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その79

「それじゃ、改めて自己紹介だ。俺はルーディン、よろしくな。シラユキを泣かせたら地獄を見せてやるから、そのつもりでな」


「私はユーフェネリアよ。結構間違えて覚えられるからユーネでいいわ。シラユキをいじめたら、友人家族その他諸々消えてなくなる……、程度じゃ済まないわよ」


「はははははい! 肝に銘じます! よよよ、よろしくお願いします!!!」


「なんで脅すの!?」






 昨日に続き、談話室。まずは兄様と姉様と気軽に話せるようにと、二人を連れて来てみた、のだが……、早速脅しが入ってしまった。

 キャロルさんの緊張を解くための自己紹介だっていうのに、逆にさらに緊張させちゃってどうするのよ。まったく、この兄様姉様は……


「安心しろ、半分冗談だ。お前を泣かせたライナーとかいう奴の知り合いらしいからな。まあ、念のためだ」


「半分冗談って言うのは、キャロルがシラユキをいじめるなんて無いと思うからね」


「つまり、何か仕出かしたら地獄を見せると言うのは本気、という事ですね。勿論その時には私も参戦することになるでしょうから、地獄程度で済むとはとても思えませんが」


 な、なるほどね。シアさんの言い方が怖すぎるが、よしとしよう。

 まだ昨日会ったばかりだが、キャロルさんが私に何かするなんてどうやっても思えない。安心だね。


「キャロルさん、安心してね。三人ともこんな事言ってるけど本当に優しいから」


「は、はい。ありがとうございます……。では私もまた簡単に。キャロル・ウインスレット、冒険者です。この度はリーフエンドの森へのご招待、本当にありがとうございます。私のようなただの冒険者の身に余る待遇、言葉では言い表せない感動です」


「うわ、硬いな……。別に感謝されるような事じゃないと思うんだけどな、許可出したのはシラユキだし。感動って何だ? ま、俺たちもシラユキも一応王族なんだけどな、あんま気にしなくてもいいぞ、って言うか気にするな」


 ホントに硬いよ。そしてこの見た目でこの喋り、うーん……、似合わな……、こほん。


「私たちから見たらただの妹の友達、貴女から見ても友人の姉と兄よ、そんなに緊張することなんてないわよ。ふふ、王族なんていうのは抜きにして、私たちともお友達になって頂戴ね」


「は、はい! 喜んで!! さすがはシラユキ様のお兄様とお姉さまですね。お優しい、素敵な方……」


 ちょ、姉様を見る目が……? 姉様を狙ったら兄様に何されるか分からないよ……

 キャロルさんは甘えさせてくれるお姉さんみたいな人が好みなのかな? その考えは分からないでもないね。私から見ると全員が優しくて頼りになって甘えさせてくれるお姉さんばかりなのだけどね。




「キャロルはシアの元お弟子さんなのよね? 冒険者時代のシアって全然想像できないのよねー。どこからどう見ても完璧なメイドにしか見えないし」


「たまにどう見てもメイドに見えないときもあるが……。やっぱ昔は他の奴等みたいに荒々しかったりしたのか? 今でも、まあ、たまに怖いが……」


 緊張を解くためには、とにかく相手に喋らせる事だ。

 シアさんの昔の事はあまり聞いて欲しくはないんだけど、共通の話題がシアさんの事しか無いからしょうがないか。私も、ちょっと怖いが聞いてみたい。


「確かに言葉遣いはすっかり変わってしまいましたが、シア姉様はシア姉様ですよ。何も変わっていません。昔から強く、厳しく、それでいてとても優しい人でした」


「や、やめなさいキャロ……」


 照れてる照れてる。

 シアさんが照れてるところなんて滅多に見られないし、今日は堪能させてもらおうか。


「バレンシアはバレンシア、か。そうだな……。それにしても、シア姉様か、そんな風に呼ばせてたんだな」


「しかも、やっぱり手、出しちゃってたんでしょ? もう言い逃れできないわね、シア?」


「ううう……。私は一生謎メイドであり続けたかったのに……。はい、もう言い逃れはしません。ですが、昔の話ですよ」


 私にははっきりと答えてくれたからね、もう気にならない。隠し事はいっぱいしてるけど変な嘘はつかないからね。もし嘘をつくことがあったとしても、それは私のためを思ってのことなんだろうと思うからね。

