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その68

 寝る準備は完了。

 寝巻きで、さらに髪袋を付けたままというのはちょっと情けなく見えるが、しょうがない。通常のナイトキャップではこの髪の量はどうしようもないからね。

 小さめのテーブルに二つの椅子を用意、片方に座る。

 後は、シアさんの明日の準備? が終わり、部屋に来るのを待つだけだ。


 ちょっとドキドキするが多分大丈夫だろう。

 シアさんは何度も自分の事をノーマルだと言っていた。人間の男の人と結婚だってしてたんだし、その人と、その、そういう事もしてたみたいだからね。未だに想像もできないんだけど……


 まじめに聞いて、まじめに答えてもらおう。いつものようにノーマルですよ、と言われて終わるはずだ。うんうん。

 しかし、本気だったらどうしようか……。それも少しありえそうだから怖いんだよね。


 最近のシアさんはやけに積極的だ。

 お風呂にも殆ど毎日一緒に入るようになったし、いやらしい手つきではないが、ベタベタ触ってくる。

 際どい表現もしてくるようになったんだよね。大抵は、冗談です、で終わってるんだけど。あれ? 怪しいどころか完全アウト?



 シアさんと初めて会ったのは二歳の頃か。さすがに覚えてないね。メアさんとフランさんは、私が生まれてすぐお世話係になったらしい。

 それまで外で冒険者してたのかな? そのシアさんがなんで私の専属メイドさんに? メイドさんと言うか、護衛だっけ。

 そうだよ護衛だったよ、また忘れてた。

 はっきりとそう聞いた訳じゃないが、ご、の付く従者的なものだし護衛しか無いだろう。


 うーん……。何から何まで謎なメイドさんだね……

 とりあえずは一番の問題。シアさんは女の子が好きなのか、という最大の問題を解決してしまおう。

 その後はまた、その後だ。






 少し控えめなノックが聞こえた。


「バレンシアです。入ってもよろしいですか?」


 来たね……。決戦の時が来た! 何の?


「うん。入っていいよー」


 緊張する事など何も無い。いつも通り、気楽に聞こう。それでまた明日から楽しくからかわれればいいんだ。


 失礼します、と一言、シアさんは音も立てずにドアを開け、私の部屋に入って来た。相変わらず丁寧な人だよ。

 服装はいつものメイド服、当たり前か。



「早速ですが、その、お話とは……? お叱りでしょうか?」


 あ、ちょっと緊張してるみたいだね。珍しいわ……


「ううん? まずは座って欲しいな。緊張しなくてもいいよ? 少しまじめなお話だけど、簡単に終わると思うから」


「姫様と一緒の席へ、ですか? 私は立ったままでも……」


 何と言うメイドさん根性。いいか、シアさんだし、座ってもらうのは無理そうだね。


「ああ、姫様を膝抱きにしてもいいのなら……、す、すみません! ついいつもの軽口が。まじめなお話の席でしたね、申し訳ありません」


「そ、そこまで畏まらなくてもいいよ、私も緊張しちゃう……。ただね、一つだけ教えて欲しいことがあるの。嘘をつかずに、シアさんの本心で答えて欲しいな」


「姫様……? わ、分かりました。私に誓えるもの全てを懸け、誓います。嘘は吐きません。もし、姫様が少しでもお疑いになるような言動でしたらどうぞ、即座にこの首を」


「重い! 重いよ! 普通に嘘つかずに答えてくれるだけでいいから!!」


 き、気軽に命まで懸けないでよ、怖いなあ……

 いいか、それだけ真剣に答えてくれるって言う事だ。




「それじゃ聞くね? もう何回も聞いてるんだけどさ」


「は、はい。……何回も?」


 真剣な表情から一転、首をかしげるシアさん。

 可愛い! たまに見るこういう仕草がいいね! おっと……


「笑わないで答えてね? 結構悩んでるんだから」


「お悩みですか? 私にお答えできるのでしょうか……」


 真剣な顔に戻る。


「うん、シアさんにしか答えられないから大丈夫。シアさんは、えーと……ね。やっぱりさ、男の人、じゃなくて、あの……、お、女の人が好き、なの?」


「……はい? え? は? あの……、姫様?」


 何言ってるのこの子頭大丈夫なのか、っていう顔だね……。やっちゃったか! 馬鹿なこと聞いちゃったか!


