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その81

「なっ、ど、どうしっ、何があったの!? うわ! うわわ! お、大怪我!!」


 走り寄って、近くで見てみると本当にひどい怪我だ。

 かすり傷と小さな切り傷はそのまま、既に血は止まり、固まっているようだ。手足には包帯。内出血なのか、痣も所々に見える。包帯を巻くほどの怪我っていう事だよね……


「ひ、姫様? 落ち着いてください。この程度の傷、どうと言う事はありません」


 この程度じゃないよ! 大怪我だよ!!


 !?


 クレアさんの声に顔を上げてみると。


「な、あ……、嘘!? か、顔! 顔にまで!?」


 右の頬にガーゼのような物が貼られていた。

 血の色が滲んでいる、結構な出血があったんだろうと思う。


 クレアさんの綺麗な顔に傷!? ふ、深いの!? まさか!


「ど、どうしよう!! クレアさんの顔に傷が残ったら……」


「姫様、どうか落ち着いてください。クレア、キャロ、模擬戦ですか? 随分と白熱したようですが……、せめて汚れを落とし、着替えてから戻ってきなさい。姫様に血を見せるとは、どういうつもりですか……」


「う……、確かにそうだな。姫様、申し訳ありません」


「そ、そうだった! ついいつもの気分で……。すみませんシラユキ様!」


 静かに怒るシアさんの言葉に、今気づいたとばかりに謝る二人。


 も、模擬戦? え? なにか大きな事故でもあったんじゃないの?


「クレアさんとキャロルさんが、た、戦ったの? なんで? なんでそんな……。怪我までして……」


「シラユキ? あれ? 大丈夫? ちょ、ちょっと二人とも、早く着替えて来なさいよ。子供に見せる姿じゃないわよそれ!」


「わ、分かった。姫様、失礼します。すぐに戻りますので」


「や、やっちゃったー……。わ、私も行ってきます!」


 呆然とする私に気を使ってか、フランさんが二人を追い出す。


「姫、席に戻ろう? まったく、あの二人は何考えてるんだか……」


 メアさんに手を引かれ元いた席へ戻る。




 二人とも凄い怪我だった……。あれがただの模擬戦でできた傷なの? 包帯の下は一体どんな……


「姫様、紅茶をどうぞ。急にあんなものを見せられて驚きましたよね。心中お察しします。ですが、今は何も考えずに、まずは落ち着いてください。あの二人でしたら本当に大丈夫ですよ。クレアの顔の傷も残るような事はありませんから。どうか、安心してください。見た感じですが、そこまで酷い傷は無いようでしたから」


 出された紅茶を一口。まずは落ち着こうか。

 何も考えるなって言うのは難しいけど、クレアさんの顔の傷は綺麗に消えるんだよね。それだけでも分かって安心だ……


「恐らくは、クレアがエネフェア様を通じてキャロに申し込んだのでしょう。キャロはクレアと同じく近接がメインの戦闘スタイルですからね。武器を見て血が騒いだ、とでも言ったところでしょうか。まったく野蛮な……」


「模擬戦なんだよね? 本気で喧嘩した訳じゃないよね?」


「ええ、お互いある程度は本気を出していたとは思いますが、必殺の一撃の様な攻撃を繰り出すのは避けていた筈ですよ。実力を確かめ合い、長く打ち合うのが模擬戦の主眼ですからね」


 それでもあの大怪我か……

 血はともかく、怪我なんて見慣れるほど見た事も無いからね、焦っちゃったよ……

 何気に初めてなんじゃないか? 父様と魔法撃ち合ってる人たちもかすり傷程度だったし……


「喧嘩とか表現が可愛い……。はいはい考えない考えない。本の続きでも読んでなさいって」


「う、うん。そうする……」


 二人が戻るまで本を読んで落ち着こう。

 笑いを誘う内容の本でよかったよ。『世界の刃物大全・巻のニ』を手に取らなかった私を褒めたい。






「失礼します、クレアです。姫様は落ち着かれましたか?」


「し、失礼します……。シラユキ様は大丈夫、そうだね」


 地面に大の字でうつ伏せに寝そべり、土を操作して動かす、と言う魔法の説明のページで盛大に噴き出したところで、二人が戻ってきた。なんてタイミングだ!!