 キャロルさんに手を出しちゃったっていう事をネタに姉様たちにからかわれる事になるとは思うけど、それは自業自得という事で、ふふふ。



「昨晩はお楽しみでしたね」


 にやにやしながら言ってみる。


「姫様!? 何もしてませんから!! そんな事を言ってはいけませんよ? はしたないです」


「そ、そうですよシラユキ様。昨日の夜は久しぶりにシア姉様とお話ができて、確かに楽しかったですが……、あ」


「うん。そういう意味で言ったんだけどな? シアさーん?」


「そ、そんな……。まさか姫様にからかわれる日が来ようとは……。喜んでいいのか、悲しめばいいのか、複雑です」


 確かに、シアさんをからかえる日が来るなんて! 今日だけだと思うけど……


「ふふふ、ごめんねシアさん。もうからかったりしないから許してね?」


「分かりました。それでは、添い寝一回で手を打ちましょう」


「しまった! からかえてもその分自分に帰ってくる!?」


 添い寝くらいならいいけどね……。お楽しみはやだよ!?



「あはは……、あっと、すみません」


 私とシアさんのやり取りに笑ってしまったキャロルさんが、何故か謝る。


「笑い出しちまったくらいで謝るなよ、自然にしてくれ。できたら敬語もやめて欲しいんだけどな? いきなりは無理か」


「メアとフランくらい気軽に話して欲しいわね。名前だって呼び捨てでもいいのよ? 王族なんて言っても何か特別な事してるわけじゃないし、年下よ? 私たち」


「キャロは見た目子供ですから全く違和感は感じませんが。余りにも畏まるすぎるのは逆に失礼。昨日も言いましたよね」


「そう言われても……、やっぱり難しいと言うか……。すみませんが口調は変えられそうにありません」


 そういえばキャロルさんは姉様の三倍以上か……。全く見えないわ……


「ゆっくり慣れていけばいいと思うよ。まだ会って二日目なんだし、まだしばらくは家にいてくれるんだよね?」


「え? ああ、いえ、さすがに町で宿を取りますよ。依頼もこなして生活費を稼がないといけませんし、リズも町にいますからね」


 えー……。残念だけどしょうがないかな。

 冒険者は冒険者。ここでぬるま湯生活をさせ続ける訳にもいかないか……



「ああ、んじゃ、キャロルも家に住めよ。シラユキ付きのメイドにでもなればいいだろ」


「うん。私もそうなるといいな、って思ってたんだけど……。キャロルさんもシアさんと一緒がいいよね? ね?」


「ええ!? あの、ええ!?」


「いいわねそれ、さすがお兄様! でも、そうなると、シラユキ一人に四人は多いわよね……」


「いや! ちょ……」


「メアリーかフラニーか……、メアリー外すか。それで俺付きになればいいな。それがいいそうしよう」


「え? 私ですか!? それはそれでいいような……。でも姫付きの楽さは捨てがたい!」


 私付きは私と遊ぶのがお仕事だからね。相当楽だと思う。

 フランさんじゃないのは、人妻だから揉めないんですね、分かります。


「お兄様……?」


「じょ、冗談だって!! 怒るなよユーネ」


「ふんだ。どうせ私の胸なんて揉んでも楽しくないわよねー」


「馬鹿な事言うなよ……。どれだけ大きかろうとも、お前以上の胸なんてこの世界にある訳が無いだろう?」


「そんな……、もう、お兄様……」


 見つめ合い、二人の世界へ入ってしまった。

 しばらくは戻ってこないだろうから放置だ。目の前でキスされまくるのも目に毒だよ……



「あ、あの、私はどうしたら?」


 おっとキャロルさんの事を忘れてた。


「とりあえずこの二人は気にしないでいいから。私もキャロルさんがメイドさんになって、家族になってくれると嬉しいんだけど……。キャロルさんにはキャロルさんの生活があるからね。無理にとは言わないから、安心してね」


「はい。折角の心遣いを、すみません」


「どちらにしてもこの子にメイドの仕事は無理でしょうしね。しかし、たまには遊びに来るように。姫様のご友人になったという事を決して忘れないようにするんですよ」


「はい! 勿論です!」


 エルフのたまに、は、十年くらい間が空いても、たまに、なんだけどね。




「うーん、これからどうしようか? お昼にはまだ早いし……」


 話し相手が絶賛二人の世界中だからね、やることがなくなっちゃったよ。


「レンとの蜜月の日々を……」


「黙りなさい」


「はい!」


 フランさんはまだ諦めてなかったか!