「こ、答えて! 嘘は駄目だよ! 真! 剣! に!」


 もう勢いに任せるしかない。恥ずかしい、恥ずかしすぎる……


「な、なるほど、やりすぎましたか、申し訳ありません。正直に、真剣にお答えします。女性に恋愛的な興味はありません。加えるなら、男性にもありません。恋愛などもう、するつもりはありませんから。嘘偽りの無い、本心からの答えです。からかいが過ぎたようで本当に申し訳ありませんでした」


 深々と頭を下げるシアさん。やめて! 罪悪感が……!


 シアさんはノーマル! 喉の奥に刺さった骨が取れたような気分だよ。刺さった事無いけど。

 でも、ちょっと気になる事言ってたね。恋愛は、もうする気は無い?


「ふう……。ありがとう、シアさん。後、ごめんね? 変な事聞いちゃってさ。わ、私なりにかなり悩んでたの……」


「まさかそこまでお悩みになっていたとは……。これからはなるべく控えるようにしますね。……つ、辛いです……!!」


 本気で辛そうだよこの人は!


「いいよ、今まで通りで。でも、うん、ちょっとだけ控え目にしてくれると嬉しいかな」


「はい! 今まで通りですね、分かりました!」


 控える気ゼロ!? うーむ、ま、いいか。






「もう一ついいかな?」


「はい? どうぞ、何なりと」


 シアさんは紅茶の用意をしてくれている。超が付くほどの上機嫌だ。これ飲んだらまた歯磨きしなきゃ……


「聞いちゃいけないことだと思うんだけど、やっぱり気になっちゃって。恋愛はもうするつもりが無い、って、どういう意味か聞いてもいい?」


「そうですね……、申し訳ありませんが今はお答えできません。お話できるのは、早くても姫様が成人されたら、ですね」


 私が知るにはまだ早いのか……

 よし、気にしないでおこう、悲しい事なのかもしれない。シアさんが話してくれるのを気長に待とう。


「うん。ありがとシアさん!」


「いえいえ。お一人で考え込まず、どんどん私たちを頼ってくださいね。……これは外してしまいましょうか、また寝る前に、私が巻いて差し上げます」


 そう言うとシアさんは髪袋を外してしまう。折角苦労して一人で巻いたのに!!


「むう、変だった?」


「少しだけ……。あまり雑に巻かれると、反対に髪を傷めてしまいますよ。そうなっては国の、いえ、世界にとっての大損失です」


「言い過ぎだよ! もう……」


 冗談を言いながら髪を梳いてくれる。

 シアさんはホントにお姉ちゃんみたいだなー。兄様姉様よりもう一つ上のね。


「シアさんってお姉さんみたいだよね。もっと私の事、妹みたいに扱ってもいいんだよ?」


「妹のように、ですか? それは中々難しい提案ですね。できましたら、恋人のように……、でお願いしたい所なのですけど」


 髪を一房持ち上げ、口付けをしながら言う。


「にゃ! な、何を!? あ! 冗談だ!! くそう! 慣れないよこれ!!!」


「あ、姫様! くそう、などと言ってはいけません! にゃ、でしたら何回でもどうぞ! 是非に!!」


「シアさんのせいじゃない! 早速またからかって!! 後言わないよ!」


「からかってなどいません! 本心です!!」


「どっちなの!? 今日のお話は嘘なの!? 私の悩みは結局解決してないの!?」


「いえいえ何を仰っているのやら皆目見当もつきませんねうふふふふ」


「露骨に目を逸らさないで!!!」




 楽しいからいいんだけどね……


 シアさんはノーマル、これが分かっただけでも充分だよ。







シアさんの謎が一つ明かされ……てない……

この二人のやり取りを書くのが一番楽しいです。


また次回から説明多目の続き話に入ります。

あまりと言うか、ほのぼの要素は少なくなるかもしれませんね。


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