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その70

「詠唱破棄、それと無詠唱。似たような意味の名前ですが、少し違います。エディさんは違いは分かりますよね。ですが姫様には、と言うより、エルフには馴染みの無い、いえ、必要の無い言葉なのです」


 シアさんの説明が始まった。

 エディさんはどうやら違いも意味も理解しているらしい。エルフには必要が無い? どういうことだろう……


「違いは分かるけどさ、エルフには必要無い言葉って? 無詠唱が?」


「それでは、まずはエディさんに分かる様説明します。殆ど必要の無い知識だとは思いますが、知っておいて損はありませんよ。とりあえず一言、エルフが使う魔法は、基本的に全て詠唱破棄です」


 え? 詠唱破棄って難しいんじゃ? みんな普通に詠唱してるよ?


「そうなんだよな。エルフの人って大抵一言だけで発動させちゃうんだよな。羨ましいよ」


「一言って、詠唱じゃないの?」


「はい。そこがエルフと他種族の魔法の使い方の違い、詠唱という物の認識の違いです」


 エルフと他の種族って魔法の使い方が違うの!? だ、誰も教えてくれなかったよそんな事……


「魔法の使い方は同じですよ、ご安心を。違うのは詠唱、という言葉の使い方、認識の違いでしょうか。紛らわしい言い方をしてしまったようですね、すみません」


「あ、いいよ、続けて。何か面白くなってきたしね」


 詠唱の違いか……。シアさんはこういう人を楽しませる説明の仕方がうまいよね。人をじゃなくて、私を、か。



「では、簡単な例を挙げて、実際に見ていきましょうか。エディさん、明かりの魔法は使えますか?」


「お、俺? うん、できるけど、熱いよ、あれ」


 熱い? 熱を持たせなければいいのに。


「それで構いません。その魔法、詠唱破棄、無詠唱で発動できますか?」


「無詠唱は無理無理。詠唱破棄でも集中しないとできないし、失敗もするよ。確実に発動させるなら集中して詠唱しないといけないな」


 ど、どういう事? 詠唱っていう言葉がゲシュタルト崩壊しそうだよ。


「それでは実演をお願いします。姫様、光と熱にご注意を」


「え? う、うん……」


 考えるのはやめよう、今は見なきゃね。シアさんが言うんだから何かしら意味がある行動なんだよね。ちょっとワクワクしてきたぞ。



 エディさんは手のひらを上に向け、胸の前辺りに出す。目を閉じ集中しているようだ。

 そういえば、他の種族の人が魔法使うところって始めて見るね。


「もっと力を抜いて、いつも通りの使い方でいいですよ」


「わ、悪い、緊張しちゃってさ」


 はははと頭を掻きながら言う。


「それじゃやるよ。明かりを灯せ、ライト!」


 手のひらの上に小さな光の玉が出現する。うん、普通の明かりの魔法だね。

 明かりを灯せって言うのは、エディさんがイメージしやすいセリフなのかな。ゲームの魔法みたいでカッコいいね。


「な、夏場使うにはちょっと熱いな……。消していい?」


「はい、どうぞ。……次は、詠唱破棄でお願いしてもいいですか?」


 何かあのネタバラしの日のメアさんを思い出すね。


「ええ? ま、やってみるか。それじゃ……。……ライト!」


 しかしなにもおこらなかった!


 あれ? 出ないね。失敗かな? って詠唱してたじゃん今。まあ、つい言っちゃうよね。


 ……? ホントにメアさんの時と同じ様な引っ掛かりを感じるな……


「失敗した! 恥ずかしい!! もう一回いい?」


「いえ、もう結構ですよ、お疲れ様でした。姫様も何となくお分かりになって来ているでしょうし。ありがとうございます」


 まだ分かんないかなー。でも、何となく、違和感があるね。



「では、次は姫様にお願いしますね。同じ魔法を詠唱あり、は逆に難しいですか。詠唱破棄でお願いします」


 うん。詠唱とか一々考えるのめんどくさいよ、と考えつつジュースを飲みながら明かりの魔法を頭の少し上に出す。

 もちろん熱も無いよ。あっついもんね。


「す、っげえ……。こんな小さな子が無詠唱かよ……、しかもジュース飲みながらだよ、自信無くすわ……」


 ごめんなさい。私はちょーっと特別らしいのよ。……無詠唱?