 二人を見てみると、クレアさんはいつものメイド服、キャロルさんは何故か、可愛らしい白のワンピースを着ていた。

 さすがに包帯やガーゼはそのままだが、やはり綺麗な服に着替えたおかげで、殆ど気にならなくなっていた。


「きゃ、キャロルさん可愛い!!」


「うわ、ホントに可愛い。冒険者なんて辞めちゃえばいいのに……」


「やっぱコレは手放したくないね。ウルギス様に言ってちょっと強引にメイドになってもらっちゃおうよ。シラユキもそれがいいよねー?」


「うん!!」


「え、ええ!?」


 可愛さに絶賛、そして怪しい企みを始めるフランさんに驚くキャロルさん。


「そうなってしまった場合、クレアが毎日模擬戦を仕掛ける事になりますが。きっとお互い生傷の絶えない毎日でしょうね、姫様はどう思われるでしょう?」


「さすがにそれは無いぞ、と否定できればいいんだが……。できんな」


 クレアさんはバトルマニアなのか! こ、怖いわー! やっぱりクレアさん怖い人だったわー……


「ま、毎日アレはきっついわ……。シア姉様、クレアは何者なんです? やっぱり王家に仕えるメイドともなると、特別な家柄の者だったりするんですか?」


「私はあなたの服装の方が気になりますけどね。姫様に対抗意識でも燃やしてるのですか? 身の程を知れと言ったでしょう」



 私も毎日ワンピースだからね。動きやすいし、可愛いし。

 外出する場合は短めのスカートにするんだけどね。高速で走る場合、長いスカートは邪魔になってしまうのだ。

 最近はスパッツ無しで、スカートの中を見せないようにする、と言うメイド技術の訓練をシアさんにさせられている。

 全力で覗きに来るシアさんはちょっと怖いが、意外に楽しい訓練だったりもする。



「これはカイナさんが無理矢理……。シラユキ様は成長が遅いからまだ当分必要無いから、って何着も押し付けられて……、はっ!? ど、どうなのよクレア!?」


 思いっきり聞こえてたよ! それ私のだったのか!? でも可愛いからよし!!


「特に特別な家柄、という訳では無いな。両親とも私より強いのは確かだが、普通に畑仕事をして暮らしているぞ? 私は子供の頃からエネフェア様に仕えるために鍛錬を重ねて来たんだが、やはりまだまだのようだな」


 両親とも私より強い?

 クレアさんってAランク上位並の強さじゃなかったっけ? え? 二人とも何度も会ってるけど普通にのほほんとした農家の人だよ? あ、確かにお父さんの方は……。 


「り、リーフエンドのエルフってどんだけよ……。Aランク最上位とか言われて、ちょっといい気になってた自分が恥ずかしいわ……」


「いやいや! この国のエルフがみんな強いわけじゃないから!」


「そうだよ。私ら弱いよ? 攻撃魔法なんて使えない、事も無いけど、強くないよ?」


 むむ? やっぱりフランさんは使えたか。多分強いよこの人……。コーラスさんの妹さんだよ?


「クレア程の実力となると、そうはいないと思いますよ。まあ、表に出ず、静かに暮らしている方々の中には、私クラスの方もごろごろしているでしょうが……」


「シアさんクラスって……、シアさんSランクだったんだよね!?」


 その強さの人がごろごろ……? え? 本気で世界取れちゃうよこの国。


「さすがに冗談です。ですが、クレアより強い方も、そこまで珍しくないくらいにはいると思いますよ」


「す、凄い国だ……。噂は噂かと思ってたけど、やっぱり本当の事なのかー……」


 噂? 冒険者の噂かな。

 冒険者の間でこの国はなんて言われてるんだろう。ちょっと気になるね。


「それって、どんな噂?」


「噂話と言うより、世界の共通認識と言った方がですね。各国の王家にも伝えられている筈ですよ」


「リーフエンドには手を出すな、ですね。他の国の冒険者ギルドでは、登録時にまずそれを誓わされますよ。私も登録時に。何をおいても守るようにと何度も聞かされました」


 ぎ、ギルドで誓わされるんだ。触れたら爆発する爆弾扱いですか、私の国は……


「私の登録時はもっとひどかったんですよ? エルフに手を出した愚かな種は滅ぶと思え、でしたね。今では幾分かマイルドな表現になっているようです。私たちはエルフですから、あまり関係の無い話でしたけどね」


 種ごと!? 人間が何かしたら人間種族が滅ぼされるって事? しかも国じゃなくてエルフ全員が対象ですか!