 でもそれもいいね、蜜月の日々じゃ無いよ!? まあ、少しは気になるんだけどね……


「キャロルさんの冒険のお話聞きたいな。シアさんと一緒に旅してた頃のとかさ」


「え? シラユキ様にお話できるようなものはありませんよ? その、割と危険な、と言うか、ええと」


 言い出し辛そうだ、やっぱりそうかー……


「血生臭い? やっぱりそういう話ばかりなんだ?」


「え、ええ……。シラユキ様にはお聞かせしたくない様なものばかりです。あー、そのー、シア姉様? 話を変えた方が……」


「姫様。ギルドの依頼の討伐対象は魔物が全て、という訳では無いんですよ」


「シア姉様!? だ、駄目ですよ!」


 魔物以外も討伐対称に含まれるっていう事? 魔物以外だと何が……?

 キャロルさんの反応からすると私には聞かせたくないような……


「聞くんじゃなかったー……。しょ、賞金首みたいなもの?」


「は、はい……。指名手配された犯罪者や野盗などですね。ある程度の実力者になると、ギルドから直接依頼されるんですよ。私もAランクになってそれなりに経ちますからね、そういった依頼もいくつもやってきているんです」


 この世界では当たり前の話なんだろうけど、これはまだ、ちょっと聞きたくなかったな……

 簡単に言えば人殺しの依頼か。キャロルさんも、もちろんシアさんも、経験してきているんだよね。


「あああああ、暗い顔にさせちゃった……。シア姉様? シラユキ様が知るにはまだ早すぎますよ?」


「いいえ、早すぎるという事はありませんよ。あなたと友人として付き合うのに必要な前提でもありますからね。しかし、お聞かせしたくなかったのは確か。申し訳ありません」


「ううん、大丈夫。ちょっと怖い話だけど、思ったよりショックは少ないかな。シアさんもキャロルさんも、いい人だもん」


 この二人が過去どんな依頼をしてきていようとも、嫌いになるなんてありえない。


「ええ、誰も進んで受けようなどと言う人はいませんよ。なので、ギルドが直接依頼を割り振るしか無いんです」


「中には嬉々として受ける者もいますよ。ですからあまり、冒険者ギルドには遊びに行かない方がいいと思うんですけど……」


「それはホントに聞きたくなかった!!」


 荒事大好きで冒険者になる人もいるんだ!?


「キャロ!! 余計な事を……。しかし冒険者ギルドへの興味が消えるのは喜ぶべき事……? はっ! だ、大丈夫ですよ姫様。どこへ行くにも私が付いていますからね? 姫様の半径3m以内に」


「また1m増えてる!? 3mとか、道の真ん中歩いたらどうなっちゃうの!?」


「聞きたいですか?」


「聞きたくなーい! シアさんこわーい!!」


 私の歩いた後は肉片と血だまりしか残らない? 怖すぎるわ!!!






「何だ? やけに楽しそうだな」


「あ、ルーディン様、ユーネ様。いいんですかあれ?」


「いいのよ。シラユキをからかうのはシアの日課と言うか、生きがいの様なものだから」


「そうなんですか……。さすがシア姉様、王族をからかうのが日課とは」


「悪いな、うちの妹がお前の姉さんを取っちまったみたいで。アイツを悪く思わないでやってくれ。恨むなら、俺たちをな」


「え? いえいえそんな! 私ももうそこまで子供ではありませんから! あんなに幸せそうなシア姉様を見せて頂いて、逆に感謝したいくらいです」


「そうだ! これからは私に甘える? 私二百以上年下だけどね……。貴女可愛いのよー。シラユキの可愛さには遠く及ばないとしても、シアが可愛がってただけの事はあるわよねー」


「だからそんな子供じゃありませんってば……。ユーネ様は私の娘でもおかしくない年齢ですよ?」


 むむむ。何か面白そうなお話してるな?


「それならユー姉様がキャロルさんに甘えるとかどうかな?」


「面白そうだなそれ。キャロル姉さんか? だがもっと胸がだな……」


「キャロルお姉様? いいわねいいわね、面白そう!」


「姫様はキャロ姉様とでも呼んでやってください」


 ナイス提案だ、それでいこうか!


 からかえそうな人間を見つけたら、即からかうのがリーフエンドの王族流。やな王族だな……



「キャロねーさまー」


「ふふふ、キャロルお姉様ー」


「キャロル姉さん。……照れるなこれ」


「勘弁してください!! でも姉扱いは嬉しかったり……」


 キャロルさん小さいしね、きっと今までずっと、妹か娘扱いしかされてなかったんだろう。




 本当に未来の自分を見ているようで不安になるんですけど!?




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