「無詠唱? 詠唱破棄じゃ……、え? シアさん?」


「お分かり頂けました? 詠唱という物の認識の違いを。では、少し早いですがまとめに入ります」


「うん。まだはっきりとは分からないけど、何となくは……。シアさんお願い」


「何か俺、全然分かんないんだけど……、いいや、とりあえず聞こう。バレンシアさん凄いし」


 シアさん凄いよね? いいだろー? 私のメイドさんなんだよ? ふふふ。




「エディさんが言葉に出していた、明かりを灯せ、ライト。この『明かりを灯せ』の部分が他の種族で言う詠唱になります。『ライト』は魔法名ですね」


 うん。魔法に名前付けてるんだね。兄様みたいにカッコ付けじゃなくて、実際の運用に必要なんだろう。


「他種族の詠唱破棄とは、明かりを灯せ、の部分を省略する事を指します。完全に無言での発動の場合は無詠唱、と呼ばれますね。姫様に馴染み易い名で呼ぶならば、詠唱魔法名破棄でしょうか」


「ああ! やっと分かったよ。確かに無詠唱って言うの、何か変だよな。詠唱魔法名破棄の方が言葉的に分かりやすい、けど長いし言い辛いな」


 無詠唱の方が言いやすいし、カッコいいよね。詠唱魔法名破棄とか舌噛みそうだよ。


「私たちは魔法に名前付けないから、出る言葉は全部詠唱っていう扱いになっちゃうんだね」


 長い詠唱はよほど大きな魔法じゃないと必要ないんだよね。大抵は一言で済んじゃうし、その一言も毎回適当だしね。魔法名を付けたほうがカッコいい、分かりやすいって言う人は多いんだろうけどね。


 ……魔法名を付ける? 分かりやすい?


