その75
謝罪という名の話し合いも終わ、うん? したっけ? まあいいや。とにかく話し合いは何事もなく、あったか? それもいいや。とにかく終わった。
私はもう少しこの二人とお話したかったので、母様とクレアさんには先に帰ってもらう事にした。
帰る前にもう一度深く頭を下げて謝るライナーさんを見て、二人とも大丈夫だろうと納得して帰っていった。
リズさんは悩みが一つ解消された様で上機嫌、本当に嬉しそうだ。
キャロルさんも、いつになるかまでは分からないけどこちらに向かっているみたいだし、シアさんとの再会も秒読み段階だろう。
何か、本当に全部上手くいった気がするね。みんなが笑顔で私も嬉しい。
場所は代わり、ギルド内のカウンター近くのテーブル、定位置に着く。
ミランさんも、もういつものようにぼーっとしている。ギルド内は私たちの他に誰もいないし、いつにも増して暇そうだ。
「姫様、お願いします」
「うん。……はい、シアさん」
バスケットを取り出し、シアさんに手渡すと、数秒でお茶会のセッティングが終了する。
例の如く、オレンジジュースとクッキーだけどね……
「な、何だ? 何の手品だそれ?」
いきなり何も無い所からバスケットを取り出した私に驚いたライナーさんが聞いてきた。
「ふふふ。手品です」
「お気になさらず。次に同じ事を聞いたら……、命の保障はできませんよ」
「聞いただけでかよ!!」
おお! ライナーさんもツッコミができるようだ。すすす素晴らしいね! 実はまだちょっと怖いけど。
大きいのよこの人!! 椅子に座ってても存在感が凄いわ……
「しかも冷えてるなコレ、ホントにどうやったんだ……。なあリズ、今冷やしたようには見えなかったよな?」
「え? ええ……。死にますよ?」
リズさんも不思議そうな顔。気になってるみたいだね、ふふふ。
「リズに聞いても駄目なのか!?」
「私も気になりますけど、諦めましょう。キャロル先生の先生、ですよ? 私は勿論、貴方でも何を、どうしたところで、逃げる事も、できないでしょう?」
「う……、まあ、そうなんだけどな……」
ライナーさんもリズさんも有名な人なんだよね。その二人が逃げる事もできないって……。
あまり人前で使わない方がいいのかな? まあ、シアさんが何も言わないし、大丈夫だろうとは思うんだけどね。
「まあ、いいでしょう。次はありませんが」
シアさんこわーい!!
「私が口にしていいセリフでは無いと思いますが、その、キャロは元気にやっていますか?」
「は、はい。とても可愛らしく、元気ですよ。たまに無理をして、元気に振舞っているときも、ありますけど……。私に会うよりずっと前から、貴女を探し、私を弟子にとってからも、大陸中を旅して、探し回っていたのです」
可愛らしく元気に? 二つ名が『双塊』の人なんだよね確か。い、イメージが全くできない……
「そうですか……。あの子には辛い思いをさせてしまっていたようですね。もう少し早く、息災だという事だけでも伝えるべきでしたね……」
「キャロルもここに向かって来てるはずだぜ? 俺たちはな、あいつにこの町で何か起こってるんじゃないかって、調査を頼まれたんだよ」
「そうなんです。理由も告げずに、いきなりの召還命令でしたから。キャロル先生は、ギルド側からの依頼を、全て無視して旅を、続けていましたので、制裁の意味での、何かがあるのではないかと、思っていたのです」
キャロルさんはシアさんのことを必死に探してたんだね。
まったくここのギルド長は……。会った事無いけど。
それにしても、制裁? ギルドからの依頼?
Aランクにもなるとギルドから直接依頼をされるのかな?