「すみません、少し口が軽くなってしまったみたいですね。姫様にお聞かせするような話ではありません、話を変えましょう。クレア? キャロと打ち合ってみてどうでした? 弟子の成長は私としても気になるものですので」


「ひい! クレア、変な事言わないでね……」


 むう、あっさり話しを変えられてしまった。

 私も、こんな風にみんなの興味を引ける話題に、パッと変えられるようになりたいね。そうすればきっと、からかわれループが続くのも減らせるはずだ……


「あの質量の武器と打ち合うのはさすがに無理だったな、避けるしかなかった。受け流す事も難しいな……。よくもまあ、あそこまで自在に振り回せるものだ。あれだけの重量の武器を二つも持って出せる速度じゃないぞあれは……。加えてこの体の小ささだ、やり辛いと言ったらありはしない。正面に立つと分かるが、自分が肉片に変わるイメージしか出て来なかったぞ」


 速い重い強いの三拍子ですか。さらにそこに小さいが加わり最強に見える、と。

 イメージできないなー。肉片になるじゃなくてね? あの武器を二つとも持って走り回るって事の方ね。


「なるほど、さらに精進した様ですね。当然の事なので褒めたりはしませんが。姫様、ラルフさんとお話した武器の振るい方の話を覚えていますか?」


 ラルフさんと話した?


「ラルフさんはあの剣を魔法の補助を入れて振ってるんだっけ? キャロルさんも同じなのかな」


「はい。魔法の補助、と言うよりは……、魔法で動かしている感じですね。どちらかというと手の力の方が補助に近いです、説明は難しいですね」


 なるほどね、操作系の魔法で動かしてるのか……。あのサイズを片手で? しかも二個同時に?


「キャロルと比べるとはるかに、と言いますか、比べてしまうと哀れに思えるほどのの差があるのですが、そうですね。使い方としては同じです」


 う、うん……。武器のサイズから見てそう思うよ……


「ラルフさんの場合は魔力が尽きたら終わり、という欠点があります。それでも今まで問題なく使って生き残っているところを見ると、両手剣を操作する事に特化した才能があったのでしょう。しかし、キャロは違います。この子は」


「ま、待って待って! 冒険者の人の戦い方、と言うか、手の内を明かしちゃ駄目なんじゃないの?」


 淡々と説明してるからつい聞き続けちゃったよ! これは普通聞いちゃいけない事のはずだと思うんだけど……


「キャロでしたら問題ありませんよ? 信用の置ける者同士の場合は、連携を取るために手の内を説明する事もありますからね。それに、知っておいた方がもし敵対された時に」


「ならないよ!? ラルフさんもキャロルさんもお友達だからね!?」


「そうでしたね。姫様ならどちらも一撃で仕留める事ができますから、必要の無い情報でしたか。お耳汚しでした、申し訳ありません」


 綺麗にお辞儀をするシアさん。



「一撃!? えっ? シラユキ様?」


「できないよ! でき……、る? し、しないよ!?」


「できちゃうんだ? 姫こわーい」


「防御不能で回避も難しいんだっけ、シラユキの魔法って。シラユキこわーい」


「私は避けられますよ? ですが、怖い事には変わりありませんね。ふふ、姫様怖いです」


「きゃ、キャロルを一撃ですか。なんと末恐ろしい……」


「十二歳で既に私を一撃できちゃう強さ!? り、リーフエンドは本当に怖い国だった……」


「怖いのはシアさんのポジションなのに!!!」







10月6日

フランのセリフを一つだけ修正しました。

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