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その80

 お昼も食べ終わり、さて次は父様母様とお話しようか、と考えていたところ、カイナさんがキャロルさんを呼びに来た。

 どうやら、父様たちがキャロルさんだけにお話したい事があるらしい。まさか、キャロルさんメイドさん化フラグか!?

 私とシアさんも一緒に来てくださいと半泣きでお願いされたが、心をオーガにして見送ることにした。

 ごめんね? 無理矢理メイドさんにされるのを期待しちゃってるの。シアさんも一緒だし、いいんじゃないかなーって思っちゃう。


 メイドさんフラグは半分冗談としても、一体何のお話なんだろう? 父様と母様が冒険者の人に聞きたいことでもあるのかな?

 リーフエンドの外から来たみたいだし、他国の噂話でも聞くんだろうか。むむ、それは私も聞きたいな……

 しまった! やっぱり私も一緒について行けばよかったよ……、ちょっとおしいことしちゃったかな、残念だ。






 予定が何も無くなってしまったので、メイドさんズと一緒に大人しく読書をすることに。

 そういえばメイドさんズ三人とも、私がまた大泣きして帰ってきてからさらに過保護気味になった気がするんだよね……

 まあ、悪い事ではないんだけど、このままだと兄様みたいに一人で町に出かけるとか、一生無理そうな気もしてきたよ……


 いいや、今は考えない考えない。読書に集中しよう。

 今日の本のタイトルは『カッコいい魔法の詠唱・初心者編』。


 今までは、どうせ父様と兄様の趣味のくだらない本だろう、と思って無視してきた本だが、どうやらそうではないらしい。

 分かりやすい、イメージしやすい詠唱と魔法名。さらには身振り手振りなど詳しく書かれているとても……、イタイ本だった。

 詠唱と魔法名はいいとしても、身振り手振りはおかしい……。ダンスの指南書なのかこれはと思われちゃうんじゃないかな。体の動きに意識を持っていかれて、逆に魔法のイメージがし難くなると思うのは私だけなんだろうか?


 他の種族から見ると、きっと歴とした魔法の指南書なんだろうと思うけど、エルフの私たちから見ると、詠唱も身振り手振りもあまり必要性を感じないし、詠唱破棄の場合に手を動かすくらいだね。

 詠唱はカッコいいとは思うんだけど、人前だと恥ずかしいね。特に私からは中二成分が全開で含まれている様に見えてしまう。

 そういった色々な意味を込めて、かなりの面白い本だとは思う。



「他の種族の人はみんなこんな詠唱してるの? 町でも見たこと無いんだけど」


 実際見たら吹き出してしまいそうなものも多い。精神攻撃も兼ねているのでは? と思ってしまうくらいだ。


「少なからずいるとは思いますよ、こうやって書籍化されているくらいですからね。他種族の方が魔法を使うところを余り見かけないのも、町の往来で魔法を使う必要がまずありませんから。冒険者ギルドでは冷やす魔法を使っている方は何人もいましたが、それくらいですね」


「あ、確かにただ歩くだけの道で魔法を使う人はいないね。ギルドの中で魔法使ってる人がいたのは気づかなかったなー。みんな詠唱破棄だからかな?」


「ええ、できましたら、他人の魔法の行使を感知することが出来るようなって頂きたいのですが、姫様にはまだ難しいでしょうか? 何となくだけでも感じ取る事はできませんか?」


 シアさんはそう言って小さな明かりを私の前に作り出す。


「目の前で使われるとさすがに分かるんだけどね、私の意識の外と言うか……、目に入らないところで使われてもまだ分からないよ。すぐ後、とかならまだ分かりやすいかもだけど。うーん……、多少離れてても感じ取れるようになった方がいいの?」


「はい、お願いしますね。ご自身の身を守るためにも……、!? すみません! 無理にとは言いません! ああ、姫様に強要してしまうとは……」


 え? あれ? どうしたんだろシアさん。今のは私のためを思っての発言だろうと思うのに、何を気にする事があるんだろう……


「私もシラユキはそんな事できるようにならなくてもいいと思うよ。レンが謝ってるのは……、アレだね」


「うんうん、アレだよね。シアだからいいんじゃない?」


 あ、アレ? アレって何?


「あはは、分かんないか。姫、シアは自分で姫を守りたいんだって。だから姫は自分の身を守る事なんてあんまり考えなくてもいいんだよ?」


 あー、そういう事……。なんか、むず痒い嬉しさだね。


「ふふふ。ありがとうシアさん」


「姫様……。メアも説明しなくてもいいんですよ、まったくもう……」


 照れてる照れてる。





 ペラペラとページを捲り、物を冷やす魔法の所で思いついた。


「この本エディさんにも読ませてみたらどうかな? 冷やす魔法が上手く出来るようになるかも?」


「いえ、本は本ですからね、やはり文字や絵だけでは限界があります。いくらこの本を熟読したところで、実際の炎の熱さ、氷の冷たさ、そして痛みは理解できる訳もありませんから。大抵は師事している方の詠唱をそのまま使い、慣れてきたら自分なりのアレンジを加える程度でしょうか。そのアレンジによって効果が変わっていくのを研究するのも、他種族のみの魔法の使い方の特徴ですね」


「な、なるほど! シアさん凄い!」


 そうだよね、実際体感してこそのイメージ、魔法だよね。


「え? その、常識だと思うのですが……。姫様はたまに当たり前の様な事で驚かれて、面白可愛いですね」


 面白可愛いってどんな表現よ!