「無詠唱で統一しておけば、と私は思うのですけどね、エルフと他種族の方の魔法にはもう一つ違いがありまして……。お分かりになりますか?」


 あ、また表情を読んだな今……


「もしかして、その詠唱って決まってるの? 明かりを灯せ、っていう詠唱」


「はい、正解です。さすがは姫様」


「ああ、俺はそう教わったよ。魔法名もだな。自分で考えてもいいらしいんだけど、やっぱり実際目の前で使ってもらったのって頭に残るからさ」


 ええ!? 私は逆にそのせいで使えなかったんだけどな。


 うーん、これが種族の差かな? 魔法という物の認識の違いが大きい気がする。


「エルフと他種族、実際同様の魔法を使っているんですよ? しかし、同じ様には見えませんね。詠唱一つとっても認識のズレが大きいんです。面白いですよね」


「うん、面白いね。確かに必要の無い知識だったかもしれないけど、面白いよ。私も詠唱考えようかな?」


「ウルギス様ルーディン様の様にですか? おやめください……」


 そ、それもそうか……。同じエルフの人から見たらただのカッコつけだったよ……




「エディさん、凍らせる魔法は?」


「ん? ああ、詠唱か。凍らせる場合は、冷えて固まれ、だな。魔法名はアイス」


「分かりやすい!」


 冷えて固まれとかカッコよくないよ! もっとカッコよく、もう少し長めにできないかなー


「ええ、分かり易いですが少し短すぎますね。その詠唱は師匠の方が?」


「そうだけど、変かな? 二人とも、ああ、俺の師匠二人いるんだけど、どっちもこれで使ってるからさ」


「その詠唱、魔法名だと、完全に凍らせる事しかできないのでは?」


「え? そうだけど……、冷やす魔法も別にあるよ。そっちはクールって言うんだけど、どうしてもできないんだよなあ……」


 そっか。詠唱と魔法名でイメージが完全に固定化されちゃうんだね。

 なるほどなるほど、確かにそっちの方が使いやすいのかもしれない。


「分かりやすい人なんだねー……。私もそれで使ってみようかな?」


 兄様やラルフさんといいお友達になれそうな人と見た。

 そうだ! 今度ラルフさんにも魔法使ってみてもらおうかな。


「絶対におやめください。姫様には、もっと優美で格調高い詠唱と魔法名を私が考えて差し上げます」


「なんか覚えるの大変そうだからいいや」


「そんなっ! ……そうですね、姫様の詠唱有りの魔法となりますと……、無意識に威力が上がってしまい、この部屋程度の広さなら一瞬で氷付けにできてしまいそうですからね」


「え!? この子そんな事できるのか!? す、すげえ……」


「できないって言いたいけど多分できちゃう……。でも、シアさんもできるんじゃないの?」


「ええ、できますよ。ご覧になりますか? 六体ほど氷の彫像ができてしまいますが……」


「彫像? 六体? ……!?」


 エディさんが激しく動揺する。


「やめて!!」


 ガタタッ と他のテーブルに着いている冒険者の人たちも反応した。みんな暇そうだし、聞き耳立ててたな……


「冗談ですよ。あ、よかったら姫様がどうぞ?」


「しないってば!!!」






「なんか楽しそうだと思ったらシラユキちゃんとメイドさんか。納得した」


「おやホント、どうしたのシラユキちゃん? あたしに会いにに来てくれたの?」


 むむ、ラルフさんとナナシさんが戻ってきたようだ。他にも続々とギルドの中へ人が入ってくる。

 どうやら見物も終わったようだね。Aランクの人二人は一緒じゃないみたいだけど……


「ラルフさんナナシさん、おかえりなさーい」


「あ、ラルフさん、ナナシさん、おかえり。このメイドさん凄いけど怖かったよ……。え?」


 え?


「あれ? エディ、何でお前がこの二人と一緒に? ってかよく生きてたな」


「メイドさんもさすがに若い男は躊躇したんじゃない? 運がよかったねエディ」


 この話し方、まさか!!!


「エディさんの師匠二人って、ラルフさんとナナシさんなの!?」


「何だ? 聞いてなかったのか。そうだぜ? カルルエラで拾ってきたんだよコイツ」


 カルルエラってここから一番近い町だっけ? え? 拾って?


「ま、紹介の手間が省けてよかったね。護衛の依頼でエラ行ったんだけどね、そこのギルドで冒険者の師匠探してたからさ、拉致してみた。あ、安心してね? まだ手は出してないから。でも、結構いいモノ持ってるのよこの子」


 拉致って……。も、モノって……

 しかしナナシさんは相変わらずエロイ。エディさんが襲われるのも時間の問題だね。


「先ほどの詠唱の件といい、説明不足のまま修行させる事といい、確かにこの二人なら納得ですね。エディさん、師事する者を変える事を、強く強くお勧めします」


「やっぱそうなのか? それならバレンシアさんの弟子にして欲しいよ」


「それは駄目!!!」


「うわ! じょ、冗談だよ……」


 シアさんは私のメイドさんなんだからね!!


「おおおおおい! やめろ!! シラユキちゃんだけは怒らすな!!」


「最悪この町が滅ぶからね!! 冗談じゃないよこれは!!!」


「ま、マジで!? す、すんません!!!」


 これくらいで怒らないって。でもシアさんはだーめ。

 しかし、なんという似たもの三人組。ぴったりだと思うよ。




 とにかく、新しいお友達が増えた。嬉しい事だねー






これで魔法の追加説明は終わりです。

新キャラの未来が危ぶまれる……


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