分シラユキに遠慮してたんじゃないの? ホントはもっと甘え、って、やっぱ無いわ。メア、キャロル三百歳だよ……」
正確には三百四十歳以上か。誰かに甘えるっていう年齢じゃないよね。
「そ、そうだった! 忘れてた……。姫よりちょっと上くらいにしか見えないからしょうがないよね……」
「メアとフランの年齢を足してやっと同じくらいですね。クレアとカイナも確か同じくらいの筈ですよ。キャロは少々精神的に幼いと言いますか、年相応に見えなくても無理は無いかもしれませんね」
クレアさんとカイナさんも三百歳くらいか、それは知らなかったな。てっきりシアさんと同じくらいなんじゃないかと思ってたよ。
「エルフや竜人など、長寿命の種族は精神年齢が外見に引っ張られる様な感じですね。いくら大人ぶろうとこの外見ではどうしようも無いだろう、と達観しているのでしょうか? 姫様も成人するとお分かりになれると思いますよ」
「なるほどねー。私もキャロルさんくらいで成長止まりそうだしね……。止まらないよ!? 思いっきり納得しちゃってたよ! さ、さりげなく言ってくれちゃってもうー!!」
諦めない! 絶対にだ!!
一番背の低いメアさんでも150以上は余裕であるからね。せめてメアさんと同じくらいには……!
「姫はずっとそのままでいて欲しいな。変な意味じゃ無くてね? 子供のままでいてほしい、っていうのも違うか」
「そうだね。何百年経っても私たちが側にいるから、ずーっと甘えてよ」
あれ? ちょっとしんみりとした空気になってしまった。
「メアさんフランさん……。ずっと子供のままは嫌だけど、私も、何百年でも一緒にいたいな」
何百年でも、何千年でも、ずっとね。
「二人が言いたいのは、何百年先でも子供の感性のままでいて、私たちにからかわれてください。という意味なのですが……、本当によろしいのですか?」
「え?」
「あ、ちょっとシア!」
「な、何言ってるのよ!! まあ、あってるんだけどね……」
あってるのか! まったくこの二人はー!!
「姫様ご安心ください、私は一生お側にいます。姫様をからかうのは私の大切な、とても大切な生きがいの様なものですから」
「変な生きがい持たないでよ!! 三人ともからかうの禁止ー!!」
「無理」
「え? 嫌よ」
「姫様の命と言えども、それだけは頷く訳には参りませんね……。お諦めください」
お前は何を言っているんだ? と言う反応を返されてしまった……。ひどい! ひどいわ!
「くううう、くそう! 負けるもんかー!!!」
いつもはお姫様扱いするくせに、こういう時はただの子供扱いするんだから!!
「コラ! 姫、最近言葉遣い悪くなってない?」
「冒険者ギルドに通い始めてからよね……。私もちょっと気になってたのよ」
あれ? 二人の顔から笑みが消えた……?
「それだけ私たちに気を許して頂いている、という事なのでしょうけど……。さすがにもう放置してはおけませんね」
「え? シアさん? な、何? だ、大丈夫だよ? ちゃんとおしとやかにも話せるよ?」
こ、これくらいいいじゃない? ルー兄様だってかなり言葉遣い悪いと言うか、荒いときもあるよ?
「おしとやかにも、じゃ駄目なのよ。無意識にくそうなんて言葉が出るのはお姫様としてちょっとね……」
「ねえ、シア? ギルドに通うのは控えさせた方がいいんじゃない? むしろやめさせた方がいいかも」
「え? ええ!? そ、それはやだよ!! キャロルさんとも約束したし!」
確かに冒険者ギルドに通うお姫様はいないわ……
でも私はもっとお友達が欲しいのよー!
「姫様、しばらくの間は控えましょう。キャロルはこちらに呼び出しますからご安心を。ウルギス様にもご報告を入れますからね? エネフェア様にも叱って頂きましょうか」
「母様に!? それはちょっと嬉しいけど……。ううう……、分かったよう……」
お姫様だもんね、しょうがないかー……
父様は大丈夫そうだけど、母様には少し怒られちゃうかな?
「エネフェア様に叱られるのが嬉しいとか、ホントに姫はエネフェア様のこと大好きだよねー」
「シラユキの前じゃ本気で怒る事なんて無いしね……。まあ、強く叱られるなんてないだろうから、大人しく怒られて来ちゃいなさい」
そういえば、リズさんがシアさんのことを聞いてきたときの母様はちょっと怖かったかな。
物言いは普段と全く変わらないんだけど、殺気と言うか、重圧と言うか、本当に辺りの空気が重くなる感じがするんだよね。あ、シアさんがライナーさんを追い払おうとしてたときもか……
おっと、この考えは怖くなりそうだからやめよう。
「リーフエンドで一番強いのはウルギス様だけど、一番怖いのはエネフェア様なんだよ?」
「え? 父様じゃないの? 父様は昔は凄く怖い人だったんだよね?」
今ではすっかりいいお父さんなんだけど、昔怖い人だったとか想像すらできないよ。
「ウルギス様は各国王家で知らぬ物は居らずの最強のハイエルフですからね。一夜で大都市を滅ぼした逸話は語り継がれていると……、失礼しました」
失言とばかりに謝って、話をやめてしまう。別にそれくらいならいいのに……
「私もそれは聞いた事はあるんだけど、うーん……?」
「私たちから見ても全然怖そうには見えないよね。子煩悩のパパさんにしか見えないってアレは」
「アレ扱いはやめなさいって。エネフェア様が産まれてからは大人しくと言うか、優しくなったのかな? 私はそう聞いてるよ」
おお、何か面白そうな話だねそれは。
母様が産まれてかからは大人しく? んー? 母様が産まれるまでは国外を歩き回ってたんだっけ。暴れ回ってたとも言うのかな……
「ふふ、愛する方が出来ると人は変わるものなのですね。恋は人を変える、とはよく言った物です」
「レンの場合はシラユキのおかげ? あ、今でも怖いままか。あはは」
「失礼な。ですが、私も変わったのでしょうか、ね」
「うんうん。でもさ、姫と一緒にいればどんな怖い人だっていい人に変わっちゃいそうだよね」
私を撫でながら言うメアさん。
「ううう、恥ずかしいよ……」
これは可愛い可愛い言われるよりずっと恥ずかしい!
「照れちゃってー。可愛いなーシラユキは。私も撫でよう」
「それでは私も失礼して……」
メイドさんズ三人に三方向からの撫で攻撃を受けてしまった。なにこれ幸せすぎる。
結局母様が一番怖いという話は聞けなかったが、まあいいや、気にしないでおこう。
明日はお説教かな? 嬉しさ半分怖さ半分、微妙な気持ちだね。
お姫様らしく。お姫様らしくか……、私にはちょっと難しいんじゃないかな……
10月6日
フランのセリフを一つだけ修正しました。