 確かに当たり前の事なんだけどね、うーん……、上手く言えないな。

 頭では分かっていても、こうやってそれを自分が経験するとね。

 あ、今の魔法の話と同じだ、面白いな。



「私は詠唱は考えない方がいいのかな。前に言ってたよね、無意識に威力が上がっちゃうって」


「そうですね、あまりお勧めはできません。特に姫様の場合は詠唱破棄が基本になっていますから。例えば、指先程度の火を灯す魔法でも、大きな声で燃えろ、と叫んで使った場合、どうなると思います?」


 いつもはライター感覚で使ってるね。火の大きさもライターと同じくらい、火力の調整も意外にに簡単にできる。


 その魔法を叫んで使うと、ああ、なるほどね。


「多分自分が思ってるよりも、はるかに大きい火が出ちゃうんじゃないかな。小さな声でしっかりイメージして言えば、詠唱破棄と同じくらいの大きさで出せると思う」


「通常は逆なのですが、姫様の場合は本当に注意が必要ですね。通常、詠唱ありで使っている方は、詠唱破棄で威力が下がるだけなのですが、姫様の場合は通常が詠唱破棄、詠唱ありにすると威力が上がっているように感じてしまうんです」


「それってみんなが黙ってたせいじゃない? あれ?」


 あ……、ああ! やっと分かったよ!!


「お気づきになられたようですね。ですが、説明します。姫様の詠唱破棄での魔法の威力が、他の方の詠唱ありの威力、効果と同程度になってしまっているんです。勿論本人の力量次第で効果の程は変わります。姫様には通常状態でリミッターが掛かっている感じですね。集中、詠唱、大声での魔法名、そして姫様本人のイメージ力。その全てを最高の状態で発動した場合は……、あまり考えたくはありませんね」


「確かにあんまり考えたくないかも。あのプラズマボールも詠唱破棄で50mの範囲なんでしょ? あれってホントに軽ーく作っただけなんだよ?」


 プラズマ球の魔法の名前は『プラズマボール』と命名した。

 『サンダーボール』とか『ライトニングボール』よりはるかにイメージしやすいし、カッコいいよね。


「50m……? あ、ああ! すみません姫様、あれは嘘です」


 しれっと言うシアさん。何だうそか。


「嘘だったの!? な、何で? え?」


 あまりに普通な言い方に混乱してしまった。

 50mの範囲は嘘。それはどうして? いや、そんな事よりも、シアさんがあんな風に自然と私に嘘をついていた事がショックだ……


「え? シラユキホントに信じてたのあれ。50mだよ50m、ありえないってそんな馬鹿みたいな範囲」


「シアの言う事だからね、あの時はシアも真面目だったし、信じちゃうよ」


 フランさんメアさんも知ってたの!? まさか、兄様姉様もか!!


「ううう、普通は嘘だって分かるんだ……。シアさん、どうしてそんな嘘ついたの?」


「今の今まで忘れていました、申し訳ありません。魔法を消す場合にも魔力を消費する、と姫様にお教えする時に明かすつもりだったのですが、姫様はご自分で気づかれてしまいましたからね。言い出せないまますっかりと忘れてしまっていました。理由は簡単ですよ、姫様にあの魔法、『プラズマボール』でしたか、あれを使わせないようにするためですね」


 忘れてたとか!! ん? 私に使わせないため?


「50mという広範囲、そしてウルギス様でさえなすすべ無し。これだけ言っておけばお優しい姫様の事です、試しに使ってみようなどと思う事すら無かったのではないですか? もしもう一度あの魔法を出現させ、それをまた消す事にでもなったら……」


「また魔力疲れで倒れちゃう、だよね? もう……、普通に言ってくれればいいのに。シアさんの言う事ならちゃんと聞くよ?」


「ふふ、すみませんでした。理由は他にもありますよ。雷の魔法は私たちにとって完全に未知の魔法ですからね、他の王族の方が使われている以上のものはできればおやめになって頂きたいのです」


「あ、ごめんねシアさん……。もうあれは使わないよ、安心してね」


 どうやら不安にさせてしまったみたいだね。

 あー、大失敗だ。シアさんたちにとっては本当に全く分からない系統の魔法だからね。暴走させてしまった場合の対処も考え付かないか……

 兄様ができる範囲の事に留めて置くのがよさそうだね。雷の矢と、『スタンガン』くらいなら使っても大丈夫かな。


「うわ、理解早すぎだよ。ごめんね姫、黙ってて」


「ルーディン様とユーネ様も同じ考えで黙ったのよ、怒らないであげてね」


「うん! ありがとう、三人とも!!」


「こちらの謝罪に対して感謝の言葉を返されるとは……、姫様は優しすぎますよ。感動で泣いてしまいそうです」


 シアさんの表現は大袈裟すぎるよ……、恥ずかしい……




「先ほどの詠唱の話ですが、集中、詠唱ありの『プラズマボール』でしたら50mの範囲に届いてしまうかもしれませんね。ふふふ、さすが姫様、既に魔法の攻撃力に関してのみでは既に大陸一、いえ、世界一なのでは? 詠唱無しの範囲がどれ程なのか分からないのですが、ね」