「もうちょっと早く喋れねえか? なんかムズムズするんだよなお前の喋りって」
おっとと、今考えるような事じゃないね。
「私は聞き取りやすくていいと思いますよ。他の種族の人って喋るの早いんですよね……」
「そうか? 俺たちから見たら逆に、エルフののんびり口調の方が違和感があるんだよな」
「それは、種族の差と言うより本人の性格の現れでしょう。それでも確かに人間の方は少し早めな気もしますけどね」
「お前のその喋り方も違和感がすげえよ……」
ライナーさんは私とは反対に、冒険者時代のシアさんしか知らないんだよね。
気になるけど、聞いちゃ駄目だ。
「そうですか? 私は、先生に聞いていた通りの、イメージの方だと、思うのですけれど……。強くて、優しくて、芯の強い、素敵な方だと」
大絶賛だねキャロルさん……
「申し訳ありませんが、ただのメイドの話などはその辺りで……」
「は、はい……。すみません……」
「ごめんねリズさん。シアさんももうちょっと柔らかめに……」
「う……、申し訳ありませんでした……」
母様から、シアさんのことは何も聞かない、話さない様に、と釘は刺してもらっている。今のくらいはいいと思うんだけどね。強くて優しくて、芯の強い素敵な人っていうのは事実だし。
よし、話を変えよう。
「キャロルさんってどんな人なんですか? どうしても二つ名から可愛らしいっていうイメージができなくて」
「ありがとうございます、シラユキ様。キャロル先生は、お二人と同じ、エルフの方です。シラユキ様はハイエルフ、でしたね」
またあっさりバレてる……。お礼まで言われちゃったよ。
「身長が、その、低めの方で……。150も無いくらい、ですね、本当に可愛らしい、素敵な方ですよ」
「話し遅えよ……、俺が代わる。二つ名は『双塊』だな。そのまんまの意味だ。鉄の塊みてえな大剣と棍棒が武器なんだよ。自分の体よりでけえのに、どっちも片手で振り回すんだぜあいつ? 一回やったことあるがな、ボッコボコにされたわ。あんな凶悪な武器相手じゃ俺の能力も意味無いんだよな……」
150無いくらい? そ、それは、お友達になれそうだ!!!
しかし、その身長で大剣と鉄の棒を振り回すのか……。うーん、駄目だ、全くイメージできない……
竜人のライナーさんでもあっさりやられちゃう強さなんだね。……やっぱり怖い人なんじゃないのか!? 考えてみれば、シアさんのお弟子さんだし?
……俺の能力?
「ライナーさんの能力って……、あ! ごめんなさい!!」
思い出した、忘れてた! 個人専用能力の事は聞いちゃ駄目なんだった。特に冒険者の人には、だったね。ししし、しまったー!
「ん? 何謝ってんだ姫さん」
「あれ? 能力の事って聞いちゃ駄目なんじゃないんですか?」
「ああ、なるほどな。その辺はちゃんとバレンシアから聞いてるんだな。ま、俺は別に構わないぜ? 知られたって困るようなものでもねえし、それ以前に二つ名がそのまんまだからな」
ライナーさんの二つ名は、『鋼爪』だったね。鋼鉄製の爪型の武器を使うとかじゃないのかな?
「俺の能力は『硬化』。体の一部を鋼並みの硬さにできるんだよ、すげえだろ? 見ての通り俺は武器なんて持たないからな、手を硬化させて戦ってたらいつの間にか『鋼爪』なんて呼ばれるようになっちまったんだよ」
な、何それ凄い! 武器要らず? 防具要らず? 経済的!!
なるほど、そこでその筋肉が活きてくるのか! 手刀の形に固めれば剣になる、指を広げて固めれば……、なるほど、鋼の爪だね。
「竜人の人って本当に凄いんですね……」
「ハイエルフに言われてもなあ……、ははっ、ありがとな」
あはは。確かに最強種族に言われてもね。
「きゃん!!!」
「ん?」
入り口の方から、何かやけに可愛らしい悲鳴が聞こえたような?
振り返って見てみると、入り口に女の子が……、引っかかっていた。……?
なにあれ!? あああ!! 大きな剣!! それに太い鉄の棒!!
あれがそうか! キャロルさんだ! 噂をすればってやつか!!!
見た目は、うん、小さい。私よりは大きいけど。くそう!!!
肩まで伸びている薄い緑色の髪、シアさんと同じきれいな灰色の瞳。か、可愛い!!!
ホントに可愛らしいっていう言葉が似合う人だね。私も可愛い可愛いって言われるけど、子供だから、だし。
でも、背中の武器が凄いね……、物々しすぎるよアレは。
2mはありそうな大剣を真横に挿して? 背負っている。ラルフさんの持っている物とは全然違うね、幅が広く、厚みもかなりありそう。
棍棒の方は1mくらいか? でも太さが凄い、30cm以上あるんじゃないかなあれ。持ち手は付いてはいるが、もうあれは武器じゃない、建築素材だよ……。それを右腰にぶら下げている。どう見ても歩くと引き摺るよねあれは。
まあ、その、なんだ。
2mもある大きな剣を真横にして挿してたら入り口に引っかかるよ!!!
「きゃ、キャロル先生? か、可愛い……」
「早いな、もう着いたのか」
「やっぱり! あの人がキャロルさんなんですね」
「ちょ、まだ心の準備ができていないんですが……。逃げてもいいですか姫様?」
「ダーメ! ふふふ」
「そんな!!!」
「あああ……、シラユキ様も可愛らしい……。私の楽園が、今まさに、ここに……!!」
さあ、感動のご対面だ!!!
新キャララッシュ!
すみません、まだ続きます……