その77
ギルド内に人が増えてきた。追い出されていた人たちが戻ってきたんだろう。
Aランクが三人、さらに王族が一人。テーブル一つの顔ぶれが凄い事になっていて、注目されまくってしまった。
さすがに居心地の悪さを感じ、私も帰ることにした。
リズさんライナーさんはそのままギルドに、キャロルさんは私たちと一緒に外へ出た。
キャロルさんはエルフだ、許可さえあれば森の中に入っていく事もできる。
積もる話もあるだろうし、今日は家に招待してしまおう。
三人並んで歩きながら、早速切り出す。
「シアさんシアさん。キャロルさんも一緒に帰ってもいいんだよね?」
「え? シラユキ様?」
「森の住人ではないですから許可が必要になりますね。許可を出すのは王族の方、つまり、姫様が決めてしまっていいんですよ」
わ、私が? 子供にそういうこと決めさせちゃ駄目だよ……
でも、今日くらいいいか。ちょっと王族っぽい事でもやってみよう。
「それじゃ、キャロルさん。森の中へ入る事を許可します」
「は、はい! ありがとうございます!」
うん、様にならないね。まだまだ子供だよ私は。
「ふふふ、しばらく滞在していってね。シアさんとも久しぶりに会えたんだよね? 話したい事も沢山あるよね。」
「シラユキ様……、ありがとうございます。今夜は久しぶりにシア姉様に甘えられるかな。嬉しい……」
……? 何か、今の言い方、表情……、変じゃない、か?
「きゃ、キャロ。私には姫様のお世話と言う世界の命運より大切なお仕事、いえ、使命ががあるんです。あなたにばかり構ってはいられませんよ」
「そ、そうなんですか? シラユキ様がお休みになった後は……」
「姫様のお部屋の前を交代で警備に当たっているに決まっているでしょう」
「あ、今日くらいはいいよ、私が許可しちゃう。キャロルさんとゆっくりお話してあげてよ」
そうじゃないと何のために家に来てもらうか分からないじゃない。
「ありがとうございます! シア姉様、今夜は甘えさせてくださいね……」
!? また!? え? ま、まさか……
「子供じゃあるまいし、やめなさい。私に甘えていいのは姫様だけです」
「そ、そうなんですかシラユキ様!? え? でもシラユキ様はどう見てもまだ子供じゃ……」
「子供だから甘えるんでしょう? そ、それより何か食べたい料理はありますか? 今日は」
「シアさんストップ」
「姫様……?」
足を止めて、キャロルさんに向き直る。
「キャロルさん、正直に答えて。今夜シアさんに甘えるって、そういう意味なの?」
「シラユキ様!? だ、駄目ですよ。シラユキ様にはまだ早すぎます!」
うわああああああああああああああ!!!
「や、やめなさいキャロ!」
「シアさんやっぱり手出しちゃってるんじゃない!! やっぱりそっちの人だったんじゃない!! 嘘つき!!!」
「ち、違います! 誤解です! 決して私から手を出したわけじゃ……!」
「!? キャロルさんからって事!? そ、そうなんだ……、ごめんねシアさん、取り乱しちゃ、って! そっちの人であることには変わり無いじゃない!!!」
「し、シラユキ様落ち着いてください……。シア姉様、これは一体……」
シアさんがそっちの人だというなら、それはそれでいい。
「ねえシアさん? 私に嘘ついてたんだ? 嘘偽りの無い本心からの答え、って言ってたのは? ねえ……?」
でも、あの状況で私に嘘を吐いたのは絶対に許せない!
「姫様、あの日の言葉は間違いなく私の本心です、信じてください。女性に、もちろん男性にも恋愛的な興味はありません。昔の話とは言えキャロを抱いた事は事実です。ですが……、いえ、これ以上は言い訳にしかなりませんね」
嘘じゃない? それじゃ、どう言う事? だ、抱いたっていう表現はちょっと……
「す、すす、すみませんシラユキ様!? それは、あの、その、私が無理を言って、その……」
キャロルさんも話の流れを理解したのか、シアさんに助け舟を出す。
「え? ……あ! きゃ、キャロルさんがそっちの人で、シアさんはただ、その、相手をしただけ、と言うか……、言えないよ! 何この話!? 二人ともごめんなさい!!!」
やややややっちゃったああああああ、ははははは恥ずかしいいいいいいいいいいいい…………
「シアさんを疑っちゃったー……。私は駄目なお姫様ー……」
「落ち込みすぎですよ姫様……。私が悪かったんです。疑われるような事をしてきた私が」
可愛いお弟子さんにお願いされちゃったのなら、うん、しょうがないよね。そ、そう言う事にしておこう。
多分本気で私にはまだまだ早い。詳しく話されても理解できないだろう……
「まさか、甘えるの一言で理解してしまうとは想像もできませんでした……。申し訳ありません」
キャロルさんどう見ても恋する乙女の顔してたからね……。まあ、それは言わないでおいた方がいいか。
「ううう……。二人とも忘れてえええ……。だ、誰にも言わないでね? 後、そ、そういう事してもいいけど、私には絶対に分からないようにしてね?」
キャロルさんは好きな人に久しぶりに会えたんだし、シアさんも一回くらいは甘やかしてしまうかもしれないしね。
し、シアさんとキャロルさんが……。想像しちゃったじゃない!!!
「し、しません! ありえません! キャロもいいですね!? 姫様も、もう忘れましょう……」
「ええ!? だ、駄目なんですか!? そんな!!」
「そういう事は恋人を作ってしてもらいなさい。リズィーさんとかいいんじゃないですか?」
そういえばリズさんは可愛い物好きだっけ?
リズィーさん→キャロルさん→シアさん→私、とか言う流れに!? ま、まさかね……
「リズは故郷に恋人がいましたよ。冒険者になる時に別れてしまったんですが。あ、もちろん男性でしたよ」
よ、よかった! リズさんはノーマルだった!
「キャロルさんはシアさんのことが好きなんだね。女の人同士って言うのは私には分からないけど、否定はしないよ。でも、シアさんは私の大事な家族なの、あんまり困らせないであげてね」
「!? も、申し訳ありませんでした!!!」
全力で謝るキャロルさん、って危ない! あんまり勢いよく動くと大剣が!!! 動くたびにブンブン空気を切る音がするんですが!
「う、うん! ごめんねキャロルさん。やっぱりそう言うのは、お互い好き同士じゃないとね」
「は、はい……」
「姫様……、ご立派です……。私などの事をそこまで思って頂けるとは、この感動、どう伝えたらいいのか……」
大袈裟だなあ……
ちょっと母様の真似っぽい事してみただけなんだけどね。今日の母様、怖かったけど凄くカッコよかったなー
と言うか、一回か何回か知らないけど、キャロルさん可愛さに答えちゃったシアさんが悪いんじゃないかな……
きっと可愛い弟子、妹とかそんな気持ちで接していたんだろうね。シアさん優しいから、断りきれなかったんだろうと思う。
町の外へ出て、森の方へ近づく。
「ここからは飛んで戻りましょうか。姫様、今日はお疲れでしょう? 私が抱き上げて差し上げますね」
「あ、うん。ちょっと疲れちゃったかな。お願い」
主に精神的な疲れだけどね!
私を抱き上げるシアさん。お姫様抱っこだね。
「シラユキ様いいな……」
「あなたは後を着いて来なさい。武器で木を傷付けないように注意する事。分かりましたね?」
キャロルさんが全力でまっすぐ走ったら、一直線に道が出来てしまうと思う。
町の中でも全く他の人を気にしてなかったし、実際何度もぶつかりそうになっていた。その度に相手の人が避けてくれてたんだけど……、キャロルさんは全く気にしていなかった。普通はこっちが避けるべきなんじゃないかな!!
そういえばギルドの入り口に引っかかってもいたね……、あれは可愛かった。
ふ、不安だ……。この森全体が私の家でもあるんだから、気をつけてもらわなくちゃ!
案の定と言うか、木を何本もへし折ってしまったキャロルさんは、シアさんにたっぷりとお説教を受けることになった。
正座でお説教を受けるキャロルさんは、でも、何となく、嬉しそうだったよ。
キャロルの胸の大きさを書いてなかったとは……
シラユキがとてもいいお友達になれそうと思っている事で察してあげてください。
双塊がアレの意味だと予想してた皆さんには悪い事をしてしまいましたね……