「さすがにそれは無いと思うけど……、否定しきれないのが自分でも怖いよ。この先使うことは無いと思うからもう知りようが無いね。50mとか、使ったら確実にシアさんも巻き添えにしちゃうよ」


 私は電撃を完全無効化できるからいいんだけどね。50mなんて凄い範囲になっちゃった場合は絶対に敵味方無差別魔法になってしまう。無差別魔法は姉様の専売特許なのにね。

 あれ? 効果範囲を狭めることもできるんじゃないか? プラズマボールの球体を大きくしたような位置固定型の魔法に……。ん?


「ふふふ、嬉しいです……。ふふ、あ、すみません」


 え? 何その素敵な笑顔!?


 シアさんは最高に嬉しそうな笑顔で笑っていた。

 私、今何か変なこと言った?


「ど、どうしちゃったのシア、急に笑い出すなんて」


「シラユキの魔法に巻き添えになるのが嬉しい、とか?」


「いくらシアさんでもさすがにそれは無いよ……。無いよね!?」


 私の魔法に巻き添えになったところを想像して笑った訳じゃないよね? ど、ドMじゃないよね?


 シアさんはまだにこにこと機嫌よさそうに笑っている。フランさんへのツッコミも無しだ。

 本当にどうしちゃったんだろう……?



「ふふふ、本当に嬉しいです。姫様の何気ない一言に私の名前が出てくるとは。攻撃魔法を使うような状況で、近くに私がいるという事を当たり前のようにお話になるとは。従者冥利に尽きるというものです」


「え? あ、ああ……。恥ずかしいな、もう……」


 それだけもう、私の中ではシアさんが隣にいる、という事が当たり前になっているんだね。

 万が一私が戦うような状況になっても、隣にはシアさんがいる。確かにそれ以外考えられないね。




「あまりに嬉しすぎるので、先ほど獲得した添い寝権を早速今夜使わせて頂きます。お覚悟を」


「覚悟!? 何する気なの!? お、お楽しみは駄目だよ!!!」


 まさか今夜早速使われるとは思わなかった! と言うか本気で使うとも思わなかったよ!


「姫は今夜大人になるんだね。まだ十二なのに……。私だってまだなのに……」


「レン、優しくしてあげてね。シラユキ、明日感想をよろしく」


 メアさんフランさんもここぞとばかりに私をからかいに来る。


「しないーー!!! 何もしないからね!!! 一緒に!! 寝るだけ!!!」


「やっぱりキャロルよりシラユキの方がからかい甲斐があるよね」


「うんうん。私もからかうなら姫がいいよ、やっぱり」


 キャロルさん早く帰って来て!!

 やはりキャロルさんは私付きのメイドさんになるべきだ! そうなればからかいの矛先も分かれるだろうからね。こんなひどい理由でごめんなさい……


「ああ、二人とも、今夜の警備は必要ありませんから、ゆっくりと休んでくださいね」


「ひ、人払い!? シアさんまさか本気なの!? な、何かしたらゼロ距離プラズマボールだからね!!」


 ちゅ、中心部ならきっとシアさんでも倒せるはずだ!!


「私は、昨日お休みを頂いた分、今日は二人に休んでもらおうと思っただけなのですが……。一体何を焦っていらっしゃるのですか? 姫様」


 さっきまでのにこにこ笑顔はどこへやら、今度はニヤニヤ笑顔で私をからかうシアさん。


「くそう! またやられた!! もうみんな嫌いキラーイ!!」


「こーら! 姫? くそうなんて言っちゃ駄目だよ」


「あはは。ごめんごめん。嫌いにならないでねシラユキ」


 なる訳無いよ! もう!


 早くこういうからかいの言葉を簡単に受け流せるような大人になりたいよ……

 キャロルさんも緊張してるだけで、多分こんな会話普通に流せちゃうよね。






「あー、疲れた……。クレーアさん強すぎっしょ。ホントにメイドさん?」


「クレアと呼び捨てにしてくれていい。しかし、さすがはAランク最上位だな。私もまだまだ修行が足りないか……」


 入り口からキャロルさんとクレアさんの声が聞こえてきた。どうやらお話も終わって戻ってきたようだ。


 ……強い?



 体の向きを部屋の入り口に向け、見てみると……


「く、クレアさん!? キャロルさん!? ど、どど、どうしたの!?」


 体中傷と血だらけ、服もボロボロになった二人が立っていた。




すみません、まだまだ続きます……


今回やっと50mの範囲云々の嘘バレができました。

あの時の他キャラの反応を読み直してみると気づけ……ないかもしれない。


10月6日

フランのセリフを一つだけ修正しました